ステラは元気になった。
スティングはずっと不満そうな表情をしていた。
「はいいよな。新型に乗せてもらえてよ」
「本当はステラが乗る予定だったんだよ」
そう言うとスティングは「ステラ?」と言い小首を傾げた。
「誰だそりゃ」と言う彼の記憶から、ステラはいなくなっていた。
「・・・私と一緒に戻ってきた女の子だよ。あの子。まだ全快じゃないから、私が代わりに乗るの」
思わず視線を逸らしながらスティングにそう言い、は眼前にあるMSを見上げる。
通常のMSよりも大きいそれはデストロイ。
これからベルリンの市街へ向かう。
スティングはこの新型がの手に渡るのが不満みたいだ。
自分が乗ってみたいからか、それとも・・・。
がそう思っていると、ネオが近付いてきた。
「、調子はどうだ?」
「大丈夫、私は元気」
そう言うとネオは「そうか」と言っての頭を撫でた。
新しいパイロットスーツを身に纏ったは、ネオを見上げる。
「ステラは?」
「・・・ああ、大丈夫だよ。ちゃんと俺と一緒に居るようにする」
「・・・うん。ネオも、ステラも、スティングも、私がちゃんと守るからね」
がそう言うとネオは「そうだな」と言う。
「そうだな。が守ってくれないと、怖い敵が来て、俺もステラもみんな殺されちまう」
「・・・それは、だめ」
ネオもステラもスティングも、死ぬ事は絶対に駄目。
首を振って言うの両肩に、ネオは両手を置いた。
そして、ゆっくりと言い聞かせるように話す。
「そうだ。だから、は怖い敵を倒さないといけない」
「・・・うん、分かってる。敵は、倒さないと」
「・・・そうだ、それでいいんだ」
、とネオが最後に小さく名前を呼んだ。
それに気付かず、はじ、と自身の握り拳を見詰めていた。
倒す、敵は、倒さないと。
みんなを守るために。
そう思うは、自分が薬の投与と共に記憶を弄られていた事を知る由も無かった。
デストロイに乗り込んで、ベルリンの街を焼き払う。
正直何故こうするのかは知らない。
兎に角此処にいる敵を倒さないと、ネオが、スティングが、ステラが、殺されてしまう。
は 震える体を叱咤して攻撃をしかける。
そうしていると、ビームがデストロイに向けられた。
シールドのお陰で当たりこそしなかったが、攻撃をされたその事実に苛立つ。
撃たれた方向を見ると、背に翼を持った白い機体が現れた。
それを見詰めるの耳に、ネオからの通信の声が響く。
『気を付けろ!!そいつはフリーダムだ!手強いぞ!』
フリーダム。
先の戦闘でも介入してきた、あいつ。
「相手が何だろうと、私はぁ!!!」
デストロイの形態を変更させて、MSの形にする。
そのまま両手を伸ばし、ビームを放ってフリーダムを狙う。
が、尽く素早く避けられてしまう。
まるで読まれている様な感覚。
否、動きを読まれているんだ。
その事実に苛立ってそのままフリーダムを追撃する。
しかし、どんな攻撃をしかけても、フリーダムは軽やかに避け続けた。
そうしていると、アークエンジェルからゴットフリードが放たれた。
だが、デストロイの陽電子リフレクタービームシールドのお陰で、無意味に終わった。
フリーダムの素早い動きに翻弄されるを、ネオが援護に入る。
彼に続いて、ステラも援護に入った。
『!!』
「! ステラ!」
『くそっ、やらせはせん!』
「ネオ!!」
ステラとネオが援護に入ってくれたお陰でフリーダムを抑えられる。
その間に私が撃てば・・・!
そう思っていたが、アラート音が響く。
接近する熱源反応・・・これは、
はびくりと体を震わせた。
変形型の機体、インパルスが何時の間にか眼前にまで迫っていたからだ。
振り下ろされる刃、ロドニアの時の光景と被る其れは――、
「いやあああああああああ!!!!」
デストロイのコックピットを傷付けた。
『『!!!』』
ステラとネオの声が聞こえる。
幸い傷付いたのはコックピットだけだ。
破片が飛び散って肩等に刺さったが、パイロットスーツのお陰か、恐怖状態のせいか痛みを感じない。
守らないと、近くにいるネオと、ステラを、守らないと。
ただそれだけを思いレバーを握りなおす。
再度攻撃をしかけようとするインパルスに反撃をする前に、ネオのウィンダムが突撃をする。
『やめろボウズ!』
『くそ、何を・・・!』
『あれに乗っているのは、だぞ!!』
『え・・・!?』
ネオがインパルスのパイロットと通信をしている。
それよりもステラは無事なのか、
が視線を彷徨わせると、半壊のステラの機体が見えた。
どうやらステラは無事のようだった。
あ、良かった、ステラの乗った機体は無事だ。
今は早く目の前のフリーダムとインパルスを倒さないと。
そう思いはコックピットの壁が無くなった部分から外の敵を見据える。
インパルスは今ネオが押さえている、今ならいける!!
そう思いビーム砲を放ったが、フリーダムに邪魔をされる。
「あいつ・・・!」
照準をフリーダムに合わせて撃っても、やはり尽く避けられる。
だんだんと苛々してきて、ただがむしゃらにビームを放つ。
「どれでもいいから当たれええぇぇ!」
『!・・・ちぃ!』
ネオが此方に飛んで来ようとしている。
それだけで苛々が少し収まった気がした。
ネオが来てくれる。
それだけで心が少し落ち着いた。
心配かけちゃったのかな、私は大丈夫なのに。
それよりも私はネオさえ無事ならば、
そこまで考えた所で、フリーダムがネオに狙いを定めているのが見えた。
慌ててネオを守ろうと手を伸ばすが、
『何っ!? ぐあああああ!!』
「ネオっ、ネオオオオオオオオォォ!!!」
フリーダムの放ったビームに翼をもがれ、ウィンダムは煙を上げながら堕ちていった。
ネオが堕ちた。
フリーダムに堕とされた。
「あ、あああ、」
『!!』
今度はステラが乗った機体が私を庇うように前へ出る。
フリーダムの放ったビームがステラの乗った機体に当たり、彼女も悲鳴を上げて堕ちた。
「す、てら」
私を庇って。
がたがたと体が震える。
こんなことならステラをデストロイに乗せるべきだった。
否、でも体調が完全ではないステラを、精神が安定していないステラを乗せたところで暴走してしまうだけだ。
そんな苦しみを味わうのならと私は、 私は、 わたしは、
「うわあああああああああああ!!!!!!」
ネオ、ステラ、私は守れなかった。
約束をしたのに、守ると。
―やくそく、
そこではた、と気付く。
私は誰と約束をした?
ビームを撃つ手を思わず止めて考える。
その隙を見逃さずにフリーダムが攻撃をしかけてくる。
がはっとした時には既に遅く、間に合わない状態だった。
―が、攻撃がデストロイに届く事は無かった。
インパルスがフリーダムを止めたのだ。
『やめろ!!』
通常の通信の声が響く。
否、機体から直接声が響いているのか。
きっと、フリーダムのパイロットにインパルスのパイロットが呼びかけているのだろう。
なんだか聞き覚えがある気がする声なのに、どうしても靄がかかった様に思い出せない。
誰、誰なの?
『何も知らないくせに・・・!あれは・・・あれは・・・!』
そこまで言うと、インパルスが此方に向き直る。
思わず肩が跳ねる。
体が震える。やだ、敵がこっちに来る。
「あ・・・い、嫌・・・!」
『なんだろ!?乗ってるの、!!』
「いやっ・・・来ないで、来ないでぇ!」
名前を呼ばれている事にも気付かず、は無我夢中で攻撃をしかけた。
それもインパルスはフリーダムと共にかわして近付いてくる。
爆発音の中、声が聞こえた。
『!!』
誰、誰なの、私を呼ぶのは。
『大丈夫だから、!!』
もういや、と思い思わず自身を抱き締めるように腕を回す。
その時にお腹のあたりに何かを感じた。
何か入れてたっけ、と思い触れると布がパイロットスーツの下に入っているのが分かった。
私、そんなの入れてたっけ、
『!大丈夫だ!ステラもネオも無事だから!』
「・・・え?」
ステラも、ネオも無事?
その言葉でやっと戻ってこれた気がした。
映像を使って確認すると、ネオもステラも確かに無事だった。
知らない人たちが二人を介抱している。
良かった・・・!
酷く落ち着いて思わず顔を俯かせる。
そうだ、私を呼んでた人は、
直ぐに顔を上げると、インパルスのコックピットが開かれた。
段々と近付きながら、 彼、 は、通信越しの声を響かせる。
『約束しただろ・・・みんなを守るを、俺が守るって!!』
「・・・あ、」
そうだ、何で忘れてしまっていたのだろう。
抱き締めてくれて、貝殻をくれた、彼を、
『俺が君を守るから!!』
思い出した、思い出した!!
彼だ!!!
「っ・・・シン!!」
思わずベルトを外して立ち上がる。
コックピットの切れ目から顔を覗かせ、出来る限りインパルスに向かって手を伸ばす。
ただ、ただ、必死に、
顔を出す際にメットが邪魔だったので、其れを取り外し、顔を出す。
「シン!シン!!」
『!』
インパルスのコックピット内に居るシンも、嬉しそうに笑った。
お互いに嬉しそうに笑い合い、見詰め合う。
徐々に此方に近付いてくる機体。
シンが来る。
それが嬉しくて、も微笑んで手をシンに伸ばした。
「シン!約束!」
思い出した!
「私を守ってくれるって!」
確かに言ってくれた!
ステラもネオも無事。スティングも撤退したみたい。
私も帰らなきゃ、シンのところへ。
片手を懸命にシンへ伸ばす。
「連れてって!シン!!」
私を、連れてって!
そう言うとシンは強く頷いて、インパルスの手を伸ばしてきた。
―その時、
「っぁ・・・!?」
ずきりと急に身体中が痛み始めた。
痛い、なんで? 痛い、
ただそれだけを思い、思わずシートにもたれるように座り込む。
突然姿が消えたせいか、シンの『!?』という焦った声が響く。
「う、うううううう」
なんなのこれ、痛い、頭が痛い、
『そうだな。が守ってくれないと、怖い敵がきて俺もステラも、みんな殺されちまう』
ネオの声が頭に響く。
そう、私が守らないとステラもネオも殺されてしまう。
そんなのは、だめ。
『そうだ。だから、は怖い敵を倒さないといけない』
怖い、敵は・・・、
敵は、フリーダムと、インパルス?
は、だめ!と言い頭を振った。
「ち、ちがう!インパルスにはシンが!シンが!シンは守るって言ってくれた!シンは私を守ってくれるって言った!!」
インパルスは、シンは敵じゃない!
そう、ネオを墜とした、敵はフリーダム。
そう思いレバーを強く握る。
「よくも・・・よくもネオとステラを・・・!」
さっきみたいに避けられちゃだめだ、だから全力でいかないと。
そう思い、全砲門を開く。
ビームを撃つ為に、光の粒子が集結していく。
『!駄目だ、!』
『止めるんだ、もう!』
声が響く。 直後、
フリーダムのビームサーベルが、デストロイの胸部の砲門へ突き刺さった。
穴を塞がれ、当然有り余った力は暴発をする。
デストロイの内部から爆発が起こり、それはコックピット内にまで及んだ。
「いやああああっ!!!」
物凄い衝撃を感じる中、
『ーーーーー!!!』
愛しい人の、声を聞いた気がした。
気付いたら、シンの腕の中に居た。
ぽたぽたと頬に雫が落ちてくる。
雨?・・・違う、雪でも、ない。
ああ、これはシンの涙だ。
はそう理解できたので、泣かないで、と言ってシンを撫でてあげようとした。
が、思うように体が動かない。
うっすらと瞳を開けてみると、涙で濡れた真っ赤な瞳が見えた。
シンは震える唇で言葉を紡ぐ。
「・・・・・・どうしてこんな・・・」
「・・・シン・・・ど、したの・・・泣いて・・・」
「・・・・・・」
ああ、そうか、会いに来てくれたんだ、シンは。
ミネルバから返してもらう時、また会えるってシンは言った。
わざわざ、会いに来てくれたんだ。
良かった、会えて。
微笑んだに、シンが少しだけ瞳を丸くする。
「・・・?」
「よか、った・・・シンと会えて・・・」
「・・・うん、俺も君に会えて、良かった・・・!」
涙を流すシンを撫でてあげたい。
大丈夫だよって安心させてあげたい。
そう思って手を伸ばしたら、シンに捕まれた。
あ、シンの手、
「・・・あった、かい・・・シン、っう、」
「・・・・・・!」
体が痛んで呻き声を上げるとシンが声を荒げた。
彼を安心させるように微笑んでみせる。
「・・・シン、守ってくれて、あり、がと・・・」
「・・・守られてたのは、俺の方だ・・・!」
「ううん・・・シン、ずっと、守って、くれて・・・た・・・」
だいすき、シン。
ありがとう。
なんだかひどくねむいの、すこしだけ、あなたのうでのなかでねむらせて。
おきたら、ちゃんというから。
さようなら。
ゆっくりと瞳を開く。
気付いたらうたた寝をしてしまっていた様だった。
タリビアの武力介入を行った後のアレルヤとの待ち合わせをしているのだが、一向に彼が姿を現さないので寝てしまっていたようだ。
スメラギからのミッションプランをは何となく読み直してみる事にした。
彼が遅刻をしたのではなく、が早く着きすぎたのであるが、如何せん暇である。
ちなみに、は今日はアレルヤに以前注意されたのでパンツスタイルである。
何せこれから宇宙へ上がるのだ。
因みに此処は人革連軌道エレベーターのリニアトレイン発着ロビー。
アレルヤとの待ち合わせまであと一時間以上はある。
なんでこんなに早く来てしまったのだろう、と思い思い切り椅子へよりかかる。
(・・・あんな夢まで見ちゃうし)
自分がこの世界に来る直前の夢。
デストロイに乗った自分は酷く錯乱していたと思う。
結局助けてくれたシンにはまともにお礼を言えないまま別れてしまった。
多分、初恋の相手。
優しいシンは、とても素敵な人だった。
彼の真っ直ぐな優しさに心惹かれた自覚はにはある。
でも、所詮過去は過去である。
今はソレスタルビーイングのガンダムマイスターとしての使命を果たさなければならない。
そう思うと、何だか心拍数が速まってきた気がした。
薬がきれてきたのかと思い、ポーチから薬を取り出す。
とりあえずこれだけでも、と思い飲み薬だけを摂取する。
今度ちゃんと王留美の下へ行って正確な薬物投入をしなければ。
と、思っていると「?」と声をかけられた。
優しい声色は、すぐに誰だか分かった。
ごくんと薬を飲み込んで振り返ると、鞄を片手に持ったアレルヤが居た。
「ごめん、待たせて」
「・・・ううん、早く着いちゃっただけだから」
笑ってそう言うが、アレルヤの表情は晴れない。
「具合、悪いの?」と問うてくる彼はきっと薬を飲む瞬間を見ていたのだろう。
「ちょっとね」
誤魔化すように言うとアレルヤは何かを感づいたのかあまり深く追求してこなかった。
マイスターには守秘義務がある。
個人情報に関してお互いに深く追求しないことがルールだ。
まだ時間があるから、ということで並んで座る。
アレルヤもも軽い鞄だけだった。
潜伏先にはあまり長く居なかった事もあり、荷物は少なめだ。
これからは一緒に宇宙へあがってミッションに参加する。
結構地上でミッションをこなしてきたので宇宙はなんだか懐かしい気がした。
元々ミカエルは地上での戦闘の方が向いている。
故にミッションは地上の方が多いのだが・・・。
ちらりとはアレルヤを見る。
心優しい青年がソレスタルビーイングでの武力介入で心を痛めていることには気付いている。
そんな彼を気にしている事にスメラギが気付いたのか、今回私が同行することになったようだ。
地上でのミッションも特に無いし、休暇になってもすることもなかったので断ることはしなかった。
むしろアレルヤが気になっていたので同行をしたかったくらいだ。
がそう思っていると、視線に気付いたのかアレルヤの銀の瞳が此方に向く。
「ん?どうしたの、」
「ううん、アレルヤの目、きれいだなって思って」
そう言うと彼は瞳を丸くした後に、頬を赤くした。
考えていた事は違うが、そう思ったのは事実だ。
綺麗な銀色。
そう思い、じっとは彼を見詰める。
「そ、そんなに見ないで・・・」
恥ずかしいよ。
そう言って困ったように笑って頬を赤く染めるアレルヤはなんだか可愛らしかった。
体格もしっかりとしていて、身長も高めなのに仕種は可愛い。
優しさも含め、そこがアレルヤの魅力なのかな、と思いながら思わず笑みを零す。
思わず「かわいい」と零すと彼は少しだけ視線を彷徨わせた後、ちらりと此方を向いた。
「た、確かに他のマイスターと比べれば頼りないかもしれないけれど・・・」
「そういう意味じゃないよ。アレルヤ個人を見て、ってこと」
そう言うと意味がよく分からないのかアレルヤは小首を傾げた。
こんな仕種もちょっと可愛いかも、と思っては笑う。
「そうそう、仕種もそうかも」
「え?」
「こうやって小首傾げたり、照れちゃったり」
アレルヤの真似をしてこてんと小首を傾げてみると彼はまた頬を赤く染めた。
ちょっと分かった、彼は照れやさんだ。
「僕はが・・・」
「んー?」
「が、可愛いと思うけど・・・」
アレルヤの言葉にえ、と声を出す。
大きな手が伸びてきて、髪に触れる。
ふわふわだね、と言ってアレルヤはにこりと微笑んだ。
「・・・え、あ、」
ちょっと恥ずかしいかもしれない。
今度は此方が照れてしまった。
シンとの離別の思い出。
後半はアレルヤといちゃいちゃ←