「・・・あの機体は・・・!」


GNアーチャーに乗り、ピラー破片を破壊していたマリーはあるものに気付いた。
軌道エレベーターのピラーから機体が出てきたのだ。
それは、ティエレンタオツー。
まさか、と思いマリーはそちらへGNアーチャーを動かした。





『何?ピラーから機体が出てきただと?』

「はい」


ルイスもそれを発見しており、アンドレイに報告をしていた。


『反乱分子の主犯格か・・・ついて来い!』

「了解」


これでクーデター派の主犯格を倒せれば、ソレスタルビーイング相手に集中できる。
そう思いルイスはアンドレイに続いた。


・・・





「・・・ごめんね、ルイス」

「・・・守れなくって、ごめんね。今度こそは私、ちゃんとやるから」

「行ってくるね」





そう言い去って行った
次に彼女を見た時は、瞳に色を宿しておらず、感情が抜け落ちた様子だった。

地上で再会した刹那に彼女の事を聞いても、答えは一定だった。





「・・・すまないが、俺は彼女の事をあまり知らない・・・」

「・・・そういえば、恋人は?、恋人居なかったっけ?」

「・・・それは、4年前の話だ」





今思えば、あの時彼は嘘を吐いていた。
彼女を知らないはずがない。
何せ彼はソレスタルビーイングなんだから。
そしてソレスタルビーイングには、


・・・沙慈・・・


ルイスはそう思いながら、アンドレイに続いた。


ティエレンタオツーに並び、マリーはピラー破片を迎撃する。
そこに聞きなれた声で通信が入ってくる。


『協力を感謝する』

「やはり、スミルノフ大佐・・・」


思わず安堵の息を吐いてマリーが答える。
それに通信の相手、セルゲイは驚きの声をあげた。


ピーリスか!?何故、MSに・・・!?』

「来ます!」


セルゲイの問いに答えずに、マリーはそう言い降り続くピラー破片の破壊を試みた。





「今の私は、ソーマ・ピーリスではありません・・・!
 私はマリー・・・マリー・パーファシーです!」

「マリーは優しい女の子です。人を殺めるような子じゃない。
 連邦やアロウズに戻ったら、彼女はまた超兵として扱われる!」





戦闘に巻き込まないように。
そんな約束をアレルヤとセルゲイはかわして、彼女を引き取った。
それなのに、


「・・・彼女が決意してしまえば、それも無意味なのよね」


が呟いたところで、ある事に気付く。
「・・・大型破片!」と言い、上空を見上げると、大型のピラー破片が落ちてきていた。
一斉攻撃が大型のピラー破片に集中されたが、大きすぎて効果が全く無かった。
オートパージできずに、落ちてきたものらしかった。

は直ぐにGNメガランチャーの準備をする。


『トランザム!』


横に並んだティエリアのセラヴィーがトランザム状態になる。


『GNバズーカ、ハイパーバーストモード!』

「GNメガランチャー、最大出力・・・!」


発射!!!
カマエルとセラヴィーの同時攻撃が大型破片を真っ二つにした。
だが、破壊にまでは至らない。
そこに、上空からビームが放たれ、それを破壊した。


『ロックオン!アレルヤ!』


同時に、刹那の声が響く。
ダブルオーライザーのビームが大型破片を破壊したのだ。
呼応するようにケルディムとアリオスもトランザムをし、一気にピラー破片を破壊する。

なんとか直撃は避けたものの、軌道エレベータのピラー破片の落下は長時間続いた。
それにより、被害予想と同じ広範囲に爆煙が広がった。
夕方になって、やっと破片が尽きた。
各機体はエネルギーも大量消費し、動けなくなっているものも多かった。
当然、ピラー破片の直撃を受け、大破した機体も少なくは無い。
ソレスタルビーイングの各ガンダムは無事だったが、周辺の被害はすさまじいものだった。

残骸の山。

夕焼けの赤い光が、悲壮さを増していた。


「何ということだ・・・」


スミルノフがそう言い瞳を細める。
そこで、今回のクーデターの首謀者である友のハングに気付く。


「無事だったか、ハーキュリー」

『・・・あり得ん・・・こんな事が・・・こんな取り返しのつかない事が・・・!』


通信越しに、絶望した彼の声が響く。
なんと言っていいか、セルゲイが考えている間に、突然のビーム攻撃が、ハングの機体を貫いた。
一瞬にして目の前で友の機体が爆散し、セルゲイは声を張った。


ハーキュリー!!!


それを見ていたルイスも「え、」と短く声を漏らす。
今回の首謀者を、撃った。

それは誰が?

そう思った直後、GN−XVが物凄い速さでセルゲイのタオツーに攻撃をしかけた。
ビームサーベル同士がぶつかり合い、火花が散る。


『この惨状は!お前たちが引き起こしたものだ!!』

「き、貴様!!!」


言い分も聞かずに友を撃ち落とした相手に怒りを露にするセルゲイ。
だが、通信越しに聞いた声に、お互いが戸惑いの声をあげた。


『その声・・・!?』

「ア、アンドレイ?!」

『父さん・・・まさか、反乱分子に・・・!?
 何を・・・何をしてるんですかあんたは!?

「ま、待て!」



アンドレイの乗るGN−XVがタオツーに攻撃をしかける。
それこそ、アンドレイはセルゲイの言葉を聞かないほど興奮していた。


『軍紀を守って母さんを殺したくせに!クーデターに加担するなんて!』


ビームサーベルが振るわれる。
「待つんだ、アンドレイ!」とセルゲイが言うが怒り心頭な彼の耳には届かない。


軍人の風上にもォ!


防戦一方となっているタオツーに気付いたマリーは、すぐにGNアーチャーを動かした。
「スミルノフ大佐!」と叫び彼の下へ向かおうとするが、下方からビーム攻撃がきた為に、緊急回避をした。


『ソレスタルビーイングゥ!!!』


アヘッドスマルトロンがソレスタルビーイングの機体であるGNアーチャーを狙う。
今は彼女に構っている暇は無い。
スミルノフ大佐の危機なのだから!
マリーがそう思っていると、上方からダブルオーライザーが急降下し、アヘッドスマルトロンのビームライフルを破壊した。


『ルイス!!!』


沙慈の声が響く。
ルイスは彼らに任せて、マリーはタオツーの方へとGNアーチャーを急行させた。


「大佐ぁ!!!」


その時、GN−XVのビームサーベルが、タオツーの左腕を切り落とした。
爆発が響く中、タオツーが体制を崩す。


『母さんの・・・!』

「大佐ぁ!!」


ビームサーベルを構えたまま、GN−XVが突っ込む。
アンドレイ、とセルゲイが悲しげに呟いた直後、


仇ィィィ!!!


突き出されたビームサーベルが、タオツーを貫いた。





『あなた』


ん?と返事をすると、彼女はキッチンに立って手元を見たままで、言葉を続けた。


『次の作戦、もし私に何かあれば、アンドレイの事、お願いしますね』

『おいおい・・・』


縁起でもない事を。
そう続けようとしたが、有無を言わせない様子が伺えた。


『・・・分かっている、大丈夫だよ』





『作戦本部から通信!
 0030をもってBラインを放棄、最終防衛ラインへ後退せよとの事です!』

『第4小隊へ救援を回せ!』


ハング・ハーキュリーが声を張るが、セルゲイはそれを止めた。


『全軍後退を開始する』

『諦めるな!』

『エリア94への敵の侵入を確認!』

『各チームに通達、通信妨害に備え信号弾準備』


各々が手を動かし、報告をする中、セルゲイは再度静かに言った。


『最終防衛ラインを死守しなければ、機動エレベーターを造る多くの技術者とその家族に危険が及ぶ』


彼らを守るのが、軍人である我々の務めだ。
そう言うセルゲイに、ハングは歯がゆさを感じながら「だが!」と声を張った。


『第4小隊にはホリーが!』


セルゲイの妻である、ホリー。
まだ5歳のアンドレイだって居るのに、


『・・・あれも軍人だ…覚悟は、出来ている・・・!』


それはどちらの覚悟か。
その時ハングには聞けなかった。


ホリーの遺体は見つからなかった。

ホリーの葬儀では、誰もがやりきれない思いを抱いていた。
5歳だったアンドレイは、愛しい母を突然失い、ショックで泣いていた。
そんな彼を宥めていたのは、ハングだった。
セルゲイは、一人教会の中で項垂れていた。

失った。

失ったのだ。
軍人としての考えを優先し、人として大切だった彼女を失ったのだ。
教会の入り口のドアが開くのに気付いたが、彼は振り返れなかった。





う、と声を漏らして瞳を開く。
バイザーも割れ、コクピット内もスパークが走る。
タオツーは限界だった。


「ア、アンドレイ・・・」


思わず手を伸ばす。
目の前のGN−XVに乗っているのは、息子だ。


「すまなかった・・・、心を閉ざしたお前に・・・どう接すればいいか・・・」


どうすればいいのか。
喪失感でいっぱいとなっていたあの頃、どのように息子に接すればいいか、分からなかった。


「努力を、怠っていた・・・」

『・・・今更そんな事を・・・!』


アンドレイの言う通り、今更だ。
そう思い、セルゲイは瞳を伏せた。


「は、離れるんだ・・・」


まだ僅かに動くタオツーで、アンドレイのGN−XVを押しやる。
レバーを手放し、傷口を押さえる。

動かないまま離れていくGN−XVの姿も、小さな爆発が起こり見えなくなる。


「・・・ホリー・・・」


瞳を閉じれば、浮かんだものは愛しい彼女の後姿。
名を呼ぶと、彼女はゆっくりと振り返った。


「・・・すまない」


そう言うと、ホリーは困ったように微笑んだ。


直後、

セルゲイの乗るティエレンタオツーは爆発した。


間近まで迫っていたのに、間に合わず、何も出来なかったGNアーチャー。


「た、大佐・・・」


呆然とした様子で、マリーが呟く。
傍に来たアリオスの中で、通信でそれを聞いたアレルヤが息を飲む。


『スミルノフ、大佐・・・?』


爆発し、跡形も無くなったタオツー。

4年前から、ずっと共に居たセルゲイ。
父親のような温かさを、人としての心を教えてくれた彼が、





『わ、私を養子に、ですか・・・?』

『無論、君が良ければの話だが』


わ、私は、と照れた様子を見せるソーマ。
彼女に、セルゲイは微笑んでみせる。


『流石に、ソーマ・スミルノフというのは語呂が悪いか』


セルゲイの言葉にソーマは「そんな事、」と返す。


『でも、ピーリスという名が無くなるのは少し寂しく思います』

『気に入っていたのかね?』


そう問うセルゲイ。
ソーマの脳裏に、4年前の最終決戦で彼に呼ばれた事が蘇る。


『その名で呼ばれた事を、忘れたくないのです』


そう言い、ソーマは柔らかく微笑んだ。





任務を終えたら必ず帰る。
心から温かい気持ちでそう言った。
セルゲイと過ごしたソーマの記憶が、マリーの中にも急激に流れ込んでくる。

あんなに優しかった大佐が、





『ソーマ・ピーリスを対ガンダム戦だけに徴用し・・・他の作戦に参加させなかった事、感謝しています!』

『・・・その言い方、本当に私の知っている中尉ではないのだな・・・』

『それから、私の中のソーマ・ピーリスがこう言っています』


胸に手をあて、金の瞳を真っ直ぐにセルゲイに向けた。


『貴方の娘になりかった・・・と・・・』


マリーの言葉に、セルゲイは「そうか」と言い振り返った。
彼の顔は、酷く穏やかなものだった。


『その言葉だけで十分だ』


そう言い、微笑む。
泣きそうに表情を歪めて走り寄る彼女に、セルゲイは更に瞳を細めた。

抱きついたマリーを受け止め、彼女の髪を撫ぜる。


『生きてくれ。生き続けてくれ・・・!』





あ・・・ああ・・・!! 大佐あああぁぁぁぁぁ!!!!!


彼女の悲痛な叫びが、響き渡った。




GNアーチャーに乗った代償は大佐でした。
未だに腑に落ちない。これが分かり合えなかった結果か。