『もし、私が・・・』
はそこまで言い、少し躊躇った後に何かを決意したように見上げてきた。
『もし・・・!次に私が貴方たちに刃を向けた時は・・・!!』
その時は・・・!
そう言い胸の前で手を握る彼女の手を取って顔を覗き込む。
『大丈夫だ。お前は俺たちが守る』
今はアレルヤも傍に居るんだろう?
そう問うと、は小さく「よく分からないけど」と呟いた。
それでも彼らの仲がまた深まってきている事に間違いは無い。
何がきっかけかは分からないが、から歩み寄ろうとしているように見える。
このまま行けば、以前のような二人が見られるだろう。
少し寂しさを覚えながらも、彼女の手を握った。
『でも、もしもの時は・・・お願い・・・』
『・・・?』
『本当は、ちょっと怖いの。あの時みたいに、また皆に・・・』
はそう言い、肩を震わせた。
もし、愛しい人物を、アレルヤを彼女が殺してしまったら。
きっと戻ってきたとしても彼女は彼女ではなくなってしまうだろう。
守る為に戦う彼女が、仲間を手に掛けてしまうくらいなら、いっそ。
彼女にも頼まれた。
憎まれ役は、俺独りで十分だ。
そう思っていたのに。
アリオスにとどめを刺そうとしていたルットーレへ、トランザムライザーを放った。
いくら巨大MSだろうと、直撃してしまえば落とせる。
なのに、
「・・・っく、うおおおおおおおお!!!」
刹那はパネルに拳を打ちつけた。
覚悟はあった。
汚れ役を引き受ける覚悟も、大切な彼女を撃ちぬく覚悟も。
あった、はずだったのに。
「・・・俺は・・・俺は・・・!」
トランザムライザーは、ルットーレの半分を破壊した。
右側の足、腕が無くなりファングの数も半減し、スパークを起こしている。
電流がパチリと鳴るコクピット内で、は頭を抱えていた。
怖い。
何が起こったのかが理解出来ない、怖い。
の頭は、ただ、恐怖で占められていた。
何が起こった?
何が、私を狙った?敵?敵が?敵って、誰?
ピ、という捕捉音が響く。
ザザ、とぶれるモニターを見上げると、そこには"ガンダム"がいた。
「!!」
ガン、ダム、
青と白の、ガンダムは、私を殺す。
あのガンダムは、私を殺す。
わたしを、ころす、
それを理解した直後、はひゅ、と喉を鳴らした。
恐怖で体が竦みそうになる。
彼女は「いや、」と言い首をゆるゆると振りながら震える手で操縦桿を握る。
「・・・いや・・・!」
来ないで・・・!
赤く輝くあの機体は青と白のガンダム。
そう、あの色合いのガンダムは私を殺しに来る。
あの頃みたいに――!
「っ・・・ぅああああああああああああ!!!!!」
((!))
無我夢中で左腕を振るう。
アリオスはそれを辛うじてかわしながらも、ルットーレに近付こうとする。
((くそ・・・!トランザム!!))
アリオスの機体が赤く輝く。
物凄いスピードで迫るそれにGNフィールドを張って拒む。
ダブルオーライザーもGNソードを構えて迫ってきており、は恐怖を感じたままファングを放つ。
次々と撃墜されるファング。
やっぱり、あの機体は私を殺そうとしている!
コクピット内で小さな爆発が起こる。
ルットーレが先ほどのトランザムライザーで半壊した事により、機体が崩れて来ている。
アレルヤも刹那もそれを分かっているからこそ、なんとかしようと動くが、彼女がそれを拒む。
刹那は量子空間を作ろうとダブルオーライザーを動かした。
これしかもう手は無い。
そう思った直後、
『――でも、もしもの時は・・・お願い・・・』
頭に響いた声に刹那が瞳を見開く。
脳裏に浮かんだのは、眉を下げ、自分を見つめる空色。
金色の髪がふわりと揺れる――。
彼女のふっくらとした唇が動く。
わたしを、
『――殺して』
冷水をかけられたような感覚。
刹那は唇を震わせ、瞳を強く閉じた。
「・・・うわあああああああああああぁぁぁっ!!!」
ダブルオーライザーは一気にルットーレに接近し、GNソードを振り上げた。
刹那!と自分の名を呼ぶ沙慈とアレルヤの声がする。
ティエリアとロックオン、スメラギたちも叫んでいたかもしれない。
どれが誰の声かなんて、刹那には分からなかった。
ただ、目の前の機体の中に居る彼女だけを、想っていた。
振り下ろされたGNソードはルットーレの腹部を切り裂く。
爆発が起こり、体制を崩すそれに追撃をかけようとする。
それより先に、ダブルオーライザーの前にアリオスが立ち塞がった。
『止めてくれ!刹那!』
「退け!彼女が望んだんだ!お前を殺すのなら、自分を撃てと!!」
『それでも駄目なんだ!!』
アリオスが通り抜けようとするダブルオーライザーの肩を掴む。
しかし、と言いよどむ刹那だが、眼前のルットーレが再度爆発を起こす。
開かれた砲口からは、未だに光が集っている。
あれが撃たれたら、ルットーレ自身が崩壊するだろう。
これでいい、これでいいはずなのに、
刹那は歪む視界の中で、遣り切れなさから叫び声をあげた。
コクピット部分が歪んでしまっている。
あれでは開ける事も困難だろう。
ならば、
アレルヤはそう思いながらダブルオーライザーの手からGNソードを奪い取ると飛翔する。
真っ直ぐに光を集めるルットーレに向かい、GNソードを振るう。
コクピット付近を傷つけ、コクピット丸ごとを取り出すしかない。
それしか、彼女を救う道はない!
アレルヤは機体を動かしながらも、彼女に呼びかける。
「!!」
気を失ってしまったのだろうか、それとも、恐怖状態で応えられないのか。
アレルヤは焦りを感じながらビームサーベルも使い、表装を剥がしていく。
「・・・直ぐそこに君が居るのに・・・諦めるなんて出来るわけないだろ!!」
((いいの、諦めても))
頭に声が響いた。
静かに響いたそれに、アレルヤは瞳を見開く。
確かに自分はコクピット内に居るはずなのに、まるで彼女の傍に居るような。
そんな感覚に見舞われた。
「・・・いい訳ないだろう・・・!」
((ううん、元々私はこの世界に相容れなかったものだから))
「僕と思い合えた・・・必要としているじゃないか・・・!」
((それは違う))
手が暖かくなった気がした。
まるで彼女がそこに手を重ねてくれたみたいに、
((私は、どうしても死んだものなんだよ・・・))
「でも!今君は此処に居る!!」
((・・・兵器と、してね))
難しいね。
彼女はそう言った。
まるで全てを諦めているような彼女にアレルヤは苛立った。
((どうして諦めるんだい))
「望みが無いから」
((お前はそんなタマじゃねぇだろ))
「ううん、私は臆病だから」
((でも、いつだって真っ向から向き合っていた))
「そんなのただの強がり」
((分かってんだよ、お前の事は))
「だったら、私を撃って」
「ふざけるな!!」
ガンッ!と音が響く。
コクピット内が物凄い衝撃で揺れる。
スパークを起こし、モニターも砂嵐となったそこで、は空色の瞳を見開いた。
撃ってくれれば、全部が終わるのに。
今までの事も、全部リセットされて、自由になれるのに。
貴方になら、撃たれてもいいのに。
そう思っていると、ふっと視界が真っ黒に染まった。
闇の中に居る自分。
目の前に立つ人物を見上げると、呆れたような息を吐かれた。
『余計な事は考えなくていいんだよ』
そう言ってなんの躊躇いもなく、手を伸ばしてくる。
『お前はただ俺の傍で笑っていればいい。それだけだ』
そう言い光が、私の手に触れた。
私にとって、本当に大事なものはなんだろう。
そんな事、最初から決まっていたのに―――。
触れた手が、思い切り引かれる。
あ、と思ったときには体に纏わりついていた闇が剥がれ落ちていった。
そのまま光に包まれる。
光、私を包んでくれた光は、
「!!」
いつだって、私が望んでいた、光。
逆行であまりよく見えないけれど、どんな表情をしているかぐらい分かる。
きっと、焦ったような表情で、覗き込んできている。
ゆるゆると、力ない動きで手をあげる。
メットが取られている彼の頬に、手が触れる。
確かめるように、彼の手が重なる。
「・・・レルヤ・・・、」
そう言い、彼女は穏やかな表情で瞳を閉じた。
やっと、あえた。
随分遠回りをしました。