プトレマイオス2に帰還したマイスターズ。
「スメラギさんの容態は?」と問うアレルヤに答えたのはラッセだった。


「まだ目覚めていない。今はメディカルルームだ」

「レーゲンが見てくれているけど・・・もうしばらく安静が必要かも」


そう言いフェルトは瞳を伏せた。
カタロン側の状況は?と問うロックオンに答えたのはミレイナだった。


「モニターに出します」


モニターに映った映像を確認しつつ、ミレイナは続ける。


「カタロンさんたちの移送開始は、予定通り1200で行われるです」


輸送物資を提供する機体。
それを確認した後、ロックオンは瞳を鋭くさせた。


「アロウズは来るぜ、間違い無くな」


「分かっている」と、ティエリアが返す。
その後に刹那が頷く。


「ガンダムを出す」

「しかし、戦術は?スメラギさんが倒れたこの状況では・・・、」

「それでもやるしかないだろ」


アレルヤの言葉を遮ったラッセは、操縦席に腰を下ろした。


「トレミーを海岸線に向ける。敵さんに見つけてもらわなきゃな」

「了解です!」

「プトレマイオス、発進」


フェルトも席について、パネルを操作した。
プトレマイオス2は、浮上し、発進した。


その中の一室で、沙慈は暗い室内でテレビを見ていた。


『独立治安維持部隊の反勢力鎮圧作戦に対し、報復かと思われるテロ活動が各地で発生しています』

「僕のした事でここまで・・・!僕はどうしたら・・・!」

『それに対応すべく、保安局は、各国の警察機構と連絡を図り、事態の収拾に全力を傾けています』


沙慈は表情を歪め、首から提げた指輪を握り締めた。


「姉さん・・・ルイス・・・!」


声を震わせ、沙慈は涙を流した。


「光学迷彩解除します」

「監視衛星による捕捉予定時間は、約0073です」

「総員、第1種戦闘態勢!」


ラッセの指示に、フェルトは「了解」と返した。










アロウズの空母のMSハンガーに、ソーマは居た。
そんな彼女の隣には、も居た。


「私は超兵・・・どんな任務でも忠実に実行する。その為に生み出された存在」


お前も、そうなんだろう?
そう言いソーマはを見た。
彼女は動じる様子も無く、無表情にMSを見上げているだけだった。


「・・・もう、心を殺したというのか?」


自分を兵器と認め、ただ戦闘に集中する。
本当にこの4年間、何があったのか。
そう思っていると、少女がソーマの背後から近付いてきた。


「お邪魔してしまいましたか?」


そう問う少女は、若草色の瞳を持ち、金の髪をしていた。
ソーマは「いえ」と言い首を振った。
彼女は「失礼しました、」と言い敬礼をする。


「補充要員として着任したルイス・ハレヴィ准尉です!」

「モビルスーツ部隊所属のソーマ・ピーリス中尉です」


ソーマがそう言うと、ルイスは瞳を微かに丸くした。
が、直ぐに「申し訳ありません、中尉殿」と言う。


「軽々しく口をきいてしまい・・・」

「構わない。 、貴女も・・・」


ソーマがそう言った瞬間、ルイスの若草色の瞳が微かに揺らぐ。
は振り返り、真正面からルイスを見やる。

敬礼をし、も名乗る。


・ルーシェ。中尉になりました」


ソーマはその事実に微かに瞳を見開く。
そういえば、ワンマンアーミーになったと聞いた。
何か色々彼女にもあったのだろう、と思いながらソーマはルイスを見やった。


「・・・貴女無理をしている」


そう言うソーマにルイスは「え」と瞳を丸くする。


「私の脳量子波がそう感じる。貴女は心で泣いている」

「そんな事は・・・」

「誰かをずっと想ってる」


ソーマはそう言い、言葉を切った。
とも知り合い?」と問うソーマにルイスは少しだけ視線を彷徨わせた。


「・・・4年ほど前に、少し」

「・・・そう」


ソーマがそう答えたところで、アンドレイが来た。
「中尉、こちらにおいででしたか」と言い彼が歩み寄ってくる。


「ブリーフィングの時間です。ルーシェ中尉も・・・・・・、君は?」


ルイスの姿を目に留めたアンドレイが瞳を丸くする。
彼女は先ほどと同じように敬礼をし、自己紹介をする。


「ルイス・ハレヴィ准尉です」


が、アンドレイは珍しくも呆けた様子で、ルイスを見下ろしていた。
ソーマが「少尉、返礼を」と言うと彼は肩を跳ねさせ、慌てて敬礼をした。


「アンドレイ・スミルノフ少尉です・・・!」


じっと彼女を見下ろす。
華奢な体。
丸い若草色の綺麗な瞳。


少女だ・・・


アンドレイは、そんな彼女から視線が逸らせずにいた。



ブリーフィングルームへ赴き、はぼんやりと話に耳を傾けていた。


「監視衛星がソレスタルビーイングの所在を掴んだ。MS隊はプランE3の戦術で・・・、」

「肩に動力のある、2個付きのガンダムはわたしが相見える」


干渉、手助け、一切無用!
カティの言葉を遮ってブシドーが言い放つ。
そんな彼にカティは「何だと、」と言うが、ジニンが「いいではありませんか」と言う。


「ライセンスを持つ噂のミスター・ブシドー。その実力、拝見したいものです」


「ご期待にはお応えしよう」


そう言いブシドーはに視線を投げた。
名を呼ばれて、は顔をゆるゆると上げる。


。君も手伝って欲しい」

「・・・うん、分かった」


そう言いは空色の瞳をブシドーへ向けた。
そんな彼女にカティは瞳を細める。


従順な少女まで・・・これがアロウズのやり方か・・・










プトレマイオス2のブリッジでは、ラッセがセンサーを見つつ、口を開く。


「そろそろこっちに気づいた敵さんがやって来るころだ」


ガンダムを出すぞ!
ラッセの言葉に頷いたミレイナがパネルを操作する。


「第1、第2デッキ、ハッチオープンです!」

「アリオス、セラヴィー、発進準備」


右舷のデッキはフェルトが担当をし、ティエリアに通信を入れる。


『リニアカタパルト、ボルテージ上昇。射出タイミングをセラヴィーに譲渡します』


「了解」とティエリアは返し、レバーを握りなおす。


「セラヴィー、ティエリア・アーデ、行きます!」


左舷のデッキでは、アレルヤが移動するアリオスの中で細部のチェックを終えてレバーを握りなおしていた。
脳量子波がなくても!
そう思いながら、ミレイナの通信に耳を傾ける。


『ユー・ハブ・コントロールです!』

「アイ・ハブ・コントロール。アリオス、アレルヤ・ハプティズム、迎撃行動に入る」


きっとマリーも出撃してくる。
必ず助け出す。

そう決意し、アレルヤはアリオスを出撃させた。


『続いて、ケルディム、ダブルオー、スタンバイ』


フェルトの艦内放送を聞きながら、ロックオンはオレンジハロの頭を撫でる。


「ハロ、今日は本気モードで行くぜ」

『リョウカイ!リョウカイ!』

『リニアシステムクリア、射出タイミング、譲渡します』

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つ!」


ケルディムも出撃し、残るはダブルオーのみ。
イアンは刹那に通信で注意をしていた。


『刹那、トランザムは使うなよ』

「了解」


そう答える刹那の脳裏には、アザディスタンを襲っていたガンダムが浮かんでいた。
あのガンダムは、覚えがあった。

そこまで考え、刹那は雑念を払うように首を振った。


「否、今はこの戦いを!ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出る!」









『ガンダム4機、捕捉した。これより各小隊に分かれ各個撃破する。
 ドライブ2つのガンダムは任せますよ、ミスターブシドー、ルーシェ中尉』

「望む所だと言わせてもらおう!」


ブシドーはジニンにそう返すと、アヘッドサキガケを突出させた。
それにのGN−XVが続く。


『我が隊の目標は羽付きだ!』

『了解です、中尉』


ソーマとアンドレイもそう言葉を交わし、目標のアリオスに向かう。


『ついにこの時がきたよ、ママ、パパ』


仇の為に。
ルイスはそう呟き、GN−XVのレバーを握った。
そして、先ほどであった
4年前、きっと私を助けてくれた


『今度は、私も一緒に戦うから、


貴女は、特別だったわ。
そう呟いてルイスは瞳を開いた。


『ガンダムを視認!全機、攻撃開始!』


ジニンの声と共に、戦闘が開始した。
ソーマがアヘッドスマルトロンでアリオスを狙う。
ビームライフルを放ち、接近をする。


「この感覚・・・!」


アリオスの中でアレルヤは瞳を見開く。
覚えのある感覚。
正面にいるアヘッドには、きっと彼女が乗っている。

アレルヤはそう確信した。


「被験体E57!」


ソーマはそう声を張り上げながら、アリオスの頭部にビームを命中させる。
それにより機体が揺れるが、アレルヤは怯まずにビームライフルを放つ。

それがソーマのアヘッドスマルトロンの右肩に命中する。
其れを見てルイスが援護に向かおうとするが、プトレマイオス2の狙撃に邪魔される。
そちらに攻撃を移したルイスを、アンドレイが援護する。


「オートでの砲撃だと、相手に当たらないです!」

「クソッ、リヒティが居てくれれば!」


焦りの声をラッセが上げる。
次にイアンの声が響く。


「俺がサブブリッジに行って砲撃を担当する!」


操鑑に集中しろ!
そう言いブリッジを出るイアンにラッセは「了解」と返した。


アヘッドサキガケはダブルオーに向かい突撃をしていた。
それに気付いた刹那はGNソードライフルを放つ。
それを避け、ブシドーはコクピット内で嬉しそうに笑みを浮かべた。


「射撃もうまくなった!」


それでこそが少年!
そう言い2機はビームサーベルとGNソードをぶつけ合う。
蹴りを入れあう機体を横目で見つつ、はGN−XVを動かした。


「手を抜くか・・・それとも私を侮辱するか!?」


ブシドーはビームサーベルを振るい、ダブルオーのGNソードを切り落とした。
このままでは!
刹那はそう思い瞳を細めた。





((やめてくれマリー!僕だ!アレルヤだ!))

((私は・・・超兵だ!))


ひゅ、とはコクピットの中で息を飲んだ。
突然頭に声が響いてきた。

この声は、ソーマと、男の声。

眼前ではアヘッドサキガケがダブルオーガンダムに迫っていた。


『ガンダム・・・引導を渡す!』


振り下ろされたビームサーベル。
直後、ダブルオーの体が赤く輝き始めた。


((はああああ!))


アヘッドスマルトロンがアリオスのビームサーベルごと切り払う。
コクピット内にまで被害が及び、爆煙が舞い込む。
パイロットの苦しむ声が聞こえる。


((マ・・・マリー!!!!!))


アリオスの手が、身動きのとれないアヘッドスマルトロンに伸ばされた。


アヘッドサキガケのビームサーベルが空を切る。
その隙を狙い、トランザムをしたダブルオーが背後からGNソードライフルで攻撃を仕掛ける。
は機体を動かし、GNランスを構えてダブルオーに真横から突撃をする。

GNソードとGNランスが、激しくぶつかり合う。


・・・っくぅ・・・!あ、頭が・・・!


先ほどから物凄い頭痛が襲ってくる。
しかし、此処で気を逸らしてなんかいられない。

はそう思いながら左手を彷徨わせた。
が、そこには何も無く、空色の瞳を驚愕に見開く。


「・・・え?」


あると思っていたパネルが無い。
ふと気付くと、見慣れないコクピット内。

どうして、私は此処に居る?

どうして、こんな物に乗っている?

どうして、


・・・ガン、ダム・・・!!


眼前にある赤く輝くそれは、間違いなくガンダム。
の脳裏に、自分を殺した機体が浮かぶ。

翼を持った、ガンダム。

ガンダムが、私を―――、


「いっ・・・いやああああああああああああああ!!!!!!!!!


一瞬にして、は恐怖状態に陥った。

GNランスをがむしゃらに振るい、ダブルオーに突き立てようとするが、かわされる。
隙の出来たGN−XVを狙い撃とうとした刹那だが、思いの外、寸でのところでかわされる。

そのまま反撃をしてくるGN−XV。

それに刹那はどこか違和感を感じていた。


「・・・この戦い方・・・どこかで・・・!?」


刹那がそう呟いた瞬間、アヘッドサキガケが攻撃をしかける。



アリオスに掴まれ、アヘッドスマルトロンは身動きが取れないでいた。
先ほど通信越しに聞こえたの悲鳴。
ソーマは彼女の事を気にかけた瞬間、通信で声が聞こえてきた。


マリー!!

 こいつ!」


レバーを動かすが、アリオスに捕まったまま身動きが取れない。
先ほどの攻撃から爆発をおこしながら、アリオスとアヘッドスマルトロンはそのまま近くにあった島に墜落していった。



海面の直ぐ上を通るサキガケ。
ダブルオーが追撃をする中、水が舞った。

一気に距離を詰めてGNソードを振り上げた。


「もらった!」


刹那がそう叫んだ直後、間にGN−XVが割って入ってきた。


グラハム!!

!? !!


突然通信に響いた声に、ブシドーは焦りの声を上げる。
ダブルオーでは、同時刻に警報音が鳴り響いていた。
モニターにも警告のメッセージが現れ、GNドライブから煙が上がった。
トランザムも解除され、ダブルオーは海面にぶつかる。


『何と、機体が万全ではないとは・・・!』


ブシドーはそのままビームサーベルを抜き、動けないダブルオーに向ける。
『ならば切る価値もなし!!』そう言うとブシドーはサキガケを戦場から離脱させる。


『行くぞ、

「・・・ううん、私は、やるべき事があるから」


通信モニターに映ったの顔。
それを見てブシドーは瞳を丸くした。

彼女の瞳は、5年前、出会った頃に見た澄んだ色をしていた。

去っていくサキガケを見送り、はダブルオーを見下ろす。


「・・・ガンダム・・・ソレスタルビーイング・・・」


今も、戦ってたんだ。
そう思いながら、はそのままダブルオーには手を出さず、アリオスとアヘッドスマルトロンが墜落したであろう島へ向かった。

曖昧な、記憶。

確かに自分はソレスタルビーイングに居た。

誰と?どれに乗って?どう戦っていた?

そう思いながら、は頭痛に耐えながら機体を島へ向かわせた。





動けずに、海面を漂うダブルオーの中で、刹那は深紅色の瞳を揺らしていた。


「・・・一体、」


あの動きは、
そう思っていると、ティエリアとロックオンが援護に来た。


『刹那、大丈夫か?』

「・・・ツインドライブが」


ティエリアの通信に刹那が答えようとしたところで、新たな通信が入った。


『ガンダム全機、後退して』


モニターに映った人物は、倒れていたスメラギだった。
医務室から直接指示を出しているようだ。


『敵の連携を分断させるわ。魚雷で高濃度粒子とスモークを』


ラッセとイアンがスメラギの指示に従った。


暫くしてアロウズからの攻撃も止み、静かになった。


『撤退したのか?』

『どうやら』


ロックオンとティエリアが言葉を交わす。
静かになったその場に、フェルトの焦りを含んだ声が響いた。


『アリオスの機体を捕捉出来ません!』


アレルヤが!
と続けるフェルトに刹那は思わず「何だと!?」と声を上げる。


ブリッジに移ったスメラギが焦りの表情を浮かべる。


「アリオスの反応が無いですって・・・!?」


入室した彼女に気付いたミレイナが「ノリエガさん!」と声を上げる。
体は?と、ラッセが気遣うがスメラギは指定の席についた。


「ミッションレコーダーでアリオスの交戦ポイントを特定して!
 ダブルオー回収後、セラヴィーとケルディムはアリオスの捜索を」

「りょ、了解」


フェルトはそう言い、スメラギの指示通りに動く。





撤退するアロウズのMSの中で、ソーマの機体がロストしたという情報が広がる。
そして、の機体も未だに戻っていない事も。

ルイスは「そんな、」と声を震わせた。