「ハッチオープン」


フェルトの声と同時に巨大な衛星の一部が開く。
そこから通路が現れ、ガイドビーコンが発せられた。
そこに沿い、プトレマイオス2が衛星に入る。


「レーザーセンサー、トレミーと同調したです!トレミー、タッチダウン3・・・2・・・1・・・、」


接舷完了です。
そう言うミレイナの後に、フェルトがパネルを操作して口を開く。


「固定用アーム、接続開始。搭乗ハッチ、接続します」


ラグランジュ3資源衛星群にカムフラージュされたソレスタルビーイング基地に無事入港ができた。
マイスターたちと、外の面々も移動を開始した。
は部屋に居たが、刹那に迎えられ、彼と共に行動をしていた。

ハッチが開き、基地に入る。
彼らを出迎えたのは、先に宇宙にあがっていたイアンと、眼鏡をかけた女性だった。
彼女を見た途端、ミレイナが「あっ」と嬉しそうな声を上げる。


「よお!待っとったっぞお前ら」

「ママっ!」


イアンの横に居る女性にミレイナが抱きつく。
そんな彼女を抱きとめ、彼女は優しく笑む。


「ただいまです!」

「ミレイナ、元気にしてた?」

「もちろんです!」


そんな彼女たちに呆気にとられつつも、刹那たちも歩を進める。
その中でアレルヤが思わず口を開く。


「今、ママって言わなかった?」

「ああ、言った」


アレルヤの零した言葉を拾ったのは同じく唖然とした様子の刹那だった。
ということは、と沙慈が呟く。
彼らの反応にイアンは笑みを零し、「そうか」と言う。


「会うのが始めての奴も居たな。わしの嫁だ」


女性の肩を抱き、イアンが言う。
それに習うように彼女も微笑み、軽く一礼をする。


「リンダ・ヴァスティです」


56歳になる彼の妻、リンダ・ヴァスティ。
彼女は32歳であり、イアンとは25歳も年の差がある。
異年齢夫婦に思わず沙慈が「わ、若い」と零す。
アレルヤも14歳になるミレイナをちらりと見た後、イアンを見て肩を竦めた。


「犯罪ですよ」

「どういう意味だ・・・!?」


確かに。
そう思い思わずがアレルヤに同意して頷く。
いきり立つイアンの前にスメラギが立った。


「冗談はそれぐらいにして」


何だよ冗談って!とイアンが言うが、スメラギの真剣な表情を見て直ぐに口を噤んだ。


「トレミーとガンダムの補給と改修を急いで貰える?」

「何があった?」

「この宙域にアロウズが展開しています」


スメラギの言葉にイアンは頭をかく。
そのまま眼鏡の奥の瞳を細めた。


「ここのカモフラージュは完璧だと思うが・・・分かった」


お願い。
とスメラギが言った直後、「ですが、」という落ち着いた声が響いた。


「補給と整備には、最短で5日を要します・・・」


ソレスタルビーイングの制服を身に纏った女性が近付いてきた。
薄紫色の髪をした、緋色の瞳の女性。
彼女にスメラギは「貴女は?」と問う。
それに続いて刹那も口を開いた。


「見かけない顔だな」


刹那の言葉に彼女は緋色の瞳を柔らかく細め、「はじめまして」と言った。


「活動再開と同時にソレスタルビーイングにスカウトされたアニュー・リターナーです」


アニュー・リターナー。
そう名乗った彼女の言葉にラッセが「スカウト?」と問う。


「一体誰が?」

「王留美に紹介されてな」


ティエリアの問いに答えたのはイアンだった。
彼は腕を組み、頷きながら「アニューは凄いぞ!」と言う。


「宇宙物理学、モビルスーツ工学、再生治療の権威で、操船技術や料理に長け、おまけに美人だ」


どうだ、なかなかの逸材だろう?
イアンの言葉にアニューに視線が集中する。
流石、王留美の紹介するほどの女性だ。

注目され、恥ずかしそうにしながらアニューは「よ、よろしくお願いします」とはにかんだ。


アニューの紹介が終わった後、外のソレスタルビーイングのメンバーたちはプトレマイオス2とガンダムの補給と整備に直ぐに回った。
イアンにリンダ、アニューはスメラギや刹那たちを案内していた。
格納庫にあるオーライザー。そしてアリオスの支援機となるGNアーチャーを指した。


「これがオーライザー・・・」


刹那がそう零す。
それにリンダが説明をする。


「この機体には、ツインドライブの制御機能が搭載されているわ。トランザムの増幅機能もね」

「あっちの機体は?」


オーライザーの隣にある紅色の機体を見てロックオンが言う。
それに答えたのは、アニューだった。


「アリオス用の支援機、GNアーチャーです」

「GNアーチャー・・・」


アレルヤが呟く。
その後に、イアンがを見て「そうだ」と口を開く。


「カマエルなんだがな・・・ダブルオーと似た機能を加えたい」

「・・・どうして、私に言うんです?」


私はまだ、戦うと決めた訳じゃないのに。
思わずそう言いそうになり、は口を閉ざした。


まだ、なんて・・・


何でそんな言い方を、
そう思うの肩を、ロックオンが軽く叩いた。
突然の事に瞳を丸くするに、彼はウインクをひとつした。


「で?似た機能って?」


そう問うロックオンに、イアンは口を開いた。


「なんというかな・・・、攻守両方出来る様にとの指示でな・・・」

「指示?誰の?」

「王留美だがな・・・。、これはお前さんに頼むと言っていたぞ」


そう言いイアンはデータ端末をに手渡す。
どうやら王留美の指示が入っているものらしい。
イアンは既に見たようだが、表情はあまり晴れやかではない。


「・・・お嬢様は、お前さんに期待しているそうだ」

「・・・そう、ですよね」


最初、私を拾ったのは彼女。
彼女は私の全てを知っている。
利用しない手なんて、無い。

そう思いはデータ端末を強く握った。

これの中にカマエルとダブルオーについてのデータも入っているだろう。
兎に角整備はイアンたちに任せ、はそれを見る事になった。

そんな彼女を心配そうに、アレルヤが見詰めていた。


「・・・、」

「ダブルオーはテストを始めるぞ、刹那!」


イアンが呼ぶと、刹那は「了解」と返した。
そのままイアンの後に続く。

はデータ端末を片手に、移動しようとした。
そんな彼女をアレルヤが呼び止めた。


「・・・無理して、戦おうなんて思わないでくれ」


たとえ王留美からの願いであっても。
アレルヤはそう言った。
また彼の優しさに触れたは、複雑な表情を浮かべた。


「・・・どうして?」


そう問うに、アレルヤは銀と金の瞳を真っ直ぐに向けた。


「君が心配なんだ・・・」


傷付いて欲しくない。
彼の瞳はそう語っていた。
はそれに答えず、その場を後にした。


プトレマイオス2のカマエルの傍にはもう既に何人かの整備班が居て、何事かをしていた。
未だに出撃した事が無いカマエルは傷一つ無い機体だ。
その背にブースターのような物が取り付けられていた。
どうやら、粒子貯蔵タンクが入っているらしいそれの周りに、改めてファングの収納部分が納められた。

攻守も出来る機体。

イアンはそう言っていた。
カマエルの様子を見た後、は適当に基地内を移動していた。
彼女の傍らには、イエローハロがついている。


『データ、ミナイノ?ミナイノ?』

「・・・後で見る・・・」


はイエローハロにそう答え、廊下を曲がった。





別室ではマリーと沙慈が待機をしていた。
壁に凭れている沙慈の前までマリーが行き、彼を気遣う。


「どうかしましたか?」


優しく問いかけられた沙慈は顔をあげ、彼女を見る。
しかし気まずげに視線を逸らし、彼は眉を下げた。


「どうして良いか分からないんです・・・僕のせいで多くの人が命を落とした・・・」


その償いはしなきゃいけない。
その想いが、沙慈の背を押し、苦しめる。


「でも戦う事なんて、人を殺す事なんて!僕にはとても・・・!」

「出来ないのが当たり前です」


静かに言うマリーに「でも!」と沙慈は声を張る。
が、直ぐに肩を落として、悔しげに眉を潜めた。


「・・・何かしないと・・・!自分に、出来る事を何か・・・」


苦しむ沙慈に、マリーは瞳を細めた。
一般人だった彼に、戦場に居ろというのは酷な事だ。

沙慈は顔をあげ、「あの、」と言いマリーを見た。


「聞いていいですか?」

「何をです?」

「貴女は、これからも彼らと一緒にいるつもりですか?」


躊躇いがちに問う沙慈に、マリーは即答した。


「ええ、アレルヤがここに居る限りは」

「戦いに巻き込まれても?」

「私は軍人でしたし・・・そういう覚悟もできているつもりです」

「・・・彼には、も居るのに?」


そう問う沙慈に、マリーは微笑んだ。


「アレルヤがを大切にしている事も、分かってるわ」

「なら、どうして・・・」

「私はもっと周りを見るべきなの。アレルヤと一緒に」


一途なほどに視野が狭かった。
これからは、もっと周りを見たい。見なくてはいけない。

アレルヤと共に。

そう言うマリーに、沙慈は少しだけ笑った。


「彼が、大切なんですね」

「ええ、アレルヤも・・・それに、他の人も」


ふっと脳裏に浮かんだ後姿。
アレルヤしか居なかった私に、別の事を教えてくれた彼。
彼のお陰で、視野が広がった。
優しい、彼。

彼を想い柔らかい表情をしていたマリーに、沙慈は「羨ましいな」と零した。


「僕にもそう想える人が居て、もし再会することがあったら、二度と離れないって思ってて・・・」


ふと、沙慈の頭に愛しい彼女が浮かんだ。
いつも明るく天真爛漫だった彼女。
4年前の事件をきっかけに、連絡も中々とれていないが。

今でも彼女を想う心に変わりはない。

しかし、何故だかとても不安だった。





実験施設では、ダブルオーとオーライザーがドッキングを完了していた。
ダブルオーのコクピットには既に刹那が入っており、データ通りにパネルを操作する。


「オーライザー、ダブルオーとドッキング完了です!」

「各部接続、オールグリーンよ」


娘と妻の声を聞き、イアンが頷く。


「よし刹那、オーライザーの制御システムをテストする」


トランザムを始動させるぞ。
そう言うイアンに刹那は「了解」と返す。


「トランザム開始まで5、4、3、2、1・・・」

「刹那!」


アニューがカウントダウンを開始し、タイミングを見計らっていたイアンが指示を出す。
直ぐに刹那は「了解」と言いトランザムを始動させた。
赤く光輝くダブルオーのデータを、ミレイナとリンダが読み上げる。


「トロポジカル・ディフェクト 、高位へ推移です!」

「粒子生産量、粒子放出量、ともに上昇」

「通常時の180%を超えました・・・更に上昇!」


アニューが驚きに思わず声を張る。
それにイアンは嬉しそうに瞳を細め、「いけるぞリンダ」と妻を呼ぶ。
リンダも「ええ」と言い眼鏡の奥の瞳を嬉しげに細めた。


「230・・・260・・・290%を突破!」

何!?

「理論的限界値を超えます!」


全員の瞳が驚愕で見開かれる。
リンダも感嘆の声を漏らす。


「これが・・・イオリアが予見したツインドライブの真の力だというのか・・・?」


コクピットの中でも、刹那は驚きに瞳を見開いた。


適当に廊下を移動していたは、突如頭に針を刺された様な痛みに見舞われた。
新型のGNアーチャーのデータも見ようと格納庫入り口まで来たところで、思わず壁に手をやる。


「い・・・な、なに・・・!?」


それは他の脳量子波を使える面々にも同じ事で、マリーも頭を押さえていた。
「大佐、」と呟き彼女は思わずといった様子で辺りを勢いよく見渡す。
GNアーチャーを見ていたアレルヤも、頭痛に苦しんでいた。
シャワーを浴びていたティエリアも、突然の感覚に戸惑いを感じていた。

の頭に、眩い光が浮かぶ。
同時に、マリーの声も頭に響く。


((大佐!!!))


大佐、セルゲイ・スミルノフ大佐。
前に一度話した気が、

がそう思った瞬間、天から光の矢が落ち、街を一つ包み込んだ。
彼はその近くに居る、直感でそう感じた。


((逃げて下さい!大佐ぁ!!!))


これは、マリーの悲鳴なのか、それとも、

そこまで思った瞬間、の頭により強い干渉が訪れた。
頭が割れる様に痛い。
思わずは、その場に膝をついた。


「あ、頭が・・・痛い・・・!


痛い!怖い!辛い!!





イエローハロが心配をしてか、彼女の周りを転がる。
チカチカと瞳を点滅させるイエローハロに、何かが当たった。

何かに当たったイエローハロは、それを見上げる。


「邪魔だ」


ガンッ、という音と共にイエローハロがどこかへ行く。
頭痛が和らいだ気がして、が顔をあげると、そこには金と銀の瞳があった。

テストでもしていたのか、パイロットスーツを身に纏い、メットまでつけている彼には瞳を見開いた。
彼は口の端を吊り上げ、手を伸ばしてきた。


「粒子がこっちに向かって加速してきやがる・・・お前もそれを感じてたんだろ?」

「ぁ・・・、」

「ったく、オチオチ寝てもいらんねぇぜ」


頭に響いて来るんだよ。
そう言い彼はの頭をぐしゃぐしゃにした。
わ、と短く声をあげる彼女に構わず、彼は言葉を続けた。


「独りぼっちは寂しいってか?ちゃんよ」

「・・・わ、私・・・!」

「俺の言った通り、アレルヤにはマリーが居ただろ?」


彼の言葉がの胸に突き刺さる。
傷付いた表情をした彼女に満足そうに笑み、彼は「だからよ、」と言う。


「もうアイツなんか良いだろ?あのガキも、余所見すんなよ」

「ハ、ハレル・・・、」

「俺だけを見てろ」


余所見すんな。
バイザーが開かれ、彼の素顔が間近に迫った。




年齢的に本当に 犯 罪 ですよw