「衛星兵器は破壊したが、こっちは痛手を受けちまった」
ケルディムの調整作業を終えたロックオンは、外に出て岩に腰を下ろしていた。
携帯端末を使用し、仲間に通信をする彼の表情は、険しいものだった。
「最悪、支部の力を借りる事になる・・・ああ、頼む・・・」
そう言ったところで、草を踏む足音が近付いた。
気付いたロックオンは直ぐに端末を切り、敢えてゆっくりと立ち上がって振り返った。
そこに居たのは、真紅の瞳を真っ直ぐ向けるアニューだった。
「どなたと通信していたんですか?」
「野暮用だよ」
そう言い肩を竦めるロックオンにアニューは表情を曇らせた。
「気になるんです」と言う彼女にロックオンは小首を傾げる。
「アロウズが、プトレマイオスの位置を・・・何故、あれほどまでに正確に把握出来たのか・・・」
衛星兵器破壊後、的確な位置に居た敵は攻撃をしかけてきた。
それがアニューは気になっていた。
「何故って、ねぇ・・・」
それはロックオンも気になっていた事だった。
彼女の言葉に、ロックオンは「なるほど」と言い笑んでみせた。
「リターナーさんは、俺を疑ってんのか」
「まさか!疑問に思っているだけです」
明らかな探りを入れるものだった。
が、アニューはそれを否定した。
それにロックオンは敢えて何も追求しなかった。
「あ、それと、呼び名はアニューでいいですから」
リターナーさんというのは、何だかくすぐったいらしい。
以前少しでも話した仲ではあるので、名前呼びでいいという事のようだ。
ロックオンは笑みを零し、口を開いた。
「だったら俺もライルでいい」
「ライル?」
問うアニューにロックオンは頷いた。
「ライル・ディランディ、俺の本名だよ」
地上に降下したダブルオーライザーはプトレマイオス2を探していた。
宇宙でネーナ・トリニティから得た情報ではプトレマイオス2は損傷して地上へ落ちたとの事。
クルーたちの無事も確認したい。
それに、
「・・・」
彼女も、無事なのか。
それも気懸かりだった。
そんな刹那の眼前に、巨大クレーターが現れた。
衛星兵器の攻撃が起こしたものだろう。
「これも、すべてイノベイターが仕掛けた事・・・!」
刹那が苦々しくそう吐き出した直後、レーダーに反応が入った。
直後、目の前をアリー・アル・サーシェスの乗る真っ赤な機体、アルケーガンダムが通り過ぎた。
「何故だ・・・!奴がどうして此処に居る!?」
ダブルオーライザーをそのまま動かし、刹那はアルケーガンダムを追尾した。
カタロンの中東支部では、中でまた話し合いがされていた。
「連邦軍の一部がクーデターを画策している!?」
本当なのか、池田。
そう問うクラウスに池田は頷いた。
「情報源は報道時代の古い友人で、信頼に足る人物です」
「アロウズの悪行に、業を煮やしたか」
「クーデーター派は、こちら側へ接触を図ろうとしています。
会談場所は、中東を指定しているようですが・・・」
池田の言葉に直ぐに反応したのは、クラウスだった。
「私が行こう」
彼の言葉に、全員が驚く。
シーリンは「待って!」と言い彼に詰め寄る。
「罠の可能性も・・・!」
「私は、連邦の悪政を正そうとする彼らの気持ちを信じたい。そして、それに応えたいんだ」
クラウスに真っ直ぐ見詰められ、シーリンは言葉を噤んだ。
そこで、耳にある音が響く。
オルガンと、歌声。
「・・・この歌は?」
思わずそう零すシーリンに、クラウスが目元を和らげて答える。
「マリナ姫が子どもたちの言葉を集めてつくった歌だそうだ」
「こんな状況で歌だなんて」
シーリンは顔をしかめたが、クラウスは反して穏やかな顔をしていた。
子ども部屋では、オルガンを弾きながらマリナが子どもたちと一緒に歌っていた。
「緑色芝生に 寝転んでいたい 動物も一緒に ゴロゴロしたい
今日はは良い事が たくさんあったから 明日も良い事が たくさんあるように・・・」
お日様出て夕日綺麗で、と続く歌声。
それにシーリンは瞳を細めるだけだった。
アルケーガンダムを追尾しつつダブルオーライザーはビーム攻撃を放つが、避けられた。
辺りはすっかり夕暮れ時となっている。
逃げ続けるアルケーガンダムに刹那は苛立つ。
「どこへ行く気だ・・・、この方角は・・・!」
クルジス・・・!?
刹那がそう呟く。
それと同時に、眼前に己の故郷の地が広がった。
廃墟の上で止まったアルケーガンダムが振り返る。
コクピットハッチが開き、サーシェスが外へ出てきた。
「どういうつもりだ、アリー・アル・サーシェス!」
二機共地上に降り立ち、刹那もコクピットハッチを開いた。
ダブルオーライザーの手の上に降り立ち、銃を持つ。
「よお!久しぶりだな、クルジスのガキ・・・否、もうクルジスの兄ちゃんか」
「アリー・アル・サーシェス、貴様、イノベイターに!?」
「おうよ。傭兵は、ギャラ次第でどこにでもつく」
あっさりと答えたサーシェスに刹那は苛立つ。
「あんたの戦いに意味は無いのか!?」
「あるよ。お前には理解できないだろうがな」
そこで苛立った刹那は銃口をサーシェスに向けた。
が、彼は「待てよ」と言い手をひらひらと振るだけだった。
「今日は、お前さんに会いたいって人を連れてきたんだ」
俺のスポンサー様だ。
そう言うと同時に、アルケーガンダムの背後の建物の影からある人物が現れた。
若草色の短い髪を持った青年は、紫の瞳を持っていた。
「イノベイターか!」
刹那の言葉に、彼は「そうだよ」と答えた。
「名前はリボンズ。リボンズ・アルマーク。
久しぶりだね、刹那・F・セイエイ・・・否、ソラン・イブラヒム」
本名を言い当てられた事、久しぶりだという事。
それらに驚き、刹那は瞳を見開いた。
そんな刹那にリボンズは「そうか」と言い顎に手をあてた。
「君にとって僕は初対面だったね。
でも、僕にとってはそうじゃない。僕は、11年前に君と出会っている」
そう、この場所で。
リボンズはそう言い、言葉を続けた。
「愚かな人間同士が争う泥沼の戦場・・・その中で、必死に逃げ惑う一人の少年」
クルジスの、少年兵。
その中に、刹那は居た。
「僕は君を見ていたんだ。MSのコクピットからね」
そう言われ、刹那は驚愕から瞳を大きく見開いた。
「ま、まさか・・・!」
幼い自分が目にした輝き。
アンフに銃口を向けられ、もう終わりだと思った瞬間、天から落ちてきた光。
ビームに打ち抜かれたアンフは破壊され、刹那は生き残った。
舞い降りるOガンダム。
それは刹那の運命を変えたものであった。
「あの機体に・・・Oガンダムに・・・!」
「あの武力介入は、Oガンダムの性能実験。
当然、機密保持のため、その場にいた者はすべて処分する予定だった」
けれど僕は君を助けた。
リボンズはそう言いながら、過去の刹那の瞳を思い出す。
「Oガンダムを・・・僕を見つめる君の目が、とても印象的だったから」
畏怖するような、崇拝するような瞳。
「それだけじゃない。ヴェーダを使って、ガンダムマイスターに君を推薦したのは僕なんだよ」
そう言い微笑むリボンズに、刹那は表情を歪める。
銃口を向けながら、彼は瞳を細めた。
「礼を言ってほしいのか・・・!」
「君の役目は終わったから、そろそろ返してほしいと思ってね。
それは本来、僕が乗るべき機体なのだから」
ああ、それと。
リボンズは何かを思い出した様な仕種をし、笑みを向けた。
「彼女もね。あれは良い実験体なんだからそろそろ今の経過をチェックしたいからね」
「・・・彼女、だと?」
リボンズの指す彼女。
刹那の脳裏に浮かんだのは、アロウズから取り戻した金色の彼女だった。
「そう。・ルーシェだよ。
彼女の体は順調にイノベイターに近いものへ進化している」
超知覚と超反射。
以前にも増した彼女の能力。
あの戦いに怯え、今も悩み苦しむ彼女をまたアロウズの下へ戻せと。
そう言うリボンズに刹那は瞳を鋭くさせ、真っ直ぐにリボンズに銃口を向けた。
「悪いが、断る!」
そう言いリボンズを撃とうとしたが、サーシェスも銃を抜いた。
静かな廃墟に銃声が響く。
右の腕、脇を撃たれた刹那は、思わず膝を着いた。
奥歯を噛んだ後、刹那はダブルオーライザーの指についているスイッチを操作してコクピットへ戻る。
コクピットへ戻ったところで、酷く右腕、脇腹が痛む。
何やら特殊な銃で撃たれたのか、痛みが酷く響く。
刹那は奥歯を強く噛み、痛みに耐えつつ迫るアルケーガンダムに応戦する為にレバーを握った。
辺りが闇に包まれた頃、プトレマイオス2の修復は大分進んでいた。
壁は塞がり、レーダーの復旧も進んでいた。
は以前フェルトに渡されたミカエルの中にあった物を見ていた。
オルゴールや髪飾り。
他の小物等に混ざって、あるものがあった。
それを手に取って、は瞳を揺らした。
一見何の変哲も無い携帯端末。
震える手でそれを取り、思わず自室から駆け出た。
そのまま格納庫へ走って入り、カマエルを見上げた。
カマエルの背についている、GNメガランチャー。
この端末の持ち主の物だった、それ。
『・・・、私も、君と同じ想いだ・・・!』
『私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!』
『、ありがとう・・・』
「・・・ヨハン、」
彼の言葉が、脳裏を過ぎる。
は携帯端末を胸に抱いたまま、膝をついた。
ブリッジにロックオンが駆け込んでくる。
何時もと違い焦った表情の彼に、全員の視線が集まる。
ロックオンは「まずいぞ!」と言い言葉を続けた。
「未確認モビルスーツが2機、別々の方向から向かって来ている」
ロックオンの言葉にフェルトが「え」と声をあげる。
それにスメラギは敢えて何も言わず、指示を出す。
「フェルト、アレルヤとティエリアを出撃させて」
「りょ、了解です!」
艦内放送をかけ、直ぐに出撃準備に移るフェルト。
そんな彼らのやり取りを見ていたアニューは真紅の瞳を不安げに揺らした。
「やっぱり、こちらの位置が・・・」
カタパルトは通常モードで射出となる。
セラヴィーとアリオスが出撃をする。
『セラヴィー、ティエリア・アーデ、行きます!』
『アリオス、アレルヤ・ハプティズム、迎撃行動に入る』
MA形態で出たアリオスとセラヴィー。
迫る敵MSはガラッゾとガデッサだった。
接近型と砲撃型。
ガデッサを捕捉したアリオス。
アレルヤは瞳を鋭くさせ、レバーを握る手に力を込める。
「砲撃型・・・撃たせるものか!」
プトレマイオス2にはが居るんだ!
そう思い、アレルヤはガデッサのビーム攻撃を避ける。
「ハレルヤが居なくても!」
GNメガランチャーも避け、空中で変形してGNツインビームライフルを撃つ。
セラヴィーは接近型のガラッゾと戦闘を繰り広げていた。
ビーム攻撃を放つが、尽く避けられて反撃をされる。
それをGNフィールドで防ぎながらティエリアは苦々しげに声をあげる。
「ヴェーダのバックアップがあるからといって!」
『ティエリア・アーデ、君は、イノベイターだ!』
ガラッゾから通信が入った。
相手の赤毛のイノベイター、ブリング・スタビティは両腕のビームサーベルを展開した。
勢いのままセラヴィーのGNバズーカを切断した。
『我々と共にに、使命を果たせ!』
そのままセラヴィーに攻撃を仕掛ける。
が、ティエリアもビームサーベルを抜き、其れを受け止める。
「断る!!」
ビームサーベルで受け止めたまま、両肩のGNビームキャノンが放たれる。
が、軽い動きでかわされて蹴りを入れられる。
そのまま地上に落ち、着地も出来ずに倒れた。
「・・・強い・・・!これがイノベイターの力・・・!」
飛び立った輸送機を見送りながら、マリナは瞳を悲しげに細めた。
カタロンの中東支部から、クラウスたちが出て行ったのだ。
「戦いが広がっていく・・・」
悲しげな表情をしたマリナを案じて、子どもたちが彼女の周りに集まる。
「どうしたの、姫様?」と口々に問う子どもたちにマリナは安心させるように微笑む。
「ヤエルたちと作った歌が、みんなに届けばいいなって」
「だったら歌わなくちゃ!」
明るい声色でそう言った子どもに、マリナは「そうね、」と言い空を見上げた。
(それぐらいしかできなくても・・・せめてそれだけでも・・・!)
セラヴィーの放った攻撃を避けつつ、ガラッゾが迫る。
『同類を討つのは忍びないが・・・やらねばなぬ使命がある!』
腕のビームサーベルを構え、ガラッゾがセラヴィーに一気に迫った。
GNフィールド展開しているセラヴィーは、そのまま構える。
「譲れない物は、こちらにもある!」
セラヴィーのGNフィールドが消え、ガラッゾのビームサーベルが右腕を切り落とした。
それにブリングは「フィールドが!?」と驚きの声をあげる。
セラヴィーはそのままガラッゾの腕を掴む。
両足の隠し腕も伸び、ガラッゾの両足も掴んだ。
同時に、セラヴィーの機体が赤く光輝く。
『トランザムか!その程度で!』
そこまで言ったところでブリングが驚きの声をあげる。
セラヴィーの両肩についていたGNキャノンが後ろに動き出した。
そのまま横に展開し、砲の先にマニュピレーターが現れた。
セラヴィーの背にあったガンダムフェイスを中心にしたユニットが分離し始める。
「ナドレの時とは違い・・・その姿を晒そう」
手足が出、ヘッドユニットも現れた。
最後に額のV字アンテナが展開され、赤く瞳が光った。
『この機体は・・・!?』
黒色の小柄な機体は、そのままゆっくりと振り返る。
「セラフィムガンダム!」
セラヴィーに捕らわれたままのガラッゾに、分離したセラフィムが迫る。
咄嗟にガラッゾはGNフィールドを展開するが、セラフィムの腕はフィールドを突き抜けてきた。
『討つというのか同類を!』
「違う! 僕は人間だ!!!」
セラフィムガンダムの両腕のGNキャノンをガラッゾに放つ。
『ブリング!?』
アレルヤと戦闘していたガデッサのパイロット、リヴァイヴ・リバイバルは焦りの声をあげる。
その隙にアリオスがガデッサのGNメガランチャーを切り落とす。
セラフィムガンダムの放ったキャノンにより、ガラッゾは爆発した。
離れるセラヴィーとセラフィム。
『ブリング・スタビティ!!!』
叫ぶリヴァイヴ。
アレルヤが攻撃しようとするが、ガデッサは避け、そのまま離脱を開始した。
傷を負いながらも動きに隙が出来ないダブルオーライザー。
ファングも全て避け、反撃をもするまでに至っていた。
そこに、カタロンの輸送機が通る。
アルケーガンダムは直ぐに其方へ向かい、GNバスターソードをそれに突きつけた。
『こいつは物質ってやつだ!』
笑い声をあげてトランザム状態のダブルオーライザーに言う。
『手出しは無用・・・だ・・・?』
粒子が舞い、ダブルオーライザーが消えた。
サーシェスはすぐに辺りを見渡すが、見当たらない。
増したから一気に懐に飛び込んだダブルオーライザーはアルケーガンダムの腹部に蹴りを入れた。
フェングが放たれるが、ダブルオーライザーは再び残像を残して消えた。
GNソードライフルモードで攻撃をし、ファングを一掃した。
一気に間合いをつめてGNバスターソードも避けて腕を切り落とす。
足もGNソードUで突き刺し、とどめを刺そうとした瞬間、
―刹那、
「!!!!!!!」
粒子が舞う中、ダブルオーライザーのGNソードUはアルケーガンダムの脇腹に突き刺さった。
アルケーガンダムは爆発したが、コアブロックは離脱していった。
なくす事が 拾う為なら 別れるのは 出会う為
さようならの 後にはきっと こんにちはと 出会うんだ
カタロンの輸送艦の中にも、彼女の歌は響いていた。
クラウスが「シーリン・・・」と信じられない、といった様子で彼女に声をかける。
シーリンも「どうして、」と言いただ唖然とするだけだった。
「歌が・・・聞こえる・・・歌が・・・・・・、」
刹那はダブルオーライザーの中でそう呟き、瞳を揺らした。
マリナと子どもたちの歌声は、野戦病院、カタロン支部内にも響き渡った。
ここのセラヴィーは胸アツ。