リチエラ王国の軍事基地の近くには、難民キャンプがあった。
空を見ていた子どもが、ふとあるものに気付き「あれは?」と母親に問う。
母親が子どもの指す方を見上げた直後、天から光が伸び、軍事基地に降り注いだ。
爆発は、周囲に広がり難民キャンプをも巻き込んだ。
「衛星兵器がまた発射された!?」
カタロンの中東支部では、いち早く上方が入ってきていた。
クラウスが驚愕の表情をし、情報を持ち込んだジャーナリストをしている池田を見る。
彼は頷いた後、「リチエラの軍事基地だ」と告げた。
「中東の軍事力を削る気か?」
「ちょっと待って・・・基地の近くには、100万人規模の難民キャンプがあったんじゃ?」
シーリンが瞳を鋭くさせて言う。
それに全員驚き、口々に驚きの言葉を口にする。
「まさか巻き添いに!?」
「罪なき人々の命を奪い、何が世界統一だ!」
苛立ちから、クラウスが机に拳を打ち付ける。
そんな彼らの会話を、廊下に偶々通りかかったマリナが聞いていた。
彼女は悲しげに瞳を細め、俯く。
「そんなやり方で本当の平和が訪れると、連邦政府は思っているのか!?」
クラウスの声を聞き、マリナは子どもたちの部屋へと戻った。
そこでは、子どもたちが穏やかな顔で眠っていた。
崩れた毛布をかけなおし、子どもの頬を撫ぜる。
しかし、その表情は憂いを帯びたものだった。
「私たちの土地が、民が、国が・・・消えていく・・・」
プトレマイオス2にも、衛星兵器の第二射が放たれた上方が入っていた。
王留美と連絡を取り、衛星兵器の情報を求めていたスメラギたちだったが、彼女と連絡は取れなかった。
それに歯がゆさを感じていた時にその情報が入ってきていた。
「え、衛星兵器が第2射を地上に放ちました!」
「何だって!?」
フェルトの声にラッセが驚きの声を上げる。
スメラギは「ぐずぐずしてられないわ」と言い通信回線を開く。
「スメラギより全員に通達。トレミーの外装部の補修作業が終了次第、トランザムで最大加速。
オービタルリング上にある敵衛星兵器に攻撃を開始します」
スメラギの艦内放送を全員が聞いていた。
アニューはメディカルルームから出、レーゲンとマリーも操作する手を続けながら聞く。
『ガンダムの補修は、加速航行時にも続行。みんな、頼むわね』
部屋のベッドに腰掛けていた沙慈はそれを聞いて、ゆっくりと立ち上がった。
「この宙域を離れたら、ルイスには・・・!」
また離れてしまう、せっかく再会できた彼女と。
そう思い、ぐ、と拳を握った。
「頼みがあるんだ、ハロ」
『ナニ?ナニ?』
赤ハロは沙慈を見上げ、そう言った。
セラヴィーは修復作業中であった。
端末を操作していたミレイナの下へ、ティエリアが来た。
ミレイナ、と彼女の名を呼び、隣に立つ。
彼女も「アーデさん」と言い彼を見上げて笑った。
「作戦までに絶対直すです!」
頼む。と言いティエリアは真紅の瞳を細めた。
ライルはケルディムへ直ぐに乗り込んでいた。
「クラウスは、仲間は無事なのか?」
地上で活動しているカタロンの仲間を想い、動作の確認を行った。
アレルヤもパイロットスーツを身に纏い、アリオスへ向かっていた。
その途中、格納庫に居たに目を留めた。
彼女は作業用の端末を手に持っていたが、ぼんやりとした様子でカマエルを見上げていた。
(・・・・・・)
彼女を横目で見ながら、アリオスのコクピットに入った。
中からも、彼女を見やる。
変わらない様子でカマエルを見上げる彼女には、どこか不安を覚えた。
彼女がもどかしさを感じている事を知っている。
だからこそ、再び彼女が恐れている戦いに、彼女が再び責任を感じて戻る事が怖かった。
戦いは怖いと、彼女は言った。
震える体を叱咤して、敵機を撃墜していた事をアレルヤは知っていた。
存在意義は戦う事。
体を戦闘用に改造された彼女が、そう思う事は仕方ない事だ。
アレルヤ自身も、他の生き方が未だに見出せずにいる。
は今、戦闘から一歩退いた位置に居る。
戦いから退いた後も、思い悩み自分の存在意義を見出せない。
それゆえに、今も悩んでいるのだろう。
予想は出来ても、受け入れ難い。
アレルヤはそう思いながらレバーを強く握った。
レーゲンに言われた通り、マリーは機材を運んだ後にメディカルルームに置く予定の物を箱に入れて運んでいた。
そんな彼女の前の扉が開き、沙慈が出てきた。
彼はノーマルスーツを身に纏い、赤ハロを小脇に抱えていた。
「クロスロードさん?」
いつもと違う様子の沙慈に、思わずマリーが声をかける。
どこに行くんですか、と問うマリーに沙慈は振り返って瞳を丸くした。
最初こそ「え、」と短く声をあげた沙慈だったが、すぐに口を開いた。
「あ、ああ、ちょっと頼まれたことがあって・・・」
じゃあ、と言い沙慈は急いだ様子でオーライザーが格納されている方へ向かった。
彼の背を見送りながら、マリーは金色の瞳を細めた。
「・・・あの人、」
マリーはそう呟いたが、彼を追う事はせずに荷物を抱えなおし、メディカルルームへ向かった。
オーライザーの格納庫に、やってきた沙慈は、真っ直ぐにコクピットに向かった。
(会いに行かなきゃ・・・!ルイスに!)
先の戦闘で再会した彼女。
沙慈の頭の中には、ルイスの事しかなかった。
(アロウズなんかに居ちゃいけないんだ!)
そのまま赤ハロを抱えた手に力をこめる。
(僕たちは関係無いのに、こんな所に居るのが可笑しいんだ!
戦争なんて、やりたい奴らだけで勝手にやってろよ!)
そう思いながら、赤ハロを専用の箇所へ乗せる。
自身はオーライザーのレバーを握る。
「僕たちは取り戻すんだ。あの頃を・・・あの日々を・・・!」
日本に居た頃は、ルイスはいつも明るく笑っていた。
何も無い、取りとめも無い日々が幸せだったのに、ガンダムに全てを壊された。
戦争に、巻き込まれたんだ。
そう思いながらオーライザーを起動させる。
直後、沙慈の脳裏にカタロンの基地殲滅の光景が過ぎった。
『そういう現実から目を背ける行為が、無自覚な悪意となり、この様な結果を招く』
カタロンの基地の人たちが死んだのは、情報を漏らした自身が原因。
『彼らの命を奪ったのは君だ!君の愚かな振るまいだ!』
ティエリアに言われた言葉が、今も直胸に突き刺さる。
沙慈は震える掌を見詰め、声を漏らした。
「また僕は同じ事を・・・!どうすれば・・・どうすればいいんだ・・・!」
ルイス・・・!
愛しい彼女の名を呟き、沙慈は項垂れた。
オーライザーの格納されている場所の横の部屋で、刹那はそれを見ていた。
直ぐに踵を返し、黙ったまま彼も移動した。
「ケルディム、アリオス、セラヴィーの各太陽炉、トレミー動力部への直接接続が完了しました」
「トランザム、開始!」
フェルトの声を聞き、スメラギが直ぐに指示を出す。
それを聞いた各マイスターは直ぐにトランザムを発動させる。
「トレミー、最大出力!」
「了解・・・!」
赤く光を放つプトレマイオス2。
スメラギの指示に従い、アニューが舵を切る。
目指すは、オービタルリング上にある敵衛星兵器。
トランザム終了時刻になり、マイスターたちはパイロットスーツのままブリーフィングルームに集まっていた。
意外にももその場に連れて来たのはアレルヤだった。
ぼんやりとした様子でカマエルを見詰めていた彼女に声をかけて連れて来た。
刹那は何も言わずにいたが、視線はに向いていた。
刹那も、が戦いをまた望む事を予想しているのだろうか。
そう思いながらアレルヤは瞳を細めた。
彼女の意思を尊重したい。
けれど、もう彼女に戦って欲しくない。それも事実。
(ハレルヤ・・・君だったらどうする・・・)
普段はもう彼に頼らずにいられる。
が、の事に関してはついついハレルヤに問いかけたくなってしまう時があった。
思い悩むアレルヤの耳に、衛星兵器の第三射が放たれた情報が入った。
アニューの驚愕の声の後に、スメラギがフェルトに分析をするように指示をする。
「あの兵器、宇宙にも撃てるのか!?」
「何を狙った!?」
アレルヤとティエリアが焦りの声をあげる。
それに答えたのは、悔しげに拳を握りしめたロックオンだった。
「カタロンの宇宙艦隊だ・・・!」
そう苦々しげに吐き出す様に言った後、彼は「くそったれが!」と苛立ちの声をあげた。
「これが連邦の・・・否、イノベイターのやり方・・・!」
刹那がモニターを見たまま、瞳を鋭くさせた。
「・・・宇宙の、光」
刹那と同じようにモニターを見ていたも、ぽつりと呟いた。
その後、衛星兵器まで着く間、スメラギはプランの作成を行った。
短時間且つ、情報が今は少ない。
巨大で堅牢な衛星兵器を破壊する為に、彼女は必死に頭を巡らせている。
その間、マイスターは各自体を休めるようにとなったが、全員ブリーフィングルームに居た。
アニューが操舵にいっているので、レーゲンはメディカルルームへ戻ったが、マリーや沙慈がミレイナと共に各ガンダムの整備チェックを行っていた。
も手伝いをと申し出たのだが、レーゲンに首を振られた。
「お前はきちんと見なきゃいけねぇんだ」
レーゲンはそう言っての頭を撫でた。
マリーと沙慈も自分に出来る事をしている。
なのに、マイスターたちと一緒にブリーフィングルームに居ろだなんて。
そう思いながら、は視線を爪先に落としていた。
そんな彼女を、アレルヤは気にかけていた。
見ていろ、とレーゲンが彼女に言ったのをアレルヤは見ていた。
このブリーフィングルームでのやり取りだったので、他のマイスターも見ていたが。
恐らく、スメラギの事だからを戦いに参加させる事は無いだろう。
しかし、気懸かりなのはがどう思うかだ。
(・・・やはり、彼女には戦って欲しくない)
マリーは当然の事、にも戦ってほしくない。
アレルヤはそう思っていた。
(そうだ・・・争いを好まない彼女が、そもそも戦わされていた彼女が・・・)
そこまで思い、彼女に視線をやる。
は相変わらず視線を落としていて、何やら考えているようだった。
細い肩。華奢な体。
こんな儚げな彼女が、MSに乗って戦うなんて。
そう思うだけで、アレルヤの心は痛んだ。
宇宙では、カタロンが衛星兵器を破壊しようとしていた。
しかし、宇宙でも撃つ事が出来る相手だ。
カタロンの艦体は半数以上を衛星兵器の攻撃により失い、MSの戦いも劣勢だった。
擬似太陽炉を使用したアヘッドやGN−XVを用いるアロウズに対して、カタロンのMSはイナクトやフラッグ、宇宙型のティエレンだった。
性能の差もあり、叶うはずも無かった。
しかし、やるしかない。
それを胸に、カタロンは前へ前へと進み、最悪特攻ででも衛星兵器を破壊しようとしていた。
アロウズからは新型のMS、ガデッサが巨大なランチャーを構えてカタロンのMSを破壊していた。
それに続くようにアヘッドやGN−XVも進撃する。
次々と破壊されていくカタロンの艦体。
1隻にアヘッドが取り付いた。
またカタロンの艦体が落ちる、と思った瞬間、ビーム攻撃がアヘッドを破壊した。
また、別のアロウズMSも破壊されていく。
突然の戦況の変化に戸惑いの色を浮かべるカタロン部隊。
『こちら、ソレスタルビーイング』
カタロン部隊に入った通信は、映像つきの物だった。
戦艦の真横を通り抜け、アヘッドを撃墜しながらもパイロットが通信を入れてきた。
それにカタロンの艦長が驚いている間にも、刹那は言葉を続けた。
「衛星兵器破壊ミッションは、我々が行う」
刹那もダブルオーライザーの中でモニター越しに相手を見ていた。
『協力を感謝する・・・!』
「衛星兵器に関する情報が欲しい。回線34で転送を」
刹那がそう言うと相手は「すぐに転送しよう」と言ってくれた。
更にアヘッドを撃破しつつ、本当にすぐに送られてきた情報を確認する。
「転送を確認。衛星兵器の次弾発射の可能性がある。艦隊をオービタルリングの下側に」
データを処理しながら言う刹那に相手は「わかっている」と言い艦を移動させた。
映し出されたものは、アロウズの衛星兵器・メメントモリの情報データ。
「これが、アロウズの衛星兵器」
そう呟きながら、刹那はそのデータをプトレマイオス2へ送った。
直後、ガデッサのメガランチャーがダブルオーライザーに向けて放たれる。
それをかわしながら刹那は粒子量を見て相手が新型だと確信する。
打ち返すと、ガデッサの左足の先をかすめた。
挑発をした後、刹那はダブルオーライザーを移動させた。
プトレマイオス2はオービタルリング上を移動していた。
先行していたダブルオーライザーから衛星兵器のデータが送られてくる。
「ダブルオーライザーから送られてきた衛星兵器のデータ、表示するです!」
ミレイナがそう言い、すぐにモニターに衛星兵器のデータを映す。
それを見ながら各々が声をあげる。
「やはり、オービタルリングの粒子加速器を利用した自由電子レーザー掃射装置ですね」
「この護衛艦の隊形・・・、スメラギさんの予測通り、砲塔には、発射角度の制限がありそうです!」
アニューとフェルトの言葉に、スメラギが瞳を細める。
直後、ミレイナが「あ!」と声をあげた。
「ノリエガさん、エージェントから暗号データが送られてきたです」
「王留美から?今まで何を?」
ブリッジに来ていたマイスターも不思議そうな表情をする。
ティエリアの言葉にスメラギはすぐにミレイナに「表示してくれる?」と言う。
ミレイナも「はいです!」と元気良く返事をし、モニターに映す。
「衛星兵器の内部構造・・・!」
スメラギが驚きの声をあげる。
王留美から送られてきた衛星兵器のデータは、内部情報が事細かに記されていた。
「どうやって入手を、」と思わず零したのはアレルヤだった。
次にフェルトが「スメラギさん!」と声をあげる。
「衛星兵器の弱点である電磁場光共振部の位置が!」
「・・・これで作戦は決まったわね」
スメラギは再度前を見据え、言葉を続けた。
「衛星兵器の死角から接近しての直接攻撃。ティエリアとロックオンの精密な連携は、必須事項よ」
「防衛部隊はどうする?」
問うたロックオンに、スメラギは前を見据えたまま即答をした。
「強行突破します」
「繊細なんだか、強引なんだか」
「どちらも必要。ミッション、すぐにでも始めるわよ」
軽口を叩いたラッセに返し、スメラギはそう言い拳を握った。
各々「了解」と返しプランに従う為に移動を開始する。
マイスターたちがブリッジから出て行く中、スメラギは少しだけ「あ、」と短く声をあげた。
思わず全員が視線を彼女に集める。
スメラギは気まずげに視線を彷徨わせた後、控えめに「、」と入り口付近に居る彼女を呼んだ。
「・・・貴女に、頼みたい事があるのだけれど・・・」
スメラギの言葉に瞳を細めたのは、アレルヤだった。
彼女の頼み。
乗り気では無いスメラギの様子に、を戦場に引き込む事であろう事が予想できる。
それはティエリアも一緒だったのか、真紅を細めた。
は少し瞳を丸め、驚いた表情をしたが、すぐにスメラギを見詰め返した。
「・・・はい」
普段より力のこめられた返事に、アレルヤの胸が痛んだ。
刹那はアヘッド、GN−XVを順々に撃破していっていた。
これで8機、と刹那が思った時、スメラギからの通信が入った。
『刹那、今からミッションを開始するわ』
「了解!」
そう返し、刹那は眼前に迫るアヘッドにGNソードUを突き刺した。
直後、またガデッサからメガランチャーが放たれる。
それを避けつつ、相手の位置を把握する。
確実に動いて狙いを此方に定めていた。
「新型が誘いに乗った!」
刹那はそう言い、ダブルオーライザーを移動させる。
イノベイターが乗っているであろう新型の注意を引き付ける事には成功した。
ガデッサはビームサーベルを抜き、切りかかってきた。
それを受け止めながら、刹那は「イノベイター!」と声を張る。
直後、高い声が通信越しに響いた。
『ご存知じゃないさ!!』
「何!?」
刹那が突然の声に思わず言った直後、真横のオービタルリング上を物凄い速さでプトレマイオス2が通過した。
「来たか!」と声を張る刹那。
衛星兵器破壊のミッションが始まったのだ。
「全砲門を開いた」
「目標到達まで、543セコンドです!」
照明が落とされたプトレマイオス2のブリッジで、ラッセとミレイナが声を上げる。
緊迫した雰囲気の中、スメラギはティエリアとロックオンを想い、「頼むわよ・・・」と呟いた。
当然、プトレマイオス2に攻撃が集中される。
「ラッセ!」とスメラギが声を上げるとすぐに彼は対応をした。
GNフィールドを展開して攻撃を防ぎつつ、GNミサイルやビームを放って敵MSを撃墜した。
しかし、全てを防ぎきれるはずもなかった。
プトレマイオス2のブリッジ内を、砲撃の振動が襲う。
「せ、船体が右側に・・・押し出されて・・・!」
舵を強く握り、なんとか耐えようとするアニュー。
フェルトも若草色の瞳を細め、声をあげる。
「衛星兵器の射線軸上まで、残り14!」
それを聞いたスメラギが奥歯を強く噛む。
プトレマイオス2は敵の集中砲撃により、船体がオービタルリング上から押し出され、衛星兵器の射線軸上に追いやられる。
「トレミー、敵衛星兵器の射線軸上に入りました!」
直後また、敵の攻撃により艦体が揺れる。
直撃したのか、先ほどより大きな揺れに各々が悲鳴を上げる。
ブリッジに来て指定された席に腰を下ろしていた沙慈は、不安げに視線を彷徨わせた。
彼の背後に座るマリーも、不安げに視線を隣に向けていた。
マリーの視線の先には、振動の中でも微動だにせずにモニターを真っ直ぐ見詰めていた。
スメラギに頼まれた役目。
の脳量子波、直感能力を使用しての察知だった。
メメントモリの構造図を見て、いつ撃たれた後、どのタイミングでどう動けば良いのか。
は全てを計算し、感じようとしている。
超知覚と、超反射。
脳量子波ならば自分も使える。
なので、よりも自分をとマリーは言ったが、レーゲンとに首を振られてしまった。
ソーマ・ピーリスを否定した上でマリー・パーファシーはここに居る。
それなのにマリーに脳量子波を使用させる事をレーゲンは良しとしなかった。
けじめはしっかりとな。と言い残し彼はメディカルルームに一人残っている。
マリーは悲しげに金の瞳を揺らした。
ならば、はどうなるのか。
なら、良いとでも言うのか。
超兵とは違うが、エクステンデッドという体を強化した存在。
4年間、アロウズの手に落ちていた際に恐らくはまた強化されたであろう体。
薬物の投与もあってか、脳量子波探知も強まっている事を感じていた。
しかし、彼女自身は争いを好まないと聞いていた。
そんな彼女を、戦いに巻き込むなんて。
マリーは煮え切らない想いを感じながらも、それはもう一人の超兵も同じである事に気付く。
(・・・アレルヤ、きっと貴方もそうなのよね・・・)
直後、再度また艦が揺れる。
ミレイナが悲鳴をあげ、フェルトが「スメラギさん!」と焦りの声を上げる。
プトレマイオス2は、完全に衛星兵器の射線軸上に入っている。
いつ撃たれても可笑しくは無い。
現状、衛星兵器はチャージを終えたようだった。
「まだよ・・・まだ!」
スメラギは前を見据えたまま声を張る。
それにラッセも「けどよ!」と声を上げる。
しかし、拳を強く握り、彼女も焦った様子で「まだ!」と再度声を張り上げた。
衛星兵器のチャージが完了し、発射過程に入る。
光が砲口に集まっていく。
もう発射される!!
誰もがそう思った直後、
「今!アレルヤ!!!」
が叫んだと同時に衛星兵器が発射された。
一瞬にしてオービタルリング上は衛星兵器から放たれた光に包まれた。
消えたプトレマイオス2。
それに刹那は視線をやったが、すぐに目の前にいるガデッサに攻撃をしかける。
『フッ・・・ハハッ!終わったね!!』
イノベイターの声が響くが、刹那は何も返さなかった。
彼は確信していたからだ。
仲間が、無事だと。
刹那がそう思った直後、真上から真っ赤な輝きを放つプトレマイオス2が急降下してきた。
アリオスがトランザムをし、プトレマイオス2の推進力、加速を手助けしたのだ。
再びオービタルリング上を走るそれのハッチが開く。
そこには、セラヴィーとケルディムが前後に並んでいた。
「第3デッキ、ハッチオープンです!」
「セラヴィー、ケルディム、攻撃態勢に入りました!」
ミレイナとフェルトの声が響く。
再度敵から放たれる砲撃に艦体が大きく揺れる。
アリオスのトランザムは、全てトレミーの推進力に回されている為にGNフィールドは使えない。
となれば、別の方法で防ぐしかない。
スメラギが「ロックオン!」と声を張ると彼から「オーライ」と返事が戻ってきた。
『行くぜハロ!』
『GNビットテンカイ!GNビットテンカイ!』
トランザムをしたケルディムが、装甲版を使用したシールドを展開する。
形、大きさをも自由に変えられ、移動出来るそれはプトレマイオス2に放たれる攻撃を防ぐ。
反撃もしながらも、プトレマイオス2は最大の速さで衛星兵器に迫る。
「アリオス、トランザム限界時間間で94セコンドです!」
『まだかよ!このままじゃ、ビットがもたねぇ!』
「もう少しだけ堪えて!」
ミレイナとロックオンにスメラギが返す。
『雑魚が・・・偉そうに!』
ガデッサの女性パイロットが不利になったアロウズのMSの援護に回ろうとする。
メガランチャーをプトレマイオス2に向けるガデッサだが、ダブルオーライザーが砲身の先を切り落とした。
「お前の相手は・・・この俺だ!」
プトレマイオス2が防衛線を強行突破する為に、最大の難関はイノベイターだ。
刹那はイノベイターを足止めするためにGNソードUを振りかざした。
プトレマイオス2はアロウズの迎撃艦体を突破した。
が、直も敵の集中砲火は当てられている。
ケルディムのGNシールドビットも限界を感じていた。
『シールドゲンカイ!シールドゲンカイ!』
「まだだ!まだもたせろ!」
ハロの言葉にロックオンが焦りの声をあげる。
ブリッジではスメラギが真っ直ぐ前を見据えながらタイミングを待っていた。
も真っ直ぐにモニターを見てタイミングを計っている。
脳量子波を用いた超知覚と超反射で敵がどう撃って来るかをも予想している。
「もっと、もっと接近して・・・!」
スメラギが声を漏らす。
GNシールドビットの数は減っていく。
防ぎきれなかった攻撃が、プトレマイオス2を襲う。
「アリオスのトランザムの限界時間です!」
ミレイナが声をあげるとほぼ同時にトランザムが終了される。
先ほどのアレルヤへの指示の為、ずっとアレルヤと思考を繋いでいたもそれを感じていた。
アリオスのトランザムが終わった。
ケルディムのGNシールドビットも限界に近い。
は空色の瞳を鋭くさせ、ぐ、と拳を握った。
(作戦を完遂させる)
「ケルディムのシールドビットが!」
フェルトが叫ぶ。
ケルディムのGNシールドビットは段々と破壊されていき、数も減っている。
(どんな手を使っても・・・!)
プトレマイオス2に敵の攻撃が直撃する。
沙慈やミレイナが悲鳴をあげる声が響く。
(私の戦術で、みんなを!)
スメラギがそう強く思った直後、衛星兵器・メメントモリが目視できるほどまで近付いた。
直後、が勢い良く顔をあげた。
「スメラギさん!ティエリア!」
「ティエリア!!」
の声を聞き、スメラギが声を張る。
それにセラヴィーの中のティエリアが「了解、トランザム!」と答える。
セラヴィーとトランザムさせ、主砲を構える。
「ハイパーバースト、完全開放!」
チャージしたエネルギーを一気に放つ。
ティエリアの放ったハイパーバーストは真っ直ぐにメメントモリに向かった。
「GNミサイル一斉発射!」
「くらえ!」
スメラギの声と共にラッセがGNミサイルを発射させる。
セラヴィーの攻撃を援護するそれは、僅かだが迎撃をされた。
真っ直ぐにメメントモリに伸び、命中をした。
それはメメントモリの外壁を破壊した。
全てを破壊しようとは思っていない。
次の一撃で決める。
スメラギはそう思いながら、真っ直ぐに前を見据えた。
ケルディムがセラヴィーを台座にし、GNスナイパーライフルを構える。
「あれが、電磁場光共振部・・・」
緊張のせいか、荒い呼吸を繰り返しつつロックオンが言う。
チャンスは一度!
そう言う彼と同じようにトレミークルーにも緊張が走る。
「ロックオン、」とスメラギが彼の名を呟く。
フェルトもアレルヤも、彼の名を呼ぶ。
「ライル・・・」
「・・・ロックオン」
も胸に手をあて、瞳を伏せて「ライル、」と小さく零す。
アニューも黙っているが、彼を強く想っている。
全員が彼を想った瞬間だった。
「ロックオン・ストラトス!」
ティエリアが声を強く張った。
それが引き金となった。
「その名の通り、狙い撃つぜぇ!」
ケルディムがGNスナイパーライフルを撃った。
真っ直ぐに、的確に狙い撃たれたそれはメメントモリの電磁場光共振部に見事に命中した。
急所を狙われたメメントモリは、爆発していく。
プトレマイオス2は通過し、背後のメメントモリに折れた巡洋艦が直撃し、最後に大爆発を起こした。
「衛星兵器の破壊、確認しました!」
「トレミー、速度を維持したまま現宙域より離脱」
フェルトが喜びの色を含んだ声をあげる。
ダブルオーライザーに後退を、とスメラギが指示を出す。
「了解です!」
ミレイナがスメラギの指示を受け端末を操作する。
が、すぐにミレイナはの方を見ると「ルーシェさん!」と彼女を呼んだ。
「セイエイさんには、ルーシェさんからお伝え下さいです!」
え、とが空色の瞳を丸くした。
スメラギも緊張の糸が解れたのか、笑みを浮かべて「そうね」と言った。
これは自分が刹那に連絡をしなければならないかと思い、は端末を操作してダブルオーライザーへ通信を入れる。
「ダブルオーライザーは、後退して下さい」
『後退了解した』
刹那の返事が耳に響く。
直後、何やら戸惑いの感情が伝わった気がした。
あれ、とは瞳を丸くした。
『あの援護・・・赤いビーム・・・擬似太陽炉搭載型か・・・?』
「擬似、太陽炉?」
刹那を援護した機体がある?
そう思いながらは瞳を細めた。
ダブルオーライザーは後退した。
プトレマイオス2もダブルオーライザーとの合流ポイントに向けて移動を開始した。
無事にメメントモリも破壊できた事から、安堵感がブリッジを包んでいた。
が、が急に顔をあげ、瞳を鋭くさせた。
隣に座っていたマリーが気付き、「?」と彼女を呼ぶ。
「来る!!舵切って!やられる!!」
「!?」
唐突に叫んだに全員が瞳を見開く。
アニューは咄嗟に舵を切り、プトレマイオス2の進路を変える。
直後、物凄い衝撃が艦体を襲った。
ブリッジ内に悲鳴が響く。
「・・・敵襲!?」
スメラギが焦りの声をあげる。
今のプトレマイオス2に反撃する力は既に残っていない。
スメラギはすぐにアニューに「最大船速!」と指示を出すとすぐにアニューが「やってます!」と声を張る。
逃げようとするが、敵の放った巨大なビーム砲がプトレマイオス2の左舷中部の側面に直撃した。
再びブリッジに衝撃がくる。
すぐに損傷を確認したフェルトが焦りの声をあげた。
「メ、メディカルルームが!!」
「!!」
「なんですって!?」
左舷中部の側面といえばメディカルルームのある場所だ。
思わず立ち上がりかけたマリーの腕を掴み、止めたのはだった。
「座ってないと、危ない・・・」
「けど・・・!」
金色を震わせたマリー。
スメラギは眼前のモニターを見、アロウズの新型の襲撃を受けている事を悟る。
勝てる見込みなんて無い。
ここは逃げるしかない。
そう思った直後、また敵MSからビーム攻撃が放たれた。
スメラギはすぐに「衝撃を利用して加速!」と声を張った。
「了解・・・!」
「ラッセ!スモークを!」
アニューが思い切り舵を切る中、ラッセがスモークを出す。
どこに行くんだ!?と言うラッセにスメラギは苦々しげに言葉を吐き出した。
「・・・このまま爆撃を利用して加速。スモークでトレミーをカモフラージュしながら、地上に降下します!」
「地上に!?」
焦りの声があがるが、スメラギの決定が一番なのだと全員分かっていた。
刹那とは合流できないまま、プトレマイオス2は被弾したまま地上へ降下した。
レーゲン「ぬわー!」
メメントモリ攻略戦は好きです。