アブアルハリ砂漠上空を、ケルディム、アリオス、小型艇が飛んでいた。
小型艇にはティエリアと刹那が操縦席、助手席に腰を下ろしていた。
「こんな場所に・・・よくアロウズに見つからないものだ」
『連邦は、非加盟国の多い中東全域にGN粒子を撒いている。建て前では、テロ組織の情報網を遮断する為らしいが』
ティエリアの言葉に反応したのは、ロックオンだった。
通信で彼の言葉に、各マイスターが耳を傾ける。
『実際は、中東国家の経済活動を麻痺させるのが目的だ。連邦の政策に従わない国は痛い目を見るって事さ』
最も、GN粒子のおかげでカタロンの施設も発見されないでいるが』
「詳しいな」
ティエリアがそう零すと、ロックオンは「そうかい?」と言った。
『常識の範疇だよ』
謙遜か、誤魔化しか。
ロックオンがそう言った後に、全機に通信が入った。
カタロンからの通信だった。
『聞こえるか?そちらの機体を確認した。ハッチを開ける』
「了解」
刹那が答え、カタロンのアジトへ向けて小型艇を動かした。
カタロンのアジトに入り、ガンダムを着地させる。
小型艇も無事に着陸をした。
ソレスタルビーイングの周りに、カタロンの構成員たちが集まってくる。
「これがガンダム!」
「ああ、アザディスタンを救った英雄の機体だ!」
「よく来てくれた!ソレスタルビーイング!」
「歓迎するよ!」
各々が歓迎の声を上げる。
そんな中、パイロットスーツを身に纏った4人のマイスターが降り立つ。
バイザーにシェイドをかけている為、顔は見えないようにしている。
「顔は見せてくれないのか?」
そう言うカタロンの構成員にロックオンが反応した。
「悪かった」と言って解除をしようとする彼の肩を、ティエリアが掴んだ。
「我々には秘匿義務が」
「硬い事言うなよ。助太刀してもらっただろ?」
そう言い、ロックオンはメットを取った。
そんな彼に押され、ティエリアは「う、」と声を漏らす。
メットは外さず、シェイドを解除する。
ティエリアと刹那に続き、アレルヤもそうしながら辺りを見ていた。
(反政府組織・・・カタロン)
ここが、そのアジト。
そう思いながら、アレルヤは金と銀の瞳を細めた。
「会談に応じてくれて感謝する。カタロン中東支部、クラウス・グラードです」
会議室の中に、カタロン側の人間とソレスタルビーイングの人間が集まる。
スメラギと刹那、そして彼に連れてこられたマリナと沙慈もそこに居た。
「ソレスタルビーイングです・・・自己紹介は・・・、」
そう言うスメラギに、クラウスは「事情は承知しています」と言い笑む。
そんな彼の隣に立つシーリンが、口を開いた。
「マリナ姫を助けて下さって感謝しますわ。以後は、我々が責任を持って保護させてもらいます」
シーリン、とマリナが彼女の名を呼ぶ。
いささか不服そうなマリナに、「ソレスタルビーイングに居たいの?」とシーリンが言う。
「貴女こそ、反政府組織に、」
「いけない事?」
毅然とした様子で返すシーリンにマリナは口を噤む。
そんな彼女を横目で見ていた刹那だが、クラウスを見て口を開いた。
「もうひとり、保護を頼みたい」
沙慈・クロスロード。
彼の名を呼び、沙慈に視線を投げる。
突然の事に彼は「え」と短く声を上げる。
「民間人だ。謂われなく、アロウズからカタロン構成員の疑いをかけられている」
「それは気の毒なことをした・・・。責任を持って保護させて頂こう」
自分の事なのに、転々と進む事態に沙慈が「ちょっと!」と声を上げる。
「勝手に・・・!」
「そうするのが一番よ」
スメラギも同意の言葉をかけた。
その時、扉が開いて子どもたちが駆け込んできた。
「ねぇねぇ、何してるの?」
へへ、と笑みを零す子どもたちを、カタロン側の男が諌めた。
「こらこら」と言い子どもたちの肩に手を添える。
「勝手に入ってきたらだめだろ?」
「子どもが・・・、」
刹那が呟く。
そこで、過去の記憶が蘇った。
(・・・まさか・・・!?)
幼い頃から、戦いに身を置かせ、自分と同じように、
「カタロンの構成員として育てているのか?」
昔の自分のように。
深紅色の瞳を細める刹那に、クラウスとシーリンは瞳を大きくする。
が、シーリンが「勘違いしないで」と声を張った。
「身寄りのない子どもたちを保護しているだけよ」
シーリンの言葉に、刹那は肩を下ろした。
「連邦が行った一方的な中東政策、その実害はこのような形でも表れている・・・」
「最も、資金が限られていて、すべての子どもたちを受け入れるわけにはいかないが・・・」
そう言いながら、二人も子どもたちを見下ろす。
きょろきょろと辺りを見渡していた子どもが、ある人物に目を留めて目を輝かせた。
「あっ!マリナ様だ!」
子どもたちがマリナに駆け寄った。
ね、と言い子どものひとりがマリナの手を取る。
「マリナ・イスマイール様でしょ?」
「ええ」
「あたしも知ってる!」
「凄い!ほんとにマリナ様だ!」
マリナの周りが一気に明るくなった。
自然と口元に笑みを浮かべるマリナに、シーリンが少しだけ息を吐く。
「マリナ様、子どもたちの相手をして頂けるかしら?」
シーリンの言葉にマリナは「ええ」と言い子どもたちの手を引かれて出て行った。
「こっち!」「あたしも!」という子どもたちの元気な声が響く。
それを聞きながら、シーリンが口を開く。
「さすがシンボルといったところね」
「そろそろ本題に入りたいのだが。我々カタロンは、現連邦政権打倒の為・・・、」
クラウスがそう言うが、スメラギが「申し訳ありませんが」と言い彼の言葉を遮る。
「私たちは、貴方方のように政治的思想で行動している訳ではありません」
「ですが、貴方方は連邦と対立している」
「俺たちの敵は、連邦政府ではなくアロウズだ」
刹那がそう言い切る。
次に口を開いたのは、シーリンだった。
「政府直轄の独立部隊を叩く事は、私たちの目的と一致するのではなくて?」
「そうだとも!アロウズの悪行を制する為にも、我々は共に手を取り合い・・・!」
「残念ながら、ここにあるMSではGNドライブ搭載型に・・・」
この部屋に来る途中に見た、カタロンのMS。
ティエレンやイナクトといった前の戦いで使用されていたそれに、GNドライブは搭載されていなかった。
言葉を濁すスメラギに、クラウスはなおも言い募る。
「だとしても、我々は貴方たちに協力したい。補給や整備だけでも、力になりたいのです!」
アロウズの空母は、ペルシア湾上空を飛行していた。
グッドマンと通信をかわす中、室内にはカティとリント、ブシドー、が居た。
『トリロバイトを失うとは失態だな、少佐』
「面目次第もございません」
『マネキン大佐、少佐と共に隊の指揮を執れ』
グッドマンの言葉にカティは敬礼をする。
そんな彼女に頷きながら、グッドマンは言葉を続ける。
『我々アロウズは、連邦の盾であり矛となる存在だ。失敗は許されん』
そこで通信は切れた。
リントは悔しげに舌打ちをした。
そんな彼には構わず、カティは「という訳だ」と言いブシドーとを見やる。
「今後、私の指示にも従ってもらう。よろしいな?ミスター・ブシドー」
「断固辞退する」
何の反応を示さない。
が、ブシドーはそう言い切る。
何?と言うカティにブシドーは言葉を続ける。
「私は司令部より、独自行動の免許を与えられている。つまりは、ワンマンアーミー・・・たったひとりの軍隊なのだよ」
「そんな勝手が!」
「免許があると言った」
ブシドーはそう言い切り、隣のを見下ろす。
「それは彼女にも言える。が、彼女の場合は大人しく貴女に従うだろうがな」
ワンマンアーミー。
独自行動の免許が与えられているが、彼女の場合は自覚もあまり無いだろう。
彼女の場合、与えられたばかりだから仕方ないか。
それとも、
そこまで考え、ブシドーは首を振った。
別の場所では、ソーマが端末を使用してセルゲイと話ていた。
「大佐が出動なさっているのですか?」
『ガンダム探索の為の部隊を任された。よもや正規軍がアロウズの小間使いにされようとは・・・』
「・・・そうでしたか」
少しの間が空いた後、ところで、とセルゲイが続ける。
『あれは元気かね?』
「アンドレイ少尉の事ですか?任務を忠実に果たしていますが」
ソーマの言葉にセルゲイは「そうか」と言い少しだけ眉を潜めた。
が、どこか元気な息子に安堵している様子も見られる。
『私への当て付けだな』
あれは、私を恨んでいる。
そう言うセルゲイに、ソーマは短く声を上げて瞳を丸くした。
『私は軍人であっても、人の親ではなかったということだ』
そう言い悲しげに瞳を細めるセルゲイ。
そんな彼に、ソーマは少しの間を置いてから「大佐、」と彼を呼んだ。
「・・・大佐、あの件、お受けしようかと思います」
『あの件?』
「大佐の養子にさせて頂く件です」
微笑んで言うソーマにセルゲイは「本当かね?」と言い瞳を丸くした。
その表情に喜びが含まれているのを感じ、ソーマも笑みを返した。
「詳しくはお会いしたときに・・・では」
そこで通信を切り、ソーマは空を見上げる。
(私は、幸せ者だ)
こんな気持ちを持てて。
こんなに、誰かから大切に想われて。
ソーマは幸せを噛み締めるようにゆっくりと息を吸って、金の瞳を細めた。
子ども部屋に連れてこられたマリナは、子どもたちと話をしていた。
が、部屋の隅にしゃがみ込んで動かない男の子に気付き、そちらに視線を向けた。
子どもたちに「待ってね」と言いその男の子の方へ近付く。
「ね、一緒に遊びましょ?」
そう言いマリナが手を差し出す。
おずおずと、躊躇いがちにマリナの手を取った後、彼女の微笑みに安心したのか、両手を広げて抱きついた。
優しく受け止めるマリナ。
そんな様子を入り口から見ていた刹那は、深紅色の瞳を細めた。
自らの手で殺めてしまった母親を、刹那は思い出していた。
彼女も刹那に手を差し伸べてくれていた。
が、それを取らずに銃を向けたのは自分自身だ。
「あの子どもたちも君たちの犠牲者だ!」
そんな刹那の背後から、沙慈が声をかける。
君たちがが変えた世界の、犠牲者なんだ。
そう言う沙慈に、刹那は振り返る。
「ああ、そうだな」
「何も感じないのか!?」
感じてはいるさ。
そう言い刹那は、マリナと子どもたちを見る。
「俺は二度とあの中に入ることは出来ない」
平和な世界に。
そう言いながら深紅色の瞳を細めた。
「それが分かっていて、何故戦うんだ!?」
「理由があるからだ、分かってもらおうとは思わない」
恨んでくれて構わない。
そう言い刹那はその場から立ち去った。
そのまま格納庫まで行った彼の背に、追いかけてきたのかマリナが声をかけた。
「待って!」と言うマリナを振り返る。
彼女は刹那を見上げ、瞳を揺らした。
「行ってまうの?」
「ああ」
「・・・その前に、ひとつだけお願いを聞いて欲しいの」
珍しく言い募るマリナに、刹那は瞳を丸くした。
小型艇内に戻った刹那を出迎えたのは、アレルヤとティエリアだった。
「会談は終わったかい?」と言うアレルヤに刹那は頷く。
「ああ、だがひとつやる事が出来た」
「やる事?」
「マリナ・イスマイールをアザディスタンに送り届ける」
ティエリアの言葉に刹那がそう返した。
それって、とアレルヤが呟いた時、後ろからスメラギとマリナが入ってきた。
「本当に良いのですか?」
「無理を言ってすみません・・・」
そう言い頭を下げるマリナに、スメラギは困った様に笑った。
「ガンダムは使えないわよ?
万が一発見されれば、アザディスタンに危害が及ぶ可能性があるわ」
「この機体を使わせて貰う。ガンダムでトレミーへ」
そう言う刹那にスメラギは「分かったわ」と言い肩を竦めてみせた。
小型艇を使うと言う刹那。
そんな彼にティエリアが笑みを浮かべ、口を開く。
「何なら、そのまま帰ってこなくても良い」
ティエリアの言葉に、馬鹿を言うなと返して刹那はマリナを再度見た。
小型艇を降りて各マイスターがガンダムに乗る。
その時の移動で、アレルヤがティエリアに声をかけた。
「この4年間に何があったんだい?君が冗談を言うなんて」
「本気で言ったさ」
アレルヤの言葉に、ティエリアはそう即答した。
それに思わずアレルヤは「え」と声を上げる。
そんな反応に、ティエリアは「フ、」と笑みを零した。
「冗談だよ」
そう言い、ティエリアは唖然と立ち尽くすアレルヤを置いて行く。
後から来たスメラギに困ったようにアレルヤが視線をやるが、彼女も肩を竦めてみせるだけだった。
(ソレスタルビーイングもカタロンも、戦いを引き起こす奴らじゃないか・・・!)
そんな所に居られるか!
沙慈はそう思いながら人の目を盗んで外へ出る。
その際に見張りに「何をしている!」と声をかけられたが、咄嗟に嘘を吐く。
「ソレスタルビーイングの」と言われ、思わず沙慈は頷いた。
「街に仲間が居て、連絡を・・・、」
沙慈の言葉を信じた男は「そうか」と言い人の良い笑顔を見せた。
「街までは遠い、車を使いな」
そう言い、車のキーを投げた。
それを受け取りながら、沙慈は「あ、どうも」と反射的に返した。
飛び去るガンダム。
そこから離れる小型艇の下を、借りたジープで沙慈は走っていた。
なんとか街までは行かなければ。
そう思っていた沙慈の目の前に、連邦軍の航空母艦が現れた。
は海の見ていた。
手摺りに手をついて、ただ何をする訳でもなく、海を見ている。
「、」
そんな彼女に、ソーマが近付いた。
ぼんやりとした様子の彼女の隣に並び、顔を伺う。
の横顔は、無表情だった。
ソーマは違和感を感じながらも、彼女に声をかける。
「・・・新型が、お前に当てられると聞いたが・・・」
聞いていたか?
そう問うソーマに、は答えなかった。
ただぼんやりとした様子で、海を見詰めている。
「・・・海、」
突然のの呟きに、ソーマは「え」と声を上げる。
「海が、好きだった気がする・・・」
誰がだっけ。
そう呟いては瞳を瞬かせた。
瞳を細めるソーマ。
直後、アンドレイが報告にやってきた。
カティはリントと共に上層部から来た指令書に目を通していた。
だが、その内容にカティは驚きの声を上げる。
「なっ、何だこの指令書は!?」
オートマトンをキルモードで使用せよだと!?
そう言いカティは指令書を握る手に力を込めた。
「・・・馬鹿な、こんな非道な作戦を・・・!」
「大佐、上層部からの命令は絶対です」
冷め切った声色で言うリントに、カティは厳しい視線を向ける。
「この作戦の内容を貴官は何とも思わんのか」
「もちろん思いません。相手は反政府勢力、情けをかける必要などありませんよ」
リントはそう言い、口の端を吊り上げた。
アンドレイから作戦を聞いたソーマは、アヘッドに搭乗する準備をしていた。
アンドレイと共に、機体のチェックを行いつつ、準備されていくオートマトンに目をやる。
「このような作戦を・・・!大佐がこの転属に反対していた理由が、漸く分かった・・・!」
「中尉は誤解されています」
苦々しげに言うソーマに、アンドレイが言う。
「スミルノフ大佐は、任務の為なら肉親すら見捨てられる男ですよ」
「肉親を?」と訝しげに瞳を細めるソーマ。
過去の出来事を思い出したのか、アンドレイは瞳を細め、苦々しげに、吐き出すように言った。
「あの男は母を見殺しにしたんです・・・!」
アンドレイの言葉にソーマは金の瞳を見開いた。
カタロンのアジトが、アロウズに発見された。
ソレスタルビーイングにその知らせが舞い込み、緊迫した空気となる。
プトレマイオス2に既に戻っていたスメラギたちの下へ、王留美から緊急暗号通信がきたのだ。
「王留美から緊急暗号通信。アロウズの部隊が、カタロンの施設に向かっているそうです!」
どうしますか?
フェルトの言葉にスメラギが瞳を細めた。
「救援に向かうわ。トレミー、対衛星光学迷彩を張って緊急浮上。ガンダムの発進準備を」
「了解です!」
「トレミー、緊急浮上を開始しました。海上まであと0043です」
艦内放送もかけ、フェルトとミレイナがパネルを操作する。
各ガンダムに乗りながら、其々マイスターたちが口を開く。
「アロウズに見つかった?」
「あそこには子どもたちも居るというのに」
ティエリアとアレルヤはそう言いながらセラヴィーとアリオスに乗り込む。
ロックオンは苦々しげに言葉を吐きながら、レバーを強く握った。
「急げ、急げってんだよこの野郎・・・!」
カタロンの構成員である彼にとっては仲間の危機。
ロックオンは強く歯を噛みしめた。
動き出す感じ。