ソレスタルビーイングの制服を身にまとってブリーフィングルームに入ってきたに、全員が注目した。
各々嬉しそうに表情を和らげる中、アレルヤも嬉しそうに瞳を細めた。
イエローハロを両手で持って入ってきたに、ロックオンの小脇に居たオレンジハロが声をあげる。


、ニアッテル!ニアッテル!』

「ありがとう、ハロ」


の言葉にオレンジハロは嬉しそうに耳の部位をパタパタと開閉した。
それにロックオンが笑みを浮かべ、「へぇ」と声を漏らす。


「似合ってるじゃないか」

「サイズはどう?」


フェルトにも言葉をかけられは軽く袖を引っ張ってみる。
丁度いい、と返す彼女にフェルトは嬉しそうに微笑んだ。
は少し頷いた後、視線をスメラギに移した。


「状況は?」


そう問うた彼女に、スメラギは僅かに瞳を細めた。
、と名を呟いた後、小さく息を吐いた。
そんな彼女に、は頷いてみせる。


「私は大丈夫です。みんなを守る、それが、私が此処に居る意味だから」

「・・・、」


アレルヤがぽつりと彼女の名を呟いた。
敢えてそれに反応せずにはスメラギを見詰めた。


「私にも、戦う理由が出来たんです」


ソレスタルビーイングの制服を身に纏い、カマエルに乗る。
そうさせてしまったのは自分たちなのだが、彼女が上手い具合に吹っ切れてくれた気がして、スメラギは目元を和らげた。
今見ると、良い方向へ進めている。
そんな気がしていた。


「・・・クーデター軍によるアフリカタワーの占拠が、報道されたのよ」


スメラギがそう言うと、フェルトがモニターにテレビ映像を映す。


『アフリカタワー、軌道ステーションを占拠した反政府勢力から、犯行声明、および連邦議会への要求が届きました。
 要求は、ステーションに在住する市民の開放と引き換えに、連邦議会の解散、反政府活動家4万5000人の釈放・・・』



モニターに映った報道に、全員の視線が集まる。


『ですが、連邦政府は要求に応える事も、テロに屈する事もありません!
 すでに独立治安維持部隊を現地へ派遣し、事件の早期解決を・・・』


「情報統制・・・偽りの放送だ」


ティエリアが静かに言う。
事件の早期解決。アロウズが果たしてそれに集中するだろうか。


「ま、カタロンからの情報通りだな」

「アロウズが撤退したのも、それが理由ですね」


ラッセとアニューが言う。
それに他の面々も頷く。


「・・・で、どうするんですか?スメラギさん」

「もちろん、協力するんだろ?」


アレルヤとロックオンの言葉に、スメラギは渋い表情をした。


「イノベイターはヴェーダを掌握している・・・。
 なのに彼らは、どうして今回の騒ぎに気づかなかったのかしら?」

「クーデターを予測しならが、見逃してたと言うんですか?」

「その可能性もあるわ」


フェルトの問いにスメラギが返す。
ヴェーダを掌握しているイノベイターはアロウズのトップにある存在だ。
彼らがクーデターを予測出来なかった訳が無い。


「だが、アロウズが動き出す以上、黙って見てる訳にはいかねぇぜ?」


ラッセの言葉にティエリアが頷く。


「そして、アロウズの裏には、イノベイターの存在がある」

「彼らが何をたくらんでいるとしても、それを解き明かすには、現地に向かうしかないわね」


ソレスタルビーイングに、沈黙は許されない。
ただ武力介入をする。それだけである。

それに、とが呟く。


「クーデターの情報は報道されてる。刹那が知ったら、きっと・・・」

「向かってるな」


ロックオンが笑顔で言う。
それにが頷く。

の言葉にアレルヤは僅かに瞳を細めた。

やはり彼女は彼を見ようとしていない箇所がある。
そして、今の彼女が案じているのは、刹那。
アレルヤにとってそれは良い感情ではなかった。


「イアン、アフリカタワーに着く前に、火器管制を使えるようにできる?」

「やるしかないだろう」


イアンはそう言い、掌に拳を打つ。
それに全員が頷く。
は一歩前に出てイアンに「私も手伝う」と言うが、やんわりと断られた。


「お前さんも疲れてるだろう・・・そうだな、アレルヤ。メディカルルームにつれてってやったらどうだ?」

「「えっ」」


イアンの言葉にアレルヤとが同時に声をあげた。
ちらり、と視線を向けるとお互いの目と目が合う。
そして何故か慌てて逸らす。

反射的にそうしてしまった二人に、イアンたちが「おいおい、」と呆れた声を出す。


「付き合いたてでも無いだろうに」

「・・・け、怪我とかもしてないですし・・・」

「君はパイロットスーツも着ないでガンダムに搭乗したんだぞ」


一歩後ず去ったの腕をティエリアが掴んで止めた。
鋭い真紅の瞳が彼女に向けられる。


「カマエルは相当のGがかかると聞いたからな」

「でも、私は常人より体が・・・!」

「エクステンデッドだろうが、君は人間だ。怪我をしたのならレーゲンに看てもらえ」


有無を言わさない様子のティエリアにが押し黙る。
アレルヤも小さく息を吐き、腕を伸ばした。


、」


伸ばした手は、彼女の肩に触れた。

丸くなった空色が、アレルヤを映す。


「僕と一緒に、行こう」


そう言うアレルヤに、は僅かに瞳を細めた。
すぐに顔を逸らしてしまったので表情はアレルヤから見えなかったが、彼女の頬は仄かに赤く染まっていた。
気付かないアレルヤは嫌がられたと受け取ったのか、悲しげに瞳を細める。
また「、」と彼女を呼ぶアレルヤに、顔を背けたままは小さく頷いた。


「大丈夫だって、言ってるのに・・・」

「刹那も心配するから・・・」


刹那、と言ったアレルヤの表情は悲しげなものだった。
しかしその名前には反応し、顔を上げた。


「・・・そう、だね」


そのままメディカルルームへ向かった二人を見送っていたティエリアは、溜め息を吐いた。
そんな彼にイアンが肩を竦めてみせた。


「不器用な奴らだな」

「仕方無いだろうが。すれ違ってばかりなんだからな」


そう言い、二人同時に溜め息を吐いた。










メディカルルームではレーゲンがを迎える準備をしていた。
湿布等を用意している彼の後ろには、マリーが居た。
マリーは金の瞳を揺らがせ、彼の名を呼んだ。


「レーゲン、」

「何だよマリー。そんな顔しちゃってさ」


振り返ったレーゲンは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
マリーは表情を歪めたまま、手の内にある包帯を握り締めた。


「・・・私も、戦える立場の人間なんです・・・」


超兵であるマリー。
勿論彼女もMSを操る事が出来る。
戦う術があるのに、今回の危機に何も出来ずにを危険に晒してしまった。
それがマリーの今の悩みだろうとレーゲンは思い、小さく息を吐いた。


「アレルヤは、二度と戦場に君を出さないという約束をして連れて来たんじゃなかったっけ?」

「それは・・・、」

は自己解決したんだよ」


自分の意思で、再びガンダムに乗ったんだ。
レーゲンの言葉にマリーは瞳を細めた。

分かっている。
マリーもの決意を理解出来ている。
けれど、


「・・・が、戦わない道が欲しかった・・・」


内なるもう一人の自分の想いも合わさってか、マリーはそう言い悲しげに瞳を伏せた。
そんなマリーにレーゲンは一歩近付き、優しく彼女の銀の髪を撫ぜた。


「優しいな、マリーは」

「そんな事・・・」

「その優しさは、きっと必要な物なんだろうな」


にこり、とレーゲンは微笑んだ。
その後に、メディカルルームのドアが開いた。
レーゲンとマリーが其方へ目をやると、アレルヤとが入ってきた。


「ちゃんと来たな」


レーゲンはそう言いマリーから離れ、を迎え入れる。
は二人の様子をアレルヤが気にすると思ったのか、ちらりと彼を伺っていた。
しかし、アレルヤはそれよりも今はの状態の方が気懸かりなようで、ずっとを見詰めていた。


「・・・?」

「・・・なんでも、ない」


小首を傾げたアレルヤから視線を逸らし、はレーゲンの前へ移動した。


「アフリカタワーに着く前にお願い」

「お前ね・・・ちゃんとしなさいってば」


まったく。と言いつつレーゲンは上着を脱ぐを見た。
検査台に腰を下ろしたの腕や肩はどうやら機体が揺れた際にコクピット内で強打した痛みがあるようだった。
しかし、体も強化された彼女にとっては、軽いものとなったが。

自然治癒で十分だな、これは。
レーゲンはそう思いながらも、心配そうに見ているアレルヤの為にもに湿布を貼る。
腕に貼られたそれに、は微かに瞳を細めた。
それを痛みからと勘違いしたのか、アレルヤがオロオロするが、


「・・・冷たい」


の一言で、ホッと息を吐いていた。
彼女の一挙一動で表情をコロコロ変えるアレルヤに、レーゲンは呆れの眼差しを送った。


「・・・あのさ、お前さ・・・何て言うか、ちょっとうざったいな」

えっ!?


僕!?
と、アレルヤが驚いている様子に、マリーが笑みを零す。
よく分かっていないのか、興味が無いのか、は検査を受けるままだったが。


「・・・ほら、異常なしだ」


電子カルテを出し、レーゲンが言う。
それにアレルヤは「良かった」と言い息を吐いた。
結果を見たは直ぐに立ち上がり、上着を羽織る。


「早かったね」

「怪我という怪我も無かったからな」


そう、と呟いたは軽くレーゲンに礼を言うと、ドアへ向かう。
あ、と声を漏らしレーゲンが彼女を呼び止めた。


「悪い、忘れてた。コレ」


投げて渡されたそれを受け取り、は空色の瞳を微かに揺らがせた。
レーゲンは困ったように笑みながら、肩を竦めてみせた。


「戦うなら、必要だろ」


補充。
はそう思いながら、薬をポケットにしまった。
王留美からも渡されたそれに、は瞳を僅かに細めた。
そんな彼女を複雑そうにアレルヤが見つめていた。

止めたい。
しかし、止められない。

分かっているからこそ、アレルヤは歯がゆさを感じていた。
薬をしまったは歩を進めた。
「どこへ?」と思わず問うたマリーの方を見ずに、は答えた。


「カマエルの所へ」


恐らく機体のチェックに行くのだろう。
これからは、彼女もガンダムに乗るのだから。

彼女の背を見送ったアレルヤは、悲しげに瞳を細めた。


「一緒に行かねーの?」

「・・・彼女は、未だ僕を拒んでいます・・・」


レーゲンの言葉にアレルヤはドアを見つめたまま答えた。
そんなアレルヤを横目で見つつ、マリーは小さく息を零した。

カマエルの下へ移動したはただじっとそれを見上げていた。


「・・・ガンダム・・・」


またこれに乗って戦う。
ソレスタルビーイングの制服も身につけた。
もう、覚悟は決めた。





、ステラと一緒』

『おい、置いてっちまうぞ、

『早く来いってば!!』

『ほら、皆待ってるぞ』





ステラ、スティング、アウル、ネオ。
前は彼らの為に何も考えずに戦っていた。

ただ単に、命令されたから。





『死ぬの、誰か死ぬの、だめ、こわい、こわい、死ぬのは怖い!!』

『ステラ!大丈夫だから、私も、ネオも、みんな居るから!』

『あああああ、!だめ、死ぬの、だめ!』

『大丈夫だから!!俺がちゃんと・・・ちゃんと守るから!』





抱き締めてくれた腕。
初めて感じた温もりに、胸が温かくなる事を感じた。

そこからだ。

戦いに対する恐怖が増したのは。

前々から恐怖はあった。
死ぬかもしれないから。
けれど、戦いたくないとは思わなかった。

思えなかった。





『私はステラやスティング、アウルやネオが居るから大丈夫だよ』

『・・・そいつらは、を守ってくれるのか?』

『え?』

は、俺がちゃんと守るよ。俺がを守る』





シンが守ってくれる。
そう思うだけで、心が安らいだ。
温かい気持ちになれた。





『死なせたくないから返すんだ!だから絶対に約束してくれ!
 決して戦争とかモビルスーツとか、そんな死ぬようなこととは絶対遠い、優しくて温かい世界へ彼女たちを返すって!』





けれど、戦いから離れる事は、結局出来ないんだ。
そう思いはイエローハロを持つ手に力を込めた。

あの後結局薬も投与され、精神操作も施された。
デストロイガンダムに乗ったは、フリーダムにより機体を大破させ、自身も命を落とした。

その後、この世界に来た後ソレスタルビーイングに入り、気付けばまたガンダムに乗っていた。
戦う事が存在意義。
戦わないと、居る意味が無いから。





『お前は、戦いたくないのに戦っているんだな』





戦いたくない。
今思えばそうだったのかもしれない。
無意識の内に押し殺していた気持ちを、あの時ソーマは見抜いていたのかもしれない。

アレルヤを守りたい。
トレミーの仲間を守るために戦っている。
それならば、戦える。

そう、思っていたのに、





『アレルヤのお前に対する気持ちは仮初だ』





戦う思いが揺らいだ。
それでも、大切な彼の為なら、たとえ別の女性を彼が想っていても、アレルヤに対する想いさえあれば大丈夫だと思った。
けれど、それも間違いだった。
綺麗なままの心でいられるわけがない。
嫉妬のどす黒い感情が、心を包んだ。





『僕じゃあ、君の支えにはなれない?』

『え』

『・・・君が本当に見ているのって、誰なのかな』





アレルヤこそ、私を通して誰を見ているのか。
そう言いたかった。
けれど、我慢をして、我慢に我慢を重ねて、ただ戦おうとした。
戦って、気を逸らそうとした。

その、結果が、





『撃って下さい。
 その代わり、マリーを、否、ソーマ・ピーリスを二度と争いに巻き込まないと誓って下さい』

『何を、アレルヤ・・・!』

『いいんだ。マリー、君が幸せでいてくれるなら』





眠っていた人格が蘇り、再びマリーとなった彼女。
そんな彼女に寄り添っていたのは、他でもないアレルヤ。

だから彼から離れて、彼の手で止めを刺してもらうつもりで再びアロウズに戻った。
体を改造される覚悟も持って。
それなのに、





『俺が、お前を守ってやる!!』

『いいんだ。もう、無理して戦わないで』





刹那の手によって、またソレスタルビーイングに引き戻された。
アレルヤとマリーが寄り添い合うのを、目の前で見なければいけなかった。
最初こそ、部屋に引きこもりがちになり、彼らを避けていた。
なのに、





は此処に居ていいんだ』

『・・・でも、』

『俺が、居て欲しいんだ』

『せ、刹那・・・?』

『邪魔なんて思わない。誰が何て言おうと、俺はお前を必要としている。
 俺の傍に居ろ。それだけでいい』





刹那の甘い誘惑に負けて、彼に寄りかかってしまった。
居るだけでいい、と彼は言ってくれたけれど、歯がゆさを感じずにはいられなかった。





『・・・お前も、変わっていなかったんだな』

『え』

『変わっていない。
 俺を守る為に、お前は咄嗟にダブルオーを動かした』

『あ・・・』

『優しいままだ。は、変わらない』





優しく微笑んでそう言ってくれた刹那。
今はそんな彼を支えて、守りたいと思う。

だからこそ、ガンダムに乗る。

アレルヤも、ロックオンも、ティエリアも。
トレミーのクルーも、みんな守るため。

戦える。大丈夫。

そう思いながら、はカマエルをじっと見上げていた。




再度決意。
そしてレーゲンは相変わらずアレルヤがうざったいそうですw