ボスポラス海峡での戦闘の後、は一人で散策をしていた。

オレンジ色のグフ相手にステラが苦戦をしていたので、が撃墜をしておいた。
大破、とまではいけなかったがガイアを助ける事はできた。
の搭乗していたエグザスはその際に少々痛手を負ったので、今は修理に回っている。

とりあえず街に出たもののすることも無く、ただ本当に散策をしていた。
今頃ステラたちはゆりかごの中であろう。
お土産でも買って帰ろうか。
などと思っていたら、急に肩に手を置かれた。

急に置かれたので、驚いてつい裏拳を振るう。
「うわわっ!?」という声と共に、パシィ!という渇いた音が響いた。
手首を捕まれ、裏拳は止められた。
何事かと思い慌てて振り返ると、また驚いた。


「え、あ、シン・・・?」

「び、っくりした・・・。だよな」


そこに居たのは、相変わらず印象的な真っ赤な瞳を持ったシンだった。










「今日は一人なの?」


近くにあった海岸を歩きながら、隣に居るシンが尋ねてくる。
うん、と頷いてはシンを見上げる。


「シンは一人?軍のお仕事?」

「あ、ああ。そっか、俺がザフトの軍人ってもう知ってたんだっけ」


照れくさそうに頭をかきながらシンは笑った。
きっと先のボスポラス海峡での戦闘にもシンは出ていたのだろう。
私も居たんだけど。

そう思いながら、は無言で微笑んでシンを見詰める。


はどうして此処に?」


問うてくるシンに少しだけ考えたが、適当に返す事にした。


「知り合いに連れられて・・・。ステラも、アウルもスティングも居るよ。でも今お昼寝中」


暇だから抜け出してきちゃったの。
そう言って笑うにシンも「そっか」と言って笑った。


「・・・それにしても、良かった」

「え?」

が元気そうで」


良かった。
そう言うシンの笑顔は曇りなくて、なんだか罪悪感を感じた。
以前の出会いが出会いだったからか、ずっと心配してくれていたようだ。
は「ありがとう」と言ってぎこちなく笑った。


「ステラや、お兄さんたちは元気?」

「うん、元気だよ」


姉として、守ってあげなきゃね。
そう言い、は微笑んだ。

姉として、ステラ、アウル、スティングを守ってあげなきゃ。
そう思っていると、無意識の内に拳を握っていたようだ。
、」と名前を呼ばれてはっとする。


「どうしたの?具合でも悪い?」


優しい声色でそう聞いてくるシン。
やんわりと拳を解いて、その手を握ってくれた。


「やっぱり、何かあったんじゃないか?」


心配そうに言うシン。
彼を安心させる為に笑って「大丈夫だよ」と言ってみる。


「私はステラやスティング、アウルやネオが居るから大丈夫だよ」

「・・・そいつらは、を守ってくれるのか?」

「え?」


守ってくれる?

思わず瞳を丸くしてシンを見る。
守られる立場なんてなった事がないから、戸惑いを感じる。

シンはぎゅ、との手を握り、真剣な瞳を向けてくる。


は、俺がちゃんと守るよ」

「え?」

「俺がを守る」


微笑んで言う彼に、胸が高鳴った気がした。

ネオはステラたちを守らなくてはいけない。
ステラ、アウル、スティングは私が守ってあげないといけない。

私を、守る人?

そんな事、考えた事もなかった。

ずっとずっとコックピットで震える手を叱咤して皆を守るために戦った。
だってそうしないとデータが取れないから、薬ももらえなくて生きていけないから。

だから、


「そんな事・・・」

「え?」

「考えた事、無かった」


そう言い顔を歪ませるの頬へ、手を添えた。
瞳を丸くするを安心させるように彼は微笑んで、体を動かした。
そのまま優しくを抱き締め、そっと「大丈夫、」と囁いた。
背を撫でてくれるシンに無意識の内に起きていた震えが止まった。

不思議だ、シンと一緒に居るとネオとは違った落ち着きを感じる。

守る。

なんだか落ち着く言葉。

はそう思いながらシンの背に腕を回した。


「シンは・・・私を守ってくれるの?」

「もちろんだよ」

「・・・なら、私もシンを守りたい」


その言葉にシンは「え」と短く声をあげる。
は微笑み、「守るから」と言う。


「想いだけでも、シンを守りたい」


守られっぱなしじゃ嫌だから。
そう言って笑うと、シンも嬉しそうに笑った。


「シン、ありがとう」

「・・・そうだ、これ」


シンは急にしゃがみこんで砂浜に手を出す。
何をしているのだろうと思い、も一緒にしゃがみこんでみると、彼は綺麗な紅色の貝殻を手に取った。
それを差し出してきたので、両手で受け取る。

紅色の貝殻は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。

其れに思わず、の瞳も輝く。


「・・・きれい、」

「これ、お守りにしてよ」


シンの言葉に瞳を丸くすると、彼は慌てて「即席でごめん」と言って謝った。
その言葉に直ぐには首を振り「ううん、」と返す。

嬉しい、と言いは本当に嬉しそうに微笑んだ。


「・・・じゃあ、お礼」


はそう言い自分の首の後ろに腕を回した。
そのまま下げているペンダントを取り、掌の上に乗せて見る。
綺麗な空色の石がついたそれも、太陽の光を受けて綺麗に輝いている。

はそれをシンに「はい、」と言って差し出した。
思わず受け取ったシンは「いいの?」と言って少し申し訳なさそうな顔をした。
直ぐには頷いて、口を開いた。


「いいの。それ、お守りにして」


シンを守ってくれますように、って気持ちを込めるから。
と、言って彼の掌に収める。


「・・・ありがとう、。大事にする」


そう言ってシンは早速自分の首からそれをさげた。
そしてまじまじと石を見て、嬉しそうにへ視線を移した。


「これ、の瞳の色に似てる」

「そう?私、自分の顔そんなに見ないから分かんない」

「帰ったら鏡でも見てみろよ」


綺麗な瞳だから、見ないなんて勿体無い。
そう言って笑ったシンに苦笑を返す。


「私ナルシストじゃないもん」



























『旋回行動開始から30分経過。警告終了。キュリオス、これより作戦行動を開始する』


アレルヤの通信が耳に響いた。
暇な時間呆けて過ごしていたはそれに反応して視線を動かす。
アレルヤが紛争の原因であった麻薬栽培場所を焼き払う。
見事なまでに火の手があがっている。


『目標達成率97%。ミッションコンプリート』

「お疲れ様、アレルヤ」

『・・・こういうのならいつでもやるんだけどね』

「まあ、仕方ないよね」


確かに、対人ではない任務なら寧ろ望んでやるだろう。
優しい彼の性格なら尚更だ。

はそう思い、もう一度周辺に熱源反応が無いかを確認する。
どうやら噂のMSWADは出てこなかったようだ。


「ミカエル、離脱します」

『了解。ありがとうね、

「どういたしまして、またね」


アレルヤはこの後ロックオンと合流だったはずだ。
とりあえず、スメラギさんから指定されたところに行かなくちゃ。

そう思いはミカエルを飛び立たせた。


向かった先は、ユニオンの潜伏先のアパート。


カードキーを使用してロックを解除すると、ドアは簡単に開いた。
中はどうなっているのか、と思い少しわくわくした気持ちで入る。


「・・・わぁ」


質素な室内だったが、ベランダから街の景色が一望できる。
必要最低限のものしか置いていない室内を簡単に見渡した後、ベランダへ出る。


「わー・・・」


感嘆の声が漏れる。
活気のある町並みが見渡せて、何だか良い気分になった。
暫くベランダで眺めを堪能した後、遠隔操作でテレビをつけると、モニターに映像がぱっと映った。


『セイロン島におけるソレスタルビーイングの武力介入により、我々は148名の尊い兵士たちの命を失いました』


どうやら人革連の国家主席が話しているようだった。


『紛争根絶を謳いながら、ソレスタルビーイングが行っている行為は、国家の秩序を乱すテロリズム以外の何者でもありません』


パンツスタイルからワンピースに着替えながら、は耳を傾ける。


『わたしたち人類革新連盟は、断固とした態度で彼らのテロ行為に挑んでいく所存です――』


―プツン。

そこで電源を落とす。

セイロン島の武力介入・・・刹那か。

そう思いながらは適当に荷物を手に取って部屋から出る。
きちんと端末も確認し、カードキーでロックをかける。

せっかく休む時間があるのだ。これは街に出るチャンスだ。

新しく来た街はとりあえず散策をしていたにとって、それは一種の趣味のようなものだった。




昼過ぎの街中は、活気が溢れていた。


とりあえずショッピングでも、と思い洋服店を見て回る。
クリスティナやフェルトにお土産でも買おう。
だったら彼女たちに似合うものも探さなければ。

そう思いながら、ウィンドウショッピングを続けた。

ちょっと小腹が空いたかも、と思ったその時、綺麗なメロディーが耳についた。
オルゴールだろうか、繊細で綺麗な音がやけに響いているように感じる。
街中の喧騒などもう耳に入っていないは、それに合わせるように軽くステップを踏む。


ふわり、と金色の髪と紅色のリボンが宙を舞う。

くるり、と彼女が回るとスカートが舞う。


そのまま目当ての店の前まで行き、店頭に並べられていたオルゴールを見やる。
きらびやかな物から、簡単な作りの物。
それぞれの特徴のあるオルゴールを見渡し、「わぁ」と感嘆の声を上げる。


「・・・きれい」


試しに一つを手に取ってみる。

きらきら輝く石が嵌め込まれているそれは、宙に翳すときらりと輝いた。
思わずそのままぼうっと其れを見詰めていると、息を吐く音が聞こえた。

何故かそれが耳についたので、思わず其方を向く。

すると、罰が悪そうな表情をした男性と目が合った。
自分より背の高い、金色の少々くせっ毛の髪質の男性は「すまない」と言い近付いてきた。


「あまりにも美しかったもので、つい息を零してしまった」

「いいえ、綺麗ですよね、これ」


が首を振って言うと、彼は若草色の瞳を細めて「否、」と言った。


「確かにオルゴールも美しいが、何よりも君が輝いていた」

「え」

「街中の喧騒が一瞬にして無くなった様に感じたよ。気付いたら、華麗なステップを踏む君に見惚れていた」


そう言い彼は自身の胸へ手を置く。
真っ白なシャツに置かれた彼の手は、微かだが震えているような気がした。


「どうやら私は、君に心奪われてしまったようだ」

「・・・えっと、」


何て言ったらいいかな。
そう思っていると彼は柔らかく微笑んで片手を差し出してきた。


「紹介が遅れて申し訳ない。私はグラハム・エーカだ。よければ君の名を伺いたい」

「あ、です」


微笑んで彼の手を取る。
ぎゅ、と握ってきた彼の手は何だか暖かかった。


。素敵な名だ」

「あ、ありがとう・・・」


彼を見上げていると、彼は「そうだ」と言ってオルゴールを手に取った。


「出会いの記念だ。これを君に送らせてくれないか?」

「え!?そんなの悪いですよ!」


慌てて彼の手からオルゴールを離そうとするが上手くかわされてしまう。
グラハムは「ははは、」と笑いながらオルゴールを片手に店内へ入っていってしまった。
もう、と言い頬を膨らませても続く。


「折角小物入れになっているのだからそれに見合ったアクセサリーも必要だな」

「だから、悪いですってば!」

「そうだな・・・このペンダントなんていかがかな?」


駄目だ、この人話聞いてない。

そう思いはがっくりと肩を下ろした。
そうしている間に何時の間にか背後に回ったグラハムがに腕を回す。
突然のことで驚いて体を硬くする彼女の耳元で「ああ、やっぱり、」とグラハムが嬉しそうな声をあげる。


「とてもよく似合っている」


何時の間にか首に下げられたペンダント。
綺麗な緑色の石がついたそれは、美しく輝いていた。
それに見惚れている間に、グラハムは会計を済ませてしまったらしい。

の手にオルゴールの入った袋をしっかりと持たせて、彼は微笑んだ。


「それを見て、私を思い出してくれたら嬉しい」


そう言って石と同じ、綺麗な若草色の瞳で見詰めてくる。
はそんな彼にクスリと笑みを零す。


「・・・強引な人だなぁ」

「君に出会えた、今日という日に感謝がしたくてね」

「ありがとう、グラハム」


大事にする。
そう言っては微笑んだ。




ハム登場。
なんという二枚目・・・!