「それはいいご趣味ですねえ」

「ありがとうございます」


フェルトとマリー、スメラギの手によって完璧に女装という変装をしたティエリアはパーティに紛れ込んでいた。
王留美自らもこのパーティに参加しており、サポートの刹那は外の車で待機をしている。
声も女性のものになったティエリアは、見目麗しい令嬢へと化していた。
そんな彼の下に、パーティに参加している男性たちが集まっていた。


「今度貴女をエスコートさせていただきたい」

「ええ、よろこんで」


表面上でそう言い取り繕いながらも、ティエリアは笑顔の下では苛立っていた。


連邦の権力に縋り、利権を求める屑共が・・・!

((もうすぐだよ・・・))


ティエリアの頭に、リジェネ・レジェッタの声が響く。
それに思わず真紅の瞳を見開き、背後から近付く気配に身を硬くした。


「失礼」


良く通る声がホールに響いた。
ティエリアの周りに居た他の男性客が感嘆の声を漏らす。

これが、自分たちの、自分の、敵。

そう思い、ティエリアは振り返った。
そこに居た人物は、柔らかい笑みを浮かべ、「はじめまして」と言った。


「リボンズ・アルマークと申します。一曲いかがですか?」


短く切りそろえられた若草色の髪と目を持つ少年が、そこに居た。
彼は恭しく片手をティエリアに差し出し、柔らかく微笑んだ。


ホールの中央で、一組のペアが軽やかなステップを踏んでいた。


ティエリアとリボンズという容姿の整った二人のダンスに、会場中の視線が集まる。
集っていたアロウズ上層部のビリー、アーサー、グッドマンも感嘆の息を漏らしていた。


「まさかそのような格好で現れるとは思わなかったよ」

「マイスターは男だと知られている。戦術予報士の指示に従ったまでだ」

「そうだね、唯一の女性は損失したからね」


損失。
ルットーレが大破し、ソレスタルビーイングは去っていった。
まさかアロウズの人物はがソレスタルビーイングの手によって救い出されていた事を知るはずもない。
損失扱いとなっているそれに、ティエリアは真紅の瞳を細めた。


「まぁ、無事みたいで良かったよ。彼女はまだ僕にとっても必要だからね」

「彼女にはもう手を出させない」


そう言い、ティエリアはリボンズを睨み上げた。










外では刹那が端末を弄っていた。
車に寄りかかりながら、に連絡を入れる。
自分は無事で、ティエリアもうまくやっている事を。

これで少しはも安心してくれるだろう。

そう刹那が思った時、背後から靴音が響いた。
反射的に端末をしまい、振り返った刹那の視線の先に居た人物は、可愛らしいドレスを身に纏った少女だった。
「あの、」と言う少女は、微かに笑みを零した。
見覚えのある少女に、刹那は目を見張る。


「君は、日本に居た・・・、」

「ルイス・ハレヴィよ。刹那・F・セイエイ」

 俺を覚えて?」

「珍しい名前だったから」


そう言い、ルイスははにかんだ。
実際、沙慈と関わりを持っていたからだろうが。
刹那はルイスに誘われるまま、噴水の傍へ寄った。


「ねぇ、どうして此処に?」


ルイスの問いは、刹那も聞きたいところだった。
が、今は下手に詮索をするよりも、彼女の問いに答える事にした。


「仕事で来ている」

「どんな仕事?」

「軌道エレベーター関係の」


そう言うと、ルイスは「そう・・・」と言い視線を彷徨わせた。
が、直ぐに視線を刹那に戻すと、彼に問いかけた。


「ねぇ、彼は元気?」

「彼?」

「ほら、以前、貴方の家の隣住んでた・・・」

「沙慈・クロスロードの事か?」


そう問うとルイスは頷いた。
沙慈は大切な人が傷付き、失ったと言っていた。
彼らの幸せが、壊された事は恐らくスローネ・ドライの引き起こした結婚式場襲撃事件の事だろう。
ハレヴィ家が襲撃され、ルイスも傷付いたという事が予想できたが、


「・・・以前、仕事先で偶然出会った」


刹那がそう答えると、ルイスは「ほんとに?」と言い瞳を輝かせた。
沙慈の事が気懸かりだったようで、今でも彼を想っている事は見て取れた。
刹那は頷き、彼の事を話す。


「ああ、コロニーで働いていた」


そう言うとルイスは「そっか・・・」と言い嬉しそうにはにかんだ。


「そう・・・沙慈は宇宙に・・・」


そう言いルイスは自分の左手に手を添えた。
その指先には、金色の指輪が輝いていた。


「夢・・・叶えたんだね・・・」


刹那は何気なく其方に視線をやったが、彼女の左腕に義手の繋ぎ目模様を見つけ、思わず反応してしまった。
「その手、」と言う刹那にルイスは気まずそうにそれを隠し、視線を外した。


「ちょっと、事故でね」

「!」





『君たちのせいで、僕の好きだった人は傷ついて!』





刹那の頭に、沙慈の言葉が響く。
すぐに謝り、「余計な事を聞いた」と刹那は言う。
それにルイスは「いいの」と返して力なく微笑んだ。


「・・・ねえ、もう一つ良い?」


ルイスはそう言い、少し視線を彷徨わせた後、口を開いた。
何かを思い悩む様子の彼女は、刹那を見上げ、怖々と言った様子で言う。


・・・って、今どうしているか知ってる・・・?」

・・・」


ルイスからその名を聞いて、刹那は言葉を濁す。
そんな彼の様子から、ルイスは答えを期待出来なくなり、瞳を伏せた。

4年前。

ガンダムにより家族を失った。

その時、赤と白のガンダムが何故か守る様に前に出てきた。
痛みで意識が朦朧とする中、確かにそれを見た。
まるで私たちを守るように、そこに舞い降りたそれは瓦礫をどかしてくれた。
救助も直ぐに呼んでくれたのは、きっと後日見舞いに来てくれた少女。


月明かりに照らされ、彼女はとても悲しげに微笑んでいた。





『・・・ごめんね、ルイス』





良い義手の医師の連絡先を教えてくれた彼女は、涙の溜まった瞳を揺らした。





『・・・守れなくって、ごめんね。今度こそは私、ちゃんとやるから』





『行ってくるね』と彼女は言った。
それ以来、彼女は見ていない。
4年経って再会した彼女はアロウズに居た。





・ルーシェ。中尉になりました』





そう言い無表情で、虚ろな瞳をしていた彼女。
その後も何度か彼女を見かけた事もあったが、4年前の彼女とは全く違う感じがしていた。
しかし、彼女と共に戦える事。
今度は自分が彼女を守れるようにしようと決意した戦いで、彼女とソーマは居なくなってしまった。

は戻ってきたが、直ぐにどこかへ連れて行かれてしまった。
その時はミスター・ブシドーと少し親しげに話していて、まるで4年前の彼女みたいだった。
しかし、次に見た彼女は、レイ・ザ・バレル大尉に支えられていた。
目は虚ろで、無表情。
何が彼女をそんなにさせているのか、ルイスは微かに疑問を抱いていた。

しかし、再び彼女に近付くより先に、彼女は新型MAに搭乗し、再びルイスの前から姿を消してしまった。

持ち帰られたバレル大尉から戦闘記録映像を見せて貰ったが、そこに映っていたのは、

ルットーレの、大破する瞬間だった。

ガンダムの攻撃を受け、は、


「・・・彼女に、会ったのか?」


思考の海に沈んでいたルイスは、刹那の声で呼び戻された。
思わず顔をあげ、刹那を見やる。
彼の深紅色の瞳は戸惑いから揺れていた。


「・・・会った・・・会ったわ・・・。まるで人形みたいになってた・・・」


ねえ、教えて。
ルイスは刹那を見上げる。


に、何があったの・・・?」


刹那が知るはずも無い。
それはルイスにも分かりきっていたが、聞かずにはいられなかった。


「・・・すまないが、俺は彼女の事をあまり知らない・・・」

「・・・そういえば、恋人は?、恋人居なかったっけ?」

「・・・それは、4年前の話だ」


だとすれば、も想っている相手と離れてしまったのだろうか。
だから、あんな状態になってしまったのか。
そう思いながらルイスは「そう、」と言い俯いた。

損失。
と聞いた。

ソレスタルビーイングが、を。
パパとママのみならず、まで。

そう思うルイスの瞳には、憎しみの色が深く現れていた。










パーティ会場内では未だにリボンズとティエリアは手を取り合ってダンスをしていた。


「リジェネ・レジェッタを差し向けたのは君か?」


ティエリアの言葉にリボンズは「まさか」と言い笑みを深くした。


「彼の悪戯に僕も振り回されているよ」

「イオリア・シュヘンベルグの計画を実行していると聞いた」

「信じられないかい?なら、今すぐ君に返してもいいよ」


そう言い、リボンズはティエリアの耳元に口を寄せた。


「ヴェーダへのアクセス権を」


そう囁かれ、ティエリアは驚愕に真紅を見開いた。

自分はヴェーダにアクセスが出来なくなった。
それを彼は、

そう思った瞬間、ティエリアは動揺から体制を崩すが、リボンズが彼の腕を引き、フォローをした。
そのまま続くダンスの中、ティエリアが瞳を鋭くする。


「アクセス権?君が掌握していると言うのか?」


その問いにリボンズは答えず、鼻で笑うだけだった。
すこし経って、曲が終わる。
それによりダンスも自然に終わり、会場は拍手が沸き起こった。


「少し場所を変えようか」


そう言い歩き出すリボンズに、ティエリアは続いた。

別室に移り、ティエリアは直ぐにリボンズに先ほどの事を問いかけた。


「ヴェーダを掌握しているというのは本当なのか?」

「身に覚えがあるはずだよ?」


リボンズに言われ、ティエリアは4年前の事を思い出す。
「まさか、」と言い真紅の瞳を見開く。


「スローネに行ったトライアルシステムの強制解除は・・・!!
 ・・・とうことは、擬似GNドライブの国連軍へ渡したのも!何故だ!?」

「ソレスタルビーイングの壊滅は、計画の中に入っていたからね」


本来なら、君たちは4年前に滅んでいたんだ。
淡々と言うリボンズにティエリアは瞳を見開く。

それが、計画ならば、


「そんなはずはない!」


ティエリアは思わず声を張っていた。
済まし顔のリボンズに、掴みかかる勢いで言う。


「僕たちは、イオリア・シュヘンベルグに託された!」


イオリアの計画に、ソレスタルビーイングの滅びが入っているのなら、


「ガンダムを、GNドライブを、トランザムシステムを・・・!」


何故それは与えられた?











「沙慈・クロスロードに会った時、こう思った。彼は今でも君の事を・・・、」


刹那がそこまで言うと、ルイスは突如ハンドバックを落とし、両手で頭を押さえた。
突然苦しみだしたルイスに刹那は驚き、駆け寄ってその肩を支える。


「どうした!?」

「准尉!」


車で待機していた彼女の連れの男も駆け寄ってきた。
会場から出てきたらしい男も駆け寄ってきて、「どうしたんだい!?」と聞いてくる。


「分からない、急に苦しみ出して・・・」


刹那がそう言うと、頭上から「き、君は!?」と声が降りてきた。
反射的に顔を上げると、そこには眼鏡をつけ、髪を結わいた男が驚愕の表情で見下ろしていた。
刹那にも見覚えがあった、この男は、


「この青年は、ソレスタルビーイングのメンバーだ!!」


スメラギを迎えに行った時に、傍に居た男。
しくじった!
刹那はそう思いルイスを近くに居た男に預けるとその場から駆け出した。
背後では男が警備兵を呼ぶ声が響いている。

走りながら端末を取り出し、ティエリアに連絡を入れる。
そのまま刹那は、ダブルオーを潜ませている場所へ向かった。










「イオリアにガンダムを託された僕は思う。君たちは間違っていると!」


そうだ、と言いティエリアは拳を強く握る。


「僕は自分の信じた道を進む!愚かだと言われようが、我武者羅なまでに!!」


そう、彼に教えてもらったままに。





((そうやって自分を型にはめるなよ))

((四の五の言わずにやりゃいいんだ。自分の思ったことを我武者羅にな))

((俺たちは、イオリアの爺さんにガンダムを託されたんだぜ?))





ロックオンは、迷い悩む自分にそう言い背中を押してくれた。
だから、これでいい。
胸を張ってそう言える。

そう思うティエリアに、リボンズは笑い声をあげた。


「君は思った以上に人間に感化されてるんだね」


そう言いリボンズは笑みを隠すように口元に手を当てる。


「あの男に心を許し過ぎた。ロックオン・ストラトスに」


全てを見抜いた様に、ティエリアを見据える。
それに思わず身を硬くする。


「計画遂行より、家族の仇討ちを優先した、愚かな人間に・・・!」

!! 貴様ァ!!!


ロックオンの侮辱。
それに激昂したティエリアがオーバーニーストッキングに忍ばせていた銃を素早く取り出し構える。
躊躇いなくリボンズを打ち抜こうとした其れを、別の銃声が響き、撃ち落した。
弾丸はティエリアの銃のみではなく、彼の背後にあった鏡を割った。

衝撃に痛む手を抑えつつ、ティエリアは舌打ちをしてドアの方を見やる。
そこには銃を構えた、若草色の髪色の少女が居た。


「ヒリング・ケア、イノベイターよ」


流石に分が悪い。
それに端末に刹那から連絡が入っている。
向こうも何かがあったのだろう。
そう思いティエリアは駆け出し、ガラスの窓を突き破ってそこから脱出した。










ダブルオーに無事乗り込み、ティエリアのセラヴィーとも無事合流を果たした。


「すまない、俺のミスだ」


刹那の言葉に、ティエリアは「だが、」と言う。
モニターに映ったティエリアが真紅を細める。


『見つけたぞ、刹那。世界の歪みを・・・』


そうさ、と言いティエリアは言葉を続ける。


『僕たちはガンダムで、世界の歪みを破壊する!』


ティエリアがそう言った直後、センサーに反応があった。
双方同時に其方を見やると、前方から赤い機体が迫ってきていた。


「あのガンダムは!」

『スローネの発展型!?ま、まさか!』


ガンダムの姿をした赤い機体は巨大なGNバスターソードを抜き、立ち塞がった。
ガンダムスローネツヴァイの発展型。
となると、パイロットは、

そう思っていると、赤いガンダムがファングを放った。


「速い!」

『前とは違う!』


スピードを増したファングに、機動性の低いセラヴィー狙われる。
2基のファングがセラヴィーに直撃し、爆発を引き起こす。


ぐわあああああああ!!

ティエリア!


セラヴィーが落下する中、赤いガンダムはGNバスターソードをダブルオーに振り下ろした。
それをGNソードで受け止める。


『物足りねぇな!ガンダムゥ!』

「生きていたのか・・・アリー・アルーサーシェス!」


通信がつながれ、相手の声が響く。
おうよ、と答えたサーシェスは言葉を続ける。


『けどなぁ、お前らのせいで、体の半分が消し炭だ!!野郎の命だけじゃあ、物足りねぇんだよ!』


野郎の、命。
これは誰の事を指しているのか。
刹那には直ぐに理解が出来、思わず眉を潜めた。

力任せな攻撃に防御を崩され、上から斬りつけられる。
GNソードで防ぎながら、ダブルオーは降下する。


「貴様!」

『再生治療のツケ払えよ!てめぇの命でな!』


そう叫びながら、サーシェスはファングを回収し、再度斬りかかった。




サーシェスどーん!
ごきげんよう♪の後のティエリアがすきです。
その顔で屑とかwwwwww