「ごめんね、無理させちゃって」


スメラギがそう言いながらブリッジへ入ってきた。
そのまま作業を続けていたクリスティナとフェルトにボトルを投げた。

それをキャッチしたクリスティナが微笑んで「ありがとうございます!」と言う。


「フェルトもね」


クリスティナと同じようにボトルを受け取ったフェルトは「あ、」と短く声を上げる。


「任務ですから」


そう言いボトルを持ち直す。
そんなフェルトにスメラギは笑みを浮かべたが、直ぐに真剣な表情に戻る。


「システムの構築具合は?」

「8割といったところです」


モニターを覗き込んだスメラギにそう言いながら、クリスティナは少しだけ眉を下げた。


「でもいいんですか?ガンダムからヴェーダのバックアップを切り離すと、パイロットへの負担が・・・」


そこまで言い、受け取ったボトルのストローに口をつける。
直後、「ん゛!?」と鈍い声を上げる。

クスリと笑うスメラギに、クリスティナが勢い良く振り返り、「ちょっとスメラギさん!」と声を上げる。


「これお酒じゃないですか!」

「ああ、ごめん」


しれっと悪びれも無く言うスメラギにクリスティナが頬を膨らました。
そんな二人を見ていたフェルトが、「ふふっ」と笑みを零した。
柔らかく、可愛らしい笑みを零したフェルトに、クリスティナとスメラギも思わず笑顔になる。


「最近、柔らかくなってきたわね、フェルト」

 そ、そうですか?」


青い瞳を丸くした後、頬を朱に染めてフェルトは言う。
照れているフェルトにスメラギは頷き、「そうよ」と言った。


「良い傾向!良い傾向!」


と私のお陰かな?なんてね。
そう言ってクリスティナは舌をぺろりと出した。


「私とはフェルトのお姉ちゃんみたいなものかな?」


ふふん、と笑って言うクリスティナにフェルトが苦笑をした。


は、ちょっと違う、かな」

「あ、確かに」


くすり、とクリスティナはまた笑みを零した。
そんな二人にスメラギは笑みを浮かべ、「じゃあ」と言った。


「もうひと頑張りお願いね」


スメラギの言葉にフェルトとクリスティナは「はい」と声を揃えた。





噂されているとは露知らず。
は格納庫でイアンと一緒に居た。
パイロットスーツを身につけたは、黄色いハロと一緒に通信画面を見ていた。
飛んできたハロを条件反射でキャッチし、思わずまじまじと見詰める。


「・・・このハロって?」

『ミカエルのコクピットを入れ替えたろ?そりゃこいつにサポートを頼む為さ!』


通信モニターに映るイアンは親指を立てて笑った。
どうやらGNアームズを取りにいく前に、ハロたちにミカエルのコクピットについての指示を出しておいてくれたらしい。
コクピットを入れ替えた事により、状況の確認をしたのでも違和感には気付いていた。
丸い穴があった。
恐らく、そこにハロが収まるのだろう。

は両手で黄色いハロを抱き、掲げて見せた。


、ヨロシクネ!ヨロシクネ!』

「よろしく!」


・・・でも、何で私にハロのサポートを?
そう思ったに答えるように、モニター越しにデータを見ながらイアンが口を開いた。


『接近武器のみではなく、大型の砲でもつけようと思ってな。 今のミカエルの突撃砲だけじゃ、狙い辛いだろうしな』

「・・・そっか、」


そう言いながらはハロを撫でてみせる。
つるつるした感覚で、よく分からなかったがハロは嬉しいようだった。
『アリガトウネ!アリガトウネ!』と言いながら耳の様な部分をパタパタと開け閉めさせた。


『・・・メガビームランチャーみたいなものをな・・・。まぁ、まだ肝心の砲が届かないんでな・・・』


もう少し先になるだろうが。
そう言うイアンには微笑んでみせた。


「GNアームズだけでも大変なのに、ありがとうございます」


そう言うにイアンは少し照れたように笑った。
通信が遮断され、は端末を置いた。


「・・・ハロ、よろしくね」


改めて、床でぴょんぴょん跳ねているハロを見下ろしてが言う。
のサポートに回る事になった黄色いハロはころりと彼女に近付いた。


『ヨロシクネ、ヨロシクネ!』


可愛らしい動きと、瞳の様な部分をちかちかと点滅させたハロには目元を和らげた。
動いていたハロを抱き上げ、はミカエルを見上げた。

じ、と空色の瞳を細めてミカエルを見やる。

コクピットはハロたちが作業でつけてくれた。
そして、取り付けられるメガランチャー。そして、サポートにハロ。

きっとメガランチャーは新装備でオマケのようなものだろう。
本当の理由は、きっと、


「・・・私の、精神のせい・・・」


瞳を細め、思わずハロを胸に抱く。
恐らくサポートがついた理由はの精神状態が理由に含まれるだろう。
自分を犠牲にしてまでもはソレスタルビーイングの仲間を守ろうとする。
今までの戦いから、それを見ていたスメラギの指示でもあるのだろう。





そこで声をかけられ、は振り返る。
格納庫の入り口には、アレルヤが立っていた。
口の端を上げ、は彼を見やる。


「どうしたの?」

「新装備を見に行ったって聞いて」

「まだ、コクピットを変えただけなんだけどね」


顔を上げ、ミカエルを見上げるに習ってアレルヤもそうした。
白と赤を基準としているその機体。
それは、隣に居る彼女が乗っているもの。
アレルヤは瞳を細めながらその彼女を見やった。


「・・・ね、アレルヤ」

「ん?」

「私のサポートにね、ハロがつくんだって」


え、とアレルヤは瞳を丸くした。
ロックオンは射撃に集中をする為に、援護にハロがついた。
ならば、は?
そう思いながらアレルヤは彼女を見下ろした。
そんな彼には微笑んだ。


「なんで、って顔してるね」


ふふ、と笑う彼女にアレルヤは瞳を細めた。


「私、情緒不安定だからさ」


どこまで薬に頼れるのかも分からないし。
そう言って微笑んだ彼女は、無意識の内にハロを握る手に力を込めた。


「・・・しょうがない、んだけどね」


でも、なんだか、自分が普通と違う様子を見せ付けられているような気がして。
そう思いながらはゆっくりと瞳を閉じた。


「・・・でも、それで君が無事ならば、僕は嬉しい」

「え?」


アレルヤの言葉に、思わず視線をミカエルから外して彼に向ける。
彼は少しだけ微笑みながら、言葉を続けた。


「僕じゃあ、守りきれない時があるから」


タクラマカン砂漠の時みたいに。
そう呟いたアレルヤに、は慌てた。


「あの時は!」


ソーマの攻撃から彼を守るつもりが、逆に守られて、


「・・・あの時は・・・守られてたよ・・・?」

「でも、君は苦しんだ」


守れていないよ。
アレルヤはそう言って眉を下げた。


「僕じゃあ、君の支えにはなれない?」

「え」


何を、
がそう思い、瞳を大きく開く。

アレルヤは銀の瞳を揺らがせ、再度口を開いた。


「・・・君が本当に見ているのって、誰なのかな」

「だ、誰って・・・」


は瞳を揺らがせた。
そんな彼女の様子にアレルヤは悲しげに眉を下げた。


最近彼女は誰の傍に居る?


最初は自分だった。
しかし何故か離れていった彼女の心。
ゆっくりと、違和感がないほどに彼女は遠ざかっていっていた。

何故なのだろうか。

ヨハン・トリニティもに近付いた。
次に彼女の傍に近付いた者は、刹那だった。


どうして


アレルヤはそればかりが疑問だった。
瞳を揺らがせるアレルヤに、は怯えた様子だった。

前まではあんなに傍に来てくれて、寄り添い合っていたのに。
気付いた時には背中合わせのような状態になっていた。

アレルヤもの変化には薄々気付いていた。
だが、認めたくなかった。

アレルヤの揺れる心に、ハレルヤが反応をする。


((自分が悪いんだぜ))

!!


ハレルヤの声に肩を跳ねさせたのはだった。
くつくつと笑い声を漏らしながらハレルヤは金の瞳を楽しげに細めた。


((はお優しいアレルヤ様が嫌なんだとよ))

「い、嫌だなんて、そんな!!」

「じゃあ、なんで離れてしまうんだ・・・?」


君は、
そう言い銀の瞳を不安げにアレルヤは揺らした。
は何かを言いかけたように口を開くが、すぐに閉じてしまった。
ぎゅ、とハロを抱きしめて俯く。


((全部のせいにするんじゃねぇぞ))

「・・・ハレルヤは、何か知っているのかい」


もハレルヤもアレルヤの問いには黙ったままだった。
無言を肯定と見なした彼は、拳を握った。


「・・・君は、刹那がいいのかい?」


アレルヤの言葉に、は首を振るだけだった。
じゃあ、僕は、
思わずそう呟いたアレルヤは、両手を伸ばして、彼女の肩に触れた。

大きい彼の掌にとって、彼女の肩は酷く細いものだった。

それを思わず強く掴み、彼女に問いかけてしまう。


「僕は・・・!?」

「・・・私、アレルヤを守りたい・・・その気持ちはずっと変わらないよ・・・!」

「僕だって君を守りたい!大切な君を!」


想い合っているのに、どうして、
そうアレルヤが思った瞬間、頭の中でハレルヤが再度口を開いた。


((俺だ))


短くそう言った彼の言葉が、何故だか酷く響いた。


((俺が居ればいいんだ。こいつじゃなくて、俺が))

「・・・え?」


空色の瞳を揺らがせ、が顔を上げた。

その時、ピピッと端末の音が鳴り、傍にあったモニターにスメラギの顔が映し出された。


『急でごめんなさい。マイスターたちはコンテナで待機していてもらえる?』

「あ・・・、」


思わず固まった二人。
だが、すぐにアレルヤが「了解」と返事を返した。

モンビターの通信が切断され、アレルヤは大きく息を吐いた。





名を呼び、今度は柔らかい仕種で彼女の頬を撫ぜる。


「・・・ごめん、僕は、焦ってばかりだ」

「・・・ううん、私も・・・。話せる時がきたら、話すから」


はそう言い、ハロから手を放した。
床の上を跳ねたハロは、そのままを見上げる。

は、眉を下げながらも、それでも微笑みを浮かべて、アレルヤの掌に頬を摺り寄せた。


「・・・あったかい。 あったかいね・・・アレルヤ・・・」


これが、私の大好きな人の体温。

アレルヤの体温を感じながら、はゆっくりと瞳を伏せた。


ごめんなさい、だいすきです、


いつか、私の傍から貴方は離れていく。
私への気持ちと、マリーへの気持ちに気付く。

それまで、どうか、


「アレルヤ・・・」


傍に居させて、


そう思いながら、はアレルヤに引き寄せられ、その身を委ねた。










ブリーフィングルームでは床のモニターをティエリアが見詰めていた。

そこに映し出されているものは、トリニティを撃退した擬似太陽炉搭載型の機体だった。
名前は、GN−X。


状況から見て、ヴェーダのシステムを何者かが利用しているのは確実だ・・・。
 しかし、ヴェーダなくして同型機に対抗することなどできるのか?



ティエリアが心配していることは、ヴェーダのバックアップが受けられなくなってしまうこと。
トライアルシステムも使用が出来ない今、一体どう対処をするべきなのか。

ティエリアが緋色の瞳を細めた時、ドアが音を立てて開いた。
考え事に没頭していたティエリアが、思わず勢い良く振り返る。
そこに立っていた人物は、ロックオンだった。


「悩み事か?」

「・・・ロックオン・ストラトス」


ロックオンはそのまま進み、ティエリアの横に来た。
見上げる緋色が揺れている事に気付き、ロックオンは「気にすんなよ」と言って笑った。


「たとえヴェーダのバックアップが期待できなくても、俺らには、ガンダムとミス・スメラギの戦術予報がある」


スメラギの戦術予報。
それにティエリアの表情が曇った。


「貴方は知らないようですね。彼女が過去に犯した罪を・・・」

「知ってるさ」


ティエリアの言葉を遮るようにロックオンが言った。
思わぬ言葉に思わずティエリアは「え、」と短い声をあげた。


「誰だってミスはする。彼女の場合、それがとてつもなくでかかった」


スメラギのミス。
それは、優秀な戦術予報士すぎたが故に犯してしまった、味方を攻撃してしまった事。
そしてその際に、最愛の恋人を失ってしまった事―――。

ロックオンは「だがな、」と言い、言葉を続けた。


「ミス・スメラギは、その過去を払拭するために戦うことを選んだ」


折れそうな心を酒で薄めながらな。

その言葉にティエリアは普段から酒を好んで良く飲んでいる彼女の様子を思い出した。


「そういうことができるのも、また人間なんだよ」

「人間か・・・」


ロックオンの言葉に、ティエリアが繰り返す。

無人島でのロックオンと刹那のやり取りを思い出す。
過去、自分の家族を殺した組織に居た刹那との和解についても、
アレルヤとのここ最近のすれ違いのような関係についても、
スメラギのように過去を払拭する為に前に進み続けることも、

人間だから、出来ること。

そこまで考えて、ティエリアははた、とある事に気付く。
緋色の瞳を大きくし、隣の彼を見上げた。


「ロックオン・・・貴方は、僕のことを・・・?」


ん、とロックオンがティエリアに視線を向けた時、壁のモニターに映像が映った。


『二人共、スメラギさんからコンテナでの待機指示が出た』


アレルヤの言葉に答えたのはロックオンだった。
「了解だ」と言い通信を切った。

ロックオンはティエリアに向き直り、青緑色の瞳を細めた。


「ティエリア、これだけは言わせてくれ。
 状況が悪い方に流れている今だからこそ、四機のガンダムの連携が重要になる」


頼むぜ。
そう言うロックオンをティエリアは真剣な瞳で見ていたが、直ぐに、ふ、と笑みを零した。


「その言葉は、刹那・F・セイエイに言った方が良い」


笑みを浮かべて言ったティエリアに、ロックオンもつられたように笑みを零した。


「まっ、そりゃそうだ」


そう言い片手をひらりと振った。


「コンテナ待機だったな。行くとしようぜ、ティエリア」


ロックオンの言葉にティエリアは「はい」と言い頷いた。










刹那は夢を見ていた。


瞳を閉じて眠る刹那は、苦しげに眉を潜めていた。

通信が繋がらないと思ったら。
そう思いながら、は室内へ一歩踏み込んだ。
入り口には、アレルヤが立ったまま彼女を真っ直ぐに見詰めていた。


刹那は夢を見ていた。


夢の中で刹那は、廃墟と化した街中に居た。
否、ここはあの頃のクルジス。
そして自分の姿はKPSAに所属し、戦っていた頃のものだと気付く。

幼い刹那の手には、銃。

それに気付き刹那は「あ、」と短く声をあげた。


『ソラン』


本来の名を呼ばれ、刹那は振り返った。
そこに立ち、穏やかな表情で自分を見上げていた者は、


『マリナ・・・イスマイール・・・?』


アザディスタン皇女の、マリナ・イスマイールだった。
彼女には、何か感じるものがった。
それは刹那も理解していたが、それが一体何なのかは彼には未だ理解できていなかった。


『こっちへ来て、ソラン』


柔らかな声色でそう言われ、刹那は思わず彼女の方へ足を進める。
ほら、とマリナが言い自分と刹那の間に咲く、一輪の花を指す。


『見て、この場所にも花が咲くようになったのね』


この、争いによって荒廃した台地に。


『太陽光発電で、土地も民も戻ってくる。きっと、もっと良くなるわ』

『マリナ・・・』

『だからね、』



マリナはそう言い、花を撫ぜた。
そして、改めて刹那を真っ直ぐに見ると、とても優しく、美しく微笑んだ。


『もう戦わなくていいのよ』


もう、戦わなくていい。
刹那は深紅色の瞳を揺らした。


『いいのよ、ソラン』


マリナが両手をそっと広げた。
それに習うように刹那が一歩踏み出す。

同時に、彼の手から銃が落ちて―――、


!!!


刹那が目を開けた。
夢、と呟いた彼の背は汗でびっしょりだった。


やめたいのか?やめたがっているのか?俺は・・・


そう思いぼやける瞳を彷徨わせると、人影を捕らえた。
刹那は深紅色の瞳を細めて、その人物を見やる。


「・・・誰、だ」

「・・・あ、刹那」


起きた?
そう言い振り返ったものは、金色だった。

部屋の入り口から光が漏れていて、それを照らす。
眩しさから瞳を細めながらも、思わず手を伸ばした。

柔らかいものを掴んだ。

それと同時に視界がはっきりしていく。
刹那が掴んでいたものは、の腕だった。


・・・」

「寝ぼけてる?」


起きてよ。
そう言い刹那に手を差し伸べた。

刹那から見て、その光景が先ほどの夢と重なる。


「刹那」
『ソラン』

「っつ・・・!!」


思わず体を強張らせた刹那に、は小首を傾げた。
が、そのまま刹那の手を掴み、引っ張った。


「ほら、立って!アレルヤも待ってるんだから!」

「・・・アレルヤ・ハプティズム・・・?」


刹那は入り口の方の人影を見、深紅色の瞳を細めた。
逆光のせいで彼の表情は確認出来なかった。


「刹那、」


アレルヤが声をかけた。
さらり、と彼が顔を動かした事で左側にある前髪が揺れた事が分かった。


「コンテナでの待機命令が出た。早く行こう」


片手をひらりと振って言う彼に、刹那は違和感を感じた。
が、待機命令との事で体を動かす。


「・・・エクシアの下へ向かう」

「・・・うん、行こうか」


三人で。
そう言い、は入り口へ向かった。




みんなもやもや。