「ちょっと落ち着けって!アウル!」
スティングの声に反応しては慌てて廊下に出た。
そこには慌てた様子のアウルを諌めるスティングと、それを見ているステラが居た。
「何でだよ!何で落ち着いてられるんだよ!?ラボには母さんが!」
母さんが、
そう言った瞬間アウルの肩が跳ねた。
瞳を見開いて固まったアウルにが慌てる。
まずい、今彼は自分でブロックワードを言ってしまった。
「か・・・あ、さんが・・・居る、ラボ・・・!」
「おい!馬鹿!アウル! 」
「あ・・・か、母さんが・・・母さんが死んじゃうじゃないか!!」
アウルがそう叫び顔を両手で覆い、その場に崩れ落ちる。
そんなアウルを慌ててスティングが諌めようとするが、うまくいかない。
はアウルはスティングに任せ、ステラに気を配った。
先ほどアウルが発した言葉は、ステラのブロックワードだ。
だがステラはアウルのように恐怖状態に陥らず、どこか遠くを見ている。
「う・・・母さんが・・・・・・嫌だよそんなの僕は・・・」
「死んじゃう? 」
「おいこらしっかりしろ!馬鹿! 」
嗚咽交じりに母さん、と言うアウル。
騒ぎを聞きつけた兵士たちが慌ててネオを呼びに行く様子が伺えた。
「死んじゃう?」
ステラが呟いた。
紫の瞳が震える。
「死んじゃうは駄目、怖い」
だが、以前の様子とは違い、ステラは一人でふらりと歩き出す。
心配になったは彼女の後を追う。
「ま・・・も、る・・・守る 」
守る。
ステラは確かにそう言った。
記憶を消されたはずなのに、シンの事を覚えているというのか。
そのことにが驚いている間に、ステラは走り出してしまった。
その後にステラはガイアに乗り込み、壁を突き破って出て行ってしまった。
慌てても自分の赤を基準としたエグザスに乗り込み彼女を追う。
慌ててネオに通信も入れて。
「ネオ!ステラを連れ戻す!アウルをお願い!」
『待て、!一旦戻って来い!』
「だめ、ステラが!」
『ロドニア・・・ラボ・・・母さん・・・守る・・・!』
ステラの声が通信を通して聞こえてくる。
前方のガイアは物凄い速さでロドニアのラボに向かっている。
あそこは以前エクステンデットの研究施設だった。
今は廃棄されたとネオが言ってたので、アウルの母親代わりをしていた女性は居ないだろう。
けれど、今のステラにはそれも分からない。
どうやらザフトがロドニアのラボに向かったらしい。
ステラはアウルの母親を守る為にガイアでそこへ向かっているのだろう。
どうしたら、
等と思っている内にロドニアのラボが見えてきた。
前方から赤い機体と変形をする機体が発進された。
きっと迎撃部隊だろう。
『母さん・・・守る・・・!はぁぁ!!』
「ステラッ!」
ガイアが二機を急襲する。
も仕方なしにエグザスを降下させた。
「ステラ!無茶しないで!」
『はあああぁぁ!!』
ステラは無我夢中でビームサーベルを振るい赤い機体と交戦をしている。
が、真下から変形型の機体が襲い掛かる。
『きゃあああ!!』
「ステラ!!」
もう迷ってなどいられない。
飛行型へと変形して変形型を撃った。
そして、そのままガイアとの間に機体を滑り込ませる。
「ステラ、危ない!!」
『きゃっ・・・!』
一瞬だった。
目の前が一気に真っ白に染まり、物凄い衝撃を感じた。
コックピットギリギリに振り下ろされた相手の剣。
装甲が剥がれ、コックピットがむき出しになる。
ステラは、
そう思いながらうっすらと瞳を開ける。
どうやらガイアはエグザスの下敷きになっているようだ。
双方倒れていて、戦闘の続行は不可能だろう。
ザフトに、捕まっちゃうのかな・・・?
そう思いながらは目の前に迫ってきた変形型の機体をぼんやりとした頭で見詰めた。
そうしていると、
「ッ!!!」
「っ・・・」
コックピットに誰かが入ってきた。
否、裂け目から覗いている?
だれ、わたしのなまえをよぶのは。
「シン!」
男の人の声がする、そう、これは、シン、の声、
「・・・し、ん・・・?」
「・・・!ど、どうして・・・」
目を開けてみると表情を驚愕に染めたシンが居た。
ああそうか、あの変形型に乗ってたのはシンだったんだ。
知らない内に私、シンに攻撃しちゃってたんだ。
そう思っていると、何だか胸が苦しくて酷く咳き込んだ。
ああ、そうだ、ステラ。
シンに、頼まなきゃ、
「し、ん・・・」
「・・・」
「ステ、ラ・・・あっち・・・」
「え!?」
お願い。
「おね、が、」
ステラを
「ステラ、まも、って・・・」
私じゃ今、できないから
「シ、ン・・・」
シン、シン、シン、シン・・・・・・、
は、と目を開くと見慣れない天井が視界に入った。
そうだ、此処はユニオンの潜伏先だ。
そう思い体を起こす。
必要最低限の物しか置かれていない室内を何となく見渡す。
と、昨日会ったグラハムから貰ったオルゴールが視界に留まった。
『君に出会えた、今日という日に感謝がしたくてね』
そう言ってプレゼントされたもの。
無意識の内に薇を回し、蓋を開ける。
美しいメロディーが奏でられると同時に、ペンダントが姿を現した。
若草色のそれを見ていると、彼の言った通り、彼を思い出してしまう。
ふふ、と笑みを零してメロディーに耳を傾ける。
なんだかとても心が落ち着いた。
この美しいメロディーのお陰だろうか。
そんなことを思いながらは嬉しそうに微笑んだ。
この嬉しい気持ちは、どこかシンへ感じていたものと似ている。
(・・・シン、)
夢で見たのはロドニアのラボでの出来事。
あの後、ザフトにステラと一緒に捕らわれて拘束されてしまった。
シンは毎日見舞いにきてくれていて、それだけでとても嬉しくて、落ち着いた気持ちになれた。
所持していた薬があったが、それが切れた頃にステラとの体に限界が来た。
の体も、薬を摂取しないと生きていけない仕組みになっている。
それはこの世界でも変わらず、王留美が用意してくれる薬に相変わらず頼りっきりである。
今は未だ飲まなくても平気だが、用意だけはしておこうと思い立ち上がる。
限界が来たステラとを連れて、シンはネオの下へ飛んだ。
『ネオへ。とステラが待ってる。ポイントS228へ一人で迎えに来てくれ。
繰り返す。ネオへ。とステラが待ってる。ポイントS228へ一人で迎えに来てくれ』
揺れる意識の中、シンのそんな声を聞いた気がした。
ステラを支えるを、シンはずっと支えていた。
『ス、テラ・・・守るの・・・私が・・・』
『・・・うん、はちゃんとステラを守れてるよ。そんなを、俺がちゃんと守るから』
確かにシンはそう言ってくれた。
『死なせたくないから返すんだ!』
ぎゅ、とを抱く手に力を込めて、シンは真っ直ぐにネオを見据えて言った。
『だから絶対に約束してくれ!決して戦争とかモビルスーツとか、そんな死ぬようなこととは絶対遠い、優しくて温かい世界へ彼女たちを返すって!』
シンはネオにそう頼んでくれた。
ネオだって、たちが戦う事を好ましく思ってない事は知ってた。
最初の頃と違って、優しげにステラたちを見詰めていたから。
シンの望みは、かなえたい。
そう思ったから、あんな行動に出たんだったっけ。
そう思いながら、は薬を飲む。
そして注射器を確認してから、自分の腕へ指す。
徐々に気持ちが落ち着いてくる。
「・・・私は、」
あんな、行動。
そう思い、は端末に手を伸ばした。
今回は過去話でした。