ブリーフィングルームにマイスターたちが集まり、これからについて話をしようとしていた。
国連軍が戦闘をする際の中継を流すようで、床のモニターに映像が映される用意がされた。
直後、
「!!」
唐突に酷い頭痛が走り、はその場に膝をついた。
突然の彼女の変化に、隣に居たアレルヤがすぐにしゃがみ込み、「!」と名を呼ぶ。
他のマイスターたちも彼女を心配そうに見やる。
腕に抱えていたイエローハロも落ちて転がった。
『、ドウシタノ?ドウシタノ?』
心配そうにの周りをころころと転がり、耳の様な部分を開け閉めさせた。
そんなイエローハロに応える余裕も無いは、ぐ、と胸をおさえた。
「・・・い、痛い・・・!」
『、』
「な、なんなの・・・胸が、痛い・・・!」
その場に蹲ってしまった彼女を心配そうにイエローハロが呼ぶ。
((そんな稚拙な攻撃が、当たるものか!!))
「!!!!!」
頭に響いたものはソーマの声。
まただ、またどこかでトリニティとGN−X部隊が戦っている。
「ソ、ソーマ・・・! 違う、この痛みは、ソーマのじゃない・・・!?」
胸が痛い、誰かの想いが、伝わってくる。
((超兵の実力を!覚悟ォ!))
その声と映像が重なる。
スローネドライがGN−Xに攻撃され、吹き飛ぶ。
それをアインとツヴァイがサポートする。
はスローネドライを見て瞳を細めた。
「スローネ・・・ドライ・・・!」
う、とがまた胸をきつくおさえる。
離脱するトリニティ。
その映像を見ながらは空色の瞳を大きく見開いた。
「・・・これ、まさか・・・!」
感じるひとつは喜び。
もうひとつは―――、
はゆっくりと立ち上がり、驚きの表情のまま、モニターを見詰めた。
が大丈夫だと周りに伝え、ブリーフィングが再開される。
「ついに国連軍がトリニティに攻撃を行ったか」
イアンの言葉に全員が瞳を細める。
「ガンダムを倒すこと事で、世界が纏まっていく・・・」
「やはり、僕たちは滅び行く為の存在・・・」
刹那とアレルヤが言う。
アレルヤがそう言う時に、の肩を支え抱く手に力が入った。
「これも、イオリア・シュヘンベルグの計画・・・」
「だとしたら!」
ティエリアが呟いた後に、刹那が声を張り上げた。
突然の彼の言葉に、全員の視線が刹那に集まる。
「何のためにガンダムはある」
ティエリアは真紅の瞳を震わせ、刹那を見詰めた。
「戦争を根絶する為の機体がガンダムのはずだ。 なのに、トリニティは戦渦を拡大させ、国連軍まで・・・、」
刹那は深紅色の瞳を細め、続けた。
「これが、ガンダムのする事なのか・・・」
これが・・・!
刹那はそう呟いた。
刹那にとってのガンダムとは、彼の言った通り戦争を根絶する為の存在。
虐殺をし、戦渦を広げ続ける事がガンダムのする事なのだろうか。
本当にそれがイオリア・シュヘンベルグの計画なのか。
刹那は、疑問を抱いているようだった。
そんな刹那を見ていたロックオンは、小さく息を吐いてから口を開いた。
「刹那、」と彼を呼ぶ。
「国連軍によるトリニティへの攻撃は紛争だ。武力介入を行う必要がある」
ロックオンの言葉に全員が驚きの表情を見せた。
は瞳を揺らし、彼らを見た。
「おいおい、何を言い出す!?」
「無茶だよ!僕たちは疲弊してるし、軌道エレベーターも押さえられてる!」
イアンとアレルヤが慌てた声を出す。
アレルヤの言う事は、皆も分かっている事だった。
「この前、襲撃を受けたのもエクシアとデュナメスが敵にトレースされたから・・・」
「ソレスタルビーイングに沈黙は許されない」
そうだろ、刹那。
そう言いロックオンは刹那を見る。
ああ、と言い刹那は頷いた。
国連軍とトリニティの戦いに介入をするという事は、地上へ降りるという事。
軌道エレベーターも押さえられている今、宇宙へ上がる事は難しくなる可能性が高い。
覚悟を決めた刹那の瞳に、アレルヤは静かに問いかけた。
「二度と宇宙に戻れなくなるかもしれない」
それでも行くのかとアレルヤは刹那に問うた。
彼の言葉に、迷い無く刹那は頷いた。
「俺一人ででも行く」
刹那はそう言い、俯きがちだった顔をあげた。
「俺は確かめたいんだ。ガンダムが何の為にあるのか」
「俺も付き合うぜ」
刹那の言葉にロックオンが同調の意を見せる。
が、そこでが小さく首を振った。
「ロックオンは安静に。でしょ?」
「え?」
はにこりと微笑んでロックオンを見上げた。
「私が行く」
「!?」
それに驚きの声をあげた者はアレルヤだった。
「どうして君が・・・!」
「ごめん、アレルヤ。私、行かなくちゃいけないの」
胸に手をあて、は空色の瞳を伏せた。
「さっき感じた・・・これは、彼の気持ちだったんだ・・・」
「・・・彼?」
「ヨハンが、私に助けを求めている」
会いたい、会いたくない、危険な目に合わせたくない、助けて欲しい。
様々な感情がせめぎ合って、伝わってきた。
は顔を上げると、スメラギを見た。
「私にはハロもつきます。無茶もしません」
だから、お願いします。
そう言うに、スメラギは小さく肩を竦めた。
「貴女が無茶しない事なんてあった?」
そう言うスメラギに皆が確かに、と言いを見た。
は苦笑を零しながら頭をかいた。
そんな彼女の肩を掴み、アレルヤが「、」と名前を呼んだ。
「そんなに、彼が気になるのかい・・・?」
彼、とはヨハンの事だろう。
中々アレルヤと一緒に居る時間もとれなかった事と、ヨハンを気にする事から複雑な心境なのだろう。
は彼を見上げ、困ったように笑った。
「なんか、ヨハンって前の私みたいで放っておけなくて」
「前の、・・・?」
以前の私は、本当に言われるがままに動くだけだった。
ステラたちを守るために戦いぬいた。
正に今のヨハンと全く一緒だった。
はそう思いながら、アレルヤを真っ直ぐに見上げた。
「私と一緒で、誰か助けてくれる人を求めてるんだよ」
前の私みたいに。
「だから、お願い」
行かせて。
そう言うに、アレルヤは銀の瞳を細めた。
「・・・二度と宇宙に戻れなくなるかもしれないんだよ?」
「大丈夫。アレルヤの所に私は帰って来る」
絶対。約束する。
そう言ってはにこりと明るい笑みを浮かべた。
心配そうなアレルヤに、今度は別の声がかかった。
「心配すんな。俺も行ってちゃんとも守ってやるからよ」
ついでに、浮気しないように見ててやる。
そう言いブリーフィングルームに入ってきたものは、ラッセだった。
「強襲用コンテナは、大気圏離脱能力がある。 ついでにGNアームズの性能実験もしてくるさ」
「しかし、今戦力を分断するのは・・・」
ラッセの言葉に、アレルヤは尚もそう言う。
不安げなアレルヤを横目で見つつ、は彼の手を握った。
スメラギが動き、刹那にデータの入った端末を手渡した。
ミッションプランよ。と言って渡されたそれを、刹那は受け取った。
「不確定要素が多すぎて、あまり役に立たないかもしれないけど・・・ちゃんと帰ってくるのよ」
刹那も、も。
そう言うスメラギに、二人は頷いた。
は再度アレルヤを見詰めた。
彼は相変わらず、不安げに銀の瞳を細めていた。
「・・・大丈夫。私はアレルヤの所に絶対戻るから」
約束。
そう言いは微笑んだ。
「・・・本当に、」
「ん」
「絶対、無理しないで」
アレルヤはそう言い、の手を強く握った。
パイロットスーツを身に纏い、格納庫へ移動するを呼び止めた人物が居た。
イエローハロを小脇に抱えたまま、は振り返ると、そこには同じようにオレンジハロを小脇に抱えたロックオンが居た。
半重力の中で、ふわりと金の髪が舞う。
ロックオンはそんな彼女の髪にそっと触れて、優しく撫でた。
「帰ってきたら、前に約束した事しようぜ」
「前に約束?」
小首を傾げるにロックオンは「おいおい、忘れちまったのか?」と言いわざとらしく肩を落とした。
「髪、結ってやるって言ったろ?」
結構前だけどな。
そう言うロックオンには「あ!」と声をあげた。
確かルイスに三つ編みをしてもらった時だった。
ロックオンもいつかしてくれると。
はそう思い、自分の髪にそっと触れた。
「じゃあ、帰ってきたらやって?」
「ああ。とびっきり可愛くしてやるよ!」
約束な。
そう言いの頭を撫でるロックオンは、優しく微笑んでいた。
きっと、帰って来る理由をつけてくれたんだ。
アレルヤみたいに。
はそう思いながら格納庫へ行き、ミカエルへ乗った。
『エクシア、強襲用コンテナへの搭載完了しました』
がミカエルに搭乗した後、エクシアが強襲用コンテナへの搭載が完了したようだった。
イエローハロを設置部分に置き、撫でる。
「初陣だね。よろしく、ハロ」
『マカセテネ、マカセテネ!』
イエローハロにとっては初陣だ。
心配なんて無いだろうけれど。
はそう思いながらメットを被った。
『GNドライブ、コンテナとの接続を確認』
『発進準備、オールグリーン』
フェルトとクリスティナが発進の為のチェックをしている。
そんな中、スメラギと刹那の会話が聞こえた。
『刹那。答え、出ると良いわね』
スメラギの言葉に、刹那は、ああ。と言った。
『ミッション、開始します』
『了解!強襲用コンテナ、ラッセ、出る!』
フェルトに答え、ラッセがエクシアの搭載された強襲用コンテナを発進させた。
スメラギのプランにより、単身のミカエルはそのまま発進シークエンスへ移行する。
ミカエルがコンテナに移動する中、通信映像が映る。
そこには相変わらず不安げなアレルヤが映っていた。
は瞳を丸くしてから、彼を見返す。
「ごめんね、わがままで」
『いいんだ。君が優しい事は、知っていたから』
でも、約束だけは守ってくれ。
アレルヤはそう言い力なく微笑んだ。
『君が傍に居ないだけで、僕はこんなにも気持ちが不安定になるんだ』
「・・・アレルヤ、」
『・・・こんなにも大好きなんだ』
だから、早く帰ってきて。
アレルヤのそんな想いが伝わり、は胸をそっとおさえた。
伝わった、アレルヤのあたたかい気持ち。
「・・・うん。行ってきます」
『・・・行ってらっしゃい』
そこで、アレルヤとの通信が切れた。
次に届いたものは、フェルトの声。
『射出準備完了・・・タイミングをミカエルに譲渡・・・。無理しないでね、』
「ありがとうフェルト。ミカエル、・ルーシェ、行ってきます!」
スメラギに渡されたプランでは強襲用コンテナとは別行動をとる事になっている。
同じ行動をするとマークされてしまう恐れもある。
はプランを再確認してから、地球へ向けてミカエルを飛ばした。
展望室で地球へ向かう強襲用コンテナとミカエルを見ていたティエリアは、そのまま真紅の瞳を細めた。
ガラス越しに、入り口に立つアレルヤとロックオンが見えたからだ。
刹那たちの去り行く光を見ていたティエリアに、ロックオンが言う。
「行きたいんなら、行って良いんだぜ?」
刹那が心配なんだろ?
そう言うロックオンにティエリアは眉を吊り上げ、不機嫌そうに視線をそらした。
「貴方は愚かだ・・・!」
ティエリアにそう言われたロックオンは眉を潜め、何だって?と言う。
そんな彼の言葉に顔を逸らし、ティエリアは二人の間を通って出て行った。
「どういう意味だ?」
小首を傾げるロックオンにアレルヤは小さくくすりと笑った。
「さあ?」
ティエリアは、貴方が心配なんですよ。
そう思いながらも敢えて口には出さず、そう言ってアレルヤは肩を竦めてみせた。
刹那じゃなくて、ロックオンが心配なんだよティエリアは(笑)
ここは個人的好きなシーンです^^