『時間はあるんだ。僕たちは僕たちなりに、またゆっくり進んでいけば良い』


そう言って笑むアレルヤを、は見上げる。
何か言いたげな彼女に「ん?」と言って言葉を促す。
それには、おずおずといった様子で口を開いた。


『・・・い、いいの?私で・・・』


マリーじゃなくて、と未だに言う彼女に、アレルヤは困った様に眉を下げ、手を強く握った。
そのまま空いている手で移動用レバーを握る。


『君が良いんだよ』


久しぶりにあんなに話ができた。
穏やかな雰囲気のまま、二人で過ごせた。





これからだった。

やっと此処まで戻ってきて、これからまた、お互いを理解し合えるところまできたのに、





『アレルヤアアアァァァァ!!!』

「! !!!」





自分を呼んでいた。
確かに、彼女は僕に助けを求めていたのに。

アレルヤはそう思い、項垂れた。










は一体どうしちゃったんだ?」


一室で、沙慈は刹那に問うていた。
他のマイスターは、ティエリアはブリッジで復旧作業の手伝い。
ロックオンはアニューと共にメディカルルームへ。
アレルヤは今はそっとしておくべきだと皆思っているのか、一人で部屋に居るようにしている。
刹那も何やら思うところがあるのか、沙慈と共にある一室に居た。


「粒子を放出していたあれって・・・何なの?」

「俺にも良く分からない。ダブルオーライザーの支援機能だと聞いていたが・・・」


刹那の頭に入ってきたものは、恐らくは彼女の記憶。
断片的な物だったが、幼い頃のの記憶が物凄い速さで脳裏を過ぎった。
あれも、アブソラクションの効果なのだろうか。
そう思いながら、刹那は沙慈に向き直る。


「ひとつだけ確かな事は、あの時の彼女は、・ルーシェではなかった」

「どうしてそう言い切れるんだ?」

「何故だろうな・・・だが、俺には確信があった」


アニューもアレルヤも、違和感を感じていたはずだ。
刹那は違和感というより、確信をしていた。
あの時の彼女は、彼女じゃなかった、と。


「ルイス・ハレヴィもそうだ」


突然ルイスの名前が出てきたせいか、え、と沙慈が声をあげる。


「彼女も何かに取り込まれている・・・そう感じる」

「最近の君はどこかおかしいよ!今までとは何か・・・、」

『艦内のシステムチェックのため、一時的に電源をカットします』


沙慈の言葉を遮るように、フェルトの艦内放送がかかる。
直後、照明が落ちた。
暗くなった部屋の中、沙慈は突然の事に戸惑いながらも目を凝らす。
そんな彼の目に入ったのは、金色に輝く彼の瞳だった。





「チェック終了。通常電源に復旧するです」


ブリッジで復旧作業をしていたミレイナが、そう言い明かりをつける。
フェルトも手を忙しなく動かし、パネルを操作している。
操舵席に座り、復旧作業をしていたティエリアもチェックをいれる。


「操船システム、回復。オールグリーン」

「ミレイナ、敵艦隊は?」

「有視界領域には居ないみたいです」


ミレイナの言葉にスメラギは安堵に息を吐きかけたが、ティエリアの声に阻まれる。
油断はできない。
そう言うティエリアに、全員が注目した。


「前のように、卑劣な手段を使ってこないとも・・・」

「ティエリア・・・!」


スメラギが咎めるように声をあげる。
ティエリアは彼女の言葉に真紅の瞳を丸くし、直ぐに眉を潜めた。


「スメラギさん。システムダウン時に、緊急暗号通信が届いていたようです」

「内容は?」

「宙域ポイントが書かれているだけです。ポイントは、ラグランジュ5、建設中断中のコロニー、エクリプスです」


フェルトの言葉にスメラギは少しだけ考える。
「そう、」と言い彼女は答えを先送りにしたのか、複雑な表情をし、首を動かす。
そんな彼女に、ミレイナが「あの、」と言い辛そうに口を開く。


「リターナーさん・・・どうなるんです?」


ロックオンにより取り戻された彼女。
裏切ったアニューが戻ってきた代償として、を失ってしまったわけだが。
イノベイターであるアニューを取り戻せた事は有益な事になるはずだった。
しかし、彼女は言い方が悪いが使い捨てとされる予定だったのか、あまり情報は引き出せなかった。
酷く辛そうな表情をし、「ごめんなさい、私は・・・分からないんです・・・」と答えるだけだった。
彼女の意思としては、ロックオンと居たいのだろう。
アニューとの会話が終わった後、メディカルルームで二人を預けている。
スメラギは小さく息を吐いて、声を出す。


「アニューは・・・少し話してから決めるわ。
 ・・・それよりも、気懸かりなのはアレルヤたちの事じゃなくって?」


スメラギの言葉に反応したのは、フェルトだった。
悲しげに瞳を細めた後、フェルトはゆっくりと振り返る。


「・・・カマエルの修理は続いているわ。けれど・・・マイスターが・・・」


あの時、彼女は自身の機体を攻撃した。
なぜかは分からないが、その後には機体から出てアロウズの機体と共に去ってしまった。
ブリーフィングが必要ね。
そう思いながら、スメラギは息を吐いた。





ピ、ピ、と電子音が静かな部屋に響く。
レーゲンは電子パネルを操作しながら、前に座るアニューを横目で見やる。


「大丈夫、異常は無いさ。どこも怪我してない・・・健康体さ」

「・・・ありがとう、レーゲン・・・」


レーゲンは「いえいえ」と言いパネルに向き直ると、入り口脇の壁に寄りかかったままのロックオンに声をかける。


「イノベイターの脳量子波。万一近付いてきたら同じ遺伝子のリヴァイヴって奴にまたかけられるかもしれない」

「・・・また、アニューが暴走するってか?」

「下手したら、さっきアニューが言ったリボンズって凄い奴が全体的に操っちまうかもしれない」


そうなったらお手上げだぞ。
そう言いレーゲンは振り返った。
真剣に細められれた真紅の瞳に、ロックオンは眉を潜めた。


「どうすればいい。どうすれば、アニューを守れる?」

「・・・脳量子波遮断装置。以前、人革連が超兵の研究をしていた際、脳量子波関連の様々な装置を作り出した」

「脳量子波、遮断?それがあれば、リボンズって奴からアニューを守れるのか?」


そうかもな。
レーゲンはそう言いながら何やらメモに記していく。


「装置は一つしか用意出来なさそうだが・・・ま、壊れるって事は無いだろうな」


多分。と付け足すレーゲン。
「おいおい、しっかりしてくれよ」と言いつつどこか安心した表情になったロックオン。
そんな彼を見つつ、アニューは落ち着いていく事を感じていたが、ある事が気になっていた。


「・・・ブリーフィング。あるみたいだけど、私とレーゲンも参加させてもらってもいいかしら」

「・・・多分、アニューの事。これから先の事を話すと思うが?」

「やっぱり気になる事があって・・・」


不安げに真紅の瞳を揺らすアニューに、ロックオンが近付く。
彼女の肩を抱き、安心させるように「大丈夫さ」と優しい声で言う。


「みんな、アニューを敵だなんて思っちゃいないさ」

「・・・ええ」


そんな二人を見つつ、レーゲンは小さく息を吐いた。
パネルを操作し、簡単なデータを端末に移し、彼は顔をあげた。


「時間までは此処に居ると良い。俺はブリッジの復旧作業を手伝ってくるわ」


ラッセになんかあったら連絡よろしく。
レーゲンはそう言い端末を持つと、片手をひらひらとさせて退室した。
アッサリと出て行ってしまった彼にロックオンとアニューは呆気にとられたが、彼の気遣いを感じ、甘えて二人で過ごす事にした。

メディカルルームから出たレーゲンは、無重力の中の廊下を移動する。
曲がり角に行った先、知った気配を感じてゆっくりと顔を出した。
壁に寄りかかり、腕を組む彼女と目が合い、笑う。


「どうした、ソーマ」

「・・・あの女は、どうするんだ」


金色の瞳を鋭くさせて言う。
心の支えでもあったが居なくなったんだ。
こんなソーマの態度は当たり前か、とレーゲンは思った。
憎むアンドレイ少尉の居るアロウズ。
そのアロウズの上層部に居るのは、恐らくイノベイター。
アニューから少しでも情報を引き出したいのだろう。
そう思いながら、レーゲンは彼女の頭を軽く撫ぜた。


「ま、後でブリーフィングがある。一緒に行こうか」

・・・!


先にブリッジだけどな。
そう言いレーゲンは悪戯っぽく笑うとそのままソーマの手を取って無重力の廊下を移動する。
おい!と背後からソーマの声がするが、レーゲンはあえて無視をした。


「レーゲン!!」


とうとう名前まで呼んだ彼女に、レーゲンは体を動かす。
くるりと体を回し、ソーマと向き合うようになり、彼女の両手に手を添えた。
突然の事に驚いたのか、彼女は金の瞳を大きくしている。


「あんまり気張るな。ならきっと大丈夫さ。なんか殺す気は無いみたいだし」

「・・・だが!アロウズはまたに記憶操作を行い・・・MSに乗せる!」

「だろーな」


レーゲンはそう言い、人の悪いような笑みを見せた。


「だが、それを逆手に取れば良い」

「・・・え?」

「逆に言えば、必ずが出てくる。だったら、今度は説得でもなんでもして無理矢理でもこっちに取り戻せば良いじゃないか」

「・・・だが!万一また脳量子波で・・・!」

「諦めるな」


凛とした声で言われ、ソーマの言葉が止まる。
レーゲンは穏やかな表情のままそう言い、無重力に舞う彼女の髪を片手で整えた。


「・・・諦めるな。呼びかけ続けろ。きっと心に届くから」

「・・・だが、私は・・・!」

とソーマは友だちなんだろ?」


だったら、大丈夫さ。
そう言いレーゲンはまた移動用レバーを掴む。
ソーマの手を引いたまま、彼は進む。


「スミルノフ大佐さんの事は分かる。遣り切れない思いも、寂しい気持ちも」

「・・・」

「けどな、憎しみだけで戦って、突出しても自分が傷付くだけだ。
 憎んでも良い。けど、一人で戦おうとするな。君にはも、アレルヤたちだって居る」


もっと周りを見てもいいんじゃないか?
そう言うレーゲンの背を、ソーマは黙ったまま見つめていた。


・・・温かい


脳量子波で感じる。
レーゲンが自分を思ってくれていると。
温かい、優しい気持ちが流れ込んでくる。
何故彼の思いが伝わるのか分からないが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

ソーマは彼の背を真っ直ぐに見詰めながら、繋がれたままの指先に力を込めた。





アレルヤは自室に戻っていた。
ゆるゆるとした動作で、パイロットスーツを脱いで適当にしまう。
気だるいまま、シャワーも浴びて肩にタオルをかけ、ベッドに座りこむ。
ぱたぱたと、髪の先から雫が落ちる。


・・・


想うのは彼女の事ばかり。
頭の中に急激に流れ込んできた彼女の記憶。
幼い頃からどこかの研究所みたいな所で子ども同士で戦ったり、明らかに軍服を身に纏い、MSを駆る。
それを恐れていた事も、家族の為に望んでいた事も、全部彼女の感情が伝わってきた。





『死なせたくないから返すんだ!』
『だから絶対に約束してくれ!決して戦争とかモビルスーツとか、そんな死ぬようなこととは絶対遠い、
 優しくて温かい世界へ彼女たちを返すって!』





あのシンとかいう少年。
彼の事を想う彼女の心は、喜びで溢れていた。
愛なのか、それは。恋情というよりも、親愛。
は彼と刹那を重ねていた。外面もそうだが、言葉も重なる部分があったんかもしれない。

ハレルヤの言葉にずっと悩んでいた事も、どれくらい僕が彼女を傷つけていたのかも、全部伝わってきた。
それなのに、どれくらい僕たちを想ってくれているのかも、同時に分かってしまった。
そして、


・・・ハレルヤ、君はまだ此処に居るのかい?


アレルヤは銀と金の瞳を細める。
彼女の記憶では、明らかにハレルヤと話をしているところもあった。
とすると、彼は生きている、まだ、僕の中に。
呼びかけても反応が無い。無視を決め込んでいるのか、それとも、GN粒子の影響か。
そう思いながらアレルヤは、視線を動かす。
薄暗い室内のデスクの上にあるのは、紅色の貝。
紐に通されてペンダントの様になっているそれは、彼女がくれたお守り。
正確に言えば、彼女がシンから貰ったお守りなのだが。


『ブリーフィングを始めます。マイスターはブリーフィングルームに集合してください』


フェルトの艦内放送がかかる。
アレルヤはゆるゆるとした動作で立ち上がり、紅色の貝を手に取った。
それを首から提げ、適当にタオルで頭を拭く。


・・・、僕は君を諦めない・・・


僕も、彼も。
そう思い、アレルヤは瞳を鋭くさせた。





ブリーフィングルームへはマイスター、スメラギ、アニュー、レーゲン、ソーマが集まった。
レーゲンがパネルを操作する隣で、ソーマが壁に寄りかかっている。
刹那とティエリア、アレルヤが並び、アニューの隣にロックオンが寄り添う形となっていた。
全員の顔を見渡し、スメラギが口を開く。


「先ず、アニューについての処置よ」


レーゲン。
と、スメラギが呼ぶと心得たといわんばかりにレーゲンがパネルを操作する。
モニターに映し出されたのは、先の戦闘映像。
ロックオンの説得に応じ、彼の下へ行こうとしたアニューが動きを止め、急に心変わりをしたように攻撃を繰り出してくる。
オレンジハロに残されていた映像を流しながら、レーゲンは口を開く。


「この時、アニューの精神は別のイノベイターに掌握されていた」

「・・・彼女の意思では無かったと?」


ティエリアの問いにレーゲンは頷く。


「アニューはロックオンの下へ戻りたかった。イノベイターとしてでは無く、一人の女としてもうロックオンを愛していたんだよ」

「・・・そうね。今此処に居るのが何よりの証拠ね」


ソレスタルビーイングの制服を着たままのアニュー。
スメラギの言葉に彼女は気まずげに視線を彷徨わせた。


「恐らく、ヴェーダを掌握しているイノベイターがそいつだ。脳量子波を介して接触を図る。
 アニューを味方として見るのなら、まずこれを何とかしないとまた彼女は精神を乗っ取られるだろう」


そこでこれ。
そう言いパネルを操作する。
画面に映ったのは、人類革新連盟の超兵研究用の資料データだった。


「こん中にある、脳量子波遮断装置。これをアニューにつけるしかない。別の手段としては、眠って貰うとかあるんだけど・・・」


ちらり、とロックオンを見やる。
彼はアニューを気遣うようにずっと寄り添っている。
今の彼から彼女を放す事は苦痛だろう。
それに、今のトレミーは人事不足だ。
操舵主であるアニューは外せない。
そう思いながらレーゲンは肩を竦めてみせた。


「ま、察してくれ。その辺」

「・・・信用を取り戻す事は、難しいと分かっています。けれど、私はやっぱり、ライルと・・・貴方たちと進んでいきたい・・・!」


アニューはそう言い、顔をあげた。
彼女の真紅の瞳は、真剣そのものである。


「イノベイターとしてではなく、ただの一人の女として、此処に居たい・・・!」


脳量子波遮断装置。
それは彼女が脳量子波を使えなくなるようなものだ。
アニューはそうなってでも、此処に居たいと言っている。
ロックオンの隣に居たいと。
彼女の言葉に反論する者は居なかった。

彼女の言葉に、各々が頷いたりしているのを見、スメラギは安堵の息を吐いた。


「・・・異論は無いみたいね」


そう言い、アニューに向き直る。


「改めて、トレミーの操舵をよろしくね。アニュー」

「・・・はい・・・!!」


ありがとうございます!
アニューは唇を震わせた後、直ぐにそう言い頭を下げた。
僅かだが肩が震えている。
辛いのではない。純粋に嬉しいのだろう。
隣に居たロックオンは、柔らかい笑みを浮かべてアニューの肩を軽く叩く。


「良かったな、アニュー」

「・・・ええ・・・!」


顔をあげた彼女は、真紅の瞳の縁に涙を溜めていた。
そんな様子を、ソーマはぼんやりと見ていた。


「次は、についてなんだけど・・・」


スメラギの言葉に、全員が反応をした。
また彼女にレーゲンは名を呼ばれ、小さく頷く。


「カマエルがあの時使用したのは"アブソラクション"という機能だ。
 トランザム状態で更に活性化したのか、粒子貯蔵タンクから一気に大量のGN粒子を放出した」

「・・・ダブルオーライザーの支援だと聞いたが」

「そうだね。カマエルの粒子貯蔵タンクは、GNメガランチャーも使うから予備エネルギーとしてでも使う。
 だが、ダブルオーライザーのツインドライヴ安定にも手助け出来る。
 ダブルオーライザーは、2つの太陽炉を同調稼動させたことから不可思議な現象を引き起こすことも特徴だ。
 トランザムライザー状態だと、空間に大量散布される粒子により人々の感覚が増大し脳量子波が空間内で使用可能になる・・・。
 だが、ダブルオーライザーの粒子も無限じゃない。カマエルはサポートとしてアブソラクションを発動させて粒子を放出する。
 放出した後、また戻すんだけどな」


モニターに表示されたのは、アブソラクションを発動させたカマエルだった。
確かに、粒子貯蔵タンクの片方から放出され、もう片方からGN粒子を取り込んでいる。
それを見ていたアレルヤが、勢い良く首を動かした。
「まさか・・・!」と言いレーゲンを見る。


「あの時ダブルオーライザーはトランザムしていた・・・。
 空間に大量散布される粒子は、人々の感覚を増大して脳量子波が空間内で使用可能になる・・・!」

「つまりは、の記憶が見えたのはそれが影響か」


ティエリアがそう言うと、レーゲンは頭をかいた。
んー、と言いどこか言い辛そうに口を開く。


「正確には、全員がの中に入り込んじゃったんじゃないかって俺は思う」

の、中に?」

「吸収されるGN粒子。それに導かれるように、の精神に全員の精神が入り込んだなないかってな・・・。
 もちろん、アニューも、アニューの中に居たイノベイターも」

「「「「「「「!!!」」」」」」」


レーゲンの言葉に全員が驚愕の表情になる。
アニューは口元を押さえ、顔色を青くしている。


「そんな・・・私のせいで・・・!」

「アニューのせいじゃないだろ!」


でも、と言うアニューの肩をロックオンが抱く。
彼も眉を下げ、どこか不安げな表情をしている。


「・・・イノベイターの、野郎のせいだろうが・・・!」


くそ、と零しロックオンは拳を握る。
最初こそ初対面だから無関心だとまで言った彼女。
だが、共に過ごす内にロックオンにとっても、は妹のような存在になっていた。
傷付くアニューも、も、彼の中で大切な存在だ。
だから尚更、二人を傷付けるイノベイターに強い怒りを抱いた。


「・・・に相手の意識が入り込んで、精神を乗っ取られたと?」

「可能性としては、一番高いよなー」


ティエリアの言葉にレーゲンはそう返した。
実際自分たちも彼女の精神に吸い寄せられたわけなので、可能性は高い。
ティエリアは腕を組み、真紅の瞳を鋭くさせ、言葉を続ける。


「・・・となると、イノベイターの意思で彼女を操る事は出来ないのか・・・」

「アブソラクションが、必要になるんだな」

「恐らく」


ティエリアに刹那が言う。
アブソラクションをし、彼女の中に入って初めて操れるというのなら、今頃彼女は・・・。
刹那はそれに気付き、眉を顰めた。


「・・・予想していると思うけれど、恐らく敵はを出してくるわ」


記憶を操作してね。
そう言うスメラギに、全員が表情を固くする。

以前の彼女も、アロウズに記憶を操作され、戦場に出されていた。
実際に間近で彼女を見ていたソーマは、唇を噛んだ。


「・・・また、あの人形の様になるというのか・・・!」


アロウズに居た彼女は、本当に人形のようだった。
表情は変わらず、端的な物言いしかせず、ただ命令に従う。
兵器としてでしか、彼女はそこに存在していなかった。


「・・・は、必ず戦場に出てくる」

「・・・恐らく、専用機に乗ってくると思います」


アレルヤの言葉に、アニューが続ける。
それにまたアレルヤは表情を歪めると思い、全員が気遣わしげに彼に視線を向けたが、驚きのそれに変わる。


「・・・それなら好都合だ。彼女だって直ぐに分かる」


瞳を鋭くさせ、真剣な表情のアレルヤがそこにいた。
刹那も僅かに瞳を丸くし、彼を見やる。


「今度こそ僕が救い出すんだ・・・彼女が待っている・・・これ以上を待たせるわけにはいかない」


絶対に・・・。
そう言いアレルヤは拳を握った。
無言で彼を見ていた刹那だが、彼もの心を覗いた。
だからこそ、二人の強い結びつきも、想いも全て分かってしまった。


「・・・俺たちはアレルヤをサポートする」

「・・・刹那、」

「だが、俺はと約束をした」





『彼女は敵だ。ロックオンが危なくなったら、俺はトリガーを引く』

『・・・敵になったら、駄目なんだね』


はそう言い、視線を少しだけ逸らした。


『ねぇ、刹那。・・・イノベイターは、私にチャンスを、って言ってた。きっとアロウズは、能力の何かを狙ってると思うの』

『・・・そうだな。お前を連れ出そうとしていたからな』

『もし、私が・・・』


はそこまで言い、少し躊躇った後に何かを決意したように見上げてきた。


『もし・・・!次に私が貴方たちに刃を向けた時は・・・!!』


その時は・・・!
そう言い胸の前で手を握る彼女を安心させるように笑む。
そのまま彼女の手を取って顔を覗き込む。


『大丈夫だ。お前は俺たちが守る』


今はアレルヤも傍に居るんだろう?
そう問うと、は小さく「よく分からないけど」と呟いた。
それでも彼らの仲がまた深まってきている事に間違いは無い。
何がきっかけかは分からないが、から歩み寄ろうとしているように見える。
このまま行けば、以前のような二人が見られるだろう。
少し寂しさを覚えながらも、俺は彼女の手を握った。


『でも、もしもの時は・・・お願い・・・』

『・・・?』

『本当は、ちょっと怖いの。あの時みたいに、また皆に・・・』


はそう言い、肩を震わせた。
そんな彼女を抱き締めようと腕をあげたが、途中でそれを止めた。
片手だけを動かし、彼女の頭を撫でる。


『・・・大丈夫だ。俺も、皆も、アレルヤも居る』

『・・・うん』


正直、その時考えていた。
彼女が引き金を引いた時、もし、アレルヤの、仲間の命が失われそうになったら。

自分が引き金を引く。

仲間を失う訳にはいかない。
万一そのような状態になった時、彼女を撃つのが一番効率的だ。
分かっているが、彼女を想う気持ちがあるからこそ、口に出したくなかった。





「・・・だが、万一の時は、俺がトリガーを引く」

「・・・刹那、」


ガンダムも、マイスターも守らなければならない。
そう言う刹那に、アレルヤは眉を寄せた。


「僕は絶対に彼女を助け出す。今度こそ、僕はもう間違えないと決めたんだ」


アレルヤが刹那に向き直る。
その時に、首から提げていた紅色の貝が揺れる。
刹那はそれに気付くが、敢えて何も言わずに小さく頷いた。


「サポートはする。だが、彼女の精神は不安定だ。万一の時は、俺が引く」


そう言い刹那は瞳を細めた。
正直言いたくないだろうに。
刹那にとって、は特別な感情を抱く異性だ。
そんな相手を、本当は撃ちたくなんてないはずだ。


「・・・の事は、アレルヤに任せるわ。私たちは全力でサポートに回るから」

「ありがとうございます」


スメラギの言葉にアレルヤが笑む。
恐らく、敵は攻撃を仕掛けてくる。
の調整が済んだら、恐らく直ぐに。


「・・・未だにアロウズに居るかは分からないが・・・を気に掛ける奴らが居る」

「? そんな奴が居るのか?」


ぽつりと零されたソーマの言葉に、ロックオンが反応する。





『俺の友が、彼女を大切に想っていた。今は俺が代わりに、彼女を守ってやらねばならない』





金色の髪を揺らし、そう言った男。
名前はレイ・ザ・バレルといった。
ソーマは顔をあげ、言葉を続ける。


「・・・恐らく、友人とはの記憶にあったシンという奴だ。
 そいつの代わりにを守ると、レイという男は言っていた」

「そう・・・でも、未だアロウズに身を置いているかどうか・・・」


ブレイクピラーを境に、アロウズの内部は分裂したと聞いた。
離反し、地球連邦へ移った者たちの中に、レイたちも入っていたかもしれない。
ソーマは歯がゆさを感じながら、拳を強く握った。
そんな彼女の肩を、レーゲンが軽く叩く。


「ま、どっちにしろを助ける。それが第一ってこった」

「・・・レーゲン、」


あまり考え込むな。
そう言うかのようにレーゲンが柔らかい笑みを浮かべる。
ソーマは間近で彼の笑みを見、頬を仄かに赤くした。

そんな二人を見ていたアニューが、気まずげに身じろぎをする。
アニューの様子に気付いたロックオンが彼女の名を呼ぶ。


「アニュー?」

「・・・最後に、ひとつ良いですか?」


そう言いアニューは歩を進めた。
そのままレーゲンの前まで来ると、「失礼します」と言い両手を伸ばし、彼の両頬に触れた。
アニューの突然の行動に全員が驚いたが、反応が大きかったのはロックオンとソーマだ。


「「な・・・!?」」

「・・・アニュー?」


ごめんなさい。
アニューはそう言うと一度瞳を伏せた。
が、直ぐに金色に輝く瞳を開いた。
それに全員が思わず構える。が、直後に驚きで動けなくなった。


「・・・やっぱり、同じ・・・レーゲンは、私と同じ・・・」

「ア、ニュー・・・?」


ツキン、と頭が痛む。
思わず頭を押さえたレーゲンに、アニューは言葉を続ける。


「レーゲン。貴方も私と同じ、イノベイターじゃないの?」


アニューの言葉に、ソーマたちの瞳が驚愕に見開かれた。




デデーン!予想していた方は多かったと思う衝撃の事実!w