海中を走行するプトレマイオス2。
ブリッジで待機していたスメラギの耳にフェルトの声が入る。
「ダブルオーとセラヴィーが、戦闘状態に入ったようです」
「やはりアロウズに捉まった・・・ガンダムで行かせて正解ね」
スメラギはそう言い、続けて指示を出す。
「待機中のアレルヤたちに連絡を」
「了解です!」
ミッションプランの移行。
スメラギはそれを考えながら、状況を頭の中で整理していた。
GNソードライフルで迫る赤いガンダムを迎撃するが、1発はかわされ、もう1発はGNバスターソードで薙ぎ払われた。
『消えろ、クルジスのガキが!』
斬りつけられ、咄嗟に防ぐが吹き飛ばされる。
追撃しようとする其れを、背後からセラヴィーがビームを放つ事で抑える。
『貴様が、ロックオンの仇かァ!』
激昂した様子のティエリアがGNバズーカを放つ。
が、それを素早くかわしたサーシェスはそのままの勢いでセラヴィーの懐に飛び込む。
GNバズーカをGNバスターソードで切り裂き、爆発させる。
爆煙の中からアームが伸びてきて、サーシェスのガンダムを掴む。
『仇討ちをさせてもらう!』
一切怯む様子を見せないティエリアは、声を張った。
『自業自得だ!右目が見えねぇくせに戦場に出て来るたぁな!』
『貴様ァ!』
セラヴィーの右膝のビーム砲の先からマニュピレーターが伸びる。
現れた隠し腕が飛び出したビームサーベルを掴み、攻撃をしかけるがかわされる。
『避けた!?』
『こっちにもあるんだよォ!!』
赤いガンダムの両足の爪先からビームサーベルが伸びる。
不意をつかれたセラヴィーの右の隠し腕が切断され、爆発を起こす。
直ぐにサーシェスにダブルオーが斬りかかるが、GNバスターソードで受け止められる。
刹那が「ティエリア!」と言うとそれに応えるようにセラヴィーがビームサーベルを抜いて斬りかかる。
が、それも足の先のビームサーベルにより受け止められた。
ファングが放たれ、ビームによりダブルオーとセラヴィーが吹き飛ばされる。
『うわあああ!』
『まとめてお陀仏!!』
セラヴィーに向け、GNバスターソードを振りかざす。
そこに、後方から遠距離ビームが放たれる。
咄嗟にサーシェスはそれをかわし、そちらに目をやる。
『援軍?4対1か・・・』
GNバスターソードで防ぐが、かなりの衝撃がくる。
ケルディムが射撃を続け、飛行形態となったアリオスもビームを放つ。
『流石に分が悪い』
そのままサーシェスは撤退をしていった。
すぐにMS型に戻ったアリオスがそれを見送り、刹那とティエリアに通信を入れる。
『刹那、ティエリア、スメラギさんからの帰還命令だ』
そう言うアレルヤを無視し、サーシェスを追おうとセラヴィーが動く。
セラヴィーの型をアリオスの腕で掴み、『ティエリア!』と彼を諌める。
が、激昂したティエリアはビームサーベルを掴んで右腕を使い、アリオスを振り払った。
『何故止める!?奴はロックオンの仇だ!』
『兄さんの、仇・・・?』
ティエリアの言葉を聞いたロックオンが、訝しげな声を出す。
『・・・やはり、生きていた・・・アリー・アル・サーシェス!』
悔しげに拳を握り、刹那は苦々しげにそう吐いた。
「ガンダム、各機収容しました」
「全GNドライブ、トレミーとの接続作業開始です!」
プトレマイオス2に戻ったガンダム。
ブリッジではミレイナとフェルトが収容作業を行っていた。
「宇宙に上がる?」
ラッセの言葉にスメラギが頷く。
「私の予測だと、12時間以内に敵が包囲網を敷いてくる。逃げられないわ。
それに、ラグランジュ3に行けば、ガンダムの補修とサポートメカの受け取りもできる」
スメラギの言葉に、ラッセは「分かった」と言い前を向く。
「フェルト、ミレイナ、大気圏離脱シークエンスに入ってくれる?」
「了解です!」
「了解しました」
フェルトとミレイナにそう指示を出し、スメラギはプランを練る為に思考を働かせた。
は格納庫で皆を出迎えていた。
戻った機体を見上げ、彼女は不安げに瞳を細めた。
「・・・損傷が・・・、」
思わず小走りでダブルオーから降りてきた刹那に駆け寄る。
彼女の姿を目に留めた各々は、視線を向ける。
それに気まずげに視線を彷徨わせながら、は刹那に言う。
「・・・戦闘、あったって聞いて・・・」
「ああ・・・大事無い」
「でも!」
セラヴィーとダブルオーの損傷。
それに思わず声を張ったが、すぐに口を噤んだ。
は唇を噛み、顔を俯かせた。
ほんと、何してるんだろ、私。
こんな所に一人で残って、皆は戦っているのに、何もしないくせに心配だけはして、
そう思うの肩を優しく叩き、刹那は彼女を見下ろした。
「ブリーフィングルームへ行く。も来てくれ」
「・・・・・・、」
何も答えなかったが、頷いたに刹那は微かに笑みを向けた。
そのまま彼女の肩を抱き、動く様に促す。
そんな二人の様子を、アレルヤは複雑そうな表情で見詰めていた。
着替えを済ませた後、ブリーフィングルームに刹那はと共に来ていた。
途中で会った、沙慈も呼んで出会った彼女の事を伝える。
「ルイスと会った?」
驚いた様子の沙慈に刹那は頷く。
「偶然にな」と返すと彼は少しだけ間を空け、「元気だった?」と問うた。
「ああ・・・お前の事について聞かれた。宇宙で働いていると答えた」
「そう、そうなんだ・・・」
彼女が元気そうな事。
自分がソレスタルビーイングに居る事を伝えていない事。
その事から安堵の息を吐く沙慈。
彼の様子に、刹那は疑問を口にした。
「連絡をとってないのか?」
刹那の言葉に沙慈は言葉に詰まった。
「それは・・・」と言い言葉を濁す彼は、そのまま黙ってしまった。
そこに、ドアが開いてロックオンとティエリアが入室してきた。
何かを話していたのか、ロックオンが「あのガンダムは何なんだ」と言う。
自然に、刹那たちの視線は彼らに向けられる。
「それに、兄さんの仇って・・・」
「言葉通りの意味だ。あのガンダムに乗っていたアリー・アル・サーシェスがロックオンの命を奪った」
淡々とした様子だが、怒りが見て取れる。
ティエリアはそう言うと真紅の瞳を細めた。
「アリー・アル・サーシェス?」
ロックオンが復唱する。
そこでまたドアが開き、アレルヤとマリー、レーゲンも入ってきた。
「詳しく聞かせてくれ」
真剣な表情でそう言うロックオンに、ティエリアは口を開いた。
4年前の最終決戦の最中、ロックオンの怪我について。
そして、オレンジハロに残っているサーシェスと戦った戦闘記録についても、全てを話した。
全てを話し終えた時、ロックオンは「なるほどね」と言い壁に寄りかかった。
「兄さんは家族の仇を討つために、そのサーシェスって奴を・・・」
そう言い、ロックオンは笑い声を上げた。
そんな彼に苛立ちの様子を見せながら、ティエリアが「何故笑う!?」と問う。
「世界の変革より、私怨か・・・兄さんらしいと思ってな」
「不服なのか?」
否、と彼は直ぐに否定をした。
「尊敬してんだよ。家族が死んだのは、10年以上前の事だ」
俺にはそこまで思い詰める事はでき無ぇ。
そう言い、ロックオンは肩を竦めて見せた。
「仇が此処に居るとしてもか?」
唐突に口を挟んだ刹那に、ロックオンは「何?」と言い彼を見返す。
どういう事だ、と言う彼に刹那は言う。
「俺はKPSAに・・・お前から家族を奪った組織に所属していた」
家族を奪う、テロ。
無関係な人間を巻き込む、無差別攻撃。
はひゅ、と喉を鳴らした。
彼女の脳裏には、またベルリン市街を無差別攻撃した時の記憶が蘇っていた。
輪から一歩下がっているに気付かず、ティエリアが諌める声をあげる。
「刹那」
「何もそこまで、」
「言うべき事がある」
刹那が言葉を続ける。
「あの時、俺が仲間を止めていれば・・・、ロックオン、否、ニール・ディランディは、マイスターになる事も無く・・・」
「・・・刹那、」
アレルヤが零す。
悔やんでいる様子の刹那を見ていたロックオンは、小さく息を吐いて口を開いた。
「その時、お前が止めてたとしても、テロは起こってたさ。そういう流れは止められねぇんだ」
彼の言う事は尤もだった。
私も、ステラが乗らない様に戦った。
それは逆も有り得るし、二人が乗らなかったとしてもスティングや、別のエクステンデッドが乗っただろう。
そう思い、は苦しげに息を吐いた。
だが、と刹那が直も言葉を言おうとするが、ロックオンが片手を上げてそれを制した。
「全て過ぎた事だ」
ロックオンの言葉に、刹那が口を噤む。
「昔を悔やんでも仕方ねぇ。そうさ、俺たちは、過去じゃなく、未来のために戦うんだ」
ロックオンの言葉を聞いて、ティエリアは部屋から出て行った。
静かになった室内で、ふとマリーが声を上げた。
「・・・?」
マリーの声に反応して、全員の視線がに集中する。
彼女は胸と首元を押さえ、苦しげな様子だった。
それに慌てて、思わずマリーが駆け寄る。
「!」
が、彼女よりも早く、刹那が間に入り彼女の両肩に手を置く。
「どうした」と問う刹那には体を震わせた。
「・・・テロ・・・無差別な・・・殺戮・・・!」
「!」
『彼女は巨大MSに乗り、何の布告も無しに街を焼き払った』
過去にヨハン・トリニティにより告げられた真実。
それを思い出し、刹那は目を見張った。
が、直ぐに彼女の背を擦り、落ち着くようにあやす。
「大丈夫だ、」
「目を閉じると・・・今でも・・・!」
逃げ惑う人々。
容赦なく降り注いだビームの雨。
「・・・ステラ・・・ネオ・・・!」
目の前で、私のせいで、落とされた二人。
ずっとずっと、呼びかけてくれていたのに、気付けなかった、愛しい人、
「もう、分かんなくなってきちゃったよ・・・!」
「、」
もう頭がぐちゃぐちゃだ。
自分がどうするべきなのかも検討もつかない。
本当に自分は此処に居て良いのか、
待っているだけなんて、心配するだけなんて、
縋るように、は顔を上げた。
刹那と、記憶の中に居る深紅色が重なる。
「・・・も、分かんないよ・・・、」
シン、
そう呟いて、は悲しげに瞳を伏せた。
「此処に、居るだけで良いんだ」
「だめ、それじゃ私・・・、」
黙ってしまった。
彼女は「ごめん、」とだけ言うとブリーフィングルームから出て行った。
彼女を追う為か、刹那もドアへ向かう。
そんな彼に、アレルヤが声をかけた。
「は存在意義を求めているんだよ」
ずっと黙っていたアレルヤの言葉に、刹那の足が止まる。
「彼女は、今でも無差別攻撃で市街を襲ってしまった事を気に病んでいる」
「・・・そうだな」
「何らかの理由があってそれをする。彼女の意思じゃない。彼女の行動は優しさ・・・誰かの為によるものだから・・・」
だから、と言いアレルヤは悲しげに瞳を細めた。
「僕たちが、それの引き金になっちゃいけないんだ」
「・・・俺に、もっと上手くやれと言うのか?」
刹那の言葉に、アレルヤは瞳を鋭くさせた。
振り向いた刹那も、瞳を鋭くさせていた。
「今を支えているのは俺だ。お前はお前の出来る事をしろ」
「・・・好きなのかい?」
彼女が。
そう問うアレルヤに、刹那は「だったら、」と零した。
「だったら、どうなんだ」
そう言い、刹那はブリーフィングルームから出て行った。
彼が出て行ったドアを真っ直ぐ見据えながら、アレルヤは金と銀の瞳を細めた。
強気な刹那。なんかやかましくなったアレルヤ。