プトレマイオス2は、海中を進んでいた。
進路はアザディスタン。
マリナを送り届ける為に、進んでいる。

そんな中、沙慈はイアンの整備を手伝っていた。
独房から彼を呼び出して連れ出した人物、レーゲンも一緒に手伝いをしていた。


「あの、良いんですか?こんな秘密事項、僕に見せちゃって」

「人手が足りないんだ。宇宙技師の2種免持ってるんだろ?」


仰向けになりながら、機材の下に入り込み整備をするイアン。
その後に手を出され、沙慈はその手に工具を渡しながら「まあ、」と答える。


「働かざる者、食うべからずってやつじゃないのか?」


別の場所でカレルに指示を出していたレーゲンも口を挟む。
そういうこった、と言うイアン。
沙慈は「分かりましたよ」と言い、言葉を濁す。
名前が分からないであろう彼に、イアンは自己紹介をした。


「イアンだ。イアン・ヴァスティ」

「・・・イアンさん、貴方はどうしてここに居るんですか?」

「嫌というほど戦場を見てきて、戦場を無くしたいと思ったからだ」


作業する手を止めず、イアンは言葉を続けた。


「ここに居る連中も同じだ。戦場の最前線に送られた者、軍に体を改造された者、
 家族をテロで失った者、ゲリラに仕立て上げられた者・・・。
 みんな戦争で大切なものを失っている。世界にはそういう現実があるんだ」


イアンの言葉に、沙慈は「でも、」と言葉を続ける。
「そうさ、」と言いイアンが体を起こす。


「わしらは犯罪者だ。罰は受ける・・・戦争をなくしてからな」


そう言うイアンにレーゲンも瞳を伏せた。
沙慈は複雑な表情をしながら、言葉を噤んだ。





アレルヤはスメラギの私室に入った後、彼女のグラスにワインを注いでいた。
そのまま、彼女にソーマとマリーについてを話した。


「ソーマ・ピーリス・・・確か、人革の超兵だったわね」


スメラギはそう言いながら、ワインの入ったグラスを揺らした。
アレルヤは自分のグラスに入ったワインを見詰めながら、銀と金の瞳を揺らした。


「どうして気づかなかったんでしょうね・・・。
 僕の脳量子波にあれだけの介入ができるのは、マリーしか居なかったのに」


そう言い、アレルヤは悲しげに笑みをこぼした。


「国連軍に捕まった時、僕は罪を償う時がきたのだと感じました。
 あのまま朽ち果てても良いとさえ、思いました・・・」


最終決戦の最中、を庇ってキュリオスは大破した。
そのまま国連軍に捕らわれた後は、本当にアレルヤはどうなっても良いと思っていた。

しかし、の事が、気懸かりでもあった。

もし、叶うのであれば、彼女が無事であるように。
そう思いながらアレルヤは4年間、独房に居た。


「でも、今は違います。僕はマリーを取り戻したい」


真っ直ぐなアレルヤの視線を受け、スメラギは微かに瞳を細めた。
「相手は敵よ?」と言うスメラギにアレルヤは「分かっています」と返した。


「それに、貴方は、超人機関の施設を・・・、」

「・・・はい。僕は同胞たちを殺しました。マリーがそれを知ったら僕の事を憎むでしょうね・・・」


そう言いアレルヤは自嘲的に笑みを零した。
に支えられ、ハレルヤに叱咤されながらも、引き金を引いたのは自分自身だ。
それは変えられない事実だった。


「僕はそれだけの事をした。でも、たとえ憎まれてるとしても・・・!」


マリーを助けたい。
アレルヤの瞳は、強い意志を含んでいた。

そんな彼に、スメラギは瞳を細め、「は、」と零す。


「あの娘は、どうするの・・・?」


端から見たら完璧に想い合っていた彼ら。
マリーという少女を思い出したアレルヤの気持ちは、一体どこにあるのだろうか。

スメラギはそう思いながら、彼に問うた。

思いのほかアレルヤは笑みを零し、口を開く。


に向ける気持ちは特別です。本当は、今でも彼女の事が気懸かりでしょうがない・・・」


怪我をしていないだろうか、元気だろうか、無事だっただろうか。
正直、不安は尽きないとアレルヤは言った。


「でも、今は目の前の事・・・マリーの事を考えなくちゃいけないんです」


マリーを助ける。
も、探したい。

アレルヤの瞳は鋭さを含んでいた。
それに気付いたスメラギは、小さく笑みを零して「羨ましいわ」と言った。
「え?」と短く声をあげるアレルヤに、スメラギは言葉を続ける。


「貴方には、戦う理由が出来たのね。私の戦いにそんな理由があったかしら・・・」

「イオリアの計画に賛同して参加したんじゃないんですか?」


勿論してたわ。
スメラギはそう言い言葉を続けた。


「争いを無くしたいとも思った。
 でもね、それとは別に私は、自分の忌まわしい過去を払拭しようと思ったの」


忌まわしい過去、
アレルヤが呟く。
「その思いだけで戦ったわ」とスメラギは自嘲的な笑みを零す。


「そうよ、私は自分のエゴで、多くの命を犠牲にしたのよ・・・!」

「スメラギさん・・・」

「でも私は、過去を払拭出来なかった・・・。今の私には、戦う理由が無いの・・・ここにいる理由も」


そう言い俯く彼女に、アレルヤはゆっくりと首を振った。


「貴女がここにいる理由はあると、僕は思います」

「そんなの・・・、」

「だったらどうして僕を助けてくれたんですか?」


アレルヤの言葉に、スメラギは瞳を丸くした。
そんな彼女に柔らかい笑みを向け、アレルヤは瞳を揺らす彼女の肩に手を置いた。

疲れが溜まっていたのか、気を張っていたのか、スメラギは直ぐに瞳を伏せて、眠りに落ちた。
彼女を寝台に横たわらせる。


「戦う意味、見つけられますよ。貴女になら・・・」


そう言い、部屋から出た。

そのまま格納庫にあるアリオスガンダムを見上げた。


「アリオスガンダム・・・キュリオスの後継機。
 この機体で・・・ガンダムで、僕はマリーを取り戻す。
 ハレルヤが逝き、脳量子波が使えないとしても・・・!」


そして、
そう呟き、アレルヤは今はここには居ない愛しい彼女を想う。


が居なくても、僕の力で・・・」


マリーを救い出す。
そう決意を新たにし、アレルヤは意思の篭った瞳でアリオスを見上げた。










、と名を呼ばれて振り返る。
そこには仮面と陣羽織が印象的な男、ミスターブシドーが立っていた。
ブシドーを見上げ、は濁った空色の瞳を向けた。

それにブシドーは瞳を細めた。

慌しく格納庫内で整備士が走り回る。
そんな中、ブシドーはの頬に手を添えた。


「・・・私を許して欲しい」

「・・・なにを?」


小首を傾げる
しかし、ブシドーはそれだけを言うと自らのアヘッドに向かっていった。
疑問に思いながらも自分に与えられたGN−XVへ向かった。

ハッチを開き、コクピットに身を滑らせる。

どうしてだろうか、初めてのはずなのに、慣れた感覚。
操作をし、各部をチェックする。


「・・・異常、無し」


そう呟いた直後、GN−XVが起動する。
次々と出撃していく機体を横目で見ながら、は自分の体が震えている事に気付いた。
あれ、と言い自身の掌を見下ろす。

小刻みに震えるそれに、小首を傾げる。

なんで震える?


「・・・あ、そうだ」


怖いんだ、戦い。

そう呟き、は己の体を抱き締めるように腕を回した。










目を覚ましたスメラギは、5年前に撮ったソレスタルビーイングの写真を手に取っていた。
これはメンバーが集まった後、記念にと撮ったものである。
確かクリスティナが立案をした。

刹那とティエリアが未だ無表情で佇む様子に、スメラギは微かに目元を和らげた。


「ロックオン・・・クリス・・・リヒティ・・・モレノさん・・・」


4年前の戦いで亡くした仲間たちの名を呼ぶ。


「もう一度、私に出来るかしら?
 世界と向き合う事が・・・そして、大切な人を守る事が・・・」


エミリオ、
過去に自分の戦術ミスのせいで失ってしまった恋人の名を呟き、スメラギは瞳を伏せた。
その時、艦内放送がかかる。


『トレミー、まもなくホルムズ海峡を抜けるです!』


その声に反応するように、スメラギが窓の外に目をやる。
そこで違和感に気付き、眉を潜めた。


「・・・周辺が静か過ぎる。魚たちの姿もこの深度で・・・」


そこまで言ったところで、ある事が思い当たり、スメラギが「あ!」と声を上げる。

深度の割りには魚の数も少なく、静かすぎた。
敵が近付いてきている、それを瞬時に理解した。





ブリッジでは、センサーの反応を報告するミレイナの声が響いていた。


「インソナーに反応!6つの敵が高速で接近してくるです!」

「そりゃ魚雷だ!フェルト!」

「GNフィールド最大展開!」


ラッセが声を張った瞬間、フェルトがGNフィールドを展開させる。
直後、迫っていた魚雷がプトレマイオス2に直撃する。
魚雷には重化合物が仕込まれており、GNフィールドを突き破ったのだ。





整備をしている沙慈とイアン、レーゲンが突然の振動に驚きの声を上げる。


「うわっ!何だ!?」

「敵襲!?」

「アロウズか!!」


レーゲンたちは声を上げながらも、各々何かに掴まった。


『魚雷の中に重化合物が!』

『ソナーを無効化されたです!』

『この深度で動ける敵だと!?』



ミレイナ、フェルト、ラッセの順で艦内に声が響く。
ソナーが無効化された事により、此方の目が潰れた。
部屋から出て移動をしようとしていたスメラギは「新型?」と呟いた。

展望室から出た刹那は駆け出した。
中に居るマリナに「船の中央に行け!」と声を張って言い去った。
そんな彼の背にマリナは「刹那!」と声をかける。


『第2波来ます!』

『大型魚雷が2発です!』

『GNフィールド、突破されたです!』

『新兵器か!』



ラッセが舵をきるが、プトレマイオス2の右舷に大型魚雷が直撃した。
すぐにフェルトが被害状況を確認する。


『下部コンテナに浸水!』


右舷第2格納庫に収納されていたケルディムとセラヴィー。
そこに浸水していた。
ロックオンとティエリアは直ぐに機体の下へ駆ける。


「ガンダムを発進させようにも、この深度では・・・!」


ティエリアがそう言いつつも、セラヴィーのコクピットに飛び移った。
浮上をしなければ、ガンダムを出撃させる事が出来ない。


『トレミーを浮上させる!ガンダムを出せる深度へ!』


ラッセの声が響く。
が、直後またプトレマイオス2の艦体が大きく揺れた。


「海上からの爆雷・・・恐らく使用しているのは、ケミカル・ボム!」


移動をしながらスメラギがそう言う。
彼女の予想通り、ケミカル・ボムが爆発し、プトレマイオス2の艦体に樹脂が絡みついた。
機体を樹脂が多い、砲門を塞ぐ。


「船体を覆った樹脂で、砲門が開きません!」

「操舵もな!くそっ、敵はどこだ!?」

「Eソナー、使用不可です!」


ブリッジには焦りの声が響く。
ミレイナとフェルトの言葉に、ラッセは悔しげに瞳を細めた。


「打つ手無しかよ!」


くそ!!
と、ラッセが操舵幹を強く握った。
直後、


「落ち着いて」


凛とした声が、ブリッジに響いた。
ミレイナとフェルトが思わず振り返る。
そこにはスメラギが立っていて、鋭い瞳で前方を見据えていた。


「手はあるわよ」


そう言うスメラギに、フェルトが嬉しそうに「スメラギさん!」と彼女の名を呼ぶ。


「もうすぐ爆雷が止む」


彼女の言う通り、爆雷が止んだ。
それにラッセが「お、」と声を上げ、ミレイナも瞳を丸くした。


「そして、海中の敵がこちらに接近し直接攻撃を仕掛けて来る」


スメラギが言った直後、前方からトリロバイトがアームの先端にある鋭い武器を展開させた。
そのまま突撃してきたそれは、プトレマイオス2の左舷に直撃し、穴をあけた。


「敵が、船体左舷に突撃しました!」


被害甚大!
そう告げるフェルト。
そのまま通路にも浸水し、隔壁を下ろす。


「このままでは、圧壊する恐れも!」


焦りの声を上げるフェルト。
ミレイナとラッセの顔にも緊張が走る。

が、それとは裏腹に、スメラギは口の端を吊り上げた。


「ラッキ−ね、私たちは」


スメラギの言葉にラッセが「何を!?」と声を上げる。
フェルトとミレイナも驚愕の表情をみせる。


「索敵不能の敵がそこに居て、トレミーはガンダム出撃可能深度まで到達している」


しかも敵は、下部コンテナの注水時間まで短縮してくれたわ。
そう言いスメラギが笑みを浮かべ、指示を出す。

セラヴィーが先ず出撃し、船体に取り付いているトリロバイトに掴みかかった。
そのままトランザムを使い、トリロバイトを押し出した。
プトレマイオス2から引き離し、戦闘を開始する。
ケルディムも出撃し、トリロバイトに狙いを定める。


「水中でもこんだけ近けりゃ・・・!」


ロックオンがセラヴィーがトリロバイトに弾き飛ばされた後、ビーム攻撃を放つ。
狙撃により、プトレマイオス2から離れざるを得なくなる。
距離を取られたら、また大型魚雷攻撃が来る。

右舷から出撃をしたダブルオーが直ぐにトリロバイトに接近し、GNソードを両手に構えた。


「ダブルオー、目標を・・・!」





「私と一緒にアザディスタンに来ない?」





自分の境遇を嘆き、平和への道へ手を差し伸べてくれたマリナ。
その言葉が、今正に敵を撃とうとしている刹那の脳裏を過ぎった。

が、刹那はそれを振り払うように首を振った。


「目標を、駆逐する!」


トリロバイトの片方のアームを切断し、真正面からGNソードを突き刺した。
そのまま両手を巧みに使い、トリロバイトを破壊した。

次に、アリオスが飛行形態の状態で出撃した。
アレルヤは刹那に通信を入れつつ、ダブルオーに接近する。


『刹那、海上へ出る!』

「了解!」


ダブルオーはアリオスに掴まる。
それを確認した後、アレルヤはトランザムシステムを起動させた。


『トランザム!』


一気に加速し、海上へ飛び出た。
飛び出た後にアリオスから離れたダブルオーは、勢いのままに敵戦艦のブリッジを狙った。

そのダブルオーに、真横から角の様なものをつけたアヘッドが突っ込んだ。
押されたダブルオーは、GNソードでビームサーベルを受け止めた。


「アロウズの新型!この動き、手強い奴か!」


隙が全く無い。
動けない刹那を援護しようとアレルヤが動こうとするが、ビーム攻撃が彼の行く手を阻んだ。
よくよく見ると、GN−XVがビームライフルをアリオスに向けていた。
不意をつかれたアリオスに、ビーム攻撃が当たる。

アレルヤは揺れる機体の中で短く声を上げる。


「機体のせいじゃない、僕の能力が・・・!」


低下しているのか・・・!
アレルヤが思わずそう呟く。
直後、GN−XVはランスを構えてアリオスに突撃してきた。


「来る!」


アリオスで反撃しようとするが、GN−XVには隙が見受けられなかった。
アレルヤは「手馴れ!?」と声を上げた瞬間、二機の間にビームが過ぎった。

両機は動きを止め、GN−XVは防御体勢を取りながら後退をした。

離れていく敵機に息を吐きながら、援護をしてくれた機体が居る方向を見た。





は舌打ちをしながら、GNランスを構えた。


「こいつら・・・邪魔をしてぇ!!!


恐らくカタロンの部隊と思われるそれをは破壊した。
荒い息を吐き、は肩を震わせた。


「・・・ガンダム・・・ガンダムが、私を殺す!!」


記憶の底から出てくる、言葉。
瞳を閉じると、ガンダムが武器を構えて迫ってくる映像が脳裏を過ぎる。


「そんなの、嫌あああああああああぁぁぁ!!!


首を振り、頭を抑えるのGN−XVに、カタロンの部隊はビームライフルを放つ。

ブシドーはアヘッドサキガケでそれらを破壊し、を援護した。


「反政府組織が!私の道を阻むな!」

『撤退して態勢を立て直す!』


通信のカティの声を聞き、ブシドーは「何!?」と声を上げる。
が、ガンダムも撤退した事を見、口の端を吊り上げた。


「手合わせを拒まれたか・・・」


戻るぞ、
そう言いながらブシドーはGN−XVの手を引いた。



艦に戻ったに、ソーマが駆け寄った。
先にコクピット内で薬を服用していた為、は幾分か落ち着いた様子でソーマを受け入れた。


「E57に攻撃をしかけるなんて・・・!」


無茶が過ぎる!
そう言いの身を案じるソーマ。

下手に触れ合って、の記憶が蘇ってしまったら、

そう思うと、ソーマはぞっとした。

彼女が離れていってしまう。
それに、上層部に、また体を弄られ、彼女は苦しむ。

唇を噛んだソーマ。
強く握った拳を、の柔らかい手が包んだ。

顔を上げたソーマを、相変わらず無表情だったが、が柔らかい雰囲気で見詰めていた。


「・・・大丈夫。無事」

「・・・そう、か」


ソーマはそう言い、肩の力を抜いた。










プトレマイオス2のブリッジのドアが開き、スメラギが一歩足を踏み出した。
最初にアレルヤが「スメラギさん」と彼女の名を呼ぶ。

直後、トレミークルーの面々が瞳を丸くした。
イアンは「おっ」と嬉しそうな声をあげる。

以前フェルトが渡したソレスタルビーイングの制服。
彼女専用の其れを身にまとっているのだが、


「サイズ、合わないみたい・・・きつくて・・・、」


そう言い、スメラギは恥ずかしそうに視線をさまよわせた。
見ると、腰元が露出している。
明らかに寸足らずだ。

フェルトは慌てた様子で「すぐに他のを用意します!」と言いブリッジから出て行った。


「わしはそのままがいいなぁ」

「セクハラです!パパ!」

「それが男の性ってやつだよ」


仕方ないね。
レーゲンはヴァスティ親子にそう言い笑みを零した。


「スメラギ・李・ノリエガ」


刹那はそう言いスメラギに一歩近づく。
彼の表情は、幾分穏やかなもので、笑みも浮かべられていた。
スメラギも、彼を見詰め返し、照れくさそうに笑みを返した。




気付かない内に交戦。
ここのスメラギさんは、いいものだ・・・!