逃げ出す訳にはいかなかった。

ミハエルがやられ、自分自身も腕を撃たれ、ネーナも動けず。
危機的な状況で、が助けにきてくれた。

はそのまま退くように言い、戦ったが、どうしても彼女を置いて行く事なんて出来なかった。

ネーナには先に退くように言い、の援護に向かおうとした瞬間、


!!


思わずスローネアインをミカエルとスローネツヴァイの間に割り込めた。
「ヨハン!」とが叫ぶ。
そのまま彼女の乗るミカエルを押しのけ、GNランチャーを放つ。
それがスローネツヴァイの頭部に命中した。

当たった!

そう思った瞬間、スローネツヴァイがそのままGNビームブレイドを振るってきた。


ほいさぁ!!


スローネアインのランチャーが右腕ごと切り落とされた。
そのままビームブレイドを振るい、そのまま機体が貫かれる。

コクピットには当たらなかったようだが、


ヨハン!!


彼女の悲鳴が響いた。

そのままスローネツヴァイは動揺した様子のに狙いを定めた。
いけない、とただ思い痛む腕を叱咤し、レバーを動かす。

GNビームサーベルを投げたスローネツヴァイの攻撃から、ミカエルを守るように立ち塞がった。

が「ヨハン!」と叫ぶ声が聞こえる。
そのままミカエルが被弾し続けるスローネアインをどけそうとする。


『ヨハン、お願いどいて!』

「・・・っく・・・、私も、君と同じ想いだ・・・!」


通信越しに聞こえたにそう返すと「え、」と短く声を上げた。

は守りたいと言ってくれた。
接触を絶った私を救う為に飛んできてくれた。


「私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!」

『・・・ヨ、ハン・・・!』


モニターに映る彼女は、空色の瞳を揺らし、不安げに此方を見詰めていた。


『―――ヨハン!』

、ありがとう・・・」


君を、守りたかった。

君が、守ろうとしてくれて、嬉しかった。

そう言い、思い切りミカエルを突き飛ばした。


ヨハン!!!!!


本当はもっと君と一緒に居たかった。

君を哀しませてすまない。

君に想われてとても嬉しかった。

愛しい、君へ、










ヨハン・トリニティーーーーー!!!!!!


爆発したスローネアインの擬似太陽炉の粒子が舞う中、は慟哭した。
悲しみに暮れるの乗るミカエルに向かい、爆煙の中からスローネツヴァイが飛び出てきた。


『綺麗なもんだな!GN粒子ってのは!』




スローネツヴァイの急襲に思わず咄嗟にシールドを構える。
そこにスローネツヴァイが蹴りを入れた。


『そうだろ、ソレスタルなんたらのお嬢ちゃん!』

「よくも・・・!」


なんとか攻撃を防ぎ、GNビームサーベルを振るう。


「よくもヨハンを!!」

『別に仲間でもなんでも無かったんだろ?』


そんなカッカすんなよ!
サーシェスの言葉に苛立ちながらは思い切りレバーを引く。


「この・・・こいつ!!!」

『気の強いお嬢ちゃんだなァ!』


攻撃をしてもサーシェスは避けていく。
ミカエルもなんとか攻撃を避けながらはモニターをちらりと見やる。


こいつはヨハンを殺した・・・殺した、敵・・・!


だけど、

PLAN、と表示された一部分を見ては瞳を細めた。
スローネツヴァイに思い切りGNビームサーベルを振るった後、回転蹴りをくらわせる。
バランスを崩したスローネツヴァイに追い討ちをかけるように、GNバルカンを放つ。

そのまま地上すれすれまで降下し、スローネアインの腕もついたGNランチャーを抱える。


―ヨハン、


が彼を想いそれを抱えなおした瞬間、ミカエルを狙っていたスローネツヴァイに強襲用コンテナが体当たりをした。
それから飛び降りたエクシアがスローネツヴァイに攻撃をしかける。
状況から見てのラッセと刹那の判断だろう。

スメラギの出したプランでは最初にが単機でトリニティと接触。
後に敵がトリニティに仕掛けてくるであろうから強襲用コンテナとエクシアが援護に駆けつける。

敵が、ガンダムに乗ってしまった事は予想外だったがプラン通りには動く。

エクシアとスローネツヴァイが交戦を始める。


『邪魔すんなよ、クルジスの小僧がぁ!』

『アリー・アル・サーシェス!?何故だ?!何故貴様がガンダムに!?』



刹那の焦りの声が通信越しに聞こえる。
思わずが「刹那!」と彼を呼ぶ。


『刹那の事は俺に任せては次のプランに移れ!』

「・・・了解・・・!」


ラッセの言葉には少し考えた後にそう答えた。
戦力を分断したままにする事は危険。
しかし、トリニティの内の一人のヨハンと話せる者はしか居ない。
本来なら、彼らを救出した後に刹那たちと合流をする予定だったが、こうなってしまっては仕方が無い。

はスローネアインのGNランチャーをミカエルでしっかりと抱え、唇を噛んだ。


「・・・ヨハン・・・!」


最高速で宇宙へ戻らなければ。
そう思うのに、は悲しみから声を漏らした。


守れなかった、

彼は私を守って死んだ、





『私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!』





彼の気持ちが、





、ありがとう・・・』




痛いほど伝わってきた。

はぎゅ、と胸を押さえた。


「・・・私、これからも貴方と共に頑張りたい・・・」


だから、これ借りるね。
貴方の一部。


「・・・こちらミカエル、プランC9へ移行します」

『そう・・・気をつけて帰っていらっしゃいね』


プトレマイオスに通信を入れ、そう言うに答えたのはスメラギだった。
プランの名前を聞いてヨハンを救えなかった事に気付いたようだった。
彼女はを気遣うように微笑み、再度「気をつけて」と言った。


『アレルヤも、みんな心配しているわ』

「・・・アレルヤは、ブリッジに居ないんですか?」

『会いたいなら、呼ぶけど?』


スメラギの言葉に、は首を振った。


「いいです、戻ったらちゃんと会いに行きますから」


力無く微笑んだに、スメラギは困った様に笑った。
では、と言って通信を切った。

そのままミカエルを自動で動くようにハロに指示を出し、自分は膝を立てた。
メットを外し、はそこに顔を埋めた。


今だけは、ヨハンの事を想いたい。

そう思いながらは額を膝にくっ付けた。


暫くたってから、は顔をゆっくりと上げた。

もう十分悲しんだ。

これ以上嘆く事はヨハンに対して失礼だ。

そう思い、気持ちを切り替える為にブンブンと顔を振った。
それから、「ハロ、」とイエローハロに言葉をかける。
ずっと静かにしていたハロはの声に反応して目を光らせた。


、』

「ひょっとして、心配してくれた?」


ありがと、
そう言いはハロをなでた。
ハロは嬉しかったのか、くるくると回って見せた。
思わず笑みを零したは、大分上昇をしたミカエルの周りにGNフィールドを展開させる。


「大気圏に入るわ、ハロ、よろしく!」

『リョウカイネ!リョウカイネ!』


大気圏に突入し、もう少しで宇宙に上がれる、という所で急にモニターに映像が映りだした。


『GNドライブを有する者たちよ』


突然モニターにある人物が映りだした。
はその人物を見て空色の瞳を丸くした。

突然映ったこの老人。
彼こそ、ソレスタルビーイングの創設者、イオリア・シュヘンベルグその人であった。

何でいきなり、と思いながらはモニターをじっと見詰めた。


『君たちが、私の意志を継ぐものかは分からない。
 だが、私は最後の希望を、GNドライブの全能力を君たちに託したいと思う』


「GNドライブの全能力・・・?」


思わずそう呟く



『君たちが真の平和を勝ち取る為、戦争根絶の為に戦い続ける事を祈る』


平和の為に、
それを願う皆を守る為にも、

私は戦う。

そう強く思いながら、は頷いた。


『ソレスタルビーイングの為ではなく、君たちの意思で、ガンダムと共に・・・!』


映像はそこで途切れた。
直後、宇宙へと無事にミカエルは上がる事が出来た。

その後、敵が接近してくる反応がある。
ハロも『テッキセッキン!テッキセッキン!』と声を上げている。

敵、とが其方を見ると、宇宙型のティエレンが数機、此方に向かってきている。
小型の戦艦も共にあり、偵察中に見つかったものと思われた。

は、ぐ、とレバーを握った。

ミカエルの片手でしっかりとGNランチャーを抱え込む。
もう片方の手でビームサーベルを抜き、真っ直ぐに飛んだ。


「私は、一刻も早くアレルヤの所に戻らないといけないんだから・・・!」


邪魔しないで!!

そう叫んだ瞬間、目の前のモニターが赤に染まった。
同時に流れた文字と共に、ミカエルのスピードがぐんと増した。


TRANS−AM


これは、とが思った時にはもう既に眼前の敵機を数機破壊していた。
うろたえる様子のティエレン部隊を容赦なく薙ぎ払い、そのまま敵小型戦艦も破壊する。

真っ赤に輝くミカエル。

これがイオリアの言っていたGNドライブを有する者だけに与えられた、全能力。
格段にパワーもスピードも増した。
これならば、直ぐに彼らの下へ戻る事が出来る。

はそう思い、トランザムシステムを使用したまま真っ直ぐにプトレマイオスへ向かった。






!!


途中でトランザムの効果は無くなってしまったが、無事プトレマイオスへ戻る事が出来た。
ラグランジュ1の資源衛星群。
そこでプトレマイオスは各ガンダムを整備する予定だった。

格納庫にミカエルを収納したところで、コクピットから出た。
早速イアンにこのGNランチャーについてを話そうと考えていたところで、名を呼ばれた。

メットを取りながらそちらを見ると、無重力の中、アレルヤが床を蹴って飛んできていた。


「アレルヤ!」


思わずは嬉しさから彼の名を呼び、自分も床を蹴る。

会えた、心から大切に想う、彼に!

破顔したに、アレルヤも嬉しそうにはにかんだ。
そのまま両手を広げての体を受け止めた。

パイロットスーツ越しに伝わる彼女の体温を感じながら、空色の瞳を見つめた。


「大丈夫だった?怪我は無い?」

「・・・うん、私は大丈夫」


刹那もちゃんと無事だといいんだけど、
はそう言い表情を微かに曇らせた。
彼女の様子にアレルヤは少しだけ瞳を細めたが、直ぐに優しげに微笑んだ。


「お疲れ様。君が僕の下へ戻ってきてくれて、とても嬉しい」

「・・・アレルヤ」


無重力の中、舞う金の髪をアレルヤがすくう。
頬に触れた彼の手に、は頬をすり寄せた。


「・・・ただいま、」

「・・・うん、おかえり、


にこり、とお互いに笑い合う。
お互いが離れた時に、奥からイアンがハロたちと一緒に来た。
「おう、嬢ちゃん!」と言い片手を上げるイアンには片手を上げ返した。


「イアンさん、ミカエルにGNランチャーの取り付け、お願いできますか?」


整備も他の機体があるだろう彼は忙しいだろう。
はそう思いながらも、イアンにそう頼んだ。
が、思いのほか彼は気さくな笑顔を向けて頷いた。


「いいぞ!やっとこれでミカエルにも新しい武装がつけられるな」


しかし、とイアンは少しだけ目を細めた。
彼がミカエルを見上げる。
アレルヤとも、彼と同じようにした。


「あれは、スローネアインのものだな?」

「・・・はい。ヨハンの機体のものです」


あれでいいんだな?
と問うイアンには直ぐに頷いた。
そして少しだけ悲しげに微笑んだ。


「私、結局彼に守られちゃったんです」





『私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!』





「なのに、最期にお礼言ったんです」


ありがとう、って言って、私の名前を呼んだんです。
はそう言い、メットを持つ手に力を込めた。


「私は彼を忘れたくない・・・だから、一緒に居たくて・・・」


その、せめて、これだけでも、
そう言いよどむにイアンは優しく笑うと、彼女の頭をくしゃりと撫でた。


「分かった分かった!お前さんの気持ちは!」

「あ・・・、」

「兎に角、今はアレルヤと一緒に報告に行くといいさ」


例のシステムについても聞くといい。
そう言いイアンはハロたちと一緒にミカエルの方へ移動していった。
彼の背を見詰めていたの足に、イエローハロが擦り寄るようにくっついた。


、』

「・・・そうだね、行こうか、ブリッジ」


アレルヤ、一緒に行こう?
そう言うにアレルヤは頷いて、片手を差し出した。
手と手を重ね、二人で無重力の廊下を移動する。
は片手にイエローハロを抱えながら、アレルヤを見詰めた。

ふわりと舞う彼の前髪。
そこから覗く金の瞳。

それを見る度に思い出す。





『人革のティエレンに乗ってる女超兵はアレルヤの大事な女神サマ・・・マリーなんだよ!』

『アレルヤのお前に対する気持ちは仮初だ』




ハレルヤに言われた言葉。

今までのアレルヤの優しさや温もりは、本来はマリーに向けられるべきもの。

アレルヤは勘違いしているだけ。

分かっている、分かっているのに、


は少しだけ瞳を伏せた。


アレルヤの優しさに甘え続けてしまう。
彼から離れることが出来ない。

本当ならハレルヤの忠告を受けて直ぐにアレルヤと距離を置くべきなのに、


私、本当にアレルヤの事を・・・、


いつの間にか、こんなにも、

会った瞬間とても安心した事実もある。
もう誤魔化せない、この感情はどうしようもない。


こんなにも、


好きすぎて、仕方ないなんて。

そう思いながら瞳を揺らがせた
そんな彼女を金の瞳が見詰めていたが、は気付かなかった。




大気圏突破中刹那はアリーとの戦いでトランザム中。
あのシーンはかっこいい。