ずっと、霧がかかったみたいにぼんやりしていた。

私は本当は誰で、どこの人間なのかも分からなかった。

ただ、戦う。

その為の存在なんだと言われた。


ソレスタルビーイングと交戦を重ねる内に、胸の内にぽっかりと穴が開いているような感覚に気付いた。
何かが抜けている、そんな感覚。

ガンダムと対峙する度に、まるで殺されるような感覚に見舞われる事も。

それが何なのか、段々とはっきりしていっている。

ずっと私を気にかけてくれたソーマ。

彼女を追えば、頭痛の理由も、今までの不可解か感情も、全て理解できる。


何でか、そんな確信を持っていた。

























貴方は私にとって全てだった。

仲間であり、友だちであり、家族であり、そして、










マリー!!


アヘッドスマルトロンから降り、生身のままでアレルヤに襲い掛かる。
やめるんだ、マリー!
そう言うアレルヤを突き飛ばし、その上に乗り上げる。


「出来損ないの貴様などに!」


そう言い殴りかかろうと腕を振り上げる。
が、直後ソーマの頭に鋭い痛みが走った。
短く悲鳴をあげ、頭を抑えるソーマ。

突然苦しみだしたソーマに、アレルヤが気付く。


「・・・マリー?」





((行かないで!!))





ソーマの頭に声が響く。





((貴方が居なくなったら、私は――――!!!))





・・・





過去に自分がセルゲイに言った言葉と頭の中の声が重なる。

その瞬間、アレルヤが声を張った。


マリー・パーファシー!

!!


直後、物凄い頭痛がソーマを襲う。
脳裏に覚えの無い映像が浮かぶ。





((アレルヤだけよ、私とこうしてお話してくれるのは))

『寂しいね・・・』

((そんな事無いわ!寂しいのは終わったの!))





真っ暗な空間に、声だけが響く。





((もう寂しく無いわ!アレルヤが居てくれるもの!!))

『ぼ、僕!毎日マリーに会いに来るよ!!』

((ほんと?))





心の中が、喜びで満ち溢れる。





『あ・・・えっと、毎日は無理かも・・・でも!来れる時は必ず来るから!』

((うん・・・いっぱいお話しましょう!))

『うん!もうひとりぼっちにしないよ!』





その一言が、とてもとても嬉しかった。





『マリー』





呼ぶ声。





『マリー!』





昔、五感を失っていた私の呼びかけに唯一答えてくれた、彼。





「マリー!!」


全てを、一瞬の内にソーマは理解した。

理解、してしまった。





((アレルヤが呼んでる))





分かってる。
ソーマはそう思い、ゆっくりと力を抜いた。





((アレルヤのところへ行きたい))





切実に、そう願うもうひとつの心。

そうか、これが、

ソーマは全てを理解し、金の瞳をうっすらと細めた。





((・・・大佐、 、))





最後に、愛しい人を想い、ソーマは目を閉じた。


「アレ、ルヤ?」


声が漏れた。
動かなくなったソーマを不安げに見ていたアレルヤだが、自分の名を呼ぶ彼女に歓喜の表情をみせる。


「・・・マリー?僕の事が!?」


が、そのまま彼女は気を失い、アレルヤに支えられた。










連邦軍航空母艦では、セルゲイが連邦のGN−XVに乗り込んでいた。
周囲の諌める声も聞かずに、彼はGN−XVを発進させた。


中尉・・・!


カティから齎された情報を聞いて、彼は直ぐに行動を起こしていた。
暫く飛んだ先に、アロウズのGN−XVが見られた。
直ぐに通信がつながれ、モニターに映像が映し出される。

そこに映った少女に、セルゲイは瞳を丸くした。


「・・・君は・・・!」


記憶に残る、ソーマを迎えに来た少女。
・ルーシェと名乗った彼女を、ソーマがいたく気に入っていた事を思い出す。
何故その彼女が、と思うセルゲイに、は口を開く。


『ついてきて下さい。ソーマが居ると思われる場所を特定出来ました』


そう言い先行する彼女に、セルゲイは「感謝する」と言い続いた。










「・・・アレルヤ・・・、」


目が覚めれば、見知らぬ天井。
辺りを見渡しながら体を起こすと、どうやらそこはテントの中で、自分は寝袋に寝かされていたようだった。
雨音が響く中、彼女の自身の頭に包帯が巻かれている事に気付いた。


「・・・ここは?」


そう呟いた彼女の声を聞いてか、テントの入り口からアレルヤが入ってきた。
彼は嬉しそうに目元を和らげ、口を開く。


「マリー、目が…覚めたんだね」


アレルヤにそう言われ、マリー・パーファシーとなった彼女は柔らかく微笑んだ。


「ええ、アレルヤ」


微笑んだ彼女の隣に腰を下ろしたアレルヤが、「機体を調べてきたんだけど、」と言う。
雨で濡れた彼は、アリオスとアヘッドスマルトロンの双方を見てきたようだった。


「どちらもシステムがダウンしてる。僕らでは修理できそうにないよ」


そう言うアレルヤに、マリーは「そう・・・」と返す。
救助が来るといいんだけど。
アレルヤはそう言い、マリーの様子を伺う。

そして、意を決したように口を開いた。


「聞いていいかな?何故、君がソーマ・ピーリスだったのか」


静かに問うたアレルヤに、マリーは金の瞳を微かに曇らせた。


「・・・恐らく、違う人格を植え付け、失っていた五感を復元させたんだと思う・・・。
 超人機関は、私を超兵として軍に送り出す事で、組織の存続を図ろうとしたのよ」

「何て卑劣な・・・」


瞳を細めるアレルヤ。
だが、マリーが「でも、」と言いアレルヤを見て微笑んだ。


「そのおかげで、貴方の顔を始めて見ることが出来た。貴方だって、すぐに分かった」


脳量子波のおかげかしら?
そう言い悪戯っぽく笑ったマリーに、アレルヤも笑顔になる。


「僕も、君と言葉が交わせるようになるなんて、思ってもいなかったよ」

「ね、私にも聞かせて。どうしてたの?超人機関を脱出してから」


そう言うと、アレルヤは微かに表情を曇らせた。
が、彼はマリーに自分の過去を話す事を決意し、口を開く。


「処分を免れようとして、仲間と一緒に施設から逃げたんだ」


銃を手に、走る子どもたち。
その中には自分の姿も混ざっていた。

マリーの居る部屋の前で立ち止まるが、迷いを断ち切る様に首を振って、再度駆け出した。


「君を連れて行かなかった事を最初は後悔した」


でも、それでよかったんだ。
そう言いアレルヤは瞳を奮わせた。
そんな彼の様子に、マリーは恐る恐るといった様子で「何が、あったの?」と問うた。


「仲間と、輸送船を奪ってコロニーから脱出した。でも、行くあてなんてどこにも無い」


何せ外の事なんて、何も知らなかったんだから。


「僕たちは漂流を続け、やがて艦内の食料や酸素が底をつき、そして・・・」


アレルヤが瞳を伏せる。
そうすると、あの忌々しい惨状が今でも鮮明に蘇った。





『やだ、死にたくない!アレルヤ!アレルヤ!』

『ダメだ!お前は死ぬんだ!!』





言い放ったのは自分。
仲間は、そんな自分を恐怖で満ちた瞳で見上げた。





『アレルヤ!』

『違う、俺の名は!』





ハレルヤ!!!
心の中で何度も叫んでも、彼は止めなかった。
持っていた銃で、仲間を次々と殺していった。


「知っていたわ。貴方の中にもうひとつの人格があったことは」

「言い訳になんか出来ない。ハレルヤは僕だ」


そう言うアレルヤにマリーは「でも!」と言う。
が、彼はゆっくりと首を振るだけだった。


「唯一生き残った僕は、運命を呪った・・・、超人機関を、この世界を。
 だから、世界を変えようとガンダムマイスターになる事を受け入れたんだ」


超兵に出来るのは、戦う事しか無いから。
そう言うアレルヤに、マリーは悲しげに視線を逸らした。


「マリー、ソーマ・ピーリスの時の記憶は?」

「・・・あるわ。彼女の人格も」

「だったら分かるだろ。僕のした事」


アレルヤの言おうとしている事を理解し、マリーは真っ直ぐにアレルヤを見詰めた。
それは恐らく、4年前のあの出来事。


「僕は殺したんだ。仲間を、同胞をこの手で・・・みんなの命を二度も奪ったんだ」


そう言い、アレルヤは両手を強く握る。
そんな彼の手を包むように、マリーの両手が重ねられた。


「私だって同じ・・・私は貴方を一度殺してる」


マリーはそう言い、アレルヤの拳をやんわりと解いた。


「あの時の攻撃で、私はもうひとりの貴方を・・・ハレルヤを・・・」


この傷をつけたのも。
そう言いマリーが手を伸ばす。
アレルヤの前髪を上げると、右の額に傷跡がつく。


「違う・・・!それはソーマ・ピーリスが!!」

「貴方と同じで、ピーリスは私なの・・・だから、ごめんなさい」


マリーはそう言い、瞳を伏せた。
「私どうしたらいいか・・・、」と呟く彼女に、アレルヤは落ち着かせるように肩に手をやる。
「僕だってそうだよ」と言い、アレルヤは言葉を続けた。


「ソーマ・ピーリスがマリーだと知って、僕は君のことばかり考えていた。救いたいと思った!
 でも、それが叶った今、君に何をすればいいのか・・・こんな僕が、君にしてあげられる事なんて・・・」


マリーはアレルヤの手に、再度自身の両手を重ねた。
そして、柔らかい笑みを零し、言う。


「居てくれるだけで嬉しいの・・・」

「・・・マリー?」

「だって、貴方に出会えたのよ?
 五感が無く、脳量子波で叫ぶしかない私に反応してくれたのは貴方だけ」


ほとんど毎日、アレルヤは会いに来てくれた。

私のためだけに。

マリーはそう思いながら微笑む。


「貴方のおかげで、私は生きている事に感謝出来たの。そんな貴方をこの目で見つめることが出来る。
 話すことも、触れることだって・・・こんな時が訪れるなんて・・・!」


アレルヤの手を包み込んだまま、その手を上げる。
そしてゆっくりと瞳を閉じてマリーは祈りを捧げた。


「神よ、感謝します・・・アレルヤ・・・」


女神のように微笑むマリー。
彼女は変わっていない。昔のままだ。

テントの外に出てみると、ヘッドライトを照らしながらGN−XVが二機降下してきていた。
連邦軍と、アロウズ双方の使用のそれに、アレルヤが警戒の色を強める。

着陸をし、ライトを消して双方のコクピットハッチが開いた。

はメットを被り、シェイドもそのままにしていた。
が、セルゲイはメットを取り、そのまま降りてきた。

彼の姿を目に留めたマリーは「大佐!?」と言い思わず駆け出す。
「知り合いなのか?」と言いつつもアレルヤも彼女に続く。


まただ、

そう思いながらは地上に足を着いた。


酷い頭痛が起こった。
この二人の、まさか、この男のせいか。

はそう思いながら、駆け寄ってくる男を見上げた。


「その声・・・そうか、君があの時のガンダムパイロットか」


隣に立つセルゲイがそう呟く。
そして、腰の銃を抜いてアレルヤに向けた。


「中尉から離れろ!ソレスタルビーイング!」


セルゲイの声が響いた。
マリーは咄嗟に「大佐!違うんです!」と声を上げる。

はソーマの無事を見て一瞬喜んだが、直ぐに彼女が違う人物なんだと悟った。
彼女も銃を取り出し、すぐに応戦できる姿勢をとった。


「今の私は、ソーマ・ピーリスではありません・・・!」


人格を上から書き換えた。
それら全てをマリーが説明をした。


「私はマリー・・・マリー・パーファシーです!」

「マリー。それが中尉の本当の名か?超人機関はそのような事まで・・・!」


マリー。
以前ソーマが尋ねた名前だった。
セルゲイは思い出しながら、彼女を見やる。

そこで、アレルヤが一歩前へ出て口を開いた。


「マリーは優しい女の子です。人を殺めるような子じゃない」


マリーは貴方に渡せない。
そう言い、アレルヤはちらりとも見やる。


「連邦やアロウズに戻ったら、彼女はまた超兵として扱われる!」


マリーを戦わせたくない。
アレルヤの真っ直ぐな想いが伝わってくる。
は震える手で、銃を構えた。


どうして、私の手は震えているの?

どうして、


は唇を噛んだ。

ソーマだって、心優しい少女だった。
人を殺める事に、心を痛めていたのに、何を知ったような口を!

そう思った瞬間、行動に出ていた。

濡れた地面を蹴って、アレルヤに襲い掛かる。
咄嗟の事でアレルヤは対応が遅れたが、直ぐに応戦をした。


少尉!!


セルゲイが諌める声が響く。
中尉となっただが、出会った頃にはまだ少尉だった事を思い出す。

止められ、はナイフを振るうのを止めた。
一瞬でアレルヤの背後に回りこみ、彼の喉下を切り裂こうとした。

思わず、は体を硬くした。


前も、誰かに、





『銃より私、ナイフの方が得意なの』





!!!!


一瞬、頭に響いた声。

今のは、自分の声?

一体いつ、


そう思った時には、反射的に目の前のアレルヤの背を蹴り飛ばしていた。
「アレルヤ!」とマリーが声を上げる。

震える体を叱咤するが、収まらない。

そんなを見てアレルヤは不思議そうに、マリーは悲しげに瞳を細めた。
再度「マリーは渡さない」とう言うアレルヤに、セルゲイは瞳を細めた。


「だが君はソレスタルビーイングだ。君といても中尉は戦いに巻き込まれる」

「そんな事はしません!」

「テロリストの言う事を信じるほど、私は愚かではない!」


信じて下さい!
アレルヤがなおも言い募るが、セルゲイは撃鉄を起こした。
そんな彼に、アレルヤとマリーは瞳を見開く。


「私は君の、否、君たちの馬鹿げた行いによって、多くの同胞や部下を失っている」


その恨み、忘れたわけではない!
そう言いセルゲイは銃口を真っ直ぐにアレルヤに向ける。


「止めて下さい大佐!」

「撃って下さい」


自分を庇うように前に出たマリーの前に再度出たアレルヤが、静かにそう言った。
アレルヤ?とマリーが不安げに彼を見上げる。


「その代わり、マリーを、否、ソーマ・ピーリスを二度と争いに巻き込まないと誓って下さい」
『死なせたくないから返すんだ!』


アレルヤの言葉に、誰かの言葉が重なる。
は驚愕に瞳を見開いた。





『だから絶対に約束してくれ!
 決して戦争とかモビルスーツとか、そんな死ぬようなこととは絶対遠い、優しくて温かい世界へ彼女たちを返すって!』





ぁ、とが小さく声を漏らした。

体が震える。

一気に記憶が鮮明に蘇る!!


「何を、アレルヤ・・・!」


マリーが瞳を揺らす。
そんな彼女にアレルヤは笑みを向けた。


「いいんだ。マリー、君が幸せでいてくれるなら」


撃ってください。
再度そう言うアレルヤの目に、迷いは無かった。

アレルヤと、マリー。

は肩を震わせた。

そうだ、そうじゃないか、どうして私は忘れてしまっていたんだろう。





『ス、テラ・・・守るの・・・私が・・・』

『・・・うん、はちゃんとステラを守れてるよ。そんなを、俺がちゃんと守るから』





わたしは、





『好きだ』

『・・・ふふ、僕たちがやっぱり大切なんだ』

『・・・私も、二人が大好き・・・!』





わたしは、





『俺だけにしておけ。アレルヤなんか放っておけ』

『あいつは忘れてるだけなんだよ。あいつにとっての、女神サマをな』

『アレルヤがまだ超人機関研究施設に居た頃、五感を失っていた女と出会った』

『名前は、マリーだったっけな。どういう訳か、アレルヤは記憶が混乱しているらしくってな』





どうして、忘れてしまっていたのか、





『・・・マリーの、事を忘れている?』

『そうだ。施設に居た頃の記憶も曖昧ときた。俺は覚えてるけどな』

『前に鹵獲されかけたろ。そこで思い出しかけた。だからこの俺が出て抑えてやったんだよ』

『じゃねぇと、アレルヤは戦えなくなるからな』





どうして、今になって思い出したのか、





『人革のティエレンに乗ってる女超兵はアレルヤの大事な女神サマ・・・マリーなんだよ!』





ぜんぶ、





『アレルヤのお前に対する気持ちは仮初だ』





全部、


は瞳を震わせて、アレルヤとマリーを見やった。
セルゲイに銃を向けられ、マリーを庇うように立つアレルヤ。

全てをアレルヤも思い出し、マリーという人格を取り戻した。

そして、マリーを守る為に、そこに居る。

すべては、マリーの為に。

そう思いながら、は二人を見る。


アレルヤの言葉に、セルゲイは「承知した」と言い引き金にかかった指に力をこめる。
それに耐え切れなくなったのか、マリーが悲鳴をあげてアレルヤの前に飛び出した。

銃声が、響いた。

勢いのままに飛び出したマリーはそのまま倒れた。
アレルヤはそんな彼女の名を呼び、すぐに駆け寄った。

セルゲイは腕を上げていて、銃口を空に向けていた。

彼の行動に、マリーは顔を上げて瞳を丸くする。


「た、大佐?」

「たった今、ソーマ・ピーリス中尉は名誉の戦死を遂げた。上層部に報告すべく、帰投する」


銃を納め、セルゲイは彼らに背を向けた。
行くぞ、少尉。
呼ばれたは、彼に続く。

当たり前の行動だった。

アレルヤの傍には、本来の想い人であるマリーが居る。

今更記憶を取り戻したところで、自分の居場所なんて無いのだ。

はそう思いながらGN−XVへ向かう。
歩くセルゲイを、マリーが呼び止めた。


「大佐!!」


彼女の叫びに、セルゲイは歩を止める。
そのまま彼は「そういえば、」と言う。


「礼を言っていなかったな」


突然のセルゲイの言葉に、二人が瞳を丸くした。


「5年前、低軌道ステーションの事故。救助活動に参加してくれた事、感謝する」


それだけを言うと、セルゲイは再び歩を進めた。
遠ざかる背に、一体何を思ったのか。
マリーが「スミルノフ大佐!」と再び彼を呼びとめた。


「ソーマ・ピーリスを対ガンダム戦だけに徴用し・・・他の作戦に参加させなかった事、感謝しています!」

「・・・その言い方、本当に私の知っている中尉ではないのだな・・・」

「それから、私の中のソーマ・ピーリスがこう言っています」


マリーは胸に手をあて、金の瞳を真っ直ぐにセルゲイに向けた。


「貴方の娘になりかった・・・と・・・」


マリーの言葉に、セルゲイは「そうか」と言い振り返った。
彼の顔は、酷く穏やかなものだった。


「その言葉だけで十分だ」


そう言い、微笑む。
マリーは表情を複雑な表情で歪め、「大佐ぁ!」と彼を呼んで駆け寄った。
泣きそうに表情を歪めて走り寄る彼女に、セルゲイは更に瞳を細めた。

抱きついたマリーを受け止め、彼女の髪を撫ぜる。


「生きてくれ。生き続けてくれ・・・!」


どうか、幸せにな。
そう言いセルゲイは、最後に強く彼女を抱き締めた。
が、直ぐに両肩に手をやって、離れるように促した。

ゆっくりと、二人の距離が離れる。

マリーは姿勢を正して、敬礼をする。


「今まで・・・ありがとうございました、大佐・・・!


そんな彼女にセルゲイは敬礼を返し、「うむ!」と言う。
GN−XVへ歩くセルゲイを、敬礼したままマリーは見送る。

コックピットハッチが閉じられ、GN−XVが飛び去る。
も彼に続き、GN−XVを起動させる。


・・・アレルヤ、


離れ行く姿。
は彼の姿を見つめながら、表情を歪めた。





『アレルヤでいいよ』





出会ったのは運命だったのか。





『信用してないわけじゃないよ!ただ、君は女の子だから・・・心配で・・・』




必然だったのか。





『僕はが・・・、可愛いと思うけど・・・』





気付いたら惹かれていた。

彼の優しさに。





『僕が、僕たちが君を守るから』





けれど、





『・・・ふふ、僕たちがやっぱり大切なんだ』





「・・・アレルヤ、」


震える声で彼の名を呼ぶ。

もう、彼の隣には彼女が居る。

本当の彼の想い人。

もう、私の居場所は無い。

記憶が戻ったとしても、意味なんて無い。


だから、


「さようなら、アレルヤ」


さようなら。

身を寄せ合うアレルヤとマリーを最後に見て、は瞳をそっと伏せた。

セルゲイのGN−XVに続くように、のGN−XVも孤島を離れた。




再開と離別。