「大佐、ピラーの観測所より入電!
大気圏に突入する物体を捕捉、輸送艦クラスの規模だそうです!」
空母のブリッジで報告を聞いたカティは「有り得ん!」と言い焦りの表情を見せた。
「スペースシップごと地上に降りてくる事など・・・!砲撃用意!モビルスーツ隊の発進準備急げ!」
収監所では、ソーマが端末を手にカティからの通信を聞いていた。
「敵襲だ。E57の確保を」とだけ簡潔に言われたソーマは「了解」と返し行動にすぐに移ろうとする。
直後、上空からビームが向かってきて、倉庫に直撃した。
MSのハンガーに命中したようで、ソーマには焦りの色が滲む。
「もう来た!?」と慌てた声を上げるアンドレイに、ソーマは「急げ!」と言い走り出した。
真っ直ぐに降下してきたプトレマイオス2は減速する様子も無い。
ただ真っ直ぐに、降下している。
「減速しないだと!?ま、まさか・・・!?」
カティが気付き、焦りの声を上げる。
プトレマイオス2のブリッジでは、慌しくクルーが動いていた。
「GNフィールド最大展開!」
「トレミー潜水モード!」
GNフィールドを展開し、プトレマイオス2はそのままの勢いのまま、海に突っ込んだ。
物凄い勢いで飛び込んだ為、大きな水柱が立った。
艦内も大きく揺れたが、一室に居るスメラギは瞳を鋭くさせ、モニターをじっと見詰めていた。
プトレマイオス2の衝撃により、津波が起こって島を襲う。
そのまま、地上部隊を飲み込み、大半のMS部隊が消滅した。
上空に舞い上げられた海水が、大粒の雨となって降り注いだ。
プトレマイオス2のブリッジで、フェルトがパネルを操作しながら言う。
『刹那、ティエリア、粒子ビームの拡散時間は約300秒。その間にアレルヤを』
プトレマイオス2とは逆の方向から、ダブルオーとセラヴィーが共に降下してきた。
フェルトの通信に刹那は「了解」と返す。
「3分でやる」
『残りの2分でもうひとりを助けたらどうだ?』
冗談なのか本気なのか。
そう言うティエリアに刹那は捕らわれているであろう彼女を想う。
「・・・マリナ、」
眼前に迫るティエレン部隊を撃破しながら、ダブルオーとセラヴィーは収監所へ突っ込んだ。
収監所の壁を、勢いのままに破壊する。
物凄い衝撃が収監所全体を襲い、アレルヤの下へ急いでいたソーマやアンドレイは衝撃に襲われ、壁に体を打った。
も同じように体を強く打った。
「・・・う、ソレスタル、ビーイング・・・!」
彼らの仕業なのか、彼らの、
は痛む頭を押さえながら、立ち上がった。
MSに乗る予定だったので、彼女はパイロットスーツを身に纏っていた。
メットも被ったままだったので、なんとか大丈夫だったが、
(まさかMSハンガーが真っ先にやられるなんて)
先手を打たれた。
そう思いながらはソーマの下へ向かい、走った。
刹那はダブルオーから降り、収監所の中に侵入した。
空母からGN−XV部隊が出撃する事を、ミレイナが全員に通告する。
『敵モビルスーツ出撃です!』
『ケルディム、砲狙撃戦開始だ!当てなくても良いから牽制しろ!』
ラッセからの通信を聞き、ケルディムの中で待機をしていたロックオンは軽く「了解〜っと」と言い照準機に触れた。
その際に何かを思い立ったように、オレンジハロを見下ろした。
「なぁ、ハロ。兄さんは戦うときに何か言ってたか?」
『ネライウツゼ!ネライウツゼ!』
オレンジハロの言葉を聞き、ロックオンは頷き、「オーライ」と言い照準機を掴みなおす。
そのまま真っ直ぐにGN−XVに狙いを定めた。
「ケルディムガンダム、ロックオン・ストラトス!狙い撃つぜェ!」
ケルディムのGNスナイパーライフルから放たれたビームが、GN−XVを破壊した。
が、敵部隊は怯まずにダブルオーとセラヴィーに迫る。
セラヴィーはダブルオーを守る様に背面に立ち、GNフィールドを展開する。
『ここは死守する!』
梃子でも動かん!
ティエリアはそう叫びながら、レバーを強く握った。
そんなセラヴィーを狙うGN−XVを、離れた位置からケルディムが狙撃する。
真っ直ぐにGN−XVのヘッドユニットに命中し、次々と敵機を撃墜していく。
『タオシタ!タオシタ!』
「まぐれ、まぐれ」
賞賛するオレンジハロにそう返し、ケルディムを上空へ移動させる。
そのまま狙撃を続けるケルディムに、GN−XV部隊は近づけずにいた。
「救出隊は?」
ロックオンがそう呟いた同時刻。
アレルヤの下へ急ぐソーマ、アンドレイの前方で爆発が起きた。
直後、銃撃され、咄嗟にソーマとアンドレイは物陰に身を隠したが、数名の部下が犠牲となった。
「カタロンか?」
「此処は自分が!中尉はE57の確保を!」
そう言い銃を出すアンドレイ。
ソーマは短く「頼む」と言い駆け出した。
数名の部下がソーマに続き、現状を報告する。
伝えられたそれに、ソーマは瞳を見開いた。
「何!?カタロンが囚人たちを解放しているだと!?」
この混乱に乗じたのか、カタロンが囚人を解放しているらしかった。
これは偶然なのか、それとも、
「ソレスタルビーイングと結託したというのか?」
そうソーマが呟いた瞬間、また銃撃をされる。
物陰に素早く身を隠したソーマ。
が、その銃撃も存外直ぐに止んだ。
物陰から顔を出してみると、パイロットスーツを身に纏ったがそこに居た。
「!お前、MSに乗るんじゃ・・・、」
「破壊された。だからソーマの援護に来た」
そう言いはソーマの横に立った。
致し方ない。
そう思いながら、ソーマはを連れてアレルヤの下を目指した。
先ほどから大きく揺れる建物。
一体何が起きているのか。
そうアレルヤが思っていると、突然前のドアが開けられた。
鍵で厳重に閉ざされた部屋のドアは、爆発音と共に崩れ落ちた。
突然の衝撃と、入ってきた光にアレルヤは思わず瞳を細める。
その後、人影が見えた。
彼はそのまま銃口を真っ直ぐにアレルヤに向け、数発発砲した。
手枷と足枷がはずれ、アレルヤが自由になる。
猿轡は自力で外し、彼はゆっくりと立ち上がった。
そのまま、自分を助けてくれた人物を改めて見て、金と銀の瞳を細めた。
「刹那、どうして・・・?」
此処に?
そう言うアレルヤに、刹那は端末を放った。
反射的に其れを受け取ったアレルヤは、それをまじまじと見詰める。
「そのポイントに行け、アリオスが来る」
そう言い踵を返す刹那。
「アリオス?」と尋ねるアレルヤに、刹那は一言だけ告げた。
「お前のガンダムだ」
そう言い、刹那は駆け出した。
アレルヤも端末を開き、データに目を通した。
刹那から報告を受け、ティエリアはプトレマイオス2に報告をする。
『アレルヤを発見した!・・・ぐっ!』
敵の集中砲火に晒されながらも、アリオスを!とティエリアが言う。
それに反応するように、海面からプトレマイオス2が浮上した。
『ばっちりです!アリオス、射出です!』
左舷のカタパルトデッキからアリオスが射出された。
『トレミー、再潜航』
ラッセの声と共に、プトレマイオス2が再び着水する。
『GNミサイルで牽制しつつ、合流ポイントに移動する』
「残り、120秒・・・」
一室でそう呟き、スメラギは、ぐ、と強く唇を噛んだ。
アレルヤは刹那から貰った端末にあった指定ポイントへ向かっていた。
そこへ辿り着くまでに、多くの囚人が逃げているのを見てきた。
(囚人たちを逃がしてる・・・刹那たちの仕業じゃない、彼らは一体?)
そう思いながらも、指定されたポイントへ辿り着く。
「ここが指定ポイント」とアレルヤが呟いた瞬間、真横の壁が物凄い勢いで破壊された。
再度建物を襲う衝撃。
顔の前で腕を交差させていたアレルヤが、うっすらと目を開けると、
「・・・これは、」
アリオスが建物を突き破って、そこには居た。
キュリオスの様な色合いのそれが、自分に与えられた機体だと直ぐにアレルヤは理解した。
「・・・ガンダム」
これがアリオス。
そう思った時、アリオスの首下のハッチが開く。
アレルヤがそちらに走ろうとした瞬間、
「止まれ!」
アリオスに乗り込もうとしたアレルヤを止めたのは、ソーマだった。
彼女は数人の部下と共に、アレルヤに向けて銃を向けていた。
「そこまでだ被験体E57!」
ソーマと同じように、も銃口を真っ直ぐにアレルヤに向けた。
マリナは狭い一室で、不安げに視線を彷徨わせていた。
先ほどから物凄い衝撃が建物を襲っている。
そして、聞こえる外の騒動。
「外で戦闘が行われているの・・・?」
どうして、と思わず呟くマリナ。
直後に、ドア越しに声が響いた。
「聞こえるか!?」
突然の事にマリナは思わず肩を跳ねさせる。
直後、「ドアから離れろ!」という声が響く。
「え、」と思わず声を漏らしたマリナ。
再度強い声色で「離れろ!」と言われたので、マリナは大人しく従う事にした。
直後、ドアが爆破された。
爆風に、思わずマリナが顔を手で覆い、膝を折る。
煙の中、真っ直ぐに室内に入り、彼女に手を差し出した人物は、
「行くぞ」
「! 刹那!?」
刹那はマリナの手を取って駆け出した。
『残り30秒を切った!』
ティエリアの声が、先ほど刹那から貰った端末から響く。
だが、アレルヤには今はそれよりも、眼前に居る存在が気にかかっていた。
「マリー・・・!」
思わずソーマに一歩近付くと、彼女は「動くな!」と言い照準をアレルヤに定める。
「マリー!」と直も自分を呼ぶアレルヤに、ソーマは苛立つ。
「私はそんな名前ではない!」
「・・・いいや、これが君の本当の名前なんだ」
アレルヤは銀と金の瞳を細め、真っ直ぐにソーマを見詰めた。
「マリー・・・マリー・パーファシー」
アレルヤの放った言葉。
それが何故だか、ソーマの中に不思議なくらい自然に落ちて行った。
「・・・マリー・・・パーファシー?」
訝しげに瞳を細め、ソーマは訳の分からない感覚に見舞われた。
目の前に立つ、囚人服を身に纏った男が、誰かと重なる。
((マリー・・・マリー・・・))
「!!!!!!」
脳裏に一瞬、幼い少年が映った。
ソーマはビクリと肩を震わせ、その手から銃を落とした。
頭を押さえ、その場で彼女は膝をついた。
「何だ・・・今のビジョンは?」
膝をついたソーマに思わずアレルヤは駆け寄ろうとする。
が、彼の足元に銃弾が放たれた。
それでもなお、アレルヤは「マリー!」と彼女を呼ぶ。
メット越しに瞳を細め、は痛む頭を押さえながら、再度彼に銃を放った。
「投降しろE57!」
アンドレイも続いて銃を撃つ。
彼にそれを任せて、は膝をついたソーマを支える。
数人に一斉に射撃をされ、アレルヤは柱の影に隠れた。
『刹那、アレルヤ、限界時間だ』
『了解』
端末からティエリアと刹那の声が聞こえる。
アレルヤはその言葉を聞き、悔しげに瞳を細めた。
「くそっ・・・!すぐそこにマリーが居るのに・・・!」
痛むのか、頭を抑える彼女は傍に居る人物に支えられている。
応答しないアレルヤに不安を感じたのか、ティエリアが再度声をかける。
『アレルヤ?・・・どうした、アレルヤ!』
アレルヤ!
ティエリアがそう強く彼の名を呼んだ直後、アレルヤは苦々しげに「了解」と端末に向けて言った。
そして、柱の影から駆け出し、銃弾を避けながらアリオスのハッチに滑り込んだ。
アリオスを起動させながら、アレルヤは決意をする。
「マリー、必ず迎えに来るから・・・必ず!」
マリーを、必ず。
それだけを想い、アレルヤはアリオスを発進させた。
アリオスが飛翔し、ダブルオーとセラヴィーもそれに続いた。
GNビームサブマシンガンを放ちながら、GN−XVを牽制する。
迫ってきたGN−XVは、ビームサーベルで切り裂いた。
アリオスにダブルオーとセラヴィーも続き、3機のガンダムは離脱した。
『ガンダム離脱、撤退行動を開始しました!』
フェルトの報告に、スメラギは安堵の息を大きく吐いた。
「う、うう・・・」
は頭を抱え、人気の無い所でうずくまっていた。
先ほどまでソーマに付き添っていたが、彼女が安定し、仮眠を取った後、抜け出してきた。
先の戦闘の中で、ガンダムが突撃してきた所に、は来ていた。
両手で頭を押さえつつ、はぎゅうと瞳を強く閉じた。
「うう・・・い、痛い・・・痛い・・・!!」
苦しい、痛い、あたまが、
「・・・どうして、だろ」
うっすらと開かれた彼女の瞳は、涙のせいで揺らめいた。
「胸が、痛い・・・!」
震える声でそう零し、は両手で顔を覆った。
プトレマイオス2の中で、アレルヤは腰を下ろしていた。
そんな彼に、ティエリアがカップを差し出す。
「ありがとう、ティエリア」と言いアレルヤはそれを受け取った。
「アレルヤ、どうして連邦政府に捕まっていた?超人機関の情報を・・・、」
ティエリアがアレルヤに質問をしようとしたところで、ドアがスライドした。
そのまま「いやいや、凄いなこの船は」と言いながら入ってきたのは、ロックオンだった。
彼の姿を見たアレルヤは、驚きの表情を見せる。
思わず硬直した彼を目にも留めず、ロックオンは言葉を続ける。
「水中航行すら可能とは」
「ロ、ロックオン!?どうして!?」
思わず立ち上がって言うアレルヤに、やっとロックオンも彼を見る。
瞳を見開き、口を開閉する彼に、ロックオンはふっと笑って肩を竦めた。
「そのリアクション飽きたよ」
ロックオンの言葉に、アレルヤは「え」と小さく呟いた。
ティエリアを見ると、簡単に「双子の弟だそうだ」と説明してくれた。
アレルヤは「す、すまない!」とロックオンに謝罪をし、一人だけ慌てた事が恥ずかしかったのか、静かに腰を下ろした。
そんなアレルヤに、ティエリアは柔らかい笑みを向ける。
「変わらないな、君は」
「そうかい?」
「無理に変わる必要はないさ。お帰り、アレルヤ」
微笑むティエリアに、アレルヤも笑みを返した。
そして頷き、「ただいま」と彼も返した。
少しの間の後、「ところで、」とアレルヤが言う。
「マイスターは、4人だけかい・・・?」
「僕と刹那とロックオン。そして君だけだ」
今は、と言うティエリアにアレルヤは「そう、」と言い微かに表情を曇らせた。
『二人と一緒に、私も行くから』
そう言って微笑んだ彼女。
自分を、ハレルヤも共に大切に想ってくれた彼女。
その彼女が居ないという。
アレルヤは「、」と小さく呟くとそっと瞳を伏せた。
彼女が行方不明だという知らせを聞いて、心配しないはずが無かった。
だが、今は目前の事を解決する。
マリーを救い出す。
は、その後にきちんと探し出そう。
アレルヤは今はそう考え、小さく息を吐いた。
MSのハンガーで、刹那はダブルオーから降りていた。
次に、マリナが降りやすいように手を差し出す。
彼女が無事に足をつけたのを見て、口を開いた。
「俺が関わったせいで、余計な面倒に巻き込んでしまった。すまない、マリナ」
「刹那、何故なの?
何故、貴方はまた戦おうとしているの?」
「それしかできないからだ」
そう言う刹那にマリナは「嘘よ!」と言い悲しげに瞳を揺らした。
「戦いの無い生き方なんて、いくらでもあるじゃない!」
「・・・それが、思いつかない」
深紅色の瞳を微かに揺らし、そう言った刹那。
彼の一言が、マリナの胸に突き刺さった。
戦いの無い生き方が、刹那には考えられない。
分からないのだと、彼は言ったのだ。
「だから俺の願いは、戦いでしか叶えられない」
固まったマリナの心情に気付かず、そう言う刹那。
俯いていた彼女は、「そんなの、」と呟いて声を震わせた。
胸の前で両手を強く握り、彼女は何かに耐えるように、はらりと涙を流した。
「・・・そんなの、悲しすぎるわ・・・」
マリナの涙が、無重力の中で舞う。
電光を受けて光輝くそれはとても美しく、どこかマリナを神秘的にみせた。
泣き出したマリナに、戸惑いの表情を見せ、刹那は「何故、泣く?」と問うた。
「貴方が、泣かないからよ・・・」
そう言いマリナは悲しげに瞳を伏せた。
すれ違う二人。
そしてマリナは相変わらず優しい。