みんなを守らなければいけない。
アレルヤも、ティエリアも、ソーマもやられている。
なんとかしないと、ライルとアニューが望まない戦いを続けてしまう。
プトレマイオス2へもガデッサ、ガラッゾが向かっている。
こんなところで、足止めを喰らっている場合じゃない!
「なに・・・やってんだろ・・・私・・・!」
本当に、私は・・・!
未登録はそう思い、震える手でコンソールパネルを操作する。
今まで一度も使った事が無いカマエルのトランザム。
ダブルオーライザーと一緒の時に真価を発揮するとレーゲンは言っていたが、今まではダブルオーライザーのトランザムのみで十分だった為に一度も使用していない。
背にある大型のGN粒子貯蔵タンクは、エネルギーの為ではない。
ダブルオーライザーの援護目的、そして万一の時に備えて貯蔵されているものだ。
アブソラクション。
カマエルになって新たに追加された機能。
粒子を放出するそれはトランザム状態で行うと膨大な量の粒子を放出出来る。
せめてダブルオーライザーがくれば。
未登録はそう思いながらも、トランザムを発動させた。
「カマエル・・・トランザム!!」
トランザムを発動させた直後、物凄い衝撃が走った。
何かと思いサニアがモニターを見ると、ダブルオーライザーが見えた。
プトレマイオス2に迫ったガッデス、ガデッサはダブルオーライザーのトランザムライザーにより破壊されたようだった。
ギリギリで出撃したダブルオーライザーは2射目でレグナントのアームを切断する。
自由になって直ぐに動いたのは、トランザム状態のカマエルだった。
ダブルオーライザーは勢いのままレグナントに突っ込み、GNフィールドをもこじ開けて攻撃をした。
「刹那!アブソラクションを使う!」
『・・・!?』
早くロックオンのところへ!
トランザム状態のダブルオーライザーとカマエルは、ロックオンとアニューが交戦している方向へ向かっていた。
「私に任せて欲しい。刹那は、撃たないで」
『・・・何か策があるのか?』
「アブソラクション・・・使ってみせる。援護だけじゃない。きっと、粒子空間が出来れば、二人共解り合える・・・!」
いつしか、前に見た光景。
沙慈や刹那から話も聞いた、粒子空間。
きっと、脳量子波を使えない沙慈たちもできたんだ、ライルだって、アニューと。
はそう思いながらケルディムとガッデスを見た。
ケルディムは劣勢で、ガッデスに一方的に攻撃されている。
は違和感を覚えながらも、アブソラクションの準備をする。
刹那は彼女を信じ、任せる事にしてトランザムライザーを放つ。
それはケルディムとガッデスの間に壁のように割り入った。
「今だ・・・!アブソラクション、発動!!」
発動した直後、カマエルの背の粒子貯蔵タンクから膨大な量のGN粒子が放たれる。
直進したままだったダブルオーライザーの粒子も合わさり、一瞬にして辺りは粒子でいっぱいになった。
見たところによるとケルディムとガッデスの動きも止まっている。
アニューに感じていた違和感も消えたようでは安堵の息を吐いた。
直後、
「・・・い゛っ・・・!?」
酷い頭痛を感じて頭を押さえた。
メット越しに思わず両手で頭を押さえても、痛みはちっとも引かずに、むしろ、
「い、いた・・・や、やだ・・・なにこれ・・・!?」
なにこれ!?
が叫んだ直後、空色の瞳が金色に輝いた。
ビクリ、と体を震わせる。
カマエルの異常に気付いたのか、刹那が通信越しに「どうした、」と声をかける。
気付けば眼前に広がるのは懐かしい景色。
これはロドニアのラボ、目の前で幼いステラやアウル、スティングがナイフを用いて対戦相手を切り倒している。
気付けば視界がぐるりと動く。目の前に居る自分の相手も切り倒し、反撃されそうになると腕を切り落とした。
びちゃりと顔になにかかかる感覚。掌は、真っ赤。ナイフは鮮血。
前にあるガラスには、血まみれの子どもが映っていた。
ノイズがかかったように景色が揺らいだ直後、気付けば眼前には地球軍の制服。
ステラ、アウル、スティングが着て見せてどうだどうだと聞いてくる。
自身もいつの間にか制服を着ていて、ネオが居た。
また景色が変わる。今度はゆりかごで眠る彼らを見つめる自分。
記憶の改竄。淡々と行われるそれを、普通に見ていた。彼らがこれで幸せなら良い、そうとさえ思っていた。
直後、気付けばまた変わる。コクピットの中、これはウィンダムの中。眼前にはインパルスが迫り、交戦中。
ざぶん、
いつの間にか水の中に居た、否、海だ。
目の前では沈んでいくステラ、必死に手を伸ばして腕を掴み、海上に上がる。
「死ぬの、誰か死ぬの、だめ、こわい、こわい、死ぬのは怖い!!」
「ステラ!大丈夫だから、私も、ネオも、みんな居るから!」
「あああああ、、!だめ、死ぬの、だめ!」
「大丈夫だから!!」
物凄い速さで頭に映像が浮かぶ。
シン、シン、シン、シンに抱き締められる。
シンが笑ってくれる、シンが、守ると言ってくれた、シンが、シンが、シンが、シンが、お守りをくれた、シンが、
また景色が変わる、アウルだ、何かを叫んでいる、母さん、母さんが、死んじゃう、ステラが、おいかけなきゃ、
ステラは私が守らないといけない、ステラは守らないと、私が守らないと、わたしが、
『・・・うん、はちゃんとステラを守れてるよ。そんなを、俺がちゃんと守るから』
『死なせたくないから返すんだ!』
『だから絶対に約束してくれ!決して戦争とかモビルスーツとか、そんな死ぬようなこととは絶対遠い、優しくて温かい世界へ彼女たちを返すって!』
シン、シン、彼だけだ、彼は私を守るって言ってくれた、守るって、いって、くれたのに、
「はいいよな。新型に乗せてもらえてよ」
「・・・うん。ネオも、ステラも、スティングも、私がちゃんと守るからね」
「そうだな。が守ってくれないと、怖い敵が来て、俺もステラもみんな殺されちまう」
「・・・それは、だめ」
「そうだ。だから、は怖い敵を倒さないといけない」
「・・・うん、分かってる。敵は、倒さないと」
「・・・そうだ、それでいいんだ」
倒す、敵は、倒さないと。みんなを守るために。私がやらなきゃいけないんだ。
次に広がったのは、コクピットの中から見える燃え盛るベルリンの市街。
これをやったのは、私。そうだ、これは、デストロイ、これは、『気を付けろ!!そいつはフリーダムだ!手強いぞ!』分かってる、ネオ、
倒さないと、倒さないとステラが、ネオが、みんなが、わたしが!!!
それなのに、私を庇ってネオが、ステラが、落ちて!!!
フリーダムは何故かインパルスと交戦してる、迫るインパルス、いやだ、こっちにくる、わたしもころされる!
『!大丈夫だ!ステラもネオも無事だから!』
『約束しただろ・・・みんなを守るを、俺が守るって!!』
『俺が君を守るから!!』
そうだ・・・思い出した、思い出した!!彼だ!!!
シンだ、シン、シン、シン!
思わずベルトを外して立ち上がる。コックピットの切れ目から顔を覗かせ、出来る限りインパルスに向かって手を伸ばす。
ただ、ただ、必死に、顔を出す際にメットが邪魔だったので、其れを取り外し、顔を出す。それくらい必死だった。
インパルスのコックピット内に居るシンも、嬉しそうに笑った。シンが来る。
それが嬉しくて、微笑んで手をシンに伸ばした。
「シン!約束!」
「私を守ってくれるって!」
「連れてって!シン!!」
私を、連れてって!そう言うとシンは強く頷いて、インパルスの手を伸ばしてきた。
なのに、気付いたら、フリーダムがいて、フリーダムは、ネオを、ステラを、落とした、敵!!!
『そうだな。が守ってくれないと、怖い敵がきて俺もステラも、みんな殺されちまう』
ネオの声が頭に響く。そう、私が守らないとステラもネオも殺されてしまう。そんなのは、だめ。
『そうだ。だから、は怖い敵を倒さないといけない』
怖い、敵は・・・、敵は、フリーダムと、インパルス?
ちがう!インパルスにはシンが!シンが!シンは守るって言ってくれた!シンは私を守ってくれるって言った!!
インパルスは、シンは敵じゃない!そう、ネオを墜とした、敵はフリーダム。
よくも・・・よくもネオとステラを・・・!
さっきみたいに避けられちゃだめだ、だから全力でいかないと。そう思い、全砲門を開く。ビームを撃つ為に、光の粒子が集結していく。
直後、フリーダムのビームサーベルが、デストロイの胸部の砲門へ突き刺さった。穴を塞がれ、当然有り余った力は暴発をする。デストロイの内部から爆発が起こり、それはコックピット内にまで及んだ。
気付いたら、シンの腕の中に居た。ぽたぽたと頬に雫が落ちてくる。雨?・・・違う、雪でも、ない。ああ、これはシンの涙だ。
泣かないで、と言ってシンを撫でてあげようとした。が、思うように体が動かない。うっすらと瞳を開けてみると、涙で濡れた真っ赤な瞳が見えた。
ああ、そうか、会いに来てくれたんだ、シンは。ミネルバから返してもらう時、また会えるってシンは言った。わざわざ、会いに来てくれたんだ。
良かった、会えて。笑ったら、シンが少しだけ瞳を丸くする。
「よか、った・・・シンと会えて・・・」
「・・・うん、俺も君に会えて、良かった・・・!」
「・・・あった、かい・・・シン、っう、」
「・・・・・・!」
「・・・シン、守ってくれて、あり、がと・・・」
「・・・守られてたのは、俺の方だ・・・!」
「ううん・・・シン、ずっと、守って、くれて・・・た・・・」
だいすき、シン。ありがとう。
―――気付いたら宇宙。目の前には王留美。ああ、こっちにきた、いやだ、おもいだしたくない、これ、
薬を渡された、なんの薬か分からないけど、これがないと、私、私、私、
「・・・ロックオン・ストラトスだ。ガンダムデュナメスのマイスターだ」
「刹那・F・セイエイだ。ガンダムエクシアのマイスターだ」
「アレルヤ・ハプティズム。キュリオスのマイスターだよ」
「ティエリア・アーデ。ガンダムヴァーチェのガンダムマイスターだ」
優しいアレルヤ、同情なのか、気に掛けてくれた。
街中で出会ったのは、グラハム、綺麗だと褒めてくれて、オルゴールをくれた。グラハム。
リニアトレインで、初めてアレルヤに全部話した。自分の事、全部、全部、分かった上で、アレルヤは、守るって言ってくれた。
「僕は・・・僕たちは・・・、」
「君が大切で、必要で、ずっと傍に居て欲しくって」
「・・・つまりは、その」
大好き、なんだ。そう言ってアレルヤは頬を赤く染めた。大好き、大好きって、大好き。つまりは、
好き、って、愛情、好きだからキスした?好きだから、優しくしてくれた?
いつか本気の好きが欲しい。アレルヤは言った。私がアレルヤの恋情に気付いていないと思っている?
そんな事は無いんだけどな。だってずっとこうして優しくしてくれたのは、特別な気持ちもあるからでしょ?
アレルヤの両手に自分の手を重ねた。アレルヤとハレルヤは特別だよ。
恋というものは良く分からない、けど、二人に向けている気持ちは特別。
なのに、
『あいつは忘れてるだけなんだよ』
『あいつにとっての、女神サマをな』
『アレルヤがまだ超人機関研究施設に居た頃、五感を失っていた女と出会った』
『どういう訳か、アレルヤは記憶が混乱しているらしくってな』
『施設に居た頃の記憶も曖昧ときた。俺は覚えてるけどな』
『前に鹵獲されかけたろ。そこで思い出しかけた。だからこの俺が出て抑えてやったんだよ』
『じゃねぇと、アレルヤは戦えなくなるからな』
『人革のティエレンに乗ってる女超兵はアレルヤの大事な女神サマ・・・マリーなんだよ!』
『アレルヤのお前に対する気持ちは仮初だ』
突き刺さった言葉。私は代わりだった、最初から、仮初の気持ちだった。
「スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティです」
「・・・君に抱くこの感情は、一体何なんだろうな」
「このまま命令を聞き続けていればいいのか、分からなくなってきた・・・」
「・・・何が正しくて、何が間違っている? 一体どれが正義でどれが悪なんだ・・・?」
「教えてくれ、・・・私は一体どうしたら良い・・・?」
次に浮かんだのはヨハン、ヨハンは、悩んで悩んで、ずっと助けを求めていたのに、
『クルジス共和国の反政府ゲリラ組織KPSA。その構成員の中に、ソラン・イブラヒムが居た』
『ソラン・イブラヒム・・・コードネームは刹那・F・セイエイ』
『そうだ。彼は君の両親と妹を殺した組織の一員・・・君の敵というべき存在だ』
『君の嫌う無差別大量殺人をした人物がそこに居る』
『・ルーシェ。生体CPUである君はエクステンデッドと称される強化人間らしいな』
『常人間が体内に持たない物質が採取されている事から様々な改良が君にはされていたのだろう・・・』
『彼女は巨大MSに乗り、何の布告も無しに街を焼き払った』
『、私と共に行こう。彼らではやはり君と対等にはなれない』
『君を受け入れない者が居るというのに、それでも彼らを守ると言うのか君は!』
受け入れられない、一緒がいい、
「お前は皆を守れ。その背は、俺とエクシアが守ってやる」『約束しただろ・・・みんなを守るを、俺が守るって!!』
「ガンダムで、お前を守る」『俺が君を守るから!!』
重なった言葉、重なった、深紅色の瞳、
「僕じゃあ、君の支えにはなれない?」
「・・・君が本当に見ているのって、誰なのかな」
離れる心、アレルヤが遠く感じた、
『・・・っく・・・、私も、君と同じ想いだ・・・!』
『私を変えてくれた君を・・・初めてこんなにも愛しいと感じた君を、守りたかった・・・!』
『、ありがとう・・・』
ヨハン・トリニティーーーーー!!!!!!
叫んだ声、届かない手、目の前で爆発する機体、
『KPSAのサーシェスだな!?』
『ヘッ、クルジスのガキに聞いたか?』
『アイルランドで自爆テロを指示したのはお前か!!何故あんな事を!?』
『俺は傭兵だぜ?AEUの軌道エレベーター建設に、中東が反発するのは当たり前じゃねぇかっ!』
『関係ない人間まで巻き込んで!』
『テメェだって同類じゃねぇか、紛争根絶を掲げるテロリストさんよォ!!』
『・・・咎は受けるさ・・・、お前を倒した後でなァ!!絶対に許さねぇ!テメェは・・・戦いを生み出す権化だ!』
『喚いてろ!同じ穴の狢がァ!!』
『テメェと一緒にすんじゃねェ!!俺はこの世界を・・・!!』
ロックオン!!!懐かしい彼の声がする、ニールの、あの戦いの、時の・・・!!
『計画の為にも・・・そして・・・! ロックオンの為にもおおぉぉ!!』
『下手こきやがって、おセンチ野郎が!』
『もうちょっと・・・お洒落に・・・気を使ってね・・・ロックオンの分まで・・・生きてね・・・!お願い・・・世界を・・・変えて・・・!』
『クリスティナ・シエラーーーーーーーーー!!!!!!!』
「今までのようにはいかねェ! そうだろ、ハレルヤ!」
『中佐が居なくなったら、私は一人になってしまう・・・!』
『マ、マリー・・・!?そんな、ソーマ・ピーリスが、マリーだったなんて・・・!』
((知ったら、お前はもう戦えねぇ・・・死ぬだけだ。まあいいさ、どっちみち同じだ))
離れていくロックオン、リヒティ、クリス、そして、自ら離れていったキュリオスにいる、愛しい人。
『ようやく理解した。君の圧倒的な性能に私は心奪われた・・・この気持ち・・・正しく愛だ!!だが、愛を超越すれば、それは憎しみとなる!行き過ぎた信仰が内紛を誘発するように!』
「それが分かっていながら、何故戦う!?」
『軍人に戦いの意味を問うとは!ナンセンスだな!』
「貴様は歪んでいる!」
『そうしたのは君だ!ガンダムという存在だ!だから私は君を倒す!・・・世界等どうでも良い・・・己の意思で!』
「貴様だって、世界の一部だろうに!」
『ならばそれは、世界の声だ!』
相殺される衝撃、エクシアとGNフラッグが吹き飛ぶ。そう、あのGNフラッグに乗っていたのは、
「う・・・、ほ、本当に、君なのか・・・?・・・ずっと、探していたのに・・・ああ、君だ・・・君なんだな・・・」
グラハム、どうしても放っておけなかった、GNフラッグから助け出して、爆発して、そして―――、
「すぐに安定剤を!」「もう仕方ない・・・強制手段をとるしかない」「万が一失敗でもしたら!」「これ以上上層部を待たせる訳にもいかないだろう!」
真上の照明が輝くだけ、腕に突き刺される注射、体に繋がれたコード、覗き込む顔、顔、顔、顔、顔、
「・・・ガンダム・・・ガンダムが、私を殺す!!そんなの、嫌あああああああああぁぁぁ!!!」
ただただ戦った、ソーマに付き従い、機体を駆って敵を倒して倒して、そうじゃないと、私がころされるから、わたしが、
((やめてくれマリー!僕だ!アレルヤだ!))
((私は・・・超兵だ!))
マリーと呼ぶ声、頭に響く声、そうだ、思い出してしまった、
ずっと、霧がかかったみたいにぼんやりしていた。私は本当は誰で、どこの人間なのかも分からなかった。
ただ、戦う。その為の存在なんだと言われた。
ソレスタルビーイングと交戦を重ねる内に、胸の内にぽっかりと穴が開いているような感覚に気付いた。何かが抜けている、そんな感覚。
ガンダムと対峙する度に、まるで殺されるような感覚に見舞われる事も。それが何なのか、段々とはっきりしていっている。
ずっと私を気にかけてくれたソーマ。彼女を追えば、頭痛の理由も、今までの不可解か感情も、全て理解できる。
何でか、そんな確信を持っていた。そのままソーマを探して、ソーマを助けようとして、ガンダムパイロットに攻撃して、
「撃って下さい。その代わり、マリーを、否、ソーマ・ピーリスを二度と争いに巻き込まないと誓って下さい」
『死なせたくないから返すんだ!だから絶対に約束してくれ!決して戦争とかモビルスーツとか、そんな死ぬようなこととは絶対遠い、優しくて温かい世界へ彼女たちを返すって!』
「何を、アレルヤ・・・!」
「いいんだ。マリー、君が幸せでいてくれるなら」
全部思い出した、幸せな事も、辛い事も、全部。思い出したから、傍に居られなくなった。だから、
『ルーシェ中尉。そのルットーレでソレスタルビーイングを圧倒してしまいなさい』
アロウズに戻った、記憶を改竄される事を知りながら、必要無くなった私を、殺して貰う為に。なのに、
「早く来い!!俺が、お前を守ってやる!!いいんだ。もう、無理して戦わないで」
引き戻された、刹那に、でもソレスタルビーイングに、私の居場所なんてもう無かった。
「・ルーシェ。君の為のガンダムだ。アザディスタンのお姫様もカタロンも君たちも、色々頑張ってるのに、何も変われないな。何も変わっていない。分かってたんだろ?」
存在意義は戦う事だけ。それなのに、何も出来ない私は、ここに居る意味も無い。見捨てて欲しかった、いらないと言われた方がいっそ楽だった。なのに、みんな優しくて、支えてくれて、背中を押してくれて、
「俺を守る為に、お前は咄嗟にダブルオーを動かした。優しいままだ。は、変わらない」
「・・・もう、いいんだ。君の好きにして。君はずっと誰かの為に行動してきた。もう、君の自由に動いてもいいんだよ」
自由。今まで自分の意思で好きに動いた事なんて無かった気がする。
いつでも誰かの命令通り、顔色を伺って、誰かの為にと動いていた。
『敵部隊、接近!射程距離まで、0034です!』『武装が使えねぇ!』『残っているのはカマエルとGNアーチャーだけです!』
自由に。だったら、私がしたい事をすればいいんだ、私の存在意義は、戦う事なんだから!!!
兎に角進んで進んで、我武者羅にでも戦わなければいけない。そうじゃないと、敵からみんなを守れない。
((この加速粒子!俺らの脳量子波にビンビン来るぜぇ!!!そうだろォ!?アレルヤ!!!))
ハレルヤ!!!ただ、彼だけを想った。そこに彼が居る、ハレルヤが、そこに居る!
そう思っただけで嬉しくて仕方が無かった、早く会いたくて仕方が無かった。
『俺が居ればいいんだ。アレルヤでも刹那じゃなくて、俺が。お前は俺だけを見ていればよかったんだ。俺だけを・・・。
寂しいのはお前だろ。寂しいから、自分を必要としてくれる所に行くんだろ。
愛して欲しいだけなんだろうが。自分からは怖くて行けねぇんだろ、拒まれるのが怖くて』
ハレルヤも、寂しくて、自分を見て欲しくて必死で、私と同じなんだ、愛して欲しいんだ。
『・・・びびんなよ。お前もお前で、ケリをつけろ。甘えてばっかでいるんじゃねぇ。ケリをつけて、来いよ』
ケリをつけて。アレルヤとハレルヤに向き直る。そう決意したんだ。
彼の言った通り、正直怖くて仕方が無い。好きだと言って貰っても、代わりと言われる事が怖い。
自分を通して誰かを見られるのが、怖い。傷付く事が、怖い。
でも、此処でずっとこうして怖がってばかりいては、何も変われない。甘えてばかりでは、いられない。
そんな時に起きた緊急事態。ライルの恋人のアニューがイノベイターだった。敵だった、撃たなければいけない、敵。
アニューはプトレマイオス2の操舵士。仲間、守らなきゃいけない、仲間。
ライルだって、アニューと戦いたくない、戻ってきて欲しいに決まってる!!!
だから、私は、
わたしは――――――――――、
わたしは、
『・・・いっ、いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』
突如通信越しに耳を劈く様な悲鳴が聞こえてきて、全員がハッとした。
アニューは「な、何だったの?」と言い真紅の瞳を丸くする。
動揺しながらも、ロックオンは損傷したケルディムを懸命に動かし、ガッデスを掴む。
戻って来ていたアリオスとGNアーチャーは、急いでカマエルに向かう。
ダブルオーライザーも急いで、明らかに異常状態のカマエルに迫った。
『!どうした!?』
『あ、う・・・いやああああああああああ!!!!頭が、頭が割れちゃう!!入ってこないでえええぇぇぇぇ!!!!!』
入ってくる。
それを聞いてアレルヤは眉を潜めた。
「・・・まさか、さっきの頭に浮かんだビジョンは・・・!」
『の、記憶なのか?』
ダブルオーライザーがカマエルを掴もうとするが、振り払われる。
急に上昇するカマエルに、全員が焦りの声をあげる。
『!?』
『・・・だめ、きちゃ、だめ・・・!』
何を言っているんだ、とアレルヤは思う。
兎に角苦しんでいる彼女を助けなければ。
それを第一にアリオスを動かし、粒子を放出したままのカマエルに近付く。
すると、突如カマエルの背からファングが射出された。
まるで此方に来る事を阻むかのように舞うファングに、思わずアリオス、GNアーチャー、ダブルオーライザーの動きが止まる。
『・・・ハロ・・・お願い・・・!!』
『、、!!』
とハロの声が通信越しに響いた直後、ファングは全てカマエルに突き刺さった。
突然の事態に、ソレスタルビーイング全員が驚愕の声をあげた。
『『『『!?』』』』
『っあああああああああああああああああ!!!!!!!』
カマエルは爆発を起こし、損傷をする。
イエローハロの『ソンショウジンダイ!ソンショウジンダイ!』という声が響く。
直後、
『・・・堕ちる前に、機体を使い物にならなくしたか』
冷めた声が響いた。
煙をあげ、宇宙空間に爆風に流されるままに行くカマエル。
コクピットが開かれ、中から真紅より桃色がかった色合いのパイロットスーツを纏った彼女が出てくる。
イエローハロが『、、』と呼び続けるのに対し、彼女は無言でバックパックを噴かす。
『・・・一体・・・!?』
『アブソラクション・・・まさかこの僕が邪魔をされるとはね』
『・・・!ま、まさか・・・!』
アニューの真紅が驚愕に開かれる。
コクピットから出て、彼女のもとへ移動し、ガッデスから引き離そうとしていたロックオンは「どうした、アニュー」と彼女を気遣う。
ロックオンに肩を抱かれたアニューは、体を震わせる。
『ど、どうして・・・に・・・!?』
『アニュー、君は人間に情を移しすぎた』
まぁ、仕方ないか。
は冷めた声色でそう言い、宇宙空間の中で両手を広げた。
『丁度良い。・ルーシェもまた革新しつつある。まだ試してみるのも悪くは無いね』
「お前は誰だ!」
アレルヤが声を張る。
直後、アニューが焦りの声をあげる。
『リボンズ!彼女に手を出すのは止めて!!』
『彼女が僕を導いたんだ。自分の中へとね。・・・・・・さて、』
リボンズ、と呼ばれた存在。
それが今を操っている奴なのか。
アレルヤはそう思いながら、いつでも動けるように構える。
直後、
『! 高速で接近する機体・・・これは、MSです!』
フェルトの声が響く。
何!?とアレルヤが反応した瞬間、肉眼でも捉えられるほどにブースターをつけたガラッゾが迫っていた。
それはコクピットを開いたまま高速で接近してきている。
『よく来てくれたね、ジュビア』
まさか、とアレルヤが思った直後、ガラッゾは両手を広げたままのを手で掴み、移動したままコクピットに押し入れた。
なんて乱暴な!!
下手をしたら死んでしまうくらいの事だ。
アレルヤは舌打ちをし、飛行形態のままアリオスを動かした。
ブースターをつけたまま離脱を図るガラッゾをアリオス、ダブルオーライザー、GNアーチャーが追う。
前方で待ち構えていたセラヴィーがGNキャノンを放つが避けられる。
逆に、両手の先にあるガラッゾのビームサーベルに弾き飛ばされた。
GNアーチャーがビームライフルを放つが、それも避けられる。
『なんだ、こいつ・・・!!』
『・・・!!』
トランザムが切れたダブルオーライザー。
出力が低下し、万全ではなかったオーライザーのせいか、距離が離れていく。
一番スピードがあるアリオスが追撃を続けるが、どうしても追いつけない。
ここまできて、せっかく彼女の手を握れる距離までまた近づけたのに、
「っく・・・しょ・・・!」
届け、届け、
そう思うのに、どうしても追いつけない。
アリオスの機体が赤く輝く。
トランザムを発動させ、一気に距離を詰める。
一気に追い抜き、眼前で立ち塞がり、そこでMS型となりビームサーベルを抜く。
「・・・!!」
『これにはこの娘も乗ってるっつーのに』
突如通信越しに響いた声。
男の、冷たい声。
アレルヤが違和感を覚えている間に、ガラッゾの爪状のビームサーベルが振るわれる。
ビームサーベル同士がぶつかり、火花が散る。
『だったら何か!?この娘に操縦桿握って貰うかァ!?』
「・・・くっ・・・お前・・・!!」
『自分の意思じゃないにしろ、好きな男と戦うなんてなァ。あー可哀相に!!!』
「! うあああああ!!?」
ブースターの出力をあげ、押し出してくる。
そのままの勢いでアリオスに蹴りを入れ、ビームサーベルも振るう。
コクピット部分を狙ったそれに、物凄い衝撃が走る。
煙を上げ、小爆発を起こすアリオス。
コクピット内部も小爆発を起こす中、アレルヤは懸命に操縦桿を動かすが、どこかやられたのか、トランザムも切れ、動けずにいる。
真横を通るガラッゾ。
あれには、も、乗っているのに!
「っ・・・!!!!!!!」
思いの限りに叫ぶ。
直後、
『アレルヤアアアァァァァ!!!』
「! !!!」
彼女の声が響いた直後、ブースターの出力を最大にしたガラッゾは戦場を離脱した。
酷い展開である・・・←