は展望室に立っていた。
ノーマルスーツも身に纏わず、ただただ戦闘空間を見詰めていた。
そんな彼女の背後から、レーゲンが溜め息を吐きながら近付いた。
「おいこら。せめてノーマルスーツをだな・・・」
「・・・感じる」
ん?とレーゲンが零す。
自身もノーマルスーツを身に纏い、片手には彼女の分を持っている彼は小首を傾げた。
「・・・脳量子波か」
そう静かに言うレーゲンには小さく頷いた。
ガラスに両手をつき、真っ直ぐに戦いの光を見詰める。
「・・・何、この感じ・・・、どっかから狙ってる・・・」
「狙われてるのか?トレミーが」
「・・・くる!」
直感的にそう思い、気付いた時にははブリッジに通信を入れていた。
が、時は既に遅く。
敵機から放たれたビームはプトレマイオス2に直撃した。
ガラスに手をつきながら揺れに耐えるの横まで来たレーゲンが、彼女を見下ろした。
「・・・刹那がやられてるぞ」
「!!」
「ティエリアも不利だ。みんな、戦ってる」
見ると、セラヴィーはガラッゾと真正面から攻撃し合っていた。
押し負けたセラヴィーはビームキャノンを放つが、ガラッゾにはかわされる。
刹那は電撃をくらっていたが、何とかそこから脱出する。
しかし、ダブルオーにまた新たな敵部隊が突撃する。
ぐ、とは拳を握り締めた。
「・・・私は、」
は駆け出した。
沙慈は第三格納庫に来ていた。
ビームの攻撃をくらったそこは、既に半壊状態だった。
ハッチを手でこじ開け、沙慈が中に入り込む。
着いて来た赤ハロも一緒に中に入る。
中は縦方向にビームが貫通し大穴が開いていた。
「・・・酷い・・・!」
思わず沙慈がそう呟く。
そこで、赤ハロが『サジ!サジ!』と彼を呼んだ。
そちらに向かい、ノーマルスーツを身に纏い瞳を閉じているイアンに急いで寄る。
「イアンさん!」
彼を支えつつ、声をかける。
イアンは左腕から出血をしていた。
「しっかりしてください!イアンさん!」
沙慈がそう言ったところでイアンが呻き声を上げる。
どうやら意識はあるようだった。
「オーライザーの・・・調整は終わった・・・」
「オーライザー?」
沙慈は顔をあげ、オーライザーを見やる。
見ると、オーライザーとGNアーチャーは無事な様子だった。
「こいつを・・・ダブルオーに・・・」
「そんな事より、早く医務室へ!」
「わしの事はいい・・・オーライザーを、届けるんだ・・・、そうでないとわしらは、全員やられる・・・」
そう言いイアンは苦しげに咳き込んだ。
「イアンさん・・・」と言う沙慈に、彼は直訴える。
「守るんだ、みんなを・・・仲間を・・・!」
そこまで言い、イアンは気を失った。
思わず沙慈が「イアンさん!」と声を張る。
そこに、マリーが現れた。
「クロスロードさん!」
沙慈は彼女の姿を見ると、少しの間瞳を瞬かせた後、ぐ、と唇を真一文字に引き結んだ。
近付いてきた彼女に、イアンを託す。
「イアンさんを医務室にお願いします」
「分かりました」
頷いたマリーに、沙慈は視線を向けたがすぐに床を蹴った。
向かう先は、オーライザー。
「ハロ、手伝って!」
『リョウカイ!リョウカイ!』
それを見送った後、マリーはイアンを背に乗せ、移動をする。
が、外に出た直後、彼女は金の瞳を丸くした。
「レーゲンさん・・・それに、!」
そこにはとレーゲンが居た。
レーゲンは肩を竦めてみせた後、マリーからイアンを預かった。
「じゃ、俺らは俺らに出来る事をしようか」
メディカルルームへ行く。手伝ってくれ。
そう言いレーゲンは床を蹴った。
マリーも彼に続くが、はその場で立ち止まったままだった。
思わずマリーが振り返り、「?」と彼女を呼ぶ。
「・・・沙慈、進むんだね」
「え?」
「・・・沙慈は、進むんだ」
そう言いは、瞳を細めた。
「輸送艇の状況は?」
「予測戦闘空域を離脱するまで、0344です」
ブリッジではスメラギがフェルトにそう言っていた。
下手をすれば、其方にもアロウズの手が伸びる。
その為、離脱をするまでアリオスを戻す訳にはいかない。
スメラギがそう考えていた時、通信が開き、映像が映った。
『オーライザー、出します!』
そこに映ったのは、ノーマルスーツを身に纏った沙慈だった。
ラッセは「お前が!?」と声をあげ、他の面々も驚きの表情を見せる。
「クロスロード君!?」
『イアンさんに言われたんです!ハロも手伝ってくれますから!』
真剣な表情で言う沙慈に、スメラギは思わず口を噤んだ。
フェルトが「どうしますか、」と指示を仰ぐ。
「・・・ティエリアとロックオンに、オーライザーの援護を」
「やらせる気か!?」
「敵の波状攻撃はまだまだ続くわ。この状況を打開するには、ツインドライブにかけるしかない」
マネキンの戦術を打ち破るためにも。
そう思いながら、スメラギは真っ直ぐ前を見据えた。
ダブルオーの背後からGN−XVが迫る。
このままでは、トレミーの援護に行けない!
そう刹那が思った時、接近する機影に気付いた。
反応からして、これは、
「オーライザー!?」
ビーム攻撃をかわしながら接近してくるダブルオー。
調整が済んだのか、と想いつつ刹那はそちらを見やる。
イアンか、と思った直後、通信映像が開かれた。
『刹那!』
そこに映った沙慈に、刹那は思わず驚きの声をあげる。
「沙慈・クロスロード!?」
『イアンさんに言われて・・・この機体を刹那に!』
赤ハロの支援もあってだが、この激戦の中を抜けて此処まで来た沙慈。
彼の覚悟を感じ、刹那はパネルを操作した。
「・・・ドッキングする!」
刹那の突然の一言に、沙慈が「え」と声を上げる。
が、赤ハロの了解、という声が響いた。
『オーライザー、ドッキングモード!!オーライザー、ドッキングモード!!』
ビーム攻撃が来る中、オーライザーが変形をする。
それに気付いたのか、敵機が食い止めようと迫るが、刹那が体当たりをしてそれを吹き飛ばした。
アヘッドスマルトロンが迫るが、刹那はそれにビームダガーを投げつけてオーライザーへ向かう。
「ドッキングセンサー!」
ダブルオーとオーライザーが同調する。
GNドライブが接続し、ダブルオーの額に【00RAISERCOMPLETE】の文字が浮かんだ。
『え!?ドッキングした!?』
沙慈が焦りの声を上げる。
ダブルオーの背中にオーライザーが無事にドッキングした。
背後のオーライザーの両側から、物凄い量のGN粒子が噴出す。
それにアヘッドスマルトロンがビームライフルを連射しながら飛び込んできた。
「行ける・・・ダブルオー、目標を駆逐する!」
刹那がそう言い、ダブルオーを高速に移動させる。
背面にあるオーライザーに乗っている沙慈が、加速Gに思わず悲鳴を上げた。
思った以上のスピードと加速Gに、刹那も眉を潜める。
「ぐう・・・!破壊する・・・!俺たちが・・・破壊するっ!」
背後から攻撃してきたアヘッドと距離を開き、小惑星を一周する。
そのままアヘッドの背後に回りこみ、GNソードを構えた。
「俺たちの、意思で!!」
アヘッドもビームを放つが、ダブルオーのGNソードにより両断された。
体調機だったのか、残りのアヘッドスマルトロンとGN−XVが追撃してくる。
『ジュウジホウコウ、テッキセッキン!ジュウジホウコウ、テッキセッキン!』
赤ハロの声が響く。
そちらを見ると、ガラッゾが向かってきていた。
「新型か!?トランザムを使う!」
刹那がスイッチを押し、トランザムをしようとする。
トランザムをした瞬間、背後に光の輪が二つ起こった。
直後、不思議な感覚に見舞われた。
((何だ?これは?))
刹那の声が響く。
他にも別の声が響いた。
光の舞う空間の中、刹那は辺りを見渡した。
((声?))
((声が・・・聞こえる・・・?))
後ろから沙慈の声も響いてくる。
他にも戸惑う声が多々聞こえる。
((此処に居る者たちの声か?))
((・・・ガンダム!))
そんな中、その場に似つかわしくない女性の声が響いた。
その声に反応した沙慈が、まさか、と声を漏らす。
((その声・・・まさか・・・ルイス?))
4年前から連絡が途絶えた彼女。
その彼女の声がする!
そう思い沙慈は今度は声を張って叫んだ。
((ルイス!!!))
沙慈がそう叫ぶと、相手の戸惑う声色が響いた。
((何?・・・どうして、沙慈の声が・・・?))
どこに居るの?沙慈!!
自分を探す声がする。
沙慈も彼女を探していたが、嫌な予感がした。
((ルイス・・・まさか・・・モビル、スーツに・・・?))
((どこにいるの、沙慈!どこに・・・!!))
まさか、
とルイスの声が震える。
((まさか・・・ガンダムに・・・!?))
((ルイス・・・まさか、アロウズに・・・!?))
アロウズにルイスが居る。
ガンダムに、沙慈が乗っている。
そう感じた直後、心に襲ったそれは、
((沙慈・・・どうして・・・))
((どうして君は・・・!))
((どうして、貴方が・・・!))
((どうして!))
どうして!
ただそれだけを思う
((どうして、此処に居るの!?))
((どうして、此処に居るんだ!?))
二人の悲痛な叫びが、光舞う中に響いた。
『ねぇ、私の夢を沙慈に託しても良い?』
病院で、彼女は言った。
『宇宙に行って、夢を叶えて』
二人の夢。
一緒に宇宙へ行く事だった。
しかし、彼女は今望みを絶たれていた。
『それが、私の夢なの』
沙慈が宇宙で夢を叶える事。
それが、私の夢。
彼女はそう言った。
『だから・・・私の夢を叶えて?』
貴方の夢は、私の夢。
『沙慈、約束よ?』
そう言って、彼女は微笑んだ。
ふ、と気付けば目の前には先ほどの宇宙空間。
刹那は首を軽く振り、GNソードライフルモーードからビームを放った。
迫っていたGN−XVの片足を撃ち落し、横を通り抜けて戦闘空間から離脱する。
「沙慈ぃぃぃぃ!」
「ルイスゥゥゥ!」
手を伸ばしても、届かない。
離れ行くアヘッドスマルトロンに、沙慈はそれでも手を伸ばし続けた。
「!!!」
は再び展望室に居た。
メットを取り、ノーマルスーツのまま彼女は真っ直ぐに戦場を見ていた。
突然起こった光の輪。
直後、様々な感覚に見舞われた。
プトレマイオス2の援護に向かってきているのか、ダブルオーライザーの前にガラッゾが立ち塞がった。
爪から出るビームサーベルでダブルオーライザーに挑むが、刹那もGNソードで迎えうつ。
((ここは通さん!!))
((邪魔をするな!))
「・・・声が、聞こえる・・・!」
これは、何?
そう思っている間にも、ダブルオーライザーはガラッゾを押し込む。
戦う中、ダブルオーライザーが優勢で、ガラッゾを爆発させた。
機体背後にあった脱出装置を使い、相手は脱出したようだったが。
セラヴィーもGN−XVを攻撃している。
新たな増援に苦戦しながらも着実に落としていく。
ケルディムもGN−XVを攻撃していくが、背後から別のGN−XVが迫る。
「・・・ライル!」
思わず声をあげた。
後方から来たGN−XVがランスを振るう。
避けたケルディムだが、ビーム攻撃により手に持っていたビームライフルが破壊された。
なんとか迫るGN−XVの攻撃を受け止めるが、両側からGN−XVが狙いを定めていた。
ケルディムがやられる!
思わずそう思った直後、別方向からビームが放たれ、ケルディムの両側のGN−XVを破壊した。
動揺した相手に、今度はケルディムが反撃をする。
GN−XVの頭部を殴り、ヘッドユニットをそのままもぎ取る。
援護をしたのは、ダブルオーライザーだった。
ダブルオーライザーはそのまま別のGN−XVとアヘッドを撃破しつつ、進む。
((圧縮粒子充填完了))
((声が・・・?))
別の誰かの声と刹那の声が響く。
刹那も聞こえたようで、ダブルオーライザーを其方へ向かわせる。
((これで終わりだ!))
((新型か?))
((声?))
ダブルオーがガデッサの真下の衛星を斬る。
そのまま攻撃をしかけるが、ガデッサは避けた。
爆発する衛星の間を抜け、ダブルオーライザーがガラッゾに迫る。
GNメガランチャーが発射されるが、ダブルオーライザーは避けた。
が、ガデッサは砲身を動かし、射線変更させ、ダブルオーライザーを追う。
しかし、ダブルオーライザーはそれをも避け、ガデッサの眼前まで迫った。
((馬鹿な!?しかし、私はイノベイターだ!!))
ビームサーベルを素早く抜き、ダブルオーライザーに突き出す。
それは真っ直ぐにダブルオーライザーの機体を貫いた。
と、思ったが。
一瞬にして粒子が舞い、ダブルオーライザーが消えた。
((な、何だ・・・?))
動揺した様子のイノベイターの声が響く。
も驚きから空色を見開いていた。
上方から現れたダブルオーライザーがGNソードを振るった。
GNメガランチャーを破壊され、ガデッサはビームサーベルを再度振るう。
が、またダブルオーライザーの姿が消える。
粒子が結晶化するように、一瞬にしてまたダブルオーライザーが現れた。
((はあああああああああ!!!))
ダブルオーライザーのGNソードが振り下ろされる。
両断されたガデッサは爆発を起こす。
爆発の直前、やはりパイロットは脱出したようだったが。
そこで、ダブルオーのトランザムが終了したようだった。
は壁に手をついたまま、ずるずると落ちて行った。
周りを見ると、粒子ももう舞っていないし、頭に響く声も消えた。
「・・・ダブルオー、ライザー・・・」
脳量子波、GN粒子・・・。
そう呟き、は瞳を細めた。
トランザムが終了した時、刹那は肩で息をしていた。
荒い呼吸を繰り返した後、「限界時間か・・・」と呟く。
さっきのは一体?
そう思っていると、オーライザーが分離した。
「何をしている!まだトレミーが!」
『行かなきゃ・・・!』
加速Gの影響か、沙慈も荒い呼吸をしながらそう言う。
『行かなきゃ・・・行かなくちゃ・・・ルイスの所に・・・!ルイスの・・・!』
そのまま動かなくなったオーライザーに、刹那は瞳を細めた。
プトレマイオス2のブリッジでは、撤退する敵を見つつ、フェルトが声を発した。
「敵MS部隊、撤退を開始しました」
「トレミー砲撃中止、ガンダム各機、警戒態勢」
スメラギの声に、マイスターたちが了解と返した。
そんな中、ラッセが口を開いた。
「刹那の奴、何機落とした?」
「10機・・・近いと思います」
ラッセの言葉にアニューが答える。
たった一人で、10機も。
そうラッセが思っていると、スメラギの鋭い声が響いた。
「気を抜かないで、今の私たちの目的は、衛星兵器の破壊よ。
ミレイナ、ご両親のことが心配でしょうけど、カレルを使ってトレミーとガンダムの補修をお願い」
「了解です」
ミレイナがスメラギに返事をし、席を立つ。
丁度その時、輸送艇の護衛をしていたアレルヤから通信が入った。
『こちらアリオス、輸送艇を安全圏まで護送した。・・・ミレイナ、お母さんは無事だから』
アレルヤの優しい声にミレイナは嬉しそうに表情を明るくした。
そんな彼女にフェルトが「良かったね、ミレイナ」と言う。
ミレイナは「はいです!」と言い嬉しそうにブリッジから出て行った。
「補修行ってくるです!」
そう言い出て行った彼女を、スメラギは笑顔で見送っていた。
が、直ぐに表情を戻し、画面を見やる。
(・・・ダブルオーライザー、これほどの性能があったなんて・・・)
それに、と思いダブルオーとオーライザーを見やる。
(クロスロード君が出てくれて助かったわ)
下手をしたら、曖昧な気持ちを持ったままのを、再び戦場に出してしまう所だった。
そう思いながら、スメラギは大きく息を吐いた。
分離したままのオーライザーを、刹那は見ていた。
『動け!動いてくれ、頼むから!』
「沙慈・クロスロード・・・」
既にエネルギー切れで動かないオーライザー。
沙慈はレバーを何度も動かしながら、悔しげに声を漏らした。
『動けってんだよぉ!
・・・ルイスの所に行くんだ・・・ルイスの所に・・・!』
そこまで言い、彼は苦しげに「うう、」と声を漏らした。
刹那は深紅色の瞳を細め、拳を握った。
『うああああああああ!!!』
悔しさ、もどかしさを感じ、沙慈は叫び声を上げた。
撤退するアロウズ部隊の中。
アヘッドスマルトロンの中でルイスは頭を押さえていた。
「聞こえた・・・沙慈の声・・・」
間違えるはずも無い、愛しい彼の声。
「沙慈、居た・・・ソレスタルビーイングに・・・パパとママを殺した奴らと一緒に・・・!!」
ふと、この前パーティで会った人物も思い出す。
「刹那、彼も組織の一員だった・・・その彼の隣に沙慈が・・・!」
関係、してたんだ・・・!
そう思うと、酷く胸が痛んだ。
「あの頃から・・・!」
そこで、発作に見舞われる。
ルイスは慌てて薬を取り出し、飲み干す。
「う、うう・・・!!」
苦しげに声を漏らし、彼女は辛そうに瞳を細めた。
「沙慈ぃ・・・!」
ト裸ンザム!
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