『少尉、出来ればこの件は内密にしてくれるとありがたい』


暫く空を駆けていると、セルゲイから通信が来た。
雲が晴れていき、日が照ってきた。

それに眩しさを覚えながらも、はモニターのセルゲイを見る。


「構いません。ソーマは私の友だちですから」

『・・・恩に着る』


あの娘に友だちが居て良かった。
そう言いセルゲイは微笑んだ。


「ピーリスは君の話をよくしてくれたよ。放っておけない不思議な相手だと」

『・・・ソーマは、いつだって私を気にかけてくれていましたから』


肩を竦めてみせるにセルゲイは違和感に気付く。
最初にソーマを迎えに来た時には、まるで魂が抜けた人形みたいだった。
が、今はどうだろうか。
極々普通の少女ではないか。

そんなセルゲイには困った様に、ほんの少しだけ口の端をあげた。


「・・・私、記憶が無かったんです」


今まで。
ずっと忘れていたんです。


「4年前、私はアレルヤに庇われた。ソーマと、貴方の攻撃で半壊した機体で、無理をしたのがきっといけなかったんだと思います」

!? 4年前!?君は、まさか!!

「アレルヤには今はもうマリーが居る。戦いからソーマも離れて、普通の女の子として暮らせる。それでいいんです」


そう言い瞳を細めるに、セルゲイは複雑な表情をした。


『だが、君は・・・』


戻りたいと思わないのか。
そう問うセルゲイは、の心情を見透かした様な声色だった。


「5年前からずっと、この想いは変わりません」


私は彼を愛したい。

愛して、いたい。


「こんな私が今戻っても、ソレスタルビーイングに居場所なんて無いんです」


そう言うとセルゲイが「だが、」と言葉を濁す。
直後、センサーに敵の反応が映る。

前方を見てみると、狙撃型のガンダムが見えた。

きっと乗ってるのはロックオンの跡を継いだ人だろうな。
ロックオンでは、無い。

そう思いながら、はGN−XVの両手を挙げ、敵意が無い事を示す。
そのまま光通信でアレルヤの居場所を教えた。

すれ違う。

モニター越しのセルゲイは何か言いたげにを見ていた。
は瞳を細めて、敬礼をした。


「今の私は、アロウズの・ルーシェ中尉です。帰還した後には、また全てを忘れ、戦場に身を乗り出すでしょう」

『・・・中尉、だと?それに記憶を・・・アロウズはそんな事まで・・・!?』

「元ソレスタルビーイングのガンダムパイロットには、相応の処置だと思います」


そう言い、指先に力を込めた。


「・・・貴方も、どうか無事で」

『・・・君もな。ルーシェ中尉・・・』

「はい。貴方に何かがあれば、ソーマも、アンドレイ少尉も心を痛めると思います」


だから、どうか無事で。
そう呟き、は「では」と通信を切断した。

目指すはアロウズの空母。

夜も明けてしまった。
きっと、次は、


「・・・ガンダムと、戦う」


ぎゅ、と胸の前で手を組む。

願わくば、彼らが気付く前に、


「・・・・・・シン、」


私を殺してくれますように。

はそう呟いて、肩を震わせた。















海中のプトレマイオス2では、ミレイナが届いた情報に歓喜の声を上げた。


「ハロから通信!ハプティズムさんが見つかったです!」


ブリッジ内に居たフェルトも喜びから笑みを零し、すぐさま艦内放送をかける。


『アレルヤ、発見しました!』

「アレルヤ・・・」


ダブルオーがオーバーヒートした為格納庫に居た刹那が、フェルトの放送を聞いて安堵の息を吐いた。
仲間の無事を喜び、笑みを零す刹那に沙慈が瞳を丸くする。


「君でも、笑うんだ」

「嬉しい事があれば、誰だって笑うさ」


刹那はそう言い、沙慈に微笑んだ。


ブリッジではフェルトがスメラギの名を呼ぶ。


「スメラギさん!」

「ええ、よかった・・・本当に良かったわ。アレルヤ」



戦う理由を失わずに済んだ。
そう思いながら、スメラギは笑みを零した。
安堵に包まれるブリッジ内で、ミレイナの「ほぉー!」という間延びした声が響く。


「何か、彼女さんと一緒みたいです!」


どうやら発見したロックオンから画像付きで情報が送られてきたようだ。
両手を上げて頬を赤らめるミレイナの視線の先には、少女の肩を抱くアレルヤの姿。
突然のミレイナの言葉にラッセが肩を跳ねさせる。


かっ、彼女ぉ!?

どうして!?

あの子ったら何やってるのよ!?


驚愕に瞳を見開くフェルト。
一瞬呆気に取られた後、スメラギはそう声を上げた。



すぐにアレルヤを迎え入れたプトレマイオス2。
彼女と一緒、という事からある人物を大半のクルーは想像していたのだが、


「彼女は、マリーです」

「マリー・パーファシーです」


アレルヤに紹介され、深々と礼をした少女は、銀色の美しい髪を靡かせた。
迎えに来たフェルトが半ば複雑そうな表情をするが、直ぐにアレルヤを迎え入れた。
スメラギと刹那も来ていたが、彼らも似たような反応だった。


「・・・スメラギ・李・ノリエガ、」

「言いたい事は分かるわ」


でも、後でね。
そう言いスメラギは一歩踏み出した。


「マリーさん、無事に助け出せたのね」

「はい・・・ご迷惑おかけしました」


苦笑するアレルヤにスメラギは首を振った。
「兎に角」と言いマリーを見やる。


「先ずはメディカルルームにでも行って体の調子を看て貰いなさい。それから落ち着きましょう」


そう言うスメラギにマリーは「ありがとうございます」と言い再度礼をした。

アレルヤの隣に立つマリー。
彼らは幸せそうに微笑み合うが、刹那は説明し難い感情に見舞われていた。


・・・何だ?


小首を傾げる刹那の隣で、フェルトも複雑そうな表情で彼らを見ていた。


戻ったアリオスの損傷状況を見て、イアンは頭を抱えていた。


「アレルヤの奴・・・!刹那に続いて機体をこんなにしやがって!」


荒れた雰囲気でパネルを叩くイアンに沙慈は苦笑した。


「尚且つ彼女を連れて戻って来ただと!?はどうしたっていうんだ、ったく!」


そう言うイアンに、思わず沙慈は「彼女・・・」と呟く。
彼が思い出したものは、勿論ルイスの事。

遠い地に居るであろう彼女に思いを馳せる沙慈に、赤ハロが近付いた。


『サビシイノ、サジ?サビシイノ、サジ?』

「そうだね・・・少し・・・」


首から提げているリングに触れながら、沙慈はそう答えた。



ブリッジでは、戻ったスメラギにラッセが声をかけていた。


「あのマリーって娘、超人機関出身なんだろ?」


ラッセの言葉を聞いていたフェルトのパネルを操作する手が一瞬止まった。
彼はそのまま「艦に乗せて大丈夫なのか?」と問うた。


「一通りのチェックは済ませたわ。それに、アレルヤには必要なの」


「何が?」とラッセは問う。
チェックはレーゲンが彼女を看たりした事は、既にクルー全員が知っていた。
だが、どうして彼女をそこまで面倒を見る必要があるのか、ラッセには分からなかった。

必要なのは、


「戦うための理由よ・・・」


スメラギの一言に反応したのは、フェルトだった。
彼女は「じゃあ、」と呟くと、パネルを操作する手を止めて言葉を続けた。


「・・・は、どうなるんですか」


が居なくなったからって、こんなの、
フェルトはそう言い、若草色の瞳を揺らした。





別の一室に案内され、アレルヤはマリーに椅子をすすめていた。
ありがとう、と嬉しそうに言うマリーにアレルヤは微笑む。

なんだこれいい雰囲気じゃないの。

そう思いながら、案内という名の見張りを任されたレーゲンは小さく息を吐いた。

頭部に包帯巻いてるから怪我してるのかと思いきや、何も無いし。
俺のいる意味あるの?

レーゲンがそう思った直後、背後のドアが音を立てて開いた。
そこから入ってきたのは、ミレイナだった。


「つかぬことを聞くです!」


突然現れたミレイナに、マリーも、彼女にカップを渡していたアレルヤも驚きで固まる。


「2人は恋人なのですか?」

「「えっ!?」」


突然の質問に、耐性も何も無いのか、2人が顔を赤くする。
それを勘違いしたのか、ミレイナは「おおー!」と両手を上げて歓喜の声をあげる。


「乙女の勘が当たってです!」

「ミ、ミレイナ!違うんだ!」


僕たちは!
アレルヤがそこまで言ったところで、ミレイナは上機嫌な様子で部屋から出て行ってしまった。
肩を落とすアレルヤは、マリーに「なんかごめんね?」と謝っている。
よくよく見るとマリーは満更でもなさそうに「ううん、」と頬を赤らめて言っている。

レーゲンは大きく肩を落とし、息を吐いた。

お願いだから、面倒な事は起こさないでくれよ?

そう思いながら近くにあった椅子に腰を下ろした。


暫くアレルヤとマリーは昔話に花を咲かせていた。
暢気な事で。と思いながら頬杖をつき、欠伸をするレーゲン。

そんな彼に、マリーが視線を向けた。


「・・・あの、レーゲンさん」


話しかけられると思っていなかったので、レーゲンは「んあ?」と気の抜けた声をあげてしまう。
それに気を悪くした様子もなく、マリーは柔らかく微笑んだ。


「先ほどは、ありがとうございました」


どうやら診断の礼を言っているようだ。
律儀な事で、と思いながらレーゲンは「いえいえ」と言い手を軽く振る。


「それが、俺のこの艦でのお仕事なもんで」

「でも、整備とかも結構手伝ってますよね」


アレルヤが会話に入ってくる。
別にマリーとの会話に無理に割り込んだ訳でも無く。

2人がお互いを見る視線は熱っぽさが無い。

なら、これは仲間内とか、家族愛的なものか。

それともまだ開花していないだけなのか。

そう思いながらも、きちんとアレルヤの言葉に答える。


「人員不足ですからね」


やれる事はやるぜ?
そう言いレーゲンは意地悪く笑った。

噂のちゃんがどう思うかな、この2人を見て。
誤解、勘違い、嫉妬、波乱、三角関係。
そんなおどろおどろしいものになっちゃうかな。

そう思いながらレーゲンは肩を竦めてみせた。


少し経って外に出る。
艦内を案内するようにとスメラギから通信が入ったので、とりあえずレーゲンが先陣をきる。
移動する中、通路の先にフェルトが居るのに気付く。

アレルヤが直ぐに「フェルト、」と呼び彼女にマリーを紹介しようとする。


「ちゃんと紹介してなかったね。これからトレミーで一緒に暮らす・・・、」

「ソーマ・・・ピーリス・・・!」


アレルヤの言葉を遮り、強い口調で言う。
そんなフェルトに、マリーは肩を跳ねさせ、アレルヤは瞳を丸くした。

顔をあげて此方を見たフェルトの瞳には、鋭さがあった。


「4年前、国連軍のパイロットとして、私たちと戦った・・・」


アレルヤが彼女の名を呼ぶが、気にした素振りも見せずにフェルトは続ける。


「その戦いで私たちは失ったの・・・!クリスティナを・・・リヒティを・・・モレノさんを・・・、」


フェルトの脳裏に、明るく笑うクリスティナとリヒテンダール。
隊長が悪い時に心配をしてくれたドクターモレノが過ぎる。

そして―――、


「・・・そして、ロックオン・ストラトスを!」


マリーを睨むフェルトの瞳には、鋭さがあった。
突然そのような事を言われたマリーは思わず一歩後退する。
そんな彼女を守るように、アレルヤが前に出た。


「わ、私・・・!」

「待ってくれ、フェルト!マリーは・・・!」

「分かっています!彼女のせいじゃないって!」


でも、言わずにはいられなくて・・・!
そう言いフェルトは瞳を細めた。
次に、真っ直ぐにアレルヤを見上げ、「どうして」と言い悲しげに瞳を細めた。


「どうして、アレルヤの隣にその人が居るの?」

「え?」

は、もういらないっていうの・・・!?」


フェルトの言葉に、アレルヤが瞳を見開く。
すぐに「そんな事無い!!」と言う彼だったが、どうもフェルトには信じられなかった。

まさか、はマリーの事を知っていたのではないだろうか。

恋人同士だったらいいな。

はそう言った。
4年前の最終決戦前に彼女と話した事を、フェルトは思い出していた。





『・・・二人は恋人同士じゃないの?』


クリスティナ等がこの二人の関係について話していた。
だから、とアレルヤは恋人なのだとずっと思っていた。
いつか私も二人みたいに誰かと幸せになれたら、なんて考えながらもロックオンと自分を重ねた事もあった。

しかし、その問いかけにが返したものは、


『・・・だったら、いいな』


思わず短く声をあげた。
アレルヤとは恋人同士だと思い込んでいたから。
は苦笑して、言葉を続けた。


『でも、私はアレルヤが大好き』


あまりにも幸せそうに、微笑んで言うものだから何故か自分が恥ずかしくなった。
はにこりと微笑んで、言葉を続ける。


『彼が、すごく好きなの』


きっと、二人は相思相愛。
もアレルヤも、お互いを想いあっているんだ。
そう思って、言葉を口にした。


『想い合っているんだね』


羨ましい、と思わず呟いた。
しかし、次に見せたの表情は、


『・・・ずっと、一緒はできないけれど』


酷く、悲しげなものだった―――。





「その人が居れば、は一緒じゃなくてもいいの・・・?」


の事も考えてあげて・・・!
フェルトは瞳を揺らし、そう言い去っていった。

残されたアレルヤとマリーは、複雑な表情で俯いた。
レーゲンは頭をかきながら、まじかよ、と思った。


「あの娘にとって、この艦のクルーは家族同然で彼女にとって此処は全てなんだよ」


レーゲンの言葉に、マリーが顔を上げた。


「だから、家族の仇であるんだ、君は」

レーゲンさん!!


アレルヤが諌めるような声を上げる。
それを無視し、レーゲンは続ける。


「けど、この艦に乗るからには君もクルーの一員になる」


先ずは、俺の家族だ。
そう言いレーゲンはマリーの頭をやさしく撫でた。


「妹同士、精々仲良くしたまえよ!一日一歩だぜ?」


そう言い笑んだレーゲンに、マリーも目元を和らげた。
アレルヤ以外にもこんな表情するのか。
そう思いながらレーゲンはマリーの頭を撫でた。

次に、固まっているアレルヤの名を呼ぶ。


「あー・・・あんま説教みたいなのはしたくねぇんだけどさ・・・」


いい濁す彼に、アレルヤは「はい、」と返す。


「今のお前の戦う理由は、マリーを守る事か?」

「僕が置いていったせいで、マリーはずっと一人だった・・・もう僕は、彼女を独りにしたくないんです・・・!」

「つまりは?」


彼女を守りたいんだろ。
そう問うレーゲンにアレルヤは頷いた。

まるで兄妹か恋人だな。

そう思いながらもレーゲンはアレルヤの肩を軽く叩いた。


「お前がどんなつもりであろうと、周りから見たら完璧に浮気扱いだからな」


噂のちゃんの事も、忘れるなよ。
そう言うとアレルヤは悲しげに瞳を細めながらも、「分かってますよ」と言い口の端を上げた。










((仕方ない子だ、少し頑張って貰おうか))


頭に声が響く。
若い、男の声?
次に響いたのは、可愛らしいソプラノボイス。


((ねぇ、リヴァイヴが持ってく新型、あれに乗せるんでしょ?))

((そうだよ。運がよければ彼女は革新の一歩を進むかもしれない))


そんな声を聞きながら、は深い深い底へと押し込められる感覚に陥られた。





アロウズの空母艦の廊下を、レイは早足で歩いていた。
駆け込むように入った先は、フレイの部屋。


「ピーリス少尉が戦死した」

「嘘だけどね。でも、ちょっと厄介になったんじゃない?」


本当にな。
レイはそう言い、手近な椅子に力なく腰を下ろした。

彼の瞳は焦りを含んでいるように見えた。
フレイはパネルを操作する手を止め、「どうしたの?」と問うた。


・ルーシェが記憶を取り戻した」

!! ちょっと、ヤバイんじゃないの!?」


ああ、ヤバイ。
そう言いレイは額を手で覆った。


「・・・ソレスタルビーイングに、賭けて見るか・・・」

「それはまだ早いんじゃない・・・?下手したら、あの娘・・・」


他に手が今は無い。
そう言いレイは苦々しげに息を吐いた。


「・・・きっとまた記憶は操作されるだろう」


恐らく薬物も大量に投与されている事も容易に想像が出来た。
レイは瞳を細め、フレイを振り返った。


「俺は彼女のサポートに回る。次の戦闘で、ソレスタルビーイングに賭けて見るしかない」

「・・・大丈夫なの?」


ピーリス中尉が居なくなってしまうとは思わなかったから。
フレイは不安げに瞳を揺らがせる。
そんな彼女に、レイは「大丈夫だ」とは言えなかった。





「新型?」


特命を受けたルイス。
そんな彼女の護衛にアンドレイも就くという。
ソーマの殉職もあり、補充人員が新型に乗ってきていた。

新型の機体と、運ばれてきた何やら大きなもの。
そして、GN−XVとアヘッド。


「補充人員の中には、大佐のよく知っている男が居るそうですよ」


先ほどリントに言われた言葉をカティはふと思い出した。
そのまま補充された人物を見ていると、懐かしく感じる、自分を呼ぶ声が響いた。


「大佐ぁー!」


聞き覚えのある声。
GN−XVから降りる中、片手をブンブンと振っている。
離れているのに、目敏くカティの姿を見つけた元AEUのエースパイロット、パトリック・コーラサワーは明るい笑顔を見せた。


「来ちゃいました!」


明るく言い放つパトリックに、カティは瞳を細め、「あの男・・・!」と思わず零した。
駆け寄ってきた彼を自室に招きいれ、カティは苛立ちからデスクを叩いた。


「貴官はどこまで馬鹿なのだ!」


アロウズに関わるなとあれほど言っただろう!
カティはそう言い立ったままのパトリックを睨み付けた。
が、それに怯んだ様子も無く、彼は彼女を見詰め返した。


「アロウズには自分から志願しました」


大佐を守りたいからであります。
真剣な表情でそう言うパトリックに、カティの瞳が微かに揺らぐ。

アロウズは未だに未知数。
そんな組織に、彼を巻き込みたくは無かった。

そう思っていたのに、


「ここに居れば、ガンダムと戦う事になる。死ぬ事になるぞ」


先の大戦でも、彼が生き残れたのは奇跡に近かった。
GN−Xは損傷も酷く、上半身も全て大破していた。
そこで生き残れたのに、この男はまた死にに行く気か。

カティはそう思いながら彼を見上げる。


「お言葉ですが、自分は7度のガンダム戦を行い、生き抜いてきました」


仲間からついたあだ名は、不死身のコーラサワーです!
何故か胸を張って言う男に、カティは思わず声を荒げた。


「それは当てこすりだ・・・!」

「いや〜!そうですか?」


褒めていない、と彼を叱咤したくもあったが、暢気に「参ったな〜」と言う男を見ていると、そんな気も失せてくる。
「まったく、」と言いカティは瞳を伏せた。


「ホント、人気者って辛いですよねー!」


声を上げて笑う彼は、確かに人望も厚い。
こんな彼だからこそ、惹かれるものがあるのだろうな。


本当に、まったくだ


そう思いながらカティは穏やかな瞳でパトリックを見詰めた。










プトレマイオス2は海中を進んでいた。
ブリーフィングルームでは、巨大なモニターにテレビ報道が映し出されていた。


『中東再編計画は、完全統一を目指す地球連邦政府にとって、当面の最重要課題です。
 民族的、宗教的に対立する国家間は、連邦軍によって国境線を確保、事態の安定を図ります。
 また、国内紛争に関しては、対立民族の一方をコロニーに移住させることも視野に入れ・・・・・・、』

「おいおい、無茶苦茶言ってるぞこの女」


ロックオンがそう言い大げさなリアクションをとる。
集まったマイスターたちも、同意権なのか複雑な表情をしていた。


「それでも、世論は受け入れるでしょうね」


スメラギの言葉に、アレルヤが「何故です?」と問う。
「みんな困らないからよ」とスメラギは答えて、言葉を続けた。


「太陽光発電と軌道エレベーター事業、コロニー開発で連邦の財政は安泰・・・。
 その恩恵を受けて、連邦市民の生活水準も向上し、アロウズと保安局で反政府活動も抑えつつある。
 問題もなければ実害もない、文句なんか出やしないわ」


眉を寄せて言うスメラギ。
次に、刹那が口を開いた。


「だが、その中で一方的に命を落としている者たちが居る」


そんな世界が正しいとは思えない。
刹那の言葉に、各々が頷く。
ロックオンが、次に苦々しげに言葉を発した。


「アロウズを創った野郎だ」


そいつが元凶だ。
強い口調で言うロックオン。
その言葉に、ティエリアが真紅の瞳を揺らした。





『な、何故だ?何故、僕と同じ容姿をしている・・・!?』

『それはDNAが同じだからさ』


自分と全く同じ容姿をした人物。
彼は自分をイノベイターの、リジェネ・レジェッタと名乗った。


GN粒子を触媒とした脳量子波での感応能力。
そして、それを使ってのヴェーダとの直接リンクが出来る事。
遺伝子操作とナノマシンによる老化抑制。


((僕たちはイオリア・シュヘンベルグの計画に必要な存在だ))


脳量子波を解して、頭に声を直接呼びかけてきたリジェネ。

計画の段階についても、彼は何故か教えてきた。


計画の第1段階は、ソレスタルビーイングの武力介入を発端とする世界の統合。
第2段階は、アロウズによる人類意思の統一。
第3段階は、人類を外宇宙に進出させる来るべき対話に備える。

それが、イオリア計画の全貌だと、


((そう、宇宙環境に適応した僕らが、人類を新たなフロンティアに導くのさ))


確かにリジェネはそう言っていた。





ティエリアは彼の言葉から、第2段階のアロウズによる人類意思の統一を思い出していた。
つまり、イノベイターである彼らがアロウズの創始者という事もなる。





『人類を新たなステージへ導くためには、大きな波が必要だ』


変革という波がね。
リジェネはそう言った。
しかし、アロウズの卑劣な行為を見過ごす事はどうしても出来ない。


『変革は痛みを伴う・・・君たちだってそうしてきたじゃないか』


君たちは、イオリアの計画の障害となっている。
そう言いリジェネは自分と同じ真紅の瞳を細めた。


『僕たちは、計画のために生み出された。
 僕たちの存在意義は、計画を遂行し、それを完遂する事』





つまりは、





『君は、自分の存在を自分で否定している』





リジェネの一言は、ティエリアの心に深く突き刺さった。


イノベイター・・・計画を遂行する者・・・。
だとすれば、自分の進むべき道は、彼らと共に?


そう悩んだティエリアの心に、微かな光が射された。





((そうやって自分を型にはめるなよ))





頭に響いた声。
一体これは、と思った直後、懐かしい姿がティエリアの脳裏に過ぎる。





((四の五の言わずにやりゃいいんだ。自分の思ったことを我武者羅にな))





俺たちは、イオリアの爺さんにガンダムを託されたんだぜ?
そう言い彼は、微笑んだ気がした。

ロックオン、

そう呟き、瞳を伏せた。





「兎に角、今は出来る事をやりましょう」


スメラギの言葉で、ティエリアはハッと我に返った。
解散のようだったので、ティエリアもそれに続いた。




ティエリアの悩みと恋愛複雑模様。