宇宙に向かうリニアトレイン内。
用意された個室でとアレルヤと寛いでいた。
向かい合わせで座り、食事もとったところで再度落ち着く。
「お食事はお済みになられましたか?」
アテンダントに声をかけられ、アレルヤが「ええ」と返す。
「食後のお飲み物、何かお持ちしましょうか?」
「コーヒーを」
「私もコーヒーで」
二人で答えるとアテンダントは「かしこまりました」と言いにこりと微笑んだ。
綺麗な微笑みだけれども、これは営業用なのかな。
それともアレルヤがカッコイイからちょっと可愛く見せてるのかな。
なんてね、とは思いながら美人のアテンダントを見上げる。
「カップルでご旅行ですか?」
「え」
意外な一言にアレルヤが短く声をあげてほんのり頬を染める。
そんな彼と対象的にはにこりと笑って「はい」と答えることにした。
その言葉にアテンダントが「まあ」と言って微笑んだ。
「お似合いですね、美男美女で」
「確かに、彼はかっこいいけど・・・」
私は、とが言おうとしたところでアレルヤが「そんなこと、」と呟く。
小さい声だったが、アテンダントとにはしっかり聞こえていた。
それに気付いたアレルヤが「あ、」と短く声をあげて頬を赤く染めた。
そんな彼の様子に、は少しだけ笑って再度アテンダントを見上げる。
「私と彼、好きなんです。上から地球を見るのが」
の言葉にアテンダントは「その気持ちわかります」と言って続ける。
「地上はごたごたしていますからソレスタルビーイングなんて組織まで出てくるし」
ソレスタルビーイング。
地上だけではなく、これから宇宙でミッションに当たろうとしているのは、自分たちだ。
「・・・ホント、嫌だよね」
アレルヤがそう言い、苦笑をする。
何が嫌なんだろう。
自分が稀代の殺戮者となる事だろうか。
「まもなく到着しますので、それまでごゆっくり」
が色々考えていると、アテンダントは出て行った。
擬似的な無重力状態に、もうなっているはずだ。
はそのままふわりと宙を舞い、アレルヤの目の前に行った。
瞳を丸くするアレルヤの頭を、なんとなしによしよしと撫でる。
「な、なに?」
「アレルヤ、元気ないから」
元気出して、と言って頭をよしよしと撫でる。
それにアレルヤは微笑んだ。
良かった、ちょっとでも元気になったみたい。
「それにしても、アレルヤの髪はさらさらだね」
「の髪はふわふわだね」
アレルヤの手も伸びてきて、後頭部に触れる。
無重力に舞う髪も一緒に触れているので、なんだかくすぐったさを感じた。
「の髪、長いね」
「女の子ですから」
そう言って笑うとアレルヤはなぜか悲しげに瞳を細めた。
さっきまで嬉しそうにしていたのに、どうして、と思っていると彼は「は、」と口を開いた。
「・・・女の子なのに、戦うんだね」
「・・・スメラギさんとかも、女性だよ?」
「でも、ガンダムに乗って戦っているのは君だけだ」
そう言って銀の瞳を揺らすアレルヤ。
そんな彼に思わず、は両手を伸ばして彼の首に手を回す。
突然くっついてきた事に驚いたのか、アレルヤが「!?」と声をあげる。
「・・・アレルヤは、私が戦うのに反対?」
「・・・少し、」
少し。
そう言ったけれど、実際は反対なのだろう。
彼の視線を見ればわかる。
きっと女だからという理由なのだろう。
でも、
「私は、普通の女の子じゃないから」
「え」
顔をアレルヤの肩口に埋め、は言葉を続ける。
「私は、戦う事しか知らないから」
他の事なんて、よくわかんないや。
そう言うと、背に腕が回ってきた。
それには瞳を丸くする。
「・・・は、今までもずっと戦ってきたの?」
アレルヤが静かにそう問うた。
守秘義務だとかそんなものは今のにはどうでもよかった。。
仲間の事は知りたいし、自分を知って欲しい気持ちもある。
はそう思って、小さく頷いた。
「戦ってきた。私は戦う事しか知らなかったから」
「家族とかの温もりは?」
「知らない。ずっと戦ってた、親なんて居なかった」
「小さい頃から、ずっと?」
質問をしてくるアレルヤに全てを答える。
なんだか抱き締めてくれるぬくもりが心地良くて、は体を自然と預けてしまう。
アレルヤの温もりにまどろみながら、答える。
「ずっと」
「・・・それって、どんなところ?」
「聞いてて気持ち良い事じゃないから」
別世界のことも全て話さなければいけなくなる。
そう思って笑って誤魔化してしまった。
が体を少しだけ離すと、アレルヤの悲しそうな顔がすぐ傍にあった。
「・・・君は、幼い頃から、まさか、僕と同じ・・・?」
「同じ?」
同じってどういうこと?
が小首を傾げる。
アレルヤも私と同じ、脳や体を弄られて改造をされたというのだろうか。
がそう思った瞬間、一気に冷水をかけられたみたいに体温がすっと下がった気がした。
―――かい、ぞう。
あの頃はステラが居てアウルが居てスティングが居て、ネオが、居て、
研究施設ではずっと戦いの毎日で、
同じ年頃のエクステンデットの子どもたちと戦って、時には命を奪って、
データをとられて、薬を与えられて、脳をいじられて、
地球連邦軍に入って、そのまま、私だけが記憶を引き継いで、
「・・・!」
「!!!」
両肩を大きな手でつかまれて揺さぶられた。
驚いて目を見開くと焦った表情のアレルヤが見えた。
さっきまで見えていたロドニアのラボの光景は、何時の間にか消えていた。
心配をかけてしまった。
そう思って努めて笑顔をつくり、は「ごめん、」と言った。
しかし、アレルヤは悲しそうに表情を歪ませ、の肩口に顔を埋めた。
「・・・アレルヤ?」
「君も・・・君も超兵なのか・・・?」
超兵。
此方の世界でも似たような実験はされているようだった。
きっとアレルヤは、私と同じ――。
そう思い、は瞳を揺らがせた。
「アレルヤ、私、」
「・・・!」
アレルヤになら、話せる、話したい。
「ほんとは、最重要機密並の事なんだよ?」
「・・・話して、くれるのかい?」
アレルヤには特別。
そう言ってが笑うと彼は少しだけ嬉しそうな表情をした。
周囲の状況もきちんと確認をしてから、は彼に自分の真実を話す事にした。
出会ってまだ日は浅いけれど、マイスターの中で一番一緒に時間を過ごした。
そして、同じ存在だからこそ、彼には真実を話したい。
そう思えた。
「元々、私はあなたたちとは違うの。今は西暦2307年だけど、私が知っているのはC.E:73年・・・」
「コズミック、イラー?」
「私の世界の西暦名だよ」
君の世界?
アレルヤは銀の瞳を丸くした。
「私は前の世界からこの世界へ来た。軌道エレベーターも無い、地球連合軍もザフトもガンダムを使って戦う世界から」
「地球連合軍・・・ザフト・・・?それに、ガンダムを両軍が使うなんて・・・!」
「私はガンダムに乗った兄弟たちをサポートする役割だったからガンダムには乗ってなかったけどね」
そう言うとアレルヤは「君は・・・」と言い瞳を細める。
「地球連合軍第81独立機動群ファントムペインに所属するMSパイロット・・・・ルーシェだよ」
「君はやっぱり、」
「超兵、って言い方とは違うんだけどね」
エクステンデッドだよ。
そう言うとアレルヤがその言葉を反復した。
「私の世界では遺伝子操作技術が進行しててね、プラントに住む人たち、ザフト軍はあらかじめ遺伝子操作された人たちが居るの」
「遺伝子操作・・・」
「戦闘特化とか、容姿の変更とかね」
それを良しとしない者が、地球に住むナチュラル。
自分と違うものを認められない、恐れる。
だから戦争が起こった。
そう、ネオに聞いた。
はアレルヤに説明をしながら、少しそう考えた。
「私は通常の人間であるナチュラルだった。でも、幼少の頃からロドニアって所のラボで、コーディネーターに対抗するために作られた人型兵器、エクステンデッドになった」
「人型兵器・・・」
「あんまり詳しい事はよく分からないけれど、脳や体をいじったりしたみたい」
軽くが言うと、アレルヤは瞳を細めた。
「ロドニアのラボでは毎日が戦闘、データ採取、薬物投与が当たり前だった」
黙って聞いているアレルヤは何を思っているのだろうか。
きっと過去の自分の事を思い出しているのかもしれない。
はそう思いながらも続ける。
「私と妹のステラ、他は男の子二人・・・アウルとスティングが選ばれた」
「妹・・・?」
「多分、血は繋がってるのかな? 容姿も似てるって・・・弄られた情報かもしれないけどね」
そう言っては少しだけ笑う。
「一回の戦闘を行った後は、精神を安定させる調整を受けるの。その時に余計な記憶も消去されるの」
「記憶を、消すのかい?」
「うん、私はどこまで耐えられるのかとか色々実験があったみたいで、全然されなかったんだけど」
作戦に支障が出る記憶は全て消されてたよ。
がそう言うとアレルヤは小さく頷いた。
完全じゃないみたいで、思い出す事もあったが。
「私は記憶があるし、ガンダムにも乗ってなかったから、ステラたちを守りたかった」
守れなかったけれど。
そう思ってゆっくり瞳を閉じると大好きだった少年の顔が浮かんだ。
真紅の瞳を持つ、純粋で真っ直ぐで、心優しい彼が。
「アレルヤは軽蔑するかもしれないけれど・・・私、巨大MSに乗って市街を襲ったんだよ」
「え」
唐突なの言葉に、アレルヤが短い声をあげて体を硬くした。
「宣戦布告もしないで、ただ命令に従って無関係の市民もいっぱい殺した」
「・・・そんな・・・、」
デストロイを使用してベルリンの市街を炎の海へと変えたのは私だ。
そう思いながらは少しだけ瞳を伏せた。
軽蔑されたかな。
そう思ってアレルヤを見ると、思いの外彼は優しい表情をしていた。
あれ?と思うの頬にそっと手を添えられた。
優しい銀の瞳を向け、アレルヤは口を開いた。
「君が自ら進んでする事は考えられない。何か特別な理由があったんだろう?」
「・・・アレルヤは、やっぱり優しいや」
そう言い、彼の手に頬擦りをする。
「ステラを乗せたくなかった。その時のステラは体調も万全じゃなかったし、約束もあったから」
「約束?」
「そう、ステラはちゃんと守るっていう約束」
シンとの、約束。
そう思って少しだけ微笑む。
しかし、
「・・・でも、駄目だった」
ステラを、置いてっちゃった。
はそう呟いて、アレルヤに縋るように抱きついた。
「翼を持ったガンダムが来て、デストロイの砲撃部分をやられて、おち、て・・・」
「・・・君は・・・」
「・・・次に目をあけたらシンが居た。シンが私を抱き上げてくれてた。シンが泣いてた・・・」
シンと話をした後に目を閉じた。
その次に目を開けたら、パイロットスーツで宇宙を漂っていた。
気付いた時には、王留美に保護されて、そのままガンダムマイスターになっていた。
そう話すとアレルヤはくしゃりと表情を歪ませた。
そしてぎゅう、とを強く抱き締めた。
「君の傍に、君を守ってくれる人は居なかったんだね・・・」
「守る・・・? シンが言ってくれたよ?」
「でも、傍には居なかった」
それはそうだけれど、
シンは心の支えに何時の間にかなっていた。
だから、私はがんばれたのかもしれない。
そう思うの肩口に顔を埋めて、アレルヤは言葉を続けた。
「には、傷付いて欲しくない・・・」
「アレルヤ?」
ぎゅうぎゅうと強く抱き締められる。
苦しいような気もしたが、は甘んじてそれを受け入れた。
「僕じゃ、だめかな」
「え?」
「僕が、君を守るよ」
僕が、
と耳元で囁くアレルヤ。
は空色の瞳を大きくした。
守る。
以前シンがに言った言葉。
洞窟の中でも、ミネルバの中ででもシンが言ってくれた言葉。
同じように抱き締めてそう言ってくれるアレルヤに、は安心感を感じた。
「守る」
そう反復して、はアレルヤの背を指でなぞる。
「・・・アレルヤが、私を?」
「うん、君を守らせて」
頬と頬がぴったりとくっつく。
あったかい。
アレルヤの背に腕を回し、私も、とは言う。
「アレルヤを守るね」
「・・・君が?」
「うん、私もアレルヤを守ってあげたい。守られっぱなしは嫌なの」
ね、とが言うとアレルヤは困った様に笑った。
許可を貰ったようなのでなんだか嬉しくなってそのまま彼の隣の席に腰を下ろす。
そのまま彼の肩に頭を預ける。
そろそろアテンダントが飲み物を持ってくるかもしれない。
でも、何だか離れたくなくて彼に寄り添う事にした。
リニアトレインの中だけで終わった←