『刹那も好きだよ』


彼女はそう言い、柔らかく微笑んだ。
反復して問うと、彼女は頷いた。


『うん、私、皆を守りたい』


好きな皆を。
そう言うと彼女に、少しだけ黙った後、「そうか」とだけ呟く。


『お前は、守る為に戦っているんだな』

『そうだね、それが私の意味だから』





存在意義。
それを失った彼女は、一体どうなる?





発進したダブルオーは、急速で接近する機体をモニターで捕らえていた。


「あれか?擬似太陽炉搭載型・・・」

「・・・あれ・・・なんか、乗ってる人・・・違う・・・」


違う?
刹那が問う前に、敵機が両足に装着していたブースターを切り離した。
あれのせいで急速に迫ってきたのだろう。

擬似太陽炉を搭載している為、赤いGN粒子が溢れている。
やはりあれはアロウズの新型。

確定した。
刹那はそう思いながらGNソードライフルモードに切り替え、ビーム攻撃を行う。
が、思いの外素早い動きで避けられた。


「この機動性・・・!また新型か!」


更に追撃をするが、次はGNフィールドで防がれた。
それに刹那との瞳が見開かれる。


「あれは!?」

「・・・GNフィールド・・・!」


黒と赤を基準とした機体。
迫る機体に、刹那がGNソードで迎え撃つ。
それには息を飲み、「だめ!」と声を出した。

敵機の右手の指の部分からビームサーベルが伸び、振りかざされる。
ダブルオーはそれをGNソードで受け止めるが、5本のビームサーベルが、ひとつに纏まり威力が増した。
勢いのまま、GNソードが切断される。

を膝上に抱えたままの刹那が驚きの声を上げる。
瞳を鋭くさせたは、反射的に腕を伸ばしていた。

ダブルオーの左手が動き、GNソードを敵機体に振りかざす。
が、素早い動きでそれをかわされる。
直後、ダブルオーの腹部にカウンターの蹴りを食らわされた。

機体全体に、衝撃が響く。


「くっ!」

「・・・!!!」


トランザムが使えれば!
刹那がそう思い、前を見据える。
はぐ、と歯を食いしばって悲鳴を耐える。

眼前に迫った機体に、瞳を見開く。


・・・来ないでぇ!!!


がそう叫んだ瞬間、敵機体が動きを変えた。
直ぐに後方からケルディムのビーム攻撃の援護がおこる。


『刹那!!大丈夫か!?』


ロックオンの声が通信越しに響く。
プトレマイオス2からもビーム攻撃の援護が入る。
これはティエリアが砲撃を担当しているようだった。
集中砲火を回避し、敵機は撤退をしていった。


「・・・何だ?逃げた?」


刹那が呟く。
はなんともいえない感覚に見舞われ、自身の体をかき抱いた。


『敵機、撤退していきます!』

『ガンダム収容後、最大加速でラグランジュ3に向かいます』

『了解しました!』


フェルトとスメラギの声が響く。
ダブルオーとケルディムは指示に従い、プトレマイオス2へ戻る。





「なあ、敵さんどういうつもりだ?」

「こっちにも軍が展開している事を告げ、新型の性能を惜しみなく示す」


牽制と警告よ。
そう言うスメラギにラッセは小さく息を吐いた。


「オーライザーがますます必要になってきたな」


ええ。とスメラギは頷く。
そうしながら、これもマネキンの陽動?と考える。
そんな彼女の前では、砲撃を担当していたティエリアが、背もたれに寄りかかった。


間違いない、あの新型のパイロットはイノベイターだ


ヴェーダを掌握している彼ならできる。
GNフィールドを使う機体を開発することも。

そして、

そこまで考えているティエリアの様子が気になったスメラギが彼の名を呼ぶ。


「ティエリア?」


どうかした?
そう問う彼女に、ティエリアは気付いたら首を振っていた。
そんな自身に彼は戸惑う。


彼の存在をなぜ伝えない?・・・迷っているのか・・・僕は・・・





格納庫に収納されたダブルオーを出迎えたのは、アレルヤだった。

が刹那と一緒にダブルオーに乗っている。
そのまま発進した。

それを聞いて、正直気が気ではなかった。

コクピットの中では、刹那の膝上には居た。
彼女は自身を抱くように、腕を回していた。


「・・・、」

「・・・感じた、何か、怖い感じ・・・」


感じた。
は言っている。
恐らく、ティエリアの見つけた世界の歪みと関係しているもの。
刹那はそう感じていた。

後ろから彼女を優しく抱き締め、「、」と彼女の名を呼ぶ。
メットを取っているので、彼の頬が直に当たる。
パイロットスーツ越しに彼の体温を感じ、は瞳を大きくした。

優しく抱いてくれる彼の吐息が、耳元をくすぐる。

思わず体を硬くしたは、頬を仄かに赤く染めた。


「せ、刹那・・・?」

「すまなかった。勝手にお前を連れ出して」


久々に乗った気がしたコクピット。
ガンダムの、コクピット。

アロウズの機体とは違い、それは慣れ親しんだものだった。
先ほども、気付いたらダブルオーの左腕を動かしてGNソードで敵機に斬りかかっていた。
はぐ、と唇を真一文字に結び、刹那の手に自身の手を重ねた。


「・・・いいの、刹那にも、色々考え、あったんでしょ?」


そう言うと、刹那は更に強く彼女を抱き締めた。

優しい。

そして、愛しい。

それが、今のに感じた想いだった。


「・・・お前も、変わっていなかったんだな」

「え」

「変わっていない」


変わらなければならない。
そう思っていた。
しかし、今は変わっていない彼女に、安堵を覚えた。

振り返ったに、刹那は柔らかい笑みを浮かべた。


「俺を守る為に、お前は咄嗟にダブルオーを動かした」

「あ・・・」

「優しいままだ。は、変わらない」


間近で優しく刹那に微笑まれ、は頬を赤くした。
直ぐに視線を逸らし、はダブルオーのハッチを開く操作をした。
そのまま、刹那から逃げるようにコクピットから出て行った。

そんな彼女の背を見ながら、刹那は思わず笑みを零した。

照れている。
それが分かるからこそ、刹那は笑みを零していた。

が慌ててダブルオーのコクピットから降りると、アレルヤが心配そうな眼差しを向けてきていた。
軽い頭痛を覚えたものの、彼の前に降り立った。

久々に、二人の視線が間近で交わる。

空色に見上げられ、アレルヤは銀と金の瞳を揺らがせた。

真っ直ぐに自分を見上げてくる彼女。
ああ、とアレルヤは思い瞳を柔らかく細めた。

愛しい。

5年前から変わらない。
自分を見上げるが、5年前のものと重なる。
大人っぽくなった。
髪も肩口までの長さになり、金の髪は変わらない柔らかさをもっている。
そんな彼女を再び前にすると、愛しさがこみ上げてくる。

アレルヤはそれをぐっとこらえ、彼女に「大丈夫だった?」と問う。


「ダブルオーに乗ってたって聞いて・・・、」

「・・・久しぶりに、ガンダム、乗った」


体は覚えてるみたい。
そう言いは視線をそらした。
外傷も無いようで、アレルヤは「そう、」と言い安堵の息を吐いた。
背後のダブルオーから刹那も出て来て、近付いてくる。
心配げに見てくる刹那に、アレルヤは苦笑した。
そのままの名を呼び、彼女を再度見詰める。


「・・・今は、平気?」

「・・・うん。なんか平気みたい」


心配、ありがとう。
そう言い視線を逸らす
そっか、良かった。
アレルヤもそう言い穏やかな瞳を彼女に向けた。
も顔をあげ、再度アレルヤを見上げる。


「・・・ごめん、アレルヤ」

「え?」


突然の謝罪にアレルヤが短く声をあげる。
は眉を下げ、再度視線を逸らした。


「避けてばっかで・・・きっと優しい貴方を傷つけた」

「そんな!」


僕が君を!
そう言おうとアレルヤが口を開く前に、が首を振った。


「・・・きっと、私貴方への想いを捨てきれない」


でも、いつかは、きっと。
そう呟く彼女に、アレルヤは悲しげに眉を下げた。

4年前。
確かに彼女と想い合っていた。
その自信はある。
しかし、それは忘れていたマリーへの想いと重なったものかもしれなかった。
それに戸惑い、今も思い悩んでいる。
もそれは同じ事で、アレルヤへの想いを捨てきれずにいる。

しかし、マリーにはレーゲンが。
には刹那が今はもう傍に居る。
自分がどうこう関わって、二人を傷つけるよりはいいかもしれない。

アレルヤはそう思いながら、ゆっくりと首を振った。


、いいんだ・・・」

「え、」

「・・・もう、いいんだ。君の好きにして」


誰かの為。
彼女はずっとそうやって過ごしてきた。
もう自由になってもいいんだ。
そう思い、アレルヤは彼女にそう告げた。

ただ、想う事だけは、

そう思い、アレルヤはに微笑んだ。
アレルヤの瞳に熱が含まれている事に気付いた刹那は、深紅色の瞳を細めた。


「・・・私の、好きに・・・?」

「君はずっと誰かの為に行動してきた。もう、君の自由に動いてもいいんだよ」


誰も君を責めない。
好きにしていい。
そう言うアレルヤに、は瞳を見開いた。

そんな事、


「・・・初めて、言われた・・・」

「「え、」」


刹那とアレルヤの声が重なる。
は俯いたまま、二人の間を通り抜けて格納庫から出て行った。
動揺しているのか。はたまた照れか。
刹那とアレルヤは彼女の背をそのまま見送った。


「や、やだ・・・私・・・、」


両手で頬を覆いながら、無重力の中移動をする。
彼女の背後からいつの間にかイエローハロもついてきていた。
もう、と言うにイエローハロが声をかける。


『ドウシタノ、ドウシタノ?』

「・・・、」


ドキドキする、鼓動が速い。
目元を赤く染め、は片手でハロを、もう片方の手で移動用レバーを掴んだ。

アレルヤにも、刹那にも変にドキドキして。

だめだめ!
そう思いながらは首を振った。

彼らの優しさに惹かれている?
それこそ、いけない事だ。

与えられた自室へ入り、はイエローハロを手から離した。
イエローハロはベッドの上へ移動し、軽く跳ねている。
そんな様子をぼんやりと見詰めながら、彼女は小さく息を吐いた。


アレルヤ・・・、ハレルヤ・・・


4年前は彼らが全てだった。
彼らが居れば、安心できた。

アレルヤとハレルヤ。


「・・・ハレルヤ・・・、」


彼はきっと変わらない。
刹那とアレルヤは何だか変わった。
アレルヤはマリーへの想いを思い出し、刹那はに惹かれていった。

けれども、ハレルヤはハレルヤのままだ。

会っていないのだから、よく分からないのだが。

は空色の瞳をそっと伏せた。


「・・・ハレルヤ・・・!」


ハレルヤ、シン。
彼らを想うだけで心が温かくなる。


「・・・ハレルヤ、」





『俺はアレルヤとは違う。俺にとって、お前は・・・俺の頭ン中をかき乱す、変な存在だ』


俺はお前を裏切らない。

俺はお前の傍に居る。

だから、


『お前も俺の傍に居ろ』





ハレルヤはそう言った。





『俺が、守ってやるから』





そう想った瞬間、頭に一瞬痛みが走った気がした。
は頭に片手を沿え、瞳を震わせた。


「・・・ハレルヤ・・・」


彼を想い、はそのままベッドに倒れこんだ。




出待ちルヤさん。