西暦2312年。
各国家群は地球連邦として統一を果たし、世界は一つになりつつあった。
しかしその裏では独立治安維持部隊「アロウズ」によって、反連邦主義や思想への弾圧や虐殺が行なわれており、世界は未だに歪んだままであった。
衛星基地レゾルスでは、アロウズのMSであるGN−XV、アヘッドが圧倒的な性能でイナクトやティエレンを倒していた。
擬似太陽炉を搭載しているGN−XVとアヘッドに、レジスタンスのイナクトやティエレンが叶うはずもなかった。
衛星基地は一瞬にして爆破された。
「レゾルスがモビルスーツの襲撃を受けただと?」
勧告もなしに攻撃するとは!
と苛立ちの声をあげる男・クラウス・グラード。
そんな彼に声をかけたのは、以前アザディスタンに仕えていたシーリン・バフティヤールだった。
「敵モビルスーツの中には、新型も混じっていたそうよ」
恐らくは、と言いシーリンは言葉を続ける。
「クラウス、奴らは本気よ。プラウドでの救出作戦は延期した方が・・・」
「否、むしろ予定を早めるべきだ。多くの同士の命がかかっている」
彼らを失うわけにはいかない。
そう言うクラウスに、シーリンは少し考えた後「わかったわ」と言った。
「救助部隊に連絡して、作戦の変更を伝えます」
「頼む・・・アロウズめ!」
『我が連邦政府は、反政府勢力撲滅のため政府直属である治安維持部隊の活動を開始します。
治安維持部隊は、連邦保安局との連携を図り、効率的な作戦を・・・』
テレビの音量を下げ、電話を取る。
そうしたのはセルゲイ・スミルノフだった。
『今しがた司令部から独立治安維持部隊への転属要請がありました』
「行くつもりかね?」
『噂のアロウズを目にしておくのもいいでしょう』
「あの部隊には秘密が多い。内情を報告してもらえると助かる」
そこで、セルゲイと一緒に暮らしているソーマがティーセットを手に入ってくる。
『無論そのつもりです。では』
元AEUの戦術予報士のカティ・マネキンとの電話はそこで終わった。
ソーマは紅茶を用意しながら、「マネキン大佐からですか?」と問うた。
「ああ、そうだ」
「どのような用件で?」
そう問うソーマはソファに腰を下ろした。
セルゲイは「そうだな・・・」と呟いて言葉を濁す。
「それより、例の件については考えてもらえたかな?」
話をそらしたセルゲイだが、其方の話題に意識を引かれたのか、ソーマは頬を仄かに赤く染め、「いえ、その、」と呟く。
眉を下げ、頬を赤くしたソーマを優しく見詰め、セルゲイは微笑んだ。
「何、急ぎはしない、ゆっくり考えるといい」
セルゲイの言葉にソーマは嬉しそうにはにかんだ。
あの戦いから4年。
ソーマはずっとセルゲイと一緒に暮らしていた。
初めて会った時は表情も無く、感情の起伏も少なかったが、今ではこんなにも色々な表情を見せてくれるようになった。
セルゲイは我が子を見るように優しい瞳をソーマに向けていた。
所変わって。
コロニープラウド高重力区画で、反政府ゲリラとして囚われた人々は重労働を強いられていた。
監視員のノーマルスーツは高重力仕様なのに対し、作業員は通常のスーツを着せられていた。
その中には、沙慈の姿もあった。
連邦の巡洋艦内では、小太りの男が艦長席に座った。
「プラウドまで距離2300」
「GN粒子の散布、通常濃度維持」
それに艦長席に座った男、アーサー・グッドマンが口を開く。
「ジェジャン中佐、カタロンの機体が見つかったそうだね」
「はっ、斥候部隊が捕捉。トレースを開始しています」
「やっぱりプラウドに向かうのかな。新型オートマトンの状況は?」
「全機、稼動可能状態にあります」
グッドマンはそれに頷き、真っ直ぐに前を見据えた。
「反政府勢力の掃討作戦を開始する!」
『アヘッド第1小隊、出撃準備。アヘッド第1小隊、出撃準備!』
コンテナから次々とアヘッドが頭を出す。
GN−XVも、隊長機のアヘッドに続く。
「アヘッド、オートマトン搭載コンテナ接続完了。各機能異常なし。オールグリーン」
『ジニン大尉』
チェックを行っていたアヘッドに乗っている第1小隊隊長のバラック・ジニン大尉。
ジェジャン中佐に声をかけられ、通信に答える。
『3番機のハレヴィ准尉は初陣だ。戦場の空気を感じさせるだけでいい』
「了解。ジニン小隊出撃する!」
アヘッドとGN−XVが2機。
全3機が出撃をした。
それを見送った後、ところで、とグッドマンが口を開く。
「あれはまだ調整できてないのかね?」
「・・・大分安定はしてきましたが・・・」
ジェジャンの回答にグッドマンは小さく息を吐いた。
顎に手を当てながら「まあ」と呟く。
「ここまで来るのに相当の時間を有したからな」
成功させたいものだ。
そう言いグッドマンは前を見据えた。
ふぅ、ふぅ、と呼吸を繰り返す。
若干苦しげなそれに「もう少し下げるか」という声が響く。
「否、しかし」「こうした方が」「精神安定剤を」という声が飛び交う。
研究者が操作するパネルに囲まれ、中央の寝台に横になりながら、段々と呼吸を荒くする。
「うー、ううう・・・!」
両手足をベルトで拘束されているので、どうする事も出来ない。
空色の瞳を大きく見開き、彼女は音にならない悲鳴をあげた。
「ッ――――――――――・・・!」
「すぐに安定剤を!」
機械により、腕に注射が射される。
ふるり、と体を震わせた彼女が力なく寝台に横になる。
「もう仕方ない・・・強制手段をとるしかない」
「万が一失敗でもしたら!」
「これ以上上層部を待たせる訳にもいかないだろう!」
止むを得まい。
そう言い研究者たちは顔を見合わせた。
虚ろな空色の瞳で、はただ天井を見上げていた。
その頃、コロニープラウドではアロウズと反政府組織カタロンの戦いが始まっていた。
捕らわれていた沙慈は、偶然にもそこに居合わせた刹那・F・セイエイと再会をしていた。
そのまま流れのままに刹那は沙慈を庇いながら進んだ。
そして、自分の愛機、エクシアに乗り込む。
刹那がガンダムに乗っている。
彼はソレスタルビーイングだった。
その事実に打ちひしがれながら、沙慈はエクシアが出て行ったハッチ付近で項垂れていた。
「・・・どうして、君が・・・」
刹那は4年前の戦いで半壊したエクシアで駆けた。
壊れかけのGNソードを振るうが、アヘッドには叶わない。
機体の性能差がここで出ている。
「ロックオンも、俺たちも、こんな世界なんて望んでいない!」
投入されたオートマトン。
対人兵器の其れは、無抵抗な人間に対して無慈悲にも銃口を向けた。
「破壊する・・・ただ破壊する!こんな行いをする貴様たちを、この俺が、駆逐する!」
そう言い刹那が攻撃をしかけるが、アヘッドとGN−XVに追いやられてしまう。
ビームサーベルがエクシアのGNソードと脚部を切断する。
アヘッドが勢いのままエクシアの肩を切り落とした。
背後から、GN−XVがランスを構えて突撃をしてくる。
刹那が舌打ちをした瞬間、粒子ビームが舞った。
ビームがランスを焼き払う。
思わずそちらを見ると、緑色のGN粒子が見えた。
肩の2門に加え、両足にも1門ずつ砲口があった其れは、ビーム攻撃を繰り出した。
巨大なガンダムは背後から回り込んだGN−XVをビームサーベルで撃墜する。
撤退していくアヘッドとGN−XVを追う事はせず、エクシアに通信を入れてきた。
『やはりアロウズの動きを探っていたか。久しぶりだな、刹那・F・セイエイ』
エクシアのモニターに映し出された人物は、
「ティエリア・アーデ!?」
ティエリアからの連絡を受けたプトレマイオス2。
新たなオペレーターのミレイナ・ヴァスティが声を出す。
「アーデさんは、エクシアを発見です!」
「刹那、やっぱりプラウドに・・・」
同じようにパネルを操作していたフェルトが呟く。
「王さんの情報すごいです!」と言いミレイナはフェルトを振り返る。
その際に彼女のツインテールがふわりと揺れた。
そんなミレイナに笑みを向け、フェルトは操舵席に目を向ける。
「彼、きっと驚きますよ。ラッセさんに会ったら」
「そうだろうな」
そう言いラッセは笑った。
ティエリアの誘導により、刹那はプトレマイオス2へエクシアを着艦させた。
格納庫でティエリアと改めて向き合う。
「4年ぶりだ。ずいぶん雰囲気が変わった」
「そう言うお前は何も変わっていないな」
あの頃のままだ。
そう言い改めてティエリアを見る。
成長した刹那は表情も大人びて背も伸びていたが、ティエリアの変化は見られなかった。
ティエリアは笑みを零し、「よく言われる」と言った。
刹那も笑んだ後、改めて先ほどティエリアが乗っていたガンダムを見上げた。
「このガンダムは?」
ソレスタルビーイングなのか?
そう言う刹那にティエリアは「勿論だ」と返す。
「名をセラヴィーという」
勿論別の機体も準備している。
その言葉に刹那が顔を上げた瞬間、
「刹那・F・セイエイ!」
一緒に連れてきた沙慈が声を上げた。
ティエリアと共に、彼を見る。
「君はガンダムに乗っていたのか?」
「・・・沙慈・クロスロード」
刹那が沙慈の名を呼ぶ。
だが、彼は直ぐに「答えてくれ!」と言う。
急かされた刹那は、頷いた。
「・・・それじゃ、5年前から武力介入を?」
「ああ、していた」
肯定をした刹那を、ティエリアは横目で見ていた。
否定して欲しかった事実を肯定され、沙慈は苛立った。
ソレスタルビーイング。
5年前突如現れて、世界をかき乱していった。
ソレスタルビーイングのせいで、ルイスも、姉さんも、
沙慈はそう思い、思わずかっとなって拳を握った。
「分かってるのか!?君たちがやった事で多くの人が死んだんだ!」
君たちがそうしたんだ!
叫ぶ沙慈。
だが、刹那は何も答えなかった。
「君たちのせいで、僕の好きだった人は、傷ついて、家族や親戚を殺されて・・・!
・・・僕の、唯一の肉親だった姉さんも、ソレスタルビーイングに関わったばかりに・・・殺されてしまった!」
沙慈の悲痛な叫びが格納庫内に響く。
「ルイスも!姉さんも!居なくなったんだ!!」
沙慈は声を張るが、刹那は何も答えなかった。
そんな彼に「何とか言えよ!」と言うが、刹那は微動だにしない。
焦れた沙慈が、刹那に掴みかかる。
刹那の銃を奪い、その銃口を刹那に向ける。
これには流石にティエリアも驚く。
「言えよ!」
が、ティエリアは動かなかった。
沙慈の手が震えている事に気付いたからだ。
「返せ・・・!返してくれ!二人を!返してくれよぉぉ!!」
悲痛な叫びを上げる沙慈。
直後、格納庫のドアが開いた。
「さっきからピーピー喧しいったらないな」
無重力の中、真っ直ぐこちらに向かって飛んできた人物は、刹那には見覚えのない者だった。
「とりあえず、銃を下ろせ」
これは、君が持って良い物じゃない。
そう言い真紅の瞳を優しく細めて言った男は、沙慈の前に立って彼の手を下ろした。
沙慈の肩に手をあて、こっちに。
と、男が彼を連れて行く。
去り際にティエリアに目配せをした事に気付き、刹那は口を開く。
「・・・彼は?」
「彼の名はレーゲン。2年ほど前からトレミーのクルーだ」
レーゲン。
と、刹那は口の中で反復する。
医療、整備を得意としているらしい。
ドクターモレノが居なくなってしまい、医療に関する専門的な知識を持つ人物が減ってしまった。
そこでレーゲンが艦に乗る事になったらしい。
「・・・所で、他のマイスターは・・・?」
刹那の問いにティエリアは真紅の瞳を細めた。
視線を逸らし、彼は憂いを帯びた表情で口を開いた。
「・・・僕と、君だけだ・・・」
アレルヤもも居ない。
二人共消息不明だ。
ティエリアの言葉に刹那は「そうか、」とだけ返した。
「珈琲でも飲んで、ほら」
少しは落ち着け。
そう言いレーゲンは沙慈にカップを手渡した。
ノーマルスーツを脱いで楽な格好になった沙慈は、メディカルルームの脇にあるレーゲンの私室に居た。
自分の分の珈琲を飲みながらレーゲンは沙慈からの視線を感じて、目を合わせた。
「ん?どうした、民間人クン」
「・・・確かに、民間人ですけど・・・沙慈・クロスロードです・・・」
うん、沙慈。
そう言いレーゲンはデスクに肘をついた。
「何か聞きたい事があるなら、答えられる限り話せるよ」
にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべるレーゲンに沙慈は小さく頷いた。
ふ、と意識が覚醒した。
両手首に何かが嵌められている。
首にも何かが嵌っている。
これはなに、
首元のそれを引こうとしても、ぴったりとくっ付いている為にどうする事も出来ない。
「おい、出ろ」
いつも食事を持ってきてくれるアロウズの制服を着た人がドアの前に立っている。
は頷いてゆっくりと立ち上がった。
いつの間にか自室に戻されていたらしい。
大人しく従うに男は自分の後ろに居た人物へ口を開いた。
「アンドレイ少尉。彼女が例の人物だ」
アンドレイと呼ばれた背の高い男がを見下ろす。
そこから戸惑いの色を見せたが、直ぐに敬礼をする。
「・・・アンドレイ・スミルノフ少尉だ」
「・・・・ルーシェ少尉、です」
ぴ、と敬礼を返す。
二十歳を過ぎた彼女は背筋を伸ばし、真っ直ぐにアンドレイを見返す。
晴れた空色のような瞳だ、とアンドレイは思いながら彼女を見下ろした。
(少女じゃないか・・・)
そう思っていると、最初に居た男が「任せたぞ」と言い離れていく。
アンドレイは「ハッ」と言い敬礼をして男を見送る。
それから、を見下ろす。
「・・・この後の事を聞いているか?」
「ぜんぜん」
首を軽く振ったに、アンドレイは「歩きながら話そう」と言い歩を進める。
「連邦正規軍のスミルノフ大佐の自宅に共に赴く」
「・・・スミルノフ大佐」
あなたも、スミルノフ。
そう言いたげなの視線から逃れるようにアンドレイは前を向くと、小さく「父だ」と呟いた。
「そこでピーリス中尉を迎えに行く」
「転属、命令?」
「そうだ」
アンドレイはそう言い、エレベーターに乗り込む。
が乗った事を確認してから、扉を閉める。
改めて、アンドレイはを盗み見た。
少々大きめなアロウズの深緑色の軍服を身に纏った彼女。
肩口までの長さの金色の髪はとても柔らかそうだ。
先ほどは幾分かはっきりしていた空色の瞳は、今はどこか虚ろだ。
(薬の副作用だろうか・・・?)
彼女が特別な能力を持っている事は聞いていた。
数日間だけ、彼女の事を見るにあたっての注意もきちんと覚えてきた。
新型のMSを開発しているらしいが、それがどうも巨大型のようだった。
4年前の戦いに使用されたアルヴァトーレのようなものだと聞いた。
それも、特殊な能力を持つ彼女しか扱えない事も。
それまでは他の者と同じように、彼女もGN−XVに搭乗するようだった。
どこに所属していたかは不明だが、彼女は4年前から戦っていたらしい。
人づてで聞いた話だが、上司の話からのものだから本当のものだろう。
その上司から、口止めをされている事も、気懸かりだったが、
そこまで考えたところで、エレベーターが停止する。
目的の階まではまだで、別の人物が入ってきた。
金色の髪の男がエレベーターに入ってきた。
彼は低い声で「失礼」と言うと階のボタンを押した。
そんな男を、が見上げた。
肩の少し下くらいまで伸びた髪は、毛先がくるりと丸まっていた。
くせっ毛かな。と、は見ていた。
その視線に気付いたのか、男がを見やる。
視線がかち合い、お互いに少し瞳を丸くする。
前髪は少々長めで、左目を微かに隠していた。
そこから見える青空色の瞳が少しだけ細められた。
が小首を傾げようとした時、エレベーターが目的の階に着いた。
アンドレイが降りたので、も続く。
不思議そうな彼女を見送った後、男は目的の階で降りた。
格納庫に続く廊下を歩きながら、先ほどエレベータで会った少女を思い出す。
(脳波に異常がある少女、そして特殊な能力を持っている)
間違いなさそうだ。
そう思いながら男は歩く。
『返すのか?』
『ああ。このままじゃ死んでしまう。その後も実験動物みたいに・・・!俺はそんなの・・・!』
『お前は、戻ってくるんだな?』
『当たり前だ!』
『なら急げ。ゲートは俺が開けてやる』
(どんな命でも生きられるのなら生きたいだろう、か・・・)
完全に彼女と自分を重ねていたな、あの頃の俺は。
そう思いながら男は歩を進め、ある一室に入った。
オリキャとかが出ました。
新キャラほいほいです(笑)