「あああああああああああっ!!」


あたしのドライがぁ!!
そう叫びながら先のGN−Xとの戦いで損傷したスローネドライを見上げ、ネーナは体を振るわせた。


「どうすんだよ兄貴!?」


そんなネーナの後ろではミハエルがヨハンに焦りの声をかけていた。


「王留美に宇宙に上がれる手配を頼んでいる」

「信用できんのかよ?!」


ヨハンは表面上冷静にミハエルに返していたが、その瞳は厳しいものだった。
ミハエルの言う通り、彼女が信頼できるかも分からない。
スローネ三機共先々の戦いからエネルギーが減ってきている。

ツヴァイなんて、ファングも撃てるかどうかも危うい。

そう考え、ヨハンは瞳を細めた。

そこで、此方に接近する機体を目で捉えた。
何だ、と言いミハエルが赤色の機体を見やる。

それは、AEUのイナクトだった。
接近しながらその機体はヘッドユニットのアイセンサーを点滅させた。
光通信だ。


「攻撃の意思はないだと?・・・ネーナ、スローネで待機だ」


ヨハンの言葉にネーナは「らじゃー!」と言いスローネドライに乗り込んだ。

眼前に下りてきたイナクトに、ヨハンとミハエルは構えの姿勢を取る。
そのまま開いたコクピットから出てきた男を見やる。


「よお!世界を敵に回して難儀してるってのはあんたらか?」

「何者だ?」


ヨハンがそう問うと真っ赤なパイロットスーツを身に纏った男はメットを取った。


「アリー・アル・サーシェス、ごらんの通り傭兵だ。
 スポンサーからあんたらをどうにかしてくれって頼まれてな」


アリー・アル・サーシェス。
そう名乗った彼の言葉にミハエルは強張っていた体を和らげ、構えを解いた。


「援軍って、一機だけじゃねぇか」

「誰に頼まれた、ラグナか?」


援軍。
果たして本当にそうなのだろうか。
そう思いながらもヨハンも少しは警戒を解いた。

イナクトから降りながらサーシェスは「ラグナ?」と呟いた。


「ああ、ラグナ・ハーヴェイのことか」


納得した様子を見せ、彼は地上に足を着いた。
そのままの表情で、彼は言った。


「やっこさんは死んだよ」

「何?」


サーシェスの言葉に、思わずヨハンとミハエルが再び身構える。
直後、


「俺が殺した」


そう言ったサーシェスの手には、銃。
たった今発砲されたそれからは、微かに煙が上がっていた。

不意をつかれて、そのまま仰向けにミハエルは倒れた。


「ミハエル!」


ヨハンが慌てて弟を見やるが、彼は左胸を撃たれ、そのまま倒れていた。
「ご臨終だ」と冷たく言い放ったサーシェスに怒りを露にしたヨハンが素早く銃を構え、発砲をする。


「貴様!」


が、素早く身を動かしそれをかわしたサーシェスはそのまま身を屈めてヨハンの足元を蹴った。
バランスを崩したヨハンはそのまま地面に倒れる。
その際に銃を持ち替え、サーシェスに狙いを定めようとするが、それよりも先にその手を踏まれた。
素早い動きでサーシェスはそのままヨハンの左腕を銃で撃ち抜いた。


『ヨハン兄ィ!』


動く様子を見せないスローネドライからネーナの声が響く。

動けないのだ。
目の前で兄を亡くし、今もう一人の兄をも失おうとしている。

目の前で起こっている信じたくない現実のせいで混乱し、身動きが取れないのだ。

ヨハンはなんとか顔を上げ、スローネドライを見上げる。


「に、逃げろ、ネーナ!」

『でも!!』

行け!!


普段冷静沈着で、いつも頼れる兄が今地に伏して、叫ぶ様にそう言った。
ヨハンの気迫に押され、ネーナは思わず「はい・・・!」と返すとスローネドライを動かした。

その時、サーシェスがヨハンの手から足をどけた。


「美しい兄妹愛だ・・・」


そう言い、サーシェスはヨハンを見下ろした。


「早く機体に乗ったらどうだ? これじゃ戦い甲斐が無い」


そう言いサーシェスは銃を振った。
彼の物言いに悔しさを感じながら、ヨハンは立ち上がり、スローネアインに向かって走り出した。

左肩を抑えながらスローネアインに乗り込む彼の背を見ながら、サーシェスは口の端を吊り上げた。


「良い子だ」


ヨハンがなんとかスローネアインに乗り込み、そのまま上空へと飛ぶ。
スローネドライと並び、通信から聞こえるネーナの焦り声に耳を傾けた。


『ヨハン兄!ミハ兄が!ミハ兄ィが・・・!』


ネーナの声を聞き、未だに地上で倒れているミハエルに視線をやる。
ヨハンは瞳を細め、「仇は討つ・・・!」と苦々しげに零した。

直後、


何!?


スローネツヴァイがGNバスターソードを振りかぶり、スローネアインに斬りかかってきた。
楽しげな笑い声をあげながら斬りかかってきたそれにヨハンは咄嗟にビームサーベルを抜いて応戦をする。


「馬鹿な!ツヴァイは、ミハエルのバイオメトリクスが無ければ!」


そこまで言い、ヨハンはある事に気付き瞳を見開いた。
最近齎されていた情報の中にあった、ひとつ。


「書き換えたというのか!?ヴェーダを使って!」

『慣れねぇとちっと扱い辛いが・・・武装さえ分かりゃ、あとは何とかなるってな!!』


そのまま大型のGNビームブレイドを振るって二機は間を取った。
その勢いで後退しつつ、スローネアインはビームライフルで追撃をする。


「何故だ!?何故私たちを!!」

『生贄なんだとよ!』

「そんな事が!」


そのまま突撃するように斬りかかってきたツヴァイのビームブレイドをビームサーベルで防ぐ。


『同情するぜ!可哀相にな!』


鍔迫り合いを続けたまま、ヨハンは奥歯を噛んだ。

ふ、とヨハンの脳裏に太陽の様な少女が浮かんだ。

ヨハンは瞳を細め、ビームサーベルで横へ薙いでツヴァイと距離を取る。
そのまま直ぐに体勢を立て直してGNランチャーを撃つ。


「私たちは、ガンダムマイスターだ!」


が、スローネツヴァイは避けながら突進してくる。


「この世界を変える為に!!」

『御託はたくさんなんだよ!!』


スローネツヴァイがGNビームブレイドを構えながら突撃をする。
スローネアインが咄嗟に防ごうとするが、間に合わない。

ヨハンとネーナが息を呑んだ瞬間、

一線のビーム射撃が二機の間を通り抜け、そのままスローネツヴァイに追い討ちをかける。
突然の攻撃にスローネツヴァイはシールドで防ぎながら後退をした。


『チッ、何だ!?』


サーシェスの苦々しげな声が響く。
突然のそれにヨハンは瞳を見開いた。

覚えがある。
この感覚は、


「来て・・・くれたのか・・・?」


まさか、私の為に、

ヨハンがそう思った途端、白と赤を基準とした機体が現れた。
見間違うはずも無い、あの機体は、

ヨハンが瞳を細めた瞬間に、ガンダムミカエルがビームサーベルを引き抜いた。





間に合って良かった。
そう思い、はビームサーベルを引き抜いた。

先ほどからずっと感じていた気持ち。
ヨハンの恐怖と不安で歪んだ気持ちが伝わってきた。

本当は助けを求めているはずなのに、どうしてそんなに強がるの。

そう思いながらはスローネツヴァイに斬りかかった。
イエローハロに確認して貰ったが、乗っている人物はミハエル・トリニティではない。

ガンダムが奪取されるなんて、

そう思いながらはスローネツヴァイと交戦をする。


「ヨハン!貴方は逃げて!」

『・・・何を、』

「貴方の気持ち、分かってるから!」


伝わったの、貴方の気持ち。
そう言うとモニターにヨハンの顔が映し出された。


『・・・!私は、君の生い立ちを知り、気持ちも知った!』

「私の、気持ち?」

『今まで、私は自分ばかりを君に押し付けてきていた・・・』


今まで、





「我々も戦争根絶の為に戦っている」

「それはヨハンの意思で?」





何度も、





「・・・ね、ヨハンはほんとうはどうしたいの?戦う為に造られて、そのままでいいの?
 私は戦う事しか知らなかった。そう造られたから・・・でも、私は彼に出会えた。彼が私を守ると言ってくれた」

「私は愛を知った。新しい事を、知れたの。
 今はアレルヤも、ハレルヤも、ソレスタルビーイングのみんなも一緒に居てくれる」

だけが、こんなにも私を真っ直ぐに見詰めてくれる。
 ・・・君に抱くこの感情は、一体何なんだろうな」





言葉を交わしてきた。





「君には戦う意思があるというのか!」

「私は人の温もりを知った。そして自分が人であって良いと思えた!
 それを教えてくれた人たちのために・・・新しくできた大切な人を守るために!
 みんなが笑って暮らせる世界を作るために戦う!」





ヨハンはずっと彼女を求めていた。

温もりを教えてくれた、彼女を。





「君を受け入れない者が居るというのに、それでも彼らを守ると言うのか君は!」

「・・・ヨハン・・・!あなたは、自分が戦う意味を・・・!」

「分かってきた気がする・・・。
 まだ、分からないが・・・、君が居れば分かりそうな気がする・・・!」





太陽のような存在の、彼女を。





「・・・何が正しくて、何が間違っている? 一体どれが正義でどれが悪なんだ・・・?
 教えてくれ、・・・私は一体どうしたら良い・・・?」

「・・・私も、正直何が正しいのかも、何が悪いのかも分かんない。
 でも、私には仲間が居るから、頑張れてる。彼らを守りたいっていう意思を持てる。
 私はやはり弟と妹は、守らなければならない」

「それは、兄としての義務?それともヨハン・トリニティとしての想い?」

「・・・ヨハン、確かに貴方たちは世界を変えている。けど、やり方も大事なの」





、私は貴女に見限られたくない・・・」





「このように買い物をした事は無かったから、新鮮だった」

「私も、こんなのは初めてかも!」

「他のマイスターたちとも無いのか?」

「んー・・・無い。こんな風にいっぱい色々回ったのはヨハンが初めて」

「今日は表情がころころ変わるね」

「ヨハンの色々な表情、見たいな」

「君と居ると落ち着く・・・、何だか、ずっと一緒に居たくなってしまうんだ」





は瞳を空色の瞳を細めた。


『私は、この気持ちを知った・・・!』

「・・・気持ち?」


え、とが思った瞬間、目の前のスローネツヴァイがGNハンドガンを撃ってきた。
突然の反撃にはミカエルを離させる。
そのままGNビームライフルでスローネツヴァイを攻撃する。


「・・・兎に角、ヨハン!貴方は後退して!」

『私は出来ない・・・!ネーナ、お前は後退をしろ』

『え、で、でも・・・!』



ネーナ・トリニティ。
ルイスを襲った張本人。

は瞳を細めたが、今はそれよりも目の前のスローネツヴァイをどうにかしないといけない。

もうすぐ刹那たちも来てくれるはず。
プラン通りに動かないと、本当に宇宙に戻れなくなる。


『お仲間の言う事は聞いておいた方が利口なんじゃねぇの?』


ええ、お兄さんよ!
そんな声が響いた。

そのままスローネアインに斬りかかろうとしたスローネツヴァイを攻撃する。
真っ直ぐにビームサーベルを振り下ろすと、スローネツヴァイのパイロットから通信が入った。

赤いパイロットスーツを身に纏った男は、の姿を見止めると、ほう、と息を吐いた。


『結構美人じゃねぇか。四年もしたら良い女になりそうだな!』


今の内に良い声を聞かせてくれよ!
そう言い、スローネツヴァイは至近距離でGNハンドガンを放った。

至近距離でくらったそれにミカエルがバランスを崩す。


「・・・こいつ、手馴れ・・・!」


レバーを強く握り、ミカエルで攻撃をする。
ビームサーベルで攻撃をした後、地上へ誘い出す。

降りる途中で変形をして、グリフォン2GNビームブレイドを構える。


「やああああああっ!」


地面を蹴って、スローネツヴァイに斬りかかる。
スローネツヴァイは寸でのところでそれを避け、ミカエルに斬りかかってきた。
背を蹴られ、ミカエルが地上に伏す。

は舌打ちをし、そのまま無理矢理変形をした。


『こいつは狩りみてぇだな』

「ほざけ!」


倒れたままGNビームサーベルを振るう。
それはスローネツヴァイに掠っただけで、ダメージを与えられなかった。

そのまま回避をしようとしたミカエルだが、スローネツヴァイの拳をくらってバランスを崩す。
予想外の攻撃に思わず悲鳴を上げる。


『一番厄介そうだからな!』


なぁ、ソレスタルなんたらのお嬢ちゃん!
機体に物凄い衝撃が響く。

そのままレバーを握る手に力を込めた。

怖い、機体が揺れる、

でも、
そう思いはキッと前を見据えた。


「怖がってなんか、いられないんだから!」


アレルヤに戻ると言った。
ロックオンとも約束をした。

彼らとの約束を思い出しながら、はレバーを思い切り引いた。


!』


イエローハロのサポートもあってか、ミカエルはなんとか体制を立て直した。
が、そこにスローネツヴァイが追撃をかけてくる。

体勢を立て直しても、追撃の手を緩めない。

ミカエルはスローネツヴァイのGNハンドガンをくらいつつも、此方からもGNビームライフルを放つ。


『良い度胸じゃねぇか!』

「私は、戦うんだから!」


退くわけにはいかない!

ヨハンを救う、守る!

はそう強く思いながら狙いを定めて狙撃をするが、唐突にスローネツヴァイが突撃をしてきた。
ビームをくらいながらも、被弾しながらも怯まずにGNビームブレイドを構えた。


!!


しまった!

そう思った時には既に遅かった。
スローネツヴァイがGNビームブレイドを構えている。
思わず息を飲んだ瞬間、


!!


後退したはずのスローネアインが、ミカエルとスローネツヴァイの間に割り込んだ。
「ヨハン!」とが思わず声を上げた瞬間、スローネアインはミカエルを押しのけ、GNランチャーを放つ。
それを頭部にくらいつつも、スローネツヴァイはGNビームブレイドを振るった。


!!!

ほいさぁ!!


スローネアインのランチャーが右腕ごと切り落とされる。
そのままビームブレイドを振るい、それでスローネアインの機体を貫いた。

ひゅ、とは思わず息を吸った。

目の前で起こったそれに、思わず叫ぶ。


ヨハン!!


そのままスローネツヴァイは動揺したに狙いを定めた。
GNビームサーベルをなんと投げてきたスローネツヴァイの攻撃から、スローネアインが動いた。
ミカエルの前に、守るように立ち塞がる。

は「ヨハン!」と彼を呼びながら被弾し続けるスローネアインをどけそうとする。


「ヨハン、お願いどいて!」

『・・・っく・・・、私も、君と同じ想いだ・・・!』


通信越しに聞こえたヨハンの言葉に、は思わず「え、」と短く声をあげる。


『私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!』

「・・・ヨ、ハン・・・!」


モニターに映るヨハンは、電流の走るコクピット内で柔らかい笑みを浮かべた。


「―――ヨハン!」

、ありがとう・・・』


君を、

そこで、言葉は途切れた。
思い切りスローネアインに突き飛ばされ、ミカエルは地上まで落下した。

ヨハン!!!!!

そう叫ぶが最後に目にした彼は、悲しげに瞳を細め、微笑んでいた。





((本当はもっと君と一緒に居たかった))





そんな想いを感じた直後、電流が走ったスローネアインの機体が爆発をした。
跡形も無く消し飛んだスローネアインに搭載されていた擬似太陽路の粒子がキラキラと舞う。


「・・・ヨ、ヨハン・・・!」


ふるり、と体が震えた。


「わ、私を、守って・・・!」


ヨハンが、


くっ、とは嗚咽を零して瞳をぎゅっと強く閉じた。


ヨハン・トリニティーーーーー!!!!!!


様々な想いを込めて、は悲しみのままに優しい不器用な男の名を叫んだ。




慟哭。