『・・・、無理はいけないッスよ』


両肩に手を置いて、リヒテンダールはに言った。
言い聞かせるような彼の言葉に、思わずは口を噤んだ。


『俺たちは仲間であり、家族みたいな物なんッスから!』


遠慮は無用ッスよ。

そう言って、リヒテンダールはに背を向けてしゃがみこんだ。


『さ、乗るッスよ。部屋まで運ぶッス』


思わず慌てて両手を振り、断りの言葉を入れるに「いいから」と言ってリヒテンダールは急かした。

家族。

その言葉にくすぐったさを感じながらも、その時確かには嬉しさを感じていた。
リヒテンダールの背に寄り添い、彼の首に腕を回した。
『硬くて、ごめん』と、彼は申し訳無さそうに笑った。
確かに、彼の背からは温もりが感じられなかった。

はその事に深くは触れず、『ううん、』と言って彼の肩に顎を乗せた。


『あったかいよ』


そう言って笑うと、リヒテンダールは嬉しそうに、ちょっと気恥ずかしそうにはにかんだ。





『私、最初はちょっとアレルヤっていいなって思ってたのよ』


クリスティナの言葉には『え』と思わず短く声を上げた。
そんな彼女にクリスティナはくすりと笑みを零し、『でもね、』と言う。


『もうそんな気無くなっちゃったわよ!あんたたちお似合いなんだもん!』


端から見てもすぐ分かったし。
クリスティナはそう言って嬉しそうに笑った。


『変な遠慮ばっかしてないで、もっとアレルヤに甘えてみなさいよ』


大丈夫、私が背中押してあげるから!
笑顔を見せる彼女に、心が温まった事もあった。










そんな、二人が、










プトレマイオスの艦首部分が爆発した。
ブリッジの部分が抉れたプトレマイオスは、完全に宇宙空間と同じものとなっている。

壊れたパネルや椅子が浮いている。

その中に、二人の姿もあった。

トランザムしたミカエルによってGN−Xは大破させたが、助ける事は出来なかった。
は震える手でレバーを握りながら真っ直ぐに二人を見ていた。

そのまま二人だけが何かを話し、クリスティナがリヒテンダールを強く抱き締める。
そんな彼女の背にも、破片が突き刺さっていた。

瞳を閉じたリヒテンダール。

涙を流すクリスティナ。


『フェルト・・・居る?』


ノイズ交じりの通信をイエローハロが拾った。
突然の事には思わず瞳を見開く。


『居ます!』

『もうちょっと・・・お洒落に・・・気を使ってね・・・』



そんなこと!
とフェルトが返す。


『ロックオンの分まで・・・生きてね・・・!』


フェルトが息を飲む。
が瞳を揺らがせていると、『、』とクリスティナに名を呼ばれた。


『・・・アレルヤと、幸せになってね・・・』

「そ、そんな・・・だって私じゃ・・・!」


代わりなのに、いつかは、
言いよどむだが、途中でクリスティナが咳き込んだ事で思わず言葉を止める。


『お願い・・・世界を・・・変えて・・・!』


お願い・・・!
クリスティナの言葉が途切れた。

思わずミカエルで手を伸ばしたが、どうする事も出来なかった。

ブリッジの部分が大爆発を起こした。
艦首から爆発を起こし、直後、プトレマイオスの艦体が傾く。

クリス!リヒティ!とイアンとスメラギの叫び声が聞こえた。


クリスティナ・シエラーーーーーーーーー!!!!!!!


フェルトが慟哭した。





は唇を噛み締め、強くレバーを握った。
そのままミカエルを動かし、トランザム状態のままGN−Xを撃破していく。



ラッセの強襲用コンテナは、未だに巨大MAと戦っていた。
ソレスタルビーイングの監視者であったが、私利私欲に取り付かれた男、アレハンドロ・コーナー。
その男が巨大MA、アルヴァトーレでGNフィールドを展開する。


『攻撃が効かない!』

『なら、懐に飛び込んで直接攻撃だ!!』


GNフィールドを展開しながら突撃をする。
が、アルヴァトーレの側面にあったアームが展開され、強襲用コンテナを掴んだ。
ビーム砲の開閉部分を押さえられ、身動きがとれなくなる。


『忌々しいイオリア・シュヘンベルグの亡霊どもめ。この私、アレハンドロ・コーナーが、貴様らを新世界への手向けにしてやろう!』


ラッセは冗談!と言い側面にあるビーム砲を撃つ。
しかしアルヴァトーレにはきかなかった。
舌打ちをしつつ、ラッセはGNアームズとエクシアを分離させた。

GNソードを抜き、エクシアがアルヴァトーレへ突撃をする。


『エクシア、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!』





強襲用コンテナの中で、スメラギは瞳を揺るがせながら、沈むプトレマイオスを見ていた。
が、直ぐに顔をあげ、口を開いた。


「フェルト、マイスターたちの状況を教えて」

「ナドレは大破・・・ティエリアからの・・・応答・・・無し・・・」


涙を流しながらも、フェルトがパネルを操作して現状の確認をしてから報告をする。
彼女の言葉にイアンが「何だと・・・!」と声をあげる。


「キュリオス・・・機体損傷大敵モビスルーツ2機と交戦中・・・」

「・・・は?」

「ミカエル、トランザム限界時間・・・キュリオスの援護に向かっている様子です・・・」


ミカエルも見た限り、片腕と片足が無かった。
スメラギは瞳を細め、彼らの身を案じた。


みんな・・・





GN−Xと交戦をした後、ハレルヤはキュリオスを衛星の影に隠していた。
右側の腕と足をごっそり削られた状態のキュリオスの中で、ハレルヤは小さく息を吐いた。


「しくじったぜ、ったく」


敵の様子を確認した後、ハレルヤは金の少女に想いを馳せた。
彼女は無事だろうか。

あの後の後を追おうとしたソーマのGN−Xを攻撃して気を引いたはいいが、この状態では満足に戦えなかった。
プトレマイオスは落ちた様子だったので、の事が気懸かりだった。


ハレルヤ


そこで頭にアレルヤの声が響いた。
コクピットのモニターに映った顔が、此方を見る。
「あ?」と言いハレルヤは金の瞳を細め、銀のそれを見返す。


「引っ込んでろアレルヤ。生死の境で何も出来ないテメェには用は無ェ」


金の瞳を鋭くさせ、ハレルヤは言葉を続けた。


「俺は生きる。他人の生き血を啜ってでもな!!」

僕も生きる!


珍しくも自己主張をしてきたアレルヤ。
生への執着を見せた片割れに、ハレルヤは「何?」と言い金の瞳を丸くした。


僕はまだ世界の答えを聞いていない・・・この戦いの意味すらも


そして、と言うアレルヤの感情が伝わってくる。
二つの心に同時に浮かんだものは、だった。


それを知るまで僕は、死ねない!


口には出さないが、を想う心が伝わってくる。

アレルヤはもうとっくにマリーとへ違う気持ちを抱いているのか。
それとも、マリーを忘れているが故にをこんなにも想えるのか。

そんな事はどうだっていいか。

ハレルヤはそう思いながら口の端を吊り上げた。


「ようやくその気になりやがったか」


ハレルヤはそう言いメットを取った。
丁度その時に、反応が出る。
どうやらミカエルが此方に向かっているようだった。
「丁度良いぜ、」と言いハレルヤはアレルヤを見返した。


「ならとあの女に見せ付けてやろうぜ」


そう言った所で、両手で前髪をすくう。


「本物の、超兵ってヤツをな!」


金と銀の瞳が細められた。
キュリオスのアイセンサーが輝き、衛星の影から飛び出る。

すぐさまGN−Xがビームライフルで攻撃をしてくる。


「直撃コース・・・避けてみせろよ!!」


ビームを軽く避けて突撃してくるキュリオスに、ソーマが息を飲んだ。


「軸線を合わせて!」


アレルヤがキュリオスを変形させ、ビーム攻撃を避ける。


「脚とォ!!」


一瞬でハレルヤがキュリオスをMS型に戻し、勢いのままに突撃する。


「同時攻撃を!」


そう叫んだ直後、勢いに任せてソーマのGN−Xにキュリオスの蹴りが入った。
ソーマが苦渋の表情を浮かべ、レバーを強く握る。
彼女の援護に回ろうとしたGN−Xの左腕の付け根に、GNシールドニードルが伸びる。


うおおおおおっ!!


アレルヤが思い切りレバーを押す。
直後、GN−Xをソーマの乗る機体へ思い切りぶつけた。
その際に掴んでいたGN−Xの左腕がもげる。


((あの機体はどうして!?))


焦りの声を出すソーマ。
彼女の頭に、ある声が響いた。


『二人が、一緒だからだよ』

((! か!))



見ると、キュリオスとは反対側から、ビームサーベルを持ったミカエルが飛んできていた。
ソーマは唇を噛み締め、敬愛する上司の機体を支えたまま、ビームライフルを撃つ。
キュリオスはそれをGNシールドニードルで薙ぐ。
追撃を変形して避けた。


「今までのようにはいかねェ! そうだろ、ハレルヤ!」


突撃してくるキュリオスをソーマが。
背後から迫るミカエルをもう1機のGN−Xが応戦した。





はモニターに映し出された彼らを見て少しだけ笑んでみせた。


「二人と一緒に、私も行くから」

『無茶はしないでね・・・行くぜ!!』


アレルヤとハレルヤに「了解」と返し、コンビネーション攻撃を繰り出す。
ミカエルのGNランチャーでGN−Xの距離を開く。
単体に、アレルヤとハレルヤが追撃をする。
援護に向かおうとする残り1機を、ミカエルのビームサーベルが襲った。

どうやらそちらがソーマのものだったようで、声が響いてきた。


((中佐!!・・・くそっ・・・!!))

「彼らは、私が守る!」


両腕をもがれたGN−Xの援護に向かおうとするソーマを止める。
鍔迫り合いの中、ソーマが通信を入れてきた。


『何故だ・・・何故お前は・・・!』

「私は、代わりでいられる内だけでも、彼らを守りたい!!」

『ま、守る・・・!?』


貴女にも居るんでしょ!
はそう言いビームサーベルを振るい、ソーマと距離を取る。
そのままGNランチャーを撃つが、避けられる。


「守りたい、大切な、存在が!!」

『大切な、存在・・・!?』


そこで『少尉!』と呼ぶ男の声が通信越しに聞こえた。
両腕をもがれたGN−Xがミカエルに体当たりをしてきた。


『此方は良い!羽根付きを・・・!』

『・・・中佐・・・!』



ソーマは一瞬躊躇いを見せたが、すぐにビームライフルを構えてキュリオスを追った。
キュリオスは攻撃をかわし、衛星の裏に逃げ込んだ。
直ぐにソーマはその衛星をビームライフルで破壊したが、既にキュリオスの姿は無かった。

突然消えたキュリオスにソーマは眉を潜めるが、直後、反射的にビームサーベルを抜いて真横から迫っていたキュリオスの攻撃を受け止めた。
ビームサーベル同士がぶつかり合い、火花を散らす。


『何故だ!?私は完璧な超兵のはずだ!』


何故追いつけない!
ソーマの叫びに通信が通ったハレルヤが笑い声を返す。


『分かってねぇな、女』

『何!?』

『テメェは完璧な超兵なんかじゃねぇ!』



鍔迫り合いが続く中、は必死に行く手を阻むGN−Xを蹴り飛ばしていた。
男の悲鳴を耳にしながらも、キュリオスの方へ向かう。


『脳量子波で得た超反射能力・・・だが、テメェはその速度域に思考が追いついてねぇんだよ!
 動物みてぇに本能で動いているだけだ!』

『そんな事!』



ソーマが苛立った声色で頭部のバルカンを撃つ。
が、既にキュリオスの姿は前から消えていた。

突然の事に唖然とするソーマに、通信越しにハレルヤの声が響く。


『だから動きも読まれる・・・』


反射的に顔を上げると、衛星に片足をついて、キュリオスがそこに立っていた。


『反射と思考の融合・・・それこそが、超兵のあるべき姿だ!』


軽く衛星を蹴って飛ぶ。
そこで、キュリオスの機体が赤く輝き始めた。

破壊された右側の腕と脚の部分からは緑に輝く粒子が漏れている。
そこから、どれほどの粒子エネルギーが出ているのか、予想以上だった。
は改めてトランザムの威力を思い知りながらも、動く。


『あの輝きは!』

『例のヤツか!』



ソーマと彼女の言う"中佐"が声を上げる。
今までの悔しさからか、ソーマがGN−Xで突撃する。
少尉!と諌める声も無視してビームライフルを乱射する。

が、トランザム、且つ、思考と反射の融合を成した彼らに当たる事は無かった。
避けながらキュリオスはGN−Xへ接近し、GNシールドニードルで左腕を破壊した。
そして、振り返り様に左足も切り落とされる。

ソーマが苦渋の表情を浮かべる。

はそのまま、機体を動かし、ミカエルのビームライフルを抜いた。

夢の中で出会った少女。
ソーマ・ピーリスだと名乗った、心優しい少女。

そして、アレルヤの本当の想い人、マリー。

アレルヤとハレルヤと同じように、二つの心を持ち合わせている彼女。

今ここでソーマを殺すという事は、マリーも殺す事になる。


『さようならだ!女ァ!!』


ハレルヤが声を上げる。
GNシールドニードルを真っ直ぐにGN−Xに向ける。

そこへ、


『少尉!!』


もう1機のGN−Xが間に割って入った。
GNシールドニードルはそのGN−Xに突き刺さる。
『中佐!』と叫ぶソーマの声が響く。

はそこで思い切りレバーを引いた。


今だ!ピーリス!


男が吼える様に言った。
直後、ソーマはビームライフルをキュリオスに向けた。


はあああ!!

アレルヤ、ハレルヤ!!


キュリオスの腕が破壊され、GNシールドニードルから離れる。
直後、ミカエルが間に割って入った。


!!!


そう叫んだのは、どちらだったか。

思い切り腕を振るい、ビームサーベルでソーマのGN−Xの頭部を吹き飛ばす。
GN−X双方とも小爆発を起こして離れていく中、ビームライフルから放たれた攻撃がミカエルとキュリオスを襲う。
その時、キュリオスが体ごとミカエルに迫り、守る様に前に出た。


 そんな、アレルヤ、ハレル―――!!」

ぐわああああああああ!!!


最後にその叫びを聞いて、はコクピット内の爆発により身を竦ませた。

通信が、途絶えた。

それはキュリオスの損傷がそれほど酷いという事。

私を守ったせいで、私が守るはずだったのに!

そう思いながらは霞む意識の中、キュリオスに手を伸ばす。
コクピットのハッチ部分が破壊されたのか、手を伸ばせば直ぐに宇宙空間がそこにはあった。


「ア・・・レルヤ・・・、」


ハレルヤ、

心の中で彼らを呼ぶ。

手を伸ばしても、届かない、


彼らが、いってしまう、


『中佐!』


ソーマはGN−Xの外に出て敬愛する上司、セルゲイ・スミルノフの乗るGN−Xに取り付いた。
コクピットのハッチを開けるが、GNシールドクローのせいで上手く開かなかった。
出来た隙間に体を滑り込ませ、全身の力を使ってこじ開ける。

そんなソーマに、セルゲイは「何をしている!」と声を荒げる。


『私に構うな!戦え、少尉!』

『できません!』



声を張り上げ、ハッチを開く。
ソーマは金の瞳を揺らがせ、真っ直ぐにセルゲイを見下ろした。


『中佐が居なくなったら、私は一人になってしまう・・・!』


そんなの、嫌なんです、
そう言い表情を歪ませるソーマに、セルゲイは瞳を細めた。

同じ様子をモニターで見ていたのか、ノイズ交じりにアレルヤの声が聞こえた。


『ああ、う・・・』

「! アレルヤ!?」


意識が一気に覚醒した。
は痛む体も気にせず、思わず身を乗り出す。

―直後、


『マ、マリー・・・!?』

!!!!!!


思わずは体を硬くした。

何故、と呟くアレルヤの声。


『そんな、ソーマ・ピーリスが、マリーだったなんて・・・!』


知っていたのか、ハレルヤ!?
そう問うアレルヤ。
は体を震わせ、思わず両腕を回した。


((知ったら、お前はもう戦えねぇ・・・死ぬだけだ))

『そ、そんな・・・!』


((まあいいさ、どっちみち同じだ))



ハレルヤの声も聞こえる。
そこで二人の会話は途切れた。

はシートに体を預け、瞳を揺らがせた。


「・・・こう、なるべきだったんだよね、」


二人は本来ならずっと想いあっていた。
アレルヤは思い出したんだ、マリーを、彼女への想いも。

はレバーを引き、電流の走るミカエルを動かした。

自分たちを素通りするミカエルに、ソーマは金の瞳を揺らした。


『・・・?』


ソーマの言葉には答えずに、はプトレマイオスにキュリオスの位置情報を送った。
そのまま自身は、アルヴァトーレと激戦を繰り広げるエクシアの方へ向かった。

ここからでも確認出来る、戦いの光。

いかなくちゃ。

はそう呟いて、ミカエルを動かした。



今と思い出。

しかし本当にアレルヤの戦いはかっこいい。