「ついに連邦軍が、アロウズの指揮下に入りやがったか!」


宇宙を航行するプトレマイオス2のブリッジで、ラッセが零す。
大型テロを未然に防ぐ為に、地球連邦軍はその指揮権を、独立治安維持部隊アロウズに集約した。
テレビ報道でそれを見ていたプトレマイオス2のクルーはそれぞれ声を零す。


「この4ヶ月間だけでも、アロウズからの攻撃は20回を超えているのに・・・」

「私たち、ジリ貧ですー!」

「その件だが、やはり敵さんはこっちの位置を特定できるんじゃないのか?」

「ますますジリ貧ですー!」


ラッセとフェルトの言葉にミレイナが声をあげる。
それを見ていたティエリアが、スメラギに近付いて口を開く。


「スメラギ・李・ノリエガ、やはり例の作戦を実行に移した方がいい」


唐突に口にされたそれに、フェルトが「例の作戦?」と小首を傾げる。
それに答えたのはスメラギだった。


「ヴェーダよ。連邦・・・否、イノベイターは、ヴェーダを使って情報統制していると見てまず間違いないわ」


ヴェーダを奪還すれば・・・。
そう零すスメラギ。
イノベイターの驚異的な情報統制の速さ。
5年前に奪われたヴェーダが使われている事は間違いなかった。


「だが、肝心のヴェーダの所在が分からなければどうしようもないだろう?」

「ならば、情報を知ってる者から話を聞くしかない」


ラッセの問題に答えたのは刹那だった。
え、と零してラッセは瞳を見開いて振り返る。


「まさか、イノベイターを・・・!?」

「そうだ」

「そのまさかだ」


刹那とティエリアに答えられ、ラッセは言葉を失った。
ブリッジの入り口で其方を覗き込む形で見ていたも、僅かに表情を引き締めた。
隣に立つソーマは、何事かを考えている様子で腕を組む。


・・・イノベイターを捕らえる・・・ヴェーダがあれば、を戻す方法も・・・


に投与された薬物。
エクステンデッドとしてではなく、彼女が望む戦いから離れられる普通の少女として暮らせる方法があるかもしれない。
ソーマはそう思いながら、金色の瞳を細めた。










「ねぇ、ライル。聞かせてくれる?」


ライトが消された室内で、二人は寄り添い合ってベッドに横になっていた。
「何を?」と優しい声色でロックオンは腕の中の彼女、アニューを見下ろす。


「貴方のお兄さんの事・・・」

「思い出なんかないよ。俺はジュニアスクールの時から寄宿舎にいたんでね」

「どうして寄宿舎に?」

「出来の良い兄貴と比べられたくなかったんだよ」


戦うことより、逃げる方を選んじまった。
ロックオンはそう言い瞳を細めた。

双子である故に、何でも出来る兄が羨ましかった。
兄はとても優しくて、ライルも好きだったが、周囲の目を気にしている内に、双子の距離は徐々に離れていった。
寄宿舎に逃げるように行っている間に、家族はテロに巻き込まれてしまったが。


「でも、貴方はお兄さんと同じガンダムマイスターになった」


物思いに耽っていたロックオンはアニューの言葉に「は、」と鼻を鳴らした。


「動機が違うって・・・。そういや聞いた事無ったが、アニューの家族は?」

「私の、家族?」


コテン、と小首を傾げて真紅の瞳を丸くする。
そんな彼女に愛しさを覚えながら、ロックオンは「ああ、」と言い彼女の髪を撫ぜた。
少しそうした後、アニューは額に手を当て、体を起こした。


「・・・私は・・・その・・・」


真紅の瞳は細められ、眉は苦しげに寄っている。
そんな彼女の様子にロックオンも体を起こし、彼女を優しく抱き締めた。


「言いたくないなら言わなくて良いさ・・・アニューは今ここに居るんだ」


俺は、それだけで良い。
そう言いどこか縋るようにアニューを抱き締める腕に力を込めた。
アニューは真っ直ぐな愛を受け止め、「ライル・・・」と彼の名を呼んだ。

暫く見つめ合った後、自然と顔を寄せ合う。
唇が重なった直後、


!!


アニューの瞳が大きく見開かれた。





!!

何だ!?


とソーマが脳量子波を感知し、咄嗟に反応をする。
ブリッジから出ての前に居た刹那も、額を押さえる。


「な、何だ?」





「おい、アニュー」


ぼんやりした意識の中、声が響く。


「アニュー・・・アニュー・・・」


自分は一体何をしていたのだろうか、誰と話をしていたのか、呼ばれているのか、
それすらも分からずに呆けていた彼女の両肩を掴み、ロックオンは揺さぶった。


アニュー!


そこでやっとアニューは肩を跳ねさせた。
「あ、」と短い声を零し、不思議そうに真紅の瞳を彷徨わせた。


「・・・私・・・?」


あれ?
と、いった様子で小首を傾げるアニューにロックオンは安堵の息を零す。


「キスの途中で呆けんなよ?」

「あ・・・ごめん・・・」


謝るアニューを、ロックオンは優しく抱き締めた。
まるで、ここに居るかを確かめるように。





脳量子波を感じたは不安げに辺りを見渡していた。
先ほどのはなんだったのか。
そう思う彼女の肩に、手が置かれる。
見上げてみると、そこには深紅色の瞳を向けてくる刹那がいた。


「・・・あ、」

「大丈夫か」


軽く額を押さえている刹那に、は瞳を丸くした。


「・・・刹那も、感じた・・・?」

「? 今のか?」


頷くに、刹那は不思議そうにするだけだった。
そんな二人を見ていたソーマは眉を潜めた。
とりあえず部屋に、となった各マイスター。
刹那がの腕を引いて移動用レバーを握ったのを見、ソーマは踵を返す。

メディカルルームに向かったソーマを、レーゲンは迎え入れた。
コーヒーの入ったカップを差し出し、それで、とレーゲンは言う。


「・・・どしたの?こんなとこ来て」

「・・・私が来ると邪魔か」

「そんな事は無い」


レーゲンはそう言いカルテや書類をどかし、ソーマのスペースを作る。
椅子を勧められたソーマは、カップを持ったままそこに腰を下ろした。


は?」

「・・・奴と一緒に居る」

「刹那か」


レーゲンは端末を軽く操作しながら話す。
カップを傾けながら、ソーマは金の瞳を細めた。


「・・・脳量子波を感じた。私とは分かるが、奴も感じるのか?」

「刹那が?」


ソーマの言葉にレーゲンは瞳を丸くする。
少し何かを考えた後、そっか、と零す。


「ツインドライヴシステムと・・・GN粒子、か」


ぽつりと零された言葉。
聞き取れなかったソーマが「何だ」と言うがレーゲンは「何でも」と言いカップを傾けた。
真紅の瞳を僅かに細め、腰を下ろす。


「・・・ソーマも感じたんだろ?不調は無いか?」

「問題無い」


視線を合わせないまま答えたソーマだが、レーゲンは満足したように「そっか」と返した。
そんな彼に、ソーマは僅かに眉を寄せる。

一体何なのだ、この男は。

正直そう思う。
マリーがこの艦に来た時もそう。
最初こそ表面上では歓迎する様子を出していたが、探っている事にソーマは気付いていた。
フェルトの家族同然のクルーの命を奪った側に居たマリー。
だが、艦に乗るからにはそれは家族と同じ。





『先ずは、俺の家族だ』





レーゲンはそう言って優しく笑んだ。
彼の言葉にマリーの心が動かされた事を、ソーマは知っている。





『ん。こっちのがマリーには似合う』





アレルヤ・ハプティズムをずっと想っていたマリー。
しかし、アレルヤ以外の世界を知り、他も見るようになった。
マリーの心にすんなりと入り込んできたのは、





『レーゲン!』

『俺は平気だって。それより、アレルヤとかの様子を先に見に行った方が・・・、』

『私は!!私は・・・貴方が心配で・・・!』





衛星兵器破壊作戦後、地球に落ちたプトレマイオス2。
各員が危機に陥った中、マリーが真っ先に向かった場所は格納庫ではなくメディカルルームだった。

自分からはあまり関わって来ない癖に、来る者は拒まず。
傍に居ると、知らない内に安心してしまう。
優しいレーゲン。
それでも、マリーの想いを受け止めない酷いレーゲン。

セルゲイとは違う優しさ、あたたかさをくれるレーゲン。

ソーマは真っ黒なコーヒーを覗き込みながら、眉を潜めた。





刹那の部屋に来たは、寝台に腰を下ろした。
隣に刹那も並び、彼女にドリンクを差し出す。
ありがとう、とそれを受け取り、は刹那を見上げた。


「・・・どうしたの、急に・・・」

「否、偶には、と思って」


何を?
小首を傾げる
最近は荒れているソーマの傍にがずっと居た。
知らない者しか居ないからか、最初は本当に二人は一緒に居た。
最近ではレーゲンも気にかけてくれていたのか、ソーマは彼の傍にも行くようになった。
彼女がから離れている間は、出来る限り傍にいたい。
刹那はそう思っていた。

の肩に腕を回し、自分の方へ引き寄せる。
胸に頭を預け、はドリンクを握る手に力を込めた。





4ヶ月前。
ブレイク・ピラー事件の後、ソレスタルビーイングは戦前離脱をした。
GNアーチャーとアリオスを最後に回収した後、移動するプトレマイオス2の中で刹那はの下へ駆けていた。
恐らくソーマのところに行こうとしていたのか、動こうとしていたは足音に気付いて振り返る。
メットは取ってあったが、彼女が纏っているものは、間違いなく、


!!」

「せ、」


せつな、
と、彼女が呼ぶより先に刹那が抱きついてきた。
勢いのままに彼女を抱き締めたので、体が揺らぐ。
踏み止まったは、僅かに顔を動かして、「刹那?」と彼を呼ぶ。


「・・・無事で良かった・・・」


そう呟いた刹那に、が空色を丸くする。
視線を彷徨わせた後、刹那の怪我を思い出し、慌てる。


「せ、刹那!怪我が!」

「どうしてガンダムに乗っているんだ」


両肩を掴まれ、間近に彼の顔が迫る。
驚き、瞳を見開くに刹那は再度「どうして、」と言う。
は刹那を見返した後、口を開く。


「・・・いっぱい、いっぱい考えた。うじうじしていた私だけど、みんなは仲間だって言ってくれた」


アレルヤの事、マリーの事、自分の存在価値の事。
あれこれ悩んでいて、足手まといでしかなかった自分を、みんなは変わらずに仲間だと言ってくれた。


「私も、応えたい。仲間だって、分かりたかった」


そうするには、戦うしかない。
どんなに戦いが恐怖でも、今までずっとそうしてきたから、それ以外を知らない。


「それに、私が動くのが、あの時は一番だったから」


マリーを戦場に出す訳にもいかなかった。
アレルヤの為にも、セルゲイの為にも、マリー自身の為にも。


「私、これ以外でどうしていいかなんて、やっぱり分かんなかったから」


がそう言うと、刹那は苦しげに表情を歪ませた。
小さく何かを呟いた後、彼は再度を抱き締めた。


「誰が何を言おうと、俺はお前を必要としている・・・俺の気持ちは変わっていない・・・」

「・・・刹那、」

「・・・無理だけは、するな。俺も居る」


戦場でも守ってくれるというのか。
はそう思いながら刹那の腕に手を置く。


「・・・私も、ちゃんと刹那を守る・・・」

、」

「傍に、居させて・・・」


貴方を守りたい。
そう言うに刹那は優しく笑んだ。





今も想いは変わらない。
ただ、を守りたい。
大切な彼女の、傍に居たい。

刹那はそう思いながら、自分の胸に頭を預ける金色を見下ろした。
そうしていると、不意に彼女が顔を上げた。


「・・・ねぇ、私、ちゃんと戦えてる?」


不安げに揺れる空色。
刹那は小さく頷いてみせたが、は「ほんとに?」と再度問うてきた。





「お前らを倒さないと・・・倒さないと・・・!!あれを壊せないだろうが!!」





先の戦闘でも、感情が昂っていた。
戦闘に出ると仕方ないものなのだが、やけに攻撃的になる。
情緒が安定しない彼女は、本来戦場に出すべきではない。
それは刹那も分かっているが、本人の希望を無視する事も出来ない。
エクステンデッドであるは、戦闘能力も高い。
彼女が居なければ、苦戦を強いられるだろう。

分かっているからこそ、刹那は戦場でもを気に掛けるようにしている。


「大丈夫だ、


そう言い刹那はを抱き締めた。
「大丈夫だ」と繰り返す刹那に、は瞳を揺らした。










『光学カメラがモビルスーツ部隊を捕捉しました!戦闘中域到達まで、0054!』

『総員、大変です!』


艦内放送がかかる。
突然の事に私室に居たスメラギは立ち上がり、急いでノーマルスーツを掴む。
刹那とも直ぐに部屋から出て移動する。
途中ティエリアと会い、三人は移動用レバーを使って格納庫へ向かう。


『敵が来るです!そんなこんなで、いつもの感じでよろしくです!』

『ミ、ミレイナ、はしょり過ぎ・・・!』


オペレーター同士のやり取りにティエリアが笑みを浮かべる。
が、すぐに視線を刹那に向け、傷の具合を聞く。


「刹那、肩の具合は?」

「問題ない」

「そうか。も無理はするなよ」


ティエリアの言葉には頷いた。

ロックオンとアニューも、艦内放送を聞いて動いていた。
ノーマルスーツを身にまとってブリッジへ行こうとする彼女を、ロックオンは呼び止めた。


「アニュー」

「なに?」


半重力の中振り返る。
薄紫の髪がふわりと舞い、笑んでロックオンを見つめる。
そんな彼女にロックオンは「いいや、」と言い眉を僅かに下げた。


「何でもねぇよ」


メディカルルームから出たソーマは、既にパイロットスーツを身に纏っていた。


「行くのかい?」


外で待っていたのか、同じようにパイロットスーツを着たアレルヤが居た。
ソーマは彼を一瞥し、「無論だ」と短く答える。
それにアレルヤは苦い表情をしたが、「分かった」と言った。


スメラギとアニューが同時にブリッジに入る。
「状況は?」と問うスメラギに、フェルトが答える。


「アロウズのモビルスーツ隊、計12機を捕捉しています」

「意外に少ないですね」

「油断しないで」

「けどチャンスだ。敵部隊にイノベイターの専用機がいる」


ラッセの言葉通りに、モニターに映し出された敵部隊の中に、イノベイター専用機のガデッサがあった。
あれを捕らえる事が出来れば。
そう思いスメラギは瞳を細めた。


ダブルオーとカマエルの格納庫へ向かう途中、刹那とは沙慈に出会った。
沙慈は白いパイロットスーツを身に纏っており、刹那の前で足を止めた。


「沙慈・クロスロード・・・」

「アロウズの部隊の中に、ルイスの乗ってる機体があったよ」


彼の傍らには、赤ハロ。
別の場所で確認してきたのか、敵部隊の中にアヘッドスマルトロンがあったという。


「この4ヶ月は、戦力を整えるために敵から逃げ続けてきた。でも、もう戦うんだろ?」


ああ、と刹那は答える。
ブレイクピラーからの4ヶ月。
戦力調整の為にソレスタルビーイングはアロウズと戦いながらも、逃げるように去っていった。
しかし、補給も済み、機体の整備も万全となった今は、戦える。


「ルイスを撃つつもり?」

「それは、お前次第だ」


刹那の言葉に、沙慈は瞳を見開く。


「戦いは、破壊することだけじゃない。創り出すことだって出来る」


以前の自分なら、破壊としか考えられなかった。
しかし、彼や彼女の言葉を聞いている内に、変わっていく自分を刹那は感じていた。


「俺は信じている。俺たちのガンダムなら、それが出来ると・・・」


後は、お前次第だ。
そう言い刹那は沙慈を真っ直ぐに見詰める。
沙慈は唇を噛み、拳を強く握る。


「僕は・・・引き金を引けない・・・」

「分かっている」

「ルイスに叫び続けることしか、出来ない」

「分かっている」

「それでも、僕は・・・僕は!」


そう言い瞳を細める沙慈に、刹那が手を差し出した。
顔をあげる沙慈に、刹那が口を開く。


「会いに行こう、ルイス・ハレヴィに・・・!」

・・・! 
ああ!」


刹那の手を、沙慈が取る。
そんな二人を、はじっと
見詰めていた。










『トレミー、第1、第2、第3ハッチオープン』


フェルトの声と共に、プトレマイオス2のハッチが開く。
最初に出撃するセラヴィーの発進シークエンスはミレイナが行った。


『アーデさん、戦果を期待するです!』

「了解。セラヴィー、ティエリア・アーデ。行きます!」


最初にセラヴィーが発進する。
次にカタパルトに移動したのは、アーチャーアリオスだった。
飛行形態に変形したアリオスに、GNアーチャーがドッキングしている。
此方はフェルトから発進シークエンスを受け、アレルヤが出撃準備を行う。


「準備はいいかい?」


アレルヤの問いにGNアーチャーから通信が入る。


『いつでもいい。やってくれ』


感情が込められていないそれに、アレルヤは「分かった」と返しレバーに手を置く。





『大切に思っているなら、理解してやれ。戦いたいという彼女たちの気持ちを』





ロックオンに言われた言葉を思い出す。
アレルヤは彼女たちを戦場に出したくない。それは当たり前だった。
しかし、全てを無視して自分の意見だけを主張しても、何も変わらない。

それならば、せめて、


「君を守るよ、マリー・・・・・・。
 アーチャーアリオス、アレルヤ・ハプティズム、ソーマ・ピ−リス。迎撃行動に向かう!」


アーチャーアリオスは第ハッチから発進した。
次にデッキに移ったのはケルディムだった。


『アニュー、聞いてるか?』


ブリッジにロックオンの声が響く。
名を呼ばれたアニューは直ぐにそれに反応した。


「どうかしたの?」

『愛してるよ』


突然のロックオンの告白にアニューは「え!?」と声をあげて赤面する。
当然ながら聞いていた周りのトレミークルーも大いに反応をする。
ミレイナは「おおー!」と声をあげ、フェルトは赤面し、スメラギは瞳を見開いた。


「おっ、正に狙い撃ちだな」

「っていうか、何時の間に!?」

「すごいです!恋の花が咲いたですー!」

「おめでとうございます」


ラッセ、スメラギ、ミレイナ、フェルトに言われ、居た堪れなくなったアニューは赤面したまま慌てる。
「ええ、」と声をあげたが、直ぐに照れ隠しにロックオンに「いいから行って!」と言う。


『オーライ。ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜ!』


それからケルディムも発進した。
次にデッキへ移ったのは、カマエルだった。
は各部をチェックしながら、僅かに口の端をあげていた。


「おめでたいです。ライルとアニュー」

『あ、貴女まで・・・!』


通信越しにアニューの焦り声が聞こえる。
次に聞こえたのは、フェルトのものだった。


、無茶しないでね』

「うん。私は大丈夫・・・一人じゃないから」


そう言い、レバーを握る。
フェルトが発進シークエンスをしてくれる中、は出撃準備を整える。





刹那から通信が入った。
それにも「ん?」と返す。


『ルイス・ハレヴィに会いに行く』

「・・・そうだね、分かってる。私はいいから、沙慈君と・・・、」

『無理だけは、するな』


フェルトと同じ事を。
そう思い、は柔らかい表情をつくる。
「大丈夫」そう言いはイエローハロを撫でる。


「ハロも居るし・・・それに、私、貴方を信じてるから・・・」


何かあっても、すぐ来てくれるって。
そう言うに、刹那は僅かに深紅色の瞳を丸くする。
が、直ぐに気恥ずかしげに「そうだな」と言い視線を逸らした。


『・・・俺も、言えたらいいんだが・・・』

「? 何を?」

『・・・戻ったら、また話そう。怪我はするなよ』

「りょーかいです」


はそう言い開いたハッチから、宇宙を見やる。
一気に表情を変え、口を開く。


「・・・カマエル、・ルーシェ。出撃します!」


カマエルが無事発進した後、ダブルオーとオーライザーがハッチに並ぶ。


「会いに行くぞ、沙慈!」

『ああ、行こう、刹那!』


通信で沙慈と会話した後、刹那はすぐにダブルオーのレバーを握った。


「ダブルオー、刹那・F・セイエイ。出る!」

『オーライザー、沙慈・クロスロード、発進します!』


二機は発進した直後、すぐにドッキングをした。
そのまま前方に居るセラヴィー、ケルディム、アーチャーアリオス、カマエルと並ぶ。


「ルイス・・・!」


先に居るであろう彼女を想い、沙慈は呟いた。
前方のアロウズ部隊の中に居るルイスも、ソレスタルビーイングに居るであろう彼を思い、名を呟く。


「・・・沙慈・・・」


アーチャーアリオスに座り、膝の上で手を合わせるソーマ。
あの部隊には、奴が居る。
スミルノフ大佐を落とした、彼の息子が。


「・・・大佐・・・」


今は亡き、父と呼びたかった人物。
彼の名を呟き、ソーマは瞳を伏せた。

通信越しにそれを聞いていたアレルヤは「マリー・・・」と呟くが、ぐ、と強くレバーを握る。
たとえ、別の人物を想っていても、自分の心を占めるのは、やはり愛しい彼女。
前方を行くカマエルを見つつ、アレルヤは彼女の名を呟いた。


「・・・


何としても、彼女は守らなければならない。
たとえ刹那とが良い傾向となっても、彼女の心が自分から離れても、守らなければならない。


だって、やっぱり僕はこんなにも、君の事が・・・


そう思いながら、アレルヤは胸の前で手を握った。
パイロットスーツの下にあるのは、以前彼女がくれたお守り。





「今度はこの子にはアレルヤを守ってもらいたいな」

「・・・・・・」

「何があっても、アレルヤもハレルヤも無事でありますようにって」





まるで向日葵みたいな明るい笑み。
今は見る事ができないけれど、いつかまたあんな風に笑ってくれたら。

僕はやっぱり、彼女が好きなんだ。

マリーは心配だ。
約束を守れなかった事もある。
けれど、彼女に向ける感情と、に向けるそれは違う。
今ならアレルヤはハッキリと言える。

これが、愛なのだと。

落ち着いたら、と話そう。

たくさん話して、たくさん謝って、そして、出来たら、


たくさん、また笑って欲しい


そう思い、アレルヤは瞳を伏せた。




刹那はきっと照れやさん。
んでアレルヤはやっと考えがまとまってきました。