カタロンの中東支部では、マリナに寄り添われながら刹那はダブルオーライザーの下へ移動していた。


「その体で大丈夫なの刹那?」

「仲間が、待ってる・・・ずっと、が不安がっている・・・そんな気がするんだ・・・」


ダブルオーライザーの足元まで来たところで、マリナは手を放す。
刹那はワイヤーを掴み、ゆっくりと振り返った。


「・・・マリナ、今度会った時、子どもたちの歌を聞かせてくれ」


刹那の口から出たのは、離別の言葉ではなく再会を願うものだった。
それにマリナは柔らかい笑みを浮かべ、彼を見詰めた。


「・・・もちろんよ。だから、貴方も無事で」


刹那も笑みを返し、コクピットに乗り込む。
座った衝撃で、体が痛む。
ボックスから無針注射器を取り出し、そのまま右腕に打った。
痛み止めを使用し、メットを被る。
荒い呼吸を繰り返しながら、刹那はレバーを握った。


「うう・・・、ダブルオーライザー・・・刹那・F・セイエイ、出る・・・!」


カタロン支部の倉庫から飛び立つダブルオーライザーを、マリナは見えなくなってもずっとそこに立って見送っていた。










はずっと悩んでいた。

アレルヤの事。マリーの事。戦う意味の事。自分の存在価値の事。

あれこれ悩み、足手まといでしかなかった自分を、トレミーのクルーは仲間だと言ってくれた。

迷惑を、たくさんかけてしまったのに。

アレルヤは元々マリーを想っていた。
それなのに、脇から出てきた自分が邪魔をしてしまった。

迷惑ばかり。

そうだ、戦う事が私の存在意義だった。

戦う事、だけが。


がそう思っている時に響いた警報音。


『敵MS隊、本艦に向けて接近中です!』


敵。


『粒子放出量からみて、敵部隊はアロウズと推定!』


アロウズ。
グラハムや、スミルノフ少尉、そして、





『自分の名前が言えるな』

『・・・・・・・ルーシェ』

『そうだ。お前は・ルーシェだ』





金色の髪を持った、綺麗な男の人。





『レイ・ザ・バレル、大尉です』





どこかで、見た事がある気がした彼。
心配をしてくれていた赤毛の女性も、アロウズに居る。
そして、ルイスも。

アロウズは、敵。
今迫る敵部隊に、彼らも居るのだろうか。

私だけ、本当にこんな所で何をしているのだろう。

次々と艦内放送で告げられる戦況。


『ケルディム、トランザム限界時間です!』

『セラヴィーとアリオスが・・・!!』


やられている。
アレルヤが、ティエリアが、ライルが、

は携帯端末を強く握った。


『敵部隊、接近!射程距離まで、0034です!』

『武装が使えねぇ!』

『残っているのはカマエルとGNアーチャーだけです!』


はゆっくりと立ち上がった。

どうしてこんな事をしているのだろう、私は。

私の存在意義は、戦う事。


「戦う事しか出来ないのなら、こうするしかないじゃない・・・!」


今思えば、きっと彼もこんな気持ちだったのだろう。





『・・・何が正しくて、何が間違っている? 一体どれが正義でどれが悪なんだ・・・?』

『教えてくれ、・・・私は一体どうしたら良い・・・?』





どこに行けばいいかが分からない。
どうすれば良いかが分からない。

彼はずっと悩んでいたんだ。

戦う意味。
自分たちは戦いの為に作られた。

だからこそ、それ以外を知らなくて、悩み、戸惑った。





『・・・、私も、君と同じ想いだ・・・!』

『私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!』

、ありがとう・・・』





最期に私を庇った彼は、確かに個人の意思で行動していた。
自分自身の、意思で。

カマエルを再度見上げると、彼から受け継いだGNメガランチャーが目に入った。

きゅ、と端末を一度強く握った後、ポケットに入れる。
そのまま駆け出して簡単な操作をしてワイヤーを伸ばす。

しっかりとそれを掴み、体を上昇させる。

通信越しにはマリーや沙慈の声も聞こえる。
GNアーチャー。
確かにマリーなら乗りこなせるかもしれない。

けれど、それをアレルヤは望まないから。

はそう思いながら、するりとカマエルのコクピットに身体を滑り込ませた。
パネルを操作に、ハッチを閉じてカマエルを起動させる。

すると、丁度格納庫に入ってきたイアンが驚きの声をあげるのが見えた。


お、おい!!何をしているんだ!!


焦るイアンの声を無視し、はブリッジに通信を入れる。
タイミングが悪かったのか、驚くトレミークルーたちが見れた。


・・・!?


スメラギの驚きの声が響く。
当たり前であろう。
ずっと塞ぎこんでいたが自ら進んでガンダムに乗り込んだのだから。


「本当に、自分勝手でごめんなさい。この危機的状況を何とか出来るのは、カマエルとGNアーチャーだけだから・・・」

・・・!無理して戦うなんて・・・!!』

「無理、してない」


心配そうに瞳を揺らすフェルトには首を振って答えた。

嘘だ。

本当は手が震えている。
これから戦場に行くと思うと、怖くて仕方ない。、

でも、この想いは本当だから。


「・・・だって私、仲間を・・・みんなを守りたいから」


そう言って今出来る精一杯の笑顔を、は浮かべてみせた。


「刹那が戻るまででも良いの。カマエルにはそんな力もあるんでしょ?大丈夫ですから、行かせて下さい」

『・・・・・・』


こんな私を仲間と言ってくれたみんなを守りたい。
そう言うにスメラギは瞳を揺らした。


『・・・カマエルを、カタパルトデッキへ・・・』

『スメラギさん!!』

『ミレイナ!早く!』


フェルトの抗議の声を聞き流し、スメラギが指示を出す。
それに最初こそ固まっていたミレイナだが、直ぐにパネルを操作した。
移動するカマエルには「ありがとう」と言いゆっくりと瞳を閉じた。

カタパルトデッキへ移動したカマエルに、通信が入る。


『射出準備・・・完了・・・タイミングを、カマエルに譲渡・・・』

「ごめんね、フェルト」

『・・・絶対、無理しないでね・・・!』


震える声でフェルトが言う。
それには笑顔を返し、直ぐにカマエルを発進させる。


「カマエル、・ルーシェ・・・出撃します!」


白と赤のフォルムを輝かせ、カマエルガンダムが出撃した。
ミカエルの頃より武装も増え、遠近両方の戦闘が出来る様になったカマエル。

は後退するプトレマイオス2を守るように立ち塞がった。

そのままGNメガランチャーを放つ体制を取る。

突然現れた新たなガンダムに、アロウズ部隊が戸惑っている様子が分かる。


((まさか・・・!?))


ルイスの声が頭に響く。
アヘッドスマルトロンに乗っているのは、やはりルイスだ。
戸惑っているのか、彼女の機体は動きを思わず止めていた。


((レイ!が!))

((分かっている。フレイは避けて少し下がれ!))


声が、する。
この声はレイと赤毛の女性のもの。

は思い切りレバーのボタンを押した。
一気に放たれたGNメガランチャーはGN−XVやアヘッドを撃墜した。

そのまま別方向から迫るGN−XVにはGNビームサーベルを抜いて応戦した。
ランスを受け止め、そのまま受け流す。
空いている腕でGNブレイドを引き抜き、通り抜けようとしたアヘッドを切り裂いた。


「此処は抜かせない!!」


がそう叫んだ直後、1機のアヘッドが突撃してきた。
ビームサーベルを受け流し、距離を取りつつバルカンを放つ。


『・・・・ルーシェだな』

「・・・貴方は、アロウズに居た・・・」


突然通信モニターが開いた。
そこに映ったのは、金色の髪を持った男、レイ・ザ・バレルだった。

彼はの無事な姿を見ると、小さく息を吐いた。


『危害を加えるつもりは無い。俺も、フレイも』

「・・・どうして、敵なのに・・・」

『そうだな。元々も俺たちは敵対する位置に居たな』


突破しようとするGN−XVをまた1機落とす。
悪いが今は暢気に話している暇なんて無い。
アレルヤたちの援護にも向かいたい。


『データを送る。俺とフレイについてだ』

「・・・一体何を・・・」

『これだけは言う。俺たちはお前を守るために居る』


それだけだ。
そう言うとレイは弾き飛ばされたまま体制を立て直さず、フレイのGN−XVに支えられていた。

わざとやられたレイに呆気に取られている中、左右から敵MSが突撃してきた。
突破しようとしている物も居る。

は舌打ちをひとつし、レバーを強く握る。


「行かせないって・・・言ってるでしょ!!」


カマエルの背の部分にあるところから飛び出す。


行って!ファング!!


抜けようとする敵部隊を一気に攻撃する。
多少は避けられたりもしたが、防衛ラインは突破されていない。
が、に攻撃をしかけたものまでは防げず、カマエルにアヘッドの攻撃が迫る。

舌打ちを一つし、ビームサーベルで防ぐ。
が、背後からビームライフルの直撃を受けて体制を崩す。


きゃあっ!!


続いて追い討ちをかけるようにカマエルに攻撃が集中する。
がトランザムシステムを発動させようとした瞬間、攻撃の手が緩まった。


「・・・え?」


思わず短い声をあげる。
何故かアロウズのMS部隊は撤退を開始していった。

ここまで追い詰めておいて、何故。

そう思いながらもは撤退するMS部隊を追う。
追撃の為ではなく、アレルヤたちを助ける為に。

は真っ直ぐに飛び、未だにエンプラスに捕らわれているセラヴィーとアリオスを捕捉する。
GNブレイドとGNソードを両手でひとつずつ引き抜き、突っ込む。


『ブリング!撤退だ!』

『しかし・・・!デヴァインの仇が・・・、・・・!!』


ガデッサ、ガラッゾが撤退する中躊躇するエンプラス。
出来た隙にカマエルが真上から切りかかった。


「この・・・!
離れろおおおおぉぉぉ!!!


ワイヤーを切断し、エンプラス本体に攻撃をしかける。


『ブリング!!』


が、真横から迫ったガラッゾに体当たりされ、蹴りを入れられる。
直撃したそれにより、機体全体が揺れる。
体制を崩したカマエルに後退しながらエンプラスはクローアームの外側にあるビームガンを放った。


きゃああああああああ!!!

!!



悲鳴を聞いてかフェルトの声が響く。
海に落ちそうになったところで立て直す。
が、既に敵機体は撤退した後だった。

それに安堵の息を吐く。
荒い呼吸を整える為に落ち着こうとするが、久々の戦闘のせいか、中々落ち着かない。

戦った、殺した、

また、私は戦場に戻ってきた。

手が、体が震える。
先の攻撃のせいか、ノーマルスーツ無しのせいか、打ち付けた箇所が痛む。

カマエルを浮上させ、立ち尽くすアリオスとセラヴィーを見やる。
ケルディムと、プトレマイオス2も此方に向かってきていた。

そう思った直後、一気に通信回線が開かれた。


『『『『!!!』』』』

わっ!


モニター付きだったので、画面がみんなの顔いっぱいになってしまった。
肩で息をしながら、は各々を見やる。
心配そうな顔をしたアレルヤ、ティエリア、ロックオン、スメラギ。
は彼らを見た後に、口を開いた。


「・・・みんな、無事・・・?」

・・・この、馬鹿が!!


直後ティエリアの怒号が響いては思わず肩を竦めた。
次にアレルヤも「!」と彼女の名を呼ぶ。


どうしてこんな無茶を!!?

『自分の心配をするべきだろ・・・ったく・・・』

「ア、レルヤ・・・ライルも・・・だって、」

いいから早く戻っていらっしゃい!!

「ちょ、みんな一気すぎ・・・!」


その後もマイスターたちとスメラギが一気に捲くし立てたので何を言っているかさっぱり分からなかった。
ひとまず、たちはプトレマイオス2へ帰還する事になった。

セラヴィー、アリオス、ケルディムと順々に先に入っていく。
最後にカマエルが入り、コクピットハッチを開いたところでほぼ全員が集まってきているのが見れた。

ワイヤーを使用し降りてきたに真っ先に駆け寄ったのはアレルヤだった。
続いてティエリア、フェルトが詰め寄る。




パイロットスーツも着ないで・・・!君は馬鹿なのか!

怪我は!?


真っ先に駆け寄ったアレルヤが両手を伸ばす。
両肩をガッと掴まれずい、と彼の顔が迫る。
それに驚いては思わず背を反らしてしまった。

マリー・パーファシーも居る前なのに、

はそう思いついつい視線も逸らす。
が、答えない彼女に焦れたのか彼は更に顔を近づけた。


!!

「な、何・・・!?」

どこも怪我してない!?


ずいずいと顔を近づけた後にアレルヤはの腕や肩を軽く叩いた。
彼女の体に異常が無いかを確かめる為に触れてくる彼に、は戸惑った様子を見せた。


「あ、や、ちょ・・・!」

「本当に君は・・・!」


最後にまたの両肩に両手を置き、項垂れる。
はそんなアレルヤの様子に空色の瞳を丸くした。

彼は大きく息を吐いた後、再度「本当に・・・」と震える声を漏らした。


「無茶ばかりして・・・!」


細い肩。

掌の半分ほどの細さな彼女の肩。

アレルヤの脳裏に過ぎったのは、4年前の戦いの際に離れていった彼女。
自身も怪我を負っているのに、いつも彼女は無茶ばかりして戦っていた。
守る。そう言い彼女は震える体を叱咤してガンダムに乗る。

無茶ばかりの彼女が、またガンダムに乗るであろう事は予想出来ていたが。


「・・・ごめん、」


ぽつりとが呟いた。
それに各々が彼女を再度見詰める。
顔を俯かせたは自身の手を握っていた。

きつく言いすぎてしまったかと思わずアレルヤが眉を下げる。
そんな彼の隣からロックオンが腕を伸ばした。


「わ、」

「まったく」


ぐしゃり、との頭を撫でる。
それに驚いたのか短く声をあげて彼女は空色の瞳を丸くした。
ロックオンは困ったように笑い、彼女の髪を今度は優しく梳いた。


「みんな心配したんだぜ?」

「・・・ライル、」


ロックオンは優しい声色でそう言った。
次にフェルトが一歩前に出ての隣に立つ。
そのまま両手を広げて、彼女を抱き締めた。


「フェ、フェルト・・・」

「本当に・・・無茶ばっかりなんだから・・・!」

「・・・うん、ごめんね」


は困った様に、それでも嬉しそうに目元を和らげた。
そんな彼女に、ティエリアとマリーが穏やかな笑みを浮かべる。
一気に遠ざかってしまったに、アレルヤは寂しそうな溜め息を零した。

相変わらず彼女は愛されている。

優しい彼女は魅力が多くて、人気なのも頷ける。
そんな彼女を傷付け、遠ざけたのも自分自身。

それが分かっているからこそ、アレルヤはもどかしさを感じていた。





カタロンから情報が入った。
それは、クーデター軍によるアフリカタワーの占拠だった。
突如起こったクーデターにより、アロウズの艦体は撤退をしていったと予想された。

これからテレビの報道を見たりして、ブリーフィングルームで話し合いをする予定である。

カマエルから降りて皆に出迎えられたは、そのままフェルトと少し行動をしていた。
フェルトに手渡されたものを受け取り、先に彼女にブリーフィングルームに行くように言って、は部屋へ戻っていた。
足元ではイエローハロが嬉しそうにコロコロと転がっている。


、ゲンキニナッタノ?』

「・・・吹っ切れた、って感じかな」


まずは、ひとつ。
そう呟いては上着に袖を通した。





「トレミーのメンバーも、ソレスタルビーイングの制服を着用しようって言ったの」





以前フェルトが言っていた事を思い出す。





「この胸の緑のひし形は、太陽炉の象徴なの。
 誰かが敷いたレールの上じゃなくて、今度は自分たちで行動する意味なんだって」





太陽炉の象徴。
はそう呟いて鏡に映った自分を見やる。

フェルトから手渡されたそれは、ソレスタルビーイングの制服。
上着の色は赤に近い、橙色。インナーの上の色のついた部分は空色となっている。
の為に用意しておいたの、とフェルトは嬉しそうに言った。

色合いからして、アレルヤとおそろいみたいな感じだろう。

そう思って、は表情を曇らせた。


「・・・アレルヤ、」


彼がマリー・パーファシーへの想いで揺らいでいる事も知っている。
けれど、彼女はレーゲンを思っている事も、は気付いていた。

こんな不安定な気持ちの時、どうも誰かに頼りたくなってしまう。
刹那が居れば、なんて思ってしまい、は大きく息を吐いた。


「・・・駄目だな、私」


直ぐに誰かに寄りかかろうとする。
守る為に戦うと決めたばかりなのに。

誰かが敷いたレールの上から離れる。

みんなを守るために、自分で考えて戦う。

はその決意を新たに胸にし、イエローハロを抱えて歩き出した。




ヒロイン復帰。
本当におまたせしました・・・!