暇だぜー。
そんな力ない声が響く。
ソファに横になり音楽を聞く者、ぼんやりと窓の外を眺めている者、携帯ゲーム機をしている者。
各々を見下ろし、フレイは腰に手をあてて大きく息を吐いた。


「ちょっとアンタたち。ちゃんとしてたんでしょうね」

「してたー」

「問題ねぇよ・・・それより、アイツはどうした」


レイのこと?
問うフレイに青年は首を振る。
ああ、と言いフレイは鞄を置き、携帯端末やらディスクやらの整理を始める。


「・・・色々あって、ソレスタルビーイングに居るわよ」

「私設武装組織の?」

「そう。まぁ、2年半くらい前からかな・・・私とレイもびっくりしたわよ」


何があったんだよ。
そう問う声に、フレイはグレーの瞳を細めた。
荷物を纏める手を止め、ゆっくりと振り返る。


「・・・ねぇ、アンタたちは・・・レーゲンが何であろうとも、気にしないのよね」

「はぁ?」

「当たり前だろ」

「とーぜん」


彼らの言葉にフレイは「そうよね」と言い柔らかく微笑んだ。
そのまま纏めた荷物を手に、ゆっくりと立ち上がる。


「あんたたちは彼の帰る場所を守る。私とレイは、約束を守る。そうしていれば、大丈夫なのよね」


ドアに向かう彼女に、彼らが静止の声をかける。
まだ彼について何も聞き出せていない。
そう言いたげな声に、フレイは振り向いて答えた。


「大丈夫、戦いが終ったら彼は戻ってくるわ。だから、待ってなさいよ」


詳しくは彼自身の口から聞けという事。
そう言う彼女に何も言わずに、三人は見送った。















エクステンデッドだか何だか知らねぇが、そんなに使えるのか?

ジュビアはそう思いながらパイロットスーツを身に纏う。
ガデッサで出る自分とは違い、は改良されたルットーレで出るという。
リボンズは予想でもしていたのか、彼女が再びアロウズに戻る事を。
そう思いながら更衣室から出、通路へ出る。


「ジュビア、アンタこれから奴ら叩きに行くんだって?」


通路の壁に寄りかかっていたのは、ヒリングだった。
彼女の傍には、リヴァイヴも立っている。
ジュビアは彼へ冷ややかな笑みを向け「なんだよ」と言う。


「片割れが居なくて傷心か?」

「・・・女なんかにつくるからだ。僕は違う」

「脳量子波も届かないとなると、眠ってるか遮断されてるかだな」


ざまぁ。
そう言い口の端を吊り上げるジュビアにリヴァイヴは苛立ちを露にするが、ヒリングに肩を叩かれとめられる。
無視しないでよ、と言うヒリング。


「役割が終わった奴らの後片付けだ。まずは情報元から叩いて奴らを壊滅に向かわせる」

「アンタがそこまで自分の意思で動くなんて、彼関連?」


ヒリングの言葉にジュビアは肩眉を僅かに動かしたが、すぐに無表情へと変わる。
そんな彼の様子に肩を竦め、ヒリングは「いいんだけどね」と言う。


「純粋種かもしれないわよ。刹那・F・セイエイ・・・ダブルオーのパイロット」

「そんな事はどうだっていい」

「興味ないの?イノベイターの癖に」

「俺は俺だ」


そう言いジュビアは歩を進めた。
そんな彼の後をヒリングは追う。


「どれだけ一途なのよ」

「寄るな。俺はお前らが嫌いなんだよ」

「酷い言い草ね」


つれないわ。
そう言いつつもヒリングはジュビアの前に回りこむ。
心底嫌そうな表情をする彼に、ヒリングはくすくすと笑う。


「ねぇ、あのお嬢様どうなると思う?」

「俺らが叩きに行くんだから死ぬに決まってるだろうが」


当たり前だろ、とでも言いたげなジュビアに「違うのよ」とヒリングが言う。


、使うんでしょ?最初に自分を保護した相手よ?本当、お嬢様には同情しちゃうわね」


絶望か、或いは命乞いでもするのだろうか。
恩でも忘れたのか、とでも。
ヒリングはそれを想像したのか、楽しげに笑う。
そんな彼女に溜め息を吐き、ジュビアは「下らない」と言い進む。
押しのけられたヒリングは「ちょっと!」と声をあげるがジュビアは振り返らなかった。


徹底的に叩くさ。勢いのまま、突き進んでやる


先ずは、王留美を始末しないとな。
ジュビアはそう思いながら通路を進んだ。










ラグランジュ5ではソレスタルビーイングに連絡を送ってから、王留美と紅龍は待機をしていた。
しかし、ネーナ・トリニティの裏切りにより傷を負った王留美。
深刻な事態に紅龍は不安げに視線を彷徨わせた。


「指定ポイントに現れる者はおりません・・・お嬢様、ソレスタルビーイングは本当に来てくれるでしょうか?」

「私に分かる訳無いわ・・・でも、来なければ世界はイノベイターのものとなる・・・」


リボンズ・アルマークのものに。
そう言い王留美は瞳を鋭くさせる。


「・・・ネーナ・トリニティは、いつからイノベイター側に・・・?」

質問ばかりしてないで、自分で考えなさい!
 あなたがそうだから、私が王家の当主にさせられたのよ!」


突如声を張った王留美に紅龍は肩を震わせる。
今まで溜まっていたものを吐き出すように、王留美は言葉を続ける。


「お兄様に当主としての器がなかったから、私の人生は歪んだ・・・!
 だから私は、世界の変革を望んだの!地位や名誉、資産すら引き換えにしても!
 そう、私は人生をやり直し、私だけの未来を手に入れる!」


王留美の言葉が、紅龍の胸に突き刺さった。
長男でありながら、王家の当主を妹に委ねてしまった。
自分に当主としての器があれば、もっと妹は、自由に・・・。
ずっと紅龍が負い目に感じていた事だった。


「最後まで付き合ってもらうわよ、紅龍。貴方には、その責任があるわ」


王留美の、身勝手な理由。
その望みのせいで、一体何人が犠牲となっていったのか。
紅龍は理解していたが、彼女の想いもまた、理解していた。
だからこそ、逆らう事が出来ない。


「何そのベッタベタな理由?」


直後、ドアが開き銃を手に持ったネーナが現れた。
反射的に紅龍は王留美の前に立つ。


「くっだらない、やっぱりあんたバカよ」

「ネーナ・トリニティ!」

「私、あんたが大嫌い。さようなら、お嬢様」


そう言い、躊躇い無く引き金を引いた。


「留美!!!」


しかし銃弾は、王留美を庇った紅龍の肩を貫いた。
紅龍は表情を痛みから歪めながらも、背後にあったドアを開き、王留美の体を其方へ押しやる。


「紅龍!」


王留美を庇いながら、スイッチを操作する。
その間にもネーナが銃を撃ち、彼を傷つけていく。


「留美・・・生きて・・・!」

「お兄様!!!」


ドアが閉まり、互いの姿が見えなくなる。
最後に見た自分の方へ手を伸ばす妹。
これでいい、そう思いながら紅龍は振り返る。
しかし、直後に彼の額を銃弾が貫いた。


「ハッ!カッコつけちゃってさ」


ネーナはそう言い、銃を仕舞った。





刹那はこの数日間、ずっと考えていた。
へ向けて引き金を引けるかを。
恐らく彼女は直ぐにでも戦場に引き出されるだろう。
アレルヤの説得に応じなかったら、アレルヤが撃たれそうになったら、
いざという時は引き金を。
しかし、自分に出来るのだろうか。

太陽のような、彼女を撃つ事が。

そう考えている間に、気付けばラグランジュ5へ着いていた。


「モビルスーツで、指定ポイントには行けない。機体制御をそちらに預ける」


刹那の言葉にオーライザーに居る沙慈が「分かった」と言う。
直ぐにダブルオーのコクピットから出、刹那はコロニー内部へ向かった。
小型艇があるのを確認し、携帯端末で位置を確認しながら進んでいく。
一応銃を手に持ち、移動をしていると通路の先に影が見えた。
素早く移動し、銃口を向けると、そこに居たのは王留美だった。


「刹那・F・セイエイ・・・」

「王留美・・・どうした、怪我をしているのか?」

「何でもありません。それよりこれを」


脇腹をおさえ、苦しげに息をしながらも彼女は刹那にメモを差し出した。
それを受け取り、刹那は「何だ?」と問う。


「ヴェーダ本体の所在が、記されています。
 イノベイターにこの事を知られたら、ヴェーダを移送されてしまう・・・一刻も早く、ヴェーダの奪還を・・・!」

「了解した」


刹那はそう言いメモを仕舞う。
此処から脱出を、と言い王留美に手を伸ばすが、彼女はそれを拒んだ。


「私は大丈夫です」


しかし、と言い淀む刹那に王留美は言葉を続ける。


「私は、貴方とは行けないのです。私の事は心配しないで」

「・・・わかった」


そう言い刹那は元来た通路を戻って行った。
彼の背を見届けてから、王留美も動き出す。


「貴方たちとは行けないのよ。求めてるものが違うんだから」





刹那がコロニーから出たところで、沙慈からの通信が入る。


『刹那・・・!』


焦りを含んだ声に、刹那がダブルオーライザーを見やる。
其方を見て、驚きの声をあげる。
ダブルオーライザーの横に立ち、剣を突きつけている機体があった。


「あの機体・・・」

「4年ぶりだな、少年」


機体の胸部の上にアロウズのパイロットスーツを身に纏った男が立っていた。
覚えのある男に、刹那が瞳を大きくする。


「・・・貴様・・・!」

「少年、ガンダムを失いたくなければ、私の望みに応えて欲しい」

「何が望みだ」

「真剣なる勝負を!」

「何!?」

「この私・・・、グラハム・エーカーは、君との果し合いを所望する!」


ミスターブシドー改め、仮面を外したグラハムはそう言い拳を握った。
刹那はダブルオーライザーのコクピットハッチまで移動をする。


「そうまでして、決着をつけたいか・・・!」

「無論だ!わたしの空を汚し、同胞や恩師を奪い、フラッグファイターとしての矜持すら打ち砕いたのは他でもない、君とガンダムだ!」


そう言いグラハムは瞳を伏せる。
瞼の裏に浮かぶのは、エイフマン教授、ダリル、ハワードと言った仲間たち。
そして、4年前の最終決戦で自分を救い出してくれた少女。


「そうだとも・・・もはや愛を超え、憎しみも超越し、宿命となった!」

「・・・宿命?」

「一方的と笑うか?
 だが、最初に武力介入を行ったのはガンダムだという事を忘れるな!」


グラハムの言葉に刹那は瞳を細める。





『ようやく理解した。君の圧倒的な性能に私は心奪われた・・・』

『この気持ち・・・正しく愛だ!!』

「愛!?」

『だが、愛を超越すれば、それは憎しみとなる!行き過ぎた信仰が内紛を誘発するように!』

「それが分かっていながら、何故戦う!?」

『軍人に戦いの意味を問うとは!ナンセンスだな!』

「貴様は歪んでいる!」

『そうしたのは君だ!ガンダムという存在だ!』
 だから私は君を倒す!・・・世界等どうでも良い・・・己の意思で!』





4年前の最後の戦いで、グラハムが言っていた言葉を刹那は思い出していた。


この男もまた、俺たちによって歪められた存在・・・


4年前から、ずっと追い求めているのだろう。
戦いだけを。
分からない訳ではない。戦いを求める思いを。
刹那は「分かった」と言い彼を真っ直ぐに見返す。


「果し合いを受けよう」

「全力を望む・・・!」


そう言い、お互いにコクピットへ戻る。


「これが私の望む道・・・修羅の道だ・・・!」


4年前、自分を救い出してくれた少女の為にも、これは蹴りをつけなければならない。


「マスラオ改めスサノオ!いざ尋常に・・・勝負!!」


真正面からスサノオ、ダブルオーライザーは切り結んだ。

スサノオとダブルオーライザーが戦う脇から小型艇が出てくる。
乗っているのは王留美である。


「ソレスタルビーイングも、イノベイターも、お兄様の命も捧げて変革は達成される・・・。
 私はその先にある、すばらしい未来を・・・!」

『素晴らしい未来なんて、誰が決めるものなんだろうね』


冷めた声が響いた。
突然の事に王留美が驚いていると、下方から大型のMA、ルットーレが迫ってきた。
クローアームに掴まれ、小型艇に大きな衝撃が走る。
「な、何!?」と声をあげる王留美へ、冷めた声が再度響く。


『アイツを簡単に出し抜けると思うなよ。自分勝手なお嬢さんよ』

「・・・イノベイター!?」


ルットーレの傍らに居るガデッサが軽く動く。
ジュビアは「大当たり」と言いただ捕らわれる小型艇を見ていた。


『アンタの項と言えばを保護した事だけかな。お陰でイノベイターとしては研究も捗ったし、色々と余興も楽しむ事が出来た』

・・・ですって・・・?」

『そうだよ。今アンタを捕まえてるMAに乗ってるの、彼女だよ』


ジュビアの言葉に王留美の瞳が驚愕に見開かれる。
「そんな、」と言う彼女にジュビアは鼻で笑う。


『俺はどうだっていいんだがな。けどな・・・ソレスタルビーイングをぶっ潰す為には先ずはお前から消さないといけねぇんだ』

「・・・そんな事・・・!!」

の利用の仕方、間違えたんだよ、アンタ』


ざまぁ。
ジュビアがそう言った直後、真正面にある砲口が開く。
光を集める其れに、王留美の表情が恐怖に染まる。
直後、ルットーレが砲撃を放ち、小型艇は吹き飛んだ。


『薬も与えて彼女の体を弄ってた罰だな。自業自得だなこりゃ』

アッハハハハッ!ハハハハハッ!良い事言うじゃない!木っ端みじんね!』


散々人を物のように扱ってきた罰よ!

甲高い声が響き、ジュビアは眉を顰めた。
スローネドライが現れ、小型艇の爆煙を見ていた。


『私は生きる為なら何でもやるの。私が幸せになるためならね。そうよ!イノベイターに従ってるのもその為!』


真横にある機体。
ルットーレのコクピット内で、彼女はちらりと其方を見た。


『にぃにぃずの仇だって討っちゃいないんだから・・・!』


ネーナ・トリニティ、にぃにぃず、仇、
その単語に彼女は瞳を震わせた。


『その時が来たら、盛大に喉元食いちぎってやるから!』

『ソウイウ、キミノヤクメモオワッタヨ』

『ハロ?』

『カッテヲスルモノニハ、バツヲアタエナイト』

『イノベイター!?』


ネーナのハロが不可思議な言葉を発する。
それを聞いてジュビアはゆっくりと瞳を伏せた。
リボンズの介入があるのならば、自分がネーナ相手にどうこうするつもりはない。
ならば、
そう思いジュビアはルットーレを見やる。


『君を裁く者が現れるよ』

『裁く者ですって!?・・・まさか、あいつが?
 ・・・面白い・・・にぃにぃずの仇を・・・!』

『ソウダネ、アルイミカタキデハアル』


直後、大型のビームがスローネドライの左腕を抉った。
爆発を起こしながら体制を崩すスローネドライ。


きゃああああ!!な、何!?


後方から向かってきたのは、ルイスの乗る新型MA、レグナントだった。
紺色の機体の其れは真っ直ぐにスローネドライに向かう。


『あれだ・・・あのガンダムだ・・・!ママと・・・パパを殺した・・・あの時のガンダムゥゥゥゥッ!


再度レグナントからビームが放たれる。
スローネドライは避けるが、曲がるビームは再度足を破壊する。


『あの機体?スローネ!?』

『ルイスの家族を・・・!?』

『やめろ!ルイス・ハレヴィ!そんな復讐が!』

『ルイス!!』


刹那と沙慈がレグナントとスローネドライを捕捉する。
其方に意識が行っている為、スサノオとの戦いが厳かになる。


『全力だと言ったはず!』


レグナントに向かおうとしたダブルオーライザーを真正面から切り込んだ。
衝撃に刹那と沙慈の悲鳴が上がる。

ガデッサに乗っていたジュビアはほくそ笑む。
そのままルットーレへと通信を入れた。


『後は奴らで十分だ。俺らは母艦を叩きに行くぞ』


そう言い先行するガデッサに、ルットーレが続く。
それも捕捉していたダブルオーライザーの中で、刹那が焦りの声をあげる。


『あれは・・・!?お前なのか、!!』

『彼女の後は追わせん!』

『・・・貴様!』


再度切りかかってきたスサノオの剣をGNソードで受け止める。


スローネドライは迎撃するが、MS型に変形しつつレグナントは全てをかわしていた。


『家族の仇?私にだっているわよ!自分だけ不幸ぶって!』


レグナントの両腕の先から、爪状のファングが飛び出し、スローネドライを切り刻んでいく。
ネーナの悲鳴が響く中、レグナントが迫る。


『私はつくられて・・・戦わされて・・・!こんな所で・・・死ねるかぁぁぁっ!!


スパークするコクピットの中でそう声を張ったネーナの眼前に、レグナントの巨大な右手が迫る。
ひゅ、と息を飲んだ瞬間、通信越しに声が響く。


『そうね・・・死にたくない・・・でも・・・ママとパパは・・・
 
そんな言葉すら言えなかったぁぁぁぁぁ!!


ルイスが叫んだ直後、レグナントのファング部分が突き刺る。
スローネドライのコクピット内まで達し、ネーナ自身に其れは突き刺さった。


ちくしょおおおおおぉぉぉぉっ!!


直後、スローネドライは爆発した。
刹那は瞳を見開き、「スローネが、」と呟く。
その直ぐ後にスサノオに蹴り飛ばされる。
刹那は舌打ちをし、スサノオに攻撃をしかける。


『生きてきた・・・私はこの為に生きてきた・・・たとえイノベイターの傀儡と成り果てようとも!彼女を見捨ててでも!』


真正面から切りあい、衝撃が発する。


『この武士道だけはぁっ!!』


が4年前、救った男。
彼女は彼を救ったというのに、彼は彼女を見捨てたと言う。
通信が途切れる直前に、彼女は間違いなく自分を見ていた。
救ってくれた。





「や・・・来る・・・敵が・・・みんなを殺しに・・・!私も・・・!」





戦いを恐れていた彼女。
そんな彼女を知っているはずなのに、アロウズの、イノベイターの好きに改良されている彼女を見て見ぬふりをしてきたのか。
刹那はそう思いながら「そうまでして!」と声を張る。


『刹那!』

『戦いに集中する!』


ルイスの事も気懸かりなのか、沙慈が焦りの声をあげるが、今は前に居る奴をどうにかしないとならない。
互いに距離を取り、体制を立て直す。


『このままでは・・・!』


何時まで経っても戦闘は終わらないだろう。
埒が明かないままではにも追いつけない。
ならば、
双方同じ事を思っていたようで、同時に機体の色が赤く染まる。
トランザムにより一気に加速した二機が切り結ぶ。

そのまま切り結びながら移動をする。

その間粒子が舞い、いつの間にか辺りを包んでいった。





((・・・此処は一体?私はすでに涅槃にいるというのか?))


光に包まれる。
輝く空間の中でグラハムは戸惑いの表情を浮かべる。
そんな彼に、刹那が空を見つめながら答えた。


((ここは、量子が集中する場所だ))

((何を世迷い事を・・・))

((わかるような気がする・・・イオリア・シュヘンベルグが、ガンダムを・・・否、GNドライブを造った訳が・・・))


何!?とグラハムが声をあげる。
刹那はゆっくりと瞳を伏せ、口を開く。


((武力介入はこの為の布石・・・イオリアの目的は、人類を革新に導く事・・・そう、俺は・・・変革しようとしている・・・!))


そう言い開かれた彼の瞳は、金色に輝いていた。


((変革?それが君が会得した極みだというのか・・・))


極み。
グラハムが求めるものは戦う者のみが到達する事が出来る極み。


(少年は、かつて私に歪みがあると言った。だが、彼とて戦うことしかできない存在。
 だからこそ私は望む・・・君と戦うことを…!)





『この極みにある勝利を!!』


真正面から再度二機が切り結ぶ。


『勝利だけが望みか!?』

『他に何がある!』


グラハムの問いかけに刹那は「決まっている!」と言いスサノオを突き放す。
そのままGNソードを構え、スサノオに切りかかる。


『未来へと繋がる・・・あしただ!!』


それを切り払い、再度スサノオが一気に迫る。


『切捨て・・・御免ッ!!!』


剣を振り下ろすが、ダブルオーライザーはそれを両手で受け止めた。
「白羽取りだと!?」とグラハムが驚いている間に刀身を砕く。


『これが俺の・・・戦いだ!!』


動揺するスサノオに、ビームサーベルを両手で構えて一気に突き刺す。
スサノオの両肩に刺さった其れは、大きなダメージを機体に与えていた。
肩の部分が爆発をし、両腕が取れる。
緊急脱出の為のオート機能が作動し、コクピットが開かれる。
ダブルオーライザーはビームサーベルをコクピットへ向ける。


『戦え、少年・・・!私を切り裂き!その手に勝利を掴んでみせろ!!』


グラハムの言葉に答えず、ダブルオーライザーはビームサーベルをゆっくりとさげた。
トランザムも解いたそれに、グラハムは驚く。


『何故だ!?何故止めを刺さん!?』

『俺は・・・生きる・・・生きてあしたを掴む・・・!』


刹那の言葉にグラハムと沙慈が瞳を見開く。
「それが、俺の戦いだ」と短く言うと刹那はダブルオーライザーを動かす。


『生きる為に、戦え』


そう言い残し、刹那はダブルオーライザーを動かした。
「沙慈」と彼の名を呼ぶ。


『ルイス・ハレヴィの機体は?』

『反応が無い・・・撤退したんだと思う』

の機体はどうだ』

『もう近くに居ない。多分、トレミーへ向かってるんだと思う』

『そうか・・・だったら俺たちも戻るぞ』


刹那の言葉に沙慈が「うん、」と言う。
その後に、少し間が空いた後、「刹那、」と沙慈が彼を呼ぶ。


『・・・ありがとう・・・』

『? 何を・・・』

『そう言いたい気分なんだ』


そう言い沙慈は、オーライザーのコクピットの中で瞳を伏せた。