ツキンと頭に痛みが走った気がした。
同時に気持ち悪さを感じ、胃がむかむかした気もした。

なんだろう、と思いながらゲートを通り抜ける。

直後にアレルヤが鞄を床に落とし、頭を押さえてその場に膝を着いた。


「うう、っく・・・!」

「アレルヤ!?」


一体どうしたのか。
慌てて駆け寄って彼の背を支える。


「な、何なんだこの、頭痛は・・・!
うあああ・・・!」


苦しげに声をあげて蹲る。
どうしたのかと思い再度「アレルヤ!」と声をかけると急に彼はばっと顔をあげた。


「くそ!どこのどいつだ!勝手に俺の中に入ってくるのは!」

「!!!」


金の瞳を釣り上げて、彼は立ち上がった。
片手で額を押さえながら、苦しげに視線を彷徨わせる。


((あなたはだれ・・・!?))

「・・・え」


頭に誰かの声が響いた気がした。
気のせいなんかじゃない、確かに聞こえた、女の子の声だった。

今のは一体?

がそう思っていたら隣に立っている彼が叫んだ。


「てめぇ、殺すぞ!!」


殺気を含んだ彼の声色。
それが頭に響いている相手に直接届いたのか、動揺が伝わってくる。
其れは恐怖となり、彼女は悲鳴をあげた。


((いやあああああぁぁ!!!))

「っつ・・・!」


思わずは両耳を塞いだ。

少女と思われる声が、悲痛な叫びをあげている。
明らかに彼に対する怯えからのものだろう。

頭痛がする、そうアレルヤは言っていた。
きっと超兵というものの特徴のひとつだろう。

はアレルヤからリニアトレインの中で簡単に説明をしてもらっていた。
その中に含まれていた脳量子波というものだろうか、彼らの声が頭に直接響いてくる。

目の前に居る彼が辺りを見渡しながら、眉を顰めた。


「誰だ・・・奴は誰だ・・・?」

「あなたが・・・誰?」

「あん?」


私の言葉に反応してか、彼が振り返った。
いつものアレルヤとは違う分け目のせいか、反対の金の瞳が見えた。

アレルヤだけど、アレルヤじゃない、
彼は誰なの?

そう思いながらは「貴方は、」と言う。


「誰なの?」

「・・・ハッ、お仲間の女か」

「あなたは、」

「おい、あれ!」


彼に真意を問おうとした瞬間、他の人の慌しい声が響いた。
「重力ブロックじゃないか?」と言って窓の外を指している。
彼と共に窓の外を見ると、支柱が破壊された重力ブロックの一部がステーションから切り離されているのが見えた。


「事故か、ご愁傷様だな」


彼はそう言い、口の端を上げた。
そんな言い方、とが思っていると彼はどこか面倒そうに頭をかいた。


「出しゃばるなよ、アレルヤ」

((ハレルヤ!!))

「!」


また頭に声が響いた。
一瞬だったからよく分からなかったが、確かに今のは、アレルヤの声。
そして呼んだのはきっと、彼。

彼の名前は、


「・・・ハレルヤ・・・?」

「やっぱりだめだ!」


アレルヤと、ハレルヤ?
そう思っていると銀の瞳を揺らしながらアレルヤが叫んだ。
分け目も気付いたら変わっている。
そのまま駆け出そうとしたので、思わずは彼の腕をつかんで止めた。


「ア、アレルヤ!待って!どうしたの!?」

・・・!だめなんだ、僕はあれを放っておけない!」


これからのミッションを放棄して救出に向かうというのか。
確かに、このままでは切り離された重力ブロックは大気圏に入り、燃え尽きてしまうだろう。
そうなったら、中に居る民間人はみんな死んでしまう。

やっぱり彼は優しい。

そう思い、焦るアレルヤに安心させるようには微笑む。


「じゃあ、先に行ってて。荷物とか色々片付けたら私も行くから」

「え?」

「きっと重力ブロックの中に居るのは民間人だもんね、きっと宇宙に放り出されて、不安なはずだよ」


早く行ってあげて。
そう言ってが笑うと、アレルヤも少しだけ微笑んで、「ありがとう」と言って駈けてった。

残されたは放置された荷物を両方持ち上げる。


「・・・さてと」


きっと怒られる。けど、放っては置けない。
そう思っているんだろうな。

アレルヤの優しさを感じながら、も駆け出した。
指定されたポイントへ向かったら、色々しないとなー。

そんなことを考えながら、兎に角走った。





ガンダムミカエルに乗り込み、コックピットの後部に荷物を押し入れる。
そのまま回線を開いてプトレマイオスへつなげる。


「スメラギさん、」

『あぁ、・・・アレルヤの事ね?』


恐らく王留美から緊急の通信でも入ったのだろう。
既にプトレマイオスの皆は知っているようだった。

モニターに映ったスメラギさんは困った笑顔を浮かべて、肩を竦めていた。


『どうせなら、彼を止めてくれていたら有難かったんだけど』

「あれは、止められませんよ」


ごめんなさい、と言うとスメラギさんは大きく息を吐いた。


「アレルヤの代わりに、私が本来のミッションへ・・・」

『いいえ、今から新しいミッションプランを送るから、貴方はそれに移ってちょうだい』

「新しいプラン?」


丁度受信したようで、別モニターでさっとそれを見る。
意外な内容だったので、思わず目を丸くしてスメラギさんを見詰めてしまう。


「・・・これって、」

『キュリオスは、これからも必要なのよ』


だからアレルヤの代わりに結構大変な仕事をよろしくね。
そう言うスメラギさんに頷いた。

アレルヤにはロックオンがサポートに入るみたいだし、私は私に与えられたミッションをこなそう。


「・・・アレルヤ、」


あなたを追いかける事は出来ないけど。


「あなたが集中できるように、私もがんばるから」




閑話みたいなものになりました。
次は長いです。