「おかえりなさい、


無事で良かったわ。
スメラギはそう言い安心したように笑った。
それはブリッジに居た他の面々も同じようで、其々が安堵の息を吐いたりしていた。


「無事で良かった」

「ほんとッスよ」


フェルトとリヒテンダールに言われ、は少しはにかんだ。
さて、と言いスメラギが席を立った。


「これからブリーフィングルームでさっきのシステムについて話をするわ」


マイスターは集合ね。
そう言い軽く床を蹴ったスメラギに、アレルヤとは「了解」と返して彼女に続いた。

パイロットスーツのままのに、スメラギは「ごめんなさいね」と言った。
が、は大して気にしてはいなかった。


「いえ、シャワーとかは話の後でも大丈夫ですし」

「けど貴女、格納庫でミカエルの様子も見に行くつもりでしょ?」


少しは体を休めてね。
目元を和らげたスメラギに、は小さく頷いた。

ブリーフィングルームへ行くと、事前に知らされていたのか、ロックオンとティエリアが既に居た。
二人はに視線を向ける。
ロックオンは片手を挙げ、「よ、おかえりさん」と出迎えてくれた。


「戻りました」

「報告より先に、先ほどのシステムについてを纏めよう」


ティエリアの言葉に全員が頷いた。
スメラギがデータ端末を使用し、モニターにトランザムシステムについてのデータを映し出す。


「機体に蓄積した高濃度圧縮粒子を全面開放し、一定時間、スペックの3倍に相当する出力を得る・・・」

「オリジナルの太陽炉のみに与えられた機能・・・」


トランザムシステム、とティエリアが呟いた。
データを見ていたロックオンが、フ、と鼻を鳴らした。


「イオリアの爺さんも、大層な置き土産を残してくれたもんだ」

「でも、トランザムを使用したあとは機体性能が極端に落ちる」


正に諸刃の剣。
そうスメラギが続けようとしたが、その言葉は通信を知らせる着信音に遮られた。

機械の傍に居たが直ぐにそれを操作する。


「刹那からの暗号通信です」


の言葉にスメラギが「開いて」と言う。
それに従い、は刹那からの通信を開いた。


『エクシア、トレミーへの帰投命令を受領。報告用件あり』


ボイスオンリーの通信なので、彼の様子を伺う事は出来なかったが、無事なようだ。
はその事実に小さく肩を降ろした。


『地上に居た擬似太陽炉搭載型モビルスーツが、全機宇宙に上がった』


刹那の言葉に、スメラギは「やはり」と呟く。
それも彼女の予測の範囲内だったようだ。


『また、ガンダムスローネの1機が敵に鹵獲』


淡々とした刹那の報告に大きく反応したのはティエリアだった。
「鹵獲!?」と驚きの声をあげ、彼は緋色の瞳を震わせた。
事実を知っているは、瞳を細めた。


『スローネを奪取したパイロットは、アリー・アル・サーシェス』


刹那のその一言に、微かだがロックオンが反応を見せた。
眼帯に覆われていない左目が、微かだが動いた。

以上、と刹那は最後に言い通信を切断した。


「アリー・アル・サーシェス・・・、野郎が此処に・・・!」


同じ宇宙に上がってきたであろう男。
家族の仇であり、刹那を戦いの道に引きずり込んだ男の事を思い、彼は憎々しげに瞳を細めた。


「どこまでコケにするつもりだ!」


怒りを露にしているロックオン。
普段飄々としている分、想像がつき辛い姿。
それを初めて見たアレルヤが、一歩ティエリアに近付いてこそりと尋ねる。


「・・・何者だい?」

「傭兵だと聞いているが・・・」


それ以上は深くはあまり。
言葉を濁したティエリアに、アレルヤはまた珍しげに銀の瞳を少しだけ丸くした。

自信に満ち溢れているのが、普段のティエリアだ。
以前ならば質問をすれば直ぐに何でも返してくれたのが彼だったが、


やはり、ヴェーダにリンクできなくなったから?


否、そうでなくとも彼は博識だった。
誤魔化さずに素直な態度を見せるティエリアに新鮮さを感じながら、アレルヤは小さく息を吐いた。


「補給が終わるのが早いか、国連軍が来るのが早いか・・・どちらにしても、ラグランジュ1での戦闘になるわね」


スメラギの言葉に各々が頷いた。
ブリーフィング終了の後、は直ぐに動いた。

こうなったらシャワーを浴びている時間も無いだろう。
格納庫に行って、ミカエルのGNランチャー装着の手伝いをしなければ。
そう思い移動をしようとしたを呼び止めたのは、ティエリアだった。


「待て。格納庫は整備班が既に行動を移している」

「それは、知ってるけど・・・」


壁に手をついて止まったに、ティエリアは一歩近付く。


「休養も、マイスターの仕事のひとつだ。少しは体を休めろ・・・」

「・・・でも、GNランチャーの確認とか、取り付けの手伝いも私じゃないと出来ないから・・・」


言いよどむの肩をぽん、とロックオンが軽く叩いた。
彼を見上げると、優しい緑の瞳がそこにはあった。
先ほどとは違う優しいそれに、は思わず黙り込んでしまう。


「心配なんだよ。お前さん、結構無茶ばっかするからな」

「そうだよ、色々あったんだろうし、少しでも休むべきだよ」


アレルヤにもそう言われ、は困った表情を浮かべた。
そんな彼女にスメラギは笑みを零し、「これは見張りが必要ね」と呟いた。
、とスメラギは彼女を呼んだ。


「フェルトと少し休んだ後、ミカエルの整備の手伝い、よろしくね」


あの娘も、けっこう疲れてるみたいだから。
そう言いスメラギはブリーフィングルームから出て行った。

フェルトも、と思いは少しだけ瞬いた。

きっとフェルトはロックオンが心配なのだ。
効き目を怪我し、スナイパーとしては致命的な欠点を抱えてしまった彼が。
彼に対して憧れ以上の感情を抱いている彼女は、根本的には強い娘だ。

しかし、無理をし続けていれば、不安な気持ちは心に溜まり続ける。

ついでに私も休めるようにしたんだな、とは思った。

そんな彼女の頭を撫で、ロックオンは「そういうこった」と言い部屋から出て行った。
彼に続くように、ティエリアもに視線で休むように訴えて出て行く。
残されたアレルヤも、「ちゃんと休むんだよ」と言っての横に立った。


「・・・私、そんなに心配されるような事ばっかり?」

「みんな君が大切なんだよ」


もちろん、僕もね。
アレルヤはそう言ってにこりと微笑んだ。





スメラギや他のマイスターに言われた通り、は軽くシャワーを浴びた後にフェルトと一緒に展望室に居た。
みんなに休むように言われた事をフェルトに話すと、彼女は少しだけ笑って頷いた。


が地上に降りている間、アレルヤとかすごく心配してた」


え、とは瞳を丸くした。
二度と宇宙に戻れないかもしれない、と言ってを心配していた彼を思い出す。


「アレルヤは、優しいからね」


そう言うだけのに、フェルトは若草色の瞳を丸くした。
そんな彼女には「なに?」と小首を傾げる。


「・・・アレルヤがを心配するのは、当たり前じゃないの?」


端から見ても、とアレルヤの親密な関係は明らかだった。
だじゃらこそ、大切な存在であるをアレルヤは心配する事は当たり前なのではないか。
フェルトはそう思っていた。

はフェルトの言葉に空色の瞳を丸くした。


「・・・それは、アレルヤが優しいからだよ」

「・・・二人は恋人同士じゃないの?」


クリスティナ等がこの二人の関係について話していた。
そこからフェルトはとアレルヤは恋人なのだとずっと思っていた。
いつか私も二人みたいに誰かと幸せになれたら、なんて考えながらも緑の彼に想いを馳せていた事もある。

しかし、そう問いかけたフェルトにが返したものは、


「・・・だったら、いいな」

「え、」


思わずフェルトは短く声をあげた。
意外だ、と言いたげなフェルトの表情には苦笑した。


「でも、私はアレルヤが大好き」




今度はフェルトが頬を赤くした。
はにこりと微笑んで、言葉を続ける。


「彼が、すごく好きなの」


アレルヤも、ハレルヤも。
そんな意味を込めて言うと、フェルトは目元を赤く染め、「じゃあ、」と言う。


「想い合っているんだね」


羨ましい、とフェルトは呟いた。


「・・・ずっと、一緒はできないけれど」

「・・・え?」


フェルトが瞳を丸くする。
は小さく笑い、さて、と言い腕を伸ばした。


「私、そろそろミカエルの整備に行かなきゃ」

「あ、・・・!」


何か言いたげなフェルトに片手をひらりと振るとは歩き出す。


「フェルトは、もう少し休んでからにしなね!」


そう言い、は展望室を後にした。
廊下の移動用レバーを握り、格納庫を目指す。

難なく格納庫に着くと、はイアンに近付いた。


「おう、来たか!」

「ミカエルはどうですか?」


パイロットスーツに身を包んだままのにイアンは小さく息を吐いたが、すぐに端末のデータを見せてくれた。
ミカエルを見てみると、スローネアインのGNランチャーが肩に既に取り付けられていた。
「おお、」と思わず声を上げるに、イアンが笑う。


「前準備は万全だったからな。元々ガンダムにあった武装だ。直ぐに同調してくれたよ」

「・・・これが、新しい武装、」


GNランチャー。
白と赤を基準とした色合いのミカエルの背に、深い灰色のGNランチャーがついていた。
MA型になった後にはどうやら突撃砲とは反対側にGNランチャーが使えるようになっているらしい。

ヨハン、と彼の事を想う。


「・・・使わせて、いただきます」


ぐ、と拳を強く握る。
そんなの下へ、イエローハロが飛んできた。


「ハロ、サポートよろしくね」

『ガンバルネ!ガンバルネ!』


両手でイエローハロを受け止め、微笑んで言う。
イエローハロも耳の様な部分を開閉させつつそう言った。


「全体的にはお前さんがやるんだぞ。ハロはいざっていう時の為だ」


お嬢ちゃんをよろしくな。
そう言うイアンにイエローハロは『マカセテネ、マカセテネ!』と言った。


「他の機体は?」

「デュナメスもコクピット部分を丸ごと取り替えたからな。全機万全だ」


カレルたちも頑張ってくれたからな。
イアンがそう言うと周りに居た色とりどりのハロたちが賑やかな声を上げる。

は微笑むと、ゆっくりと無重力の中を飛んでミカエルの前に向かった。


「・・・みんなを守りたい。ミカエル、よろしくね・・・!」


そうが呟いた瞬間、艦内にクリスティナの声が響いた。


『敵艦隊を捕捉!』

「!」

「来たか・・・!」


はすぐに軽くミカエルを蹴ってイアンの隣へ戻る。
そこですぐにメットとイエローハロを取る。


『接近する敵輸送艦は、ユニオンのバージニア級3隻と推定』

『有視界戦闘領域まであと4200』

『資源衛星を利用しながら、トレミーは後退。キュリオス、ミカエル、ヴァーチェ、防衛戦用意』



デュナメスはトレミーで待機。
そう付け足したスメラギには苦笑した。

ロックオンの怪我をみんな案じている事は知っている。
けれど、大人しくしている彼ではないだろう、それも知っている。

彼が戦いに出なくても平気なように、頑張らなくては。

はそう思いながら、ミカエルに向かって飛んだ。


「少し強引じゃないか?」

「口で言って聞くタイプじゃない」


格納庫の入り口からそんな声が聞こえた。
見るとアレルヤとティエリアが其々パイロットスーツに着替えて此方に来ていた。


「私は前回の戦闘で彼に救われた。だから、今度は私が彼を守る!」


そう決意し、ティエリアはヴァーチェへ向かっていった。
アレルヤは肩を竦め、メットを片手にまずはミカエルの方へ飛んだ。


「ロックオンは?」

「部屋に閉じ込めたよ。ティエリアが」


ロックをかけて彼を閉じ込めたらしい。
なるほど、嫌でも部屋で待機となるらしい。
は苦笑し、そのままアレルヤの肩を軽く叩いた。


「私もがんばるから」

「・・・無茶は駄目だよ」


気をつけて。
アレルヤはそう言うとキュリオスの方へ飛んでいった。
もミカエルのコクピットに入り込む。


『キュリオスをリニアフィールドに固定しました』

『キュリオス、アレルヤ・ハプティズム、迎撃行動に入る!』



飛行形態のままキュリオスは発進をした。
続いてヴァーチェがリニアカタパルトに移動をする。
その間にも、敵輸送艦からGN−Xが出てくる。


『敵輸送艦からモビルスーツが発進』

『ヴァーチェ、ティエリア・アーデ、行きます!』



次にヴァーチェが発進した。
ミカエルもリニアカタパルトへ移動し、発進準備をする。


『敵モビルスーツ、擬似GNドライブ搭載型26機』

『敵モビルスーツ部隊の中に、スローネがいます!』



多すぎる、本当に地上にあった擬似太陽炉搭載型が全機あがってきたようだった。
しかもスローネツヴァイも敵部隊に。

最悪だな、と思いながらはミカエルを発進させる。


「ミカエル、・ルーシェ、行ってきます!」


ミカエルも発進さえ、眼前に迫るGN−X部隊を見やる。
その中から感じる、ソーマの気配。


・・・ソーマ、居るんだね


しかし、此方も退くわけにはいかない。
艦のみんなを、アレルヤたちを守らなければいけない。

そう思いながら、は強くレバーを引いた。


『先制攻撃を仕掛ける!行けっ!』


MA状態のキュリオスが新装備のテールブースターからビーム攻撃を繰り出す。
直ぐにGN−Xは散開したが、1機が飲み込まれて大破した。

そのまま集中攻撃をされるが、キュリオスは持ち前のスピードで上手くかわしていく。


『テールブースターで機動性は上がっている!』


そのままテールブースターからビーム攻撃を繰り出す。
ヴァーチェも続いてGNバズーカを放っている。

ミカエルも中央から新装備のGNランチャーを発射する。


「ヨハンの想いと一緒に、私は戦う!!」


GN−Xの1機がそれに命中し、足を破壊される。
そのまま接近して、GNビームサーベルでそのGN−Xを破壊した。

勢いのまま、キュリオスとヴァーチェがプラン通りに左右に展開する。
兎に角敵のフォーメーションを崩さなければ。
そう思いながらはミカエルをそのまま直進させた。

GN−Xは散開し、其々のガンダムを追尾した。

ヴァーチェはGNフィールドで敵の攻撃を防ぎつつ、GNキャノンで反撃をしている。
そのまま敵を1機撃墜したが、スローネツヴァイがヴァーチェに迫った。


『スローネか!』


GNキャノンも、GNバズーカも放つがスローネツヴァイは素早くそれを避ける。
スローネツヴァイのパイロットは、アリー・アル・サーシェス。
サーシェスはそのままティエリアの攻撃を避けつつ、GNファングを放った。

GNキャノンで迎撃をするが、破壊出来なかった2基がGNバズーカをひとつ破壊してしまった。
爆発が、ヴァーチェのコクピットまで響く。


うわああああ!!

! ティエリア!


GN−Xの一斉射撃を背に受け、ヴァーチェは体勢を崩した。
ティエリアの悲鳴を耳にしたは、眼前に迫るGN−X部隊を相手にしながらも彼の身を案じる。

キュリオスで1機撃墜させつつも、アレルヤはティエリアを案じていた。
援護に向かおうとするが、宇宙に浮かぶ岩石の影からの攻撃が、テールブースターに直撃した。
不意打ちにアレルヤは思わず「直撃!?」と声を上げる。

直後、物凄い頭痛がアレルヤを襲った。


『あ、頭が! ぐあああああ!


ビームサーベルを抜いたGN−Xがキュリオスに迫る。
アレルヤは瞳を細めながらMS型にキュリオスを変形させる。
テールブースターは放棄し、ビームサーベルでGN−Xの攻撃を受け止めた。


((被検体E57!))

『ソーマ・・・ピーリスか!』



アレルヤ、ソーマ!
は通信と頭に響いた声に思わず反応をする。

別方向からのビームが、キュリオスを襲う。
アレルヤの悲鳴が聞こえる、二人が危ない。

はそう思いながら、ぐ、とGNランチャーを構えた。


「ハロ!GNフィールドは展開しなくていい!防御行動!」

『リョウカイネ!リョウカイネ!』


防御体勢をイエローハロに任せ、は狙撃に集中をした。
エネルギーを大きくそちらに回し、GNメガランチャーを撃つ。
ヴァーチェの周りに居た敵機体を数機破壊したミカエルだが、隙は相手も見逃さなかった。


「くっ・・・! あんたたちなんかに、構ってる暇は無いのよ!」


ビームライフルを撃ってくるGN−X。
は瞳を細め、GNビームライフルを撃ち返す。

想う人物は、愛しい人。


「・・・アレルヤ・・・ハレルヤ・・・!」










「キュリオス、テールブースター破損!超兵と思われるモビルスーツと交戦中!」

「ミカエル、ヴァーチェを援護。集中攻撃を受けています」

「ガンダムに後退命令を・・・!」


クリスティナ、フェルトの言葉にスメラギがそう指示を下そうとする。


『ブリッジ!聞こえるか、デュナメスが!』


そこで、イアンからの通信が入る。
突然の事と、デュナメス、という言葉に反応して、ブリッジに居る全員が瞳を大きくする。

次にモニターに映ったものは、眼帯をつけたロックオンだった。


『デュナメス、出撃する!』

ロックオン!?


スメラギが焦りの声をあげる。
フェルトも若草色の瞳を揺らがせた。


『GNアーマーで対艦攻撃を仕掛ける。あんたの戦術通りにやるってことだ』

「でもその体で!」


そこで、ブリッジとロックオンの通信は途切れた。

通信を切ったロックオンは、デュナメスに乗り込み、定位置にオレンジハロを置いた。
そのまま少し笑うと、オレンジハロの頭を撫でる。


「ハロ!悪いが付き合ってもらうぜ」

『リョウカイ!リョウカイ!』

「アリー・アル、サーシェス・・・!」


ロックオンは憎々しげに瞳を細め、デュナメスを発進させた。




ハロも離しておけばきっとロックオンは本当に閉じ込められたままだったでしょうね。