『どうしたんだよ、そんな顔して』
困ったように笑うと、真紅の瞳が細められる。
短い前髪が無重力空間でふわりと揺れる。
『何時まで経っても子どもっぽいんだからさ』
『・・・うっせ』
くしゃりと頭を撫でられる。
本当に子ども扱いだ。
そう思い片割れを見返す。
『それじゃあ、行ってきます』
それが最後に見た片割れの姿だった。
地上でミッションを続けていると言われても、釈然としない思い。
色々と開発に力を入れていたようだが、不意に連絡が途絶えたそうだ。
なんでだ、という思いばかりが繰り返された。
別の奴がいけばよかったのに、そうすればアイツは俺の隣に居たのに。
そんな事ばかり。
イノベイターとしての使命だとかも正直どうでもいい。
ただ、お前が俺の傍に居れば、
目の前にはスパークを起こす機体。
ビームサーベルが刺さったまま、力なく横へと流れていく。
此方に向いた状態のGNソルジャーの開かれたままのコクピットからレーゲンの姿が見える。
ジュビアが思わず「あ、」と声を漏らすと、それに反応するかのように彼が視線を動かした。
((・・・ジュビア、))
パチパチとスパークするGNソルジャー。
まるでそれを気にしていないようにレーゲンはゆっくりと首を振って続ける。
((俺が思い出せないから、お前を苦しめていたんだよな))
「・・・レー、ゲン、」
((ごめんな。遅くなって))
ごめん。
そう言ってレーゲンは記憶の中と同じように困ったように笑った。
何かに気付いたGNアーチャーが動こうとする。
ジュビアも真紅の瞳を大きく見開き、無意識の内に機体を動かしていた。
((・・・ジュビア、俺もお前がやっぱり大切だよ))
そう言いガラッゾを押しのけようとGNソルジャーが片腕を動かす。
が、ジュビアの咄嗟の動きの方が早かった。
「馬鹿野郎がああァァァ!!」
そう叫んだ直後、GNソルジャーが爆発した。
プトレマイオス2のブリッジではGNソルジャーのLOST情報にフェルトが瞳を見開いていた。
ミレイナも同じで、「ノリエガさん・・・!」と震える声を漏らす。
爆発によって吹き飛んだGNアーチャーの中でソーマは体を震わせていた。
あ、と声を漏らす。
目の前で爆散した機体。
レーゲンの乗っていた、機体。
ソーマは瞳を細め、彼の名を呟いた。
「・・・レーゲン・・・!」
そう言った直後、眼前のガラッゾが動いた。
眼前の敵を放置していた事を思い出し、ソーマはハッとして身構える。
が、依然ガラッゾが攻撃してくる気配は無かった。
よくよく見ると、何かを抱えるように丸くなっている。
ゆっくりと広げられる腕。
その掌が開かれた中に、あるものが見えた。
ソーマは金の瞳を見開き、歓喜の声をあげた。
「・・・レーゲン!」
GNアーチャーを一気に近付け、コクピットハッチを開く。
近付くが否や、そのままシートを蹴って宇宙空間へとその身を躍らせた。
バックパックも上手く使用し、ガラッゾの掌の上へと移動をする。
そしてそのまま、勢いに任せてレーゲンに飛びついた。
「レーゲン!」
「うお・・・!心配かけたな、ソーマ」
「馬鹿なのか・・・お前は・・・!」
何故脱出しなかった!
そう言いつつも強く腕を回すソーマに、レーゲンは苦笑した。
「ジュビアが俺を見捨てるはずはないさ。まぁ、ちょっとは覚悟してたんだけどさ」
レーゲンがそう言った直後、ガラッゾのコクピットハッチが開かれた。
その中から現れたアロウズのパイロットスーツにソーマは警戒の色を露にするが、レーゲンがそれを留めた。
軽い動きで掌の上に着地してきたジュビアは、レーゲンを見下ろしている。
「・・・脳量子波で感じた・・・レーゲン」
「・・・ごめんな、色々と」
心配かけまくったみたいで。
そう言ってレーゲンは片手を伸ばす。
ジュビアは眉を寄せ、「ほんとだぜ」と言い彼の手を取った。
立ち上がらせたレーゲンを引き寄せ、コツンとメットをぶつける。
間近でお互いの顔を見合い、レーゲンは微笑み、ジュビアは泣き笑いの表情をみせた。
「・・・おかえり」
「ただいま、ジュビア」
腕の中に戻ってきた片割れに、ジュビアは久しぶりに心が癒される感覚を覚えた。
そんな中で「レーゲン、」と名を呼ばれてレーゲンは振り返る。
朱色のパイロットスーツを身に纏った彼女が、不安げに金の瞳を揺らしながらレーゲンを見ていた。
レーゲンは安心させるように微笑み、「大丈夫だ」と言った。
ジュビアの手を握ったまま、ソーマの手を取る。
「帰ろう、俺の今の居場所は、ソレスタルビーイングだ」
レーゲンの言葉にソーマは安堵の息を漏らす。
その後に、レーゲンはジュビアを見つめる。
「一応聞くぞ、どうする?」
「分かってるなら聞くなよ」
ジュビアはそう言い、口の端を吊り上げた。
「俺はもうお前から離れねぇよ」
覚悟しとけよ。
そう言うジュビアにレーゲンは笑みを零し、ソーマは瞳を細めた。
刹那が彼女を撃った時、心臓が止まるかと思った。
まるで頭から冷水をかけられたように、芯まで冷え切った感覚。
それでも、彼女を助ける為に無我夢中で動いた。
を救いたい。彼女の笑顔をもう一度見たい。
ただその一心で動いていたのに、
((いいの、諦めても))
頭に声が響いた。
静かに響いたそれに、瞳を見開く。
確かに自分はコクピット内に居るはずなのに、まるで彼女の傍に居るような。
そんな感覚に見舞われた。
「・・・いい訳ないだろう・・・!」
((ううん、元々私はこの世界に相容れなかったものだから))
「僕と思い合えた・・・必要としているじゃないか・・・!」
((それは違う))
手が暖かくなった気がした。
まるで彼女がそこに手を重ねてくれたみたいに、
((私は、どうしても死んだものなんだよ・・・))
「でも!今君は此処に居る!!」
((・・・兵器と、してね))
難しいね。
彼女はそう言った。
まるで全てを諦めているような彼女にアレルヤは苛立った。
「どうして諦めるんだい」
((望みが無いから))
((お前はそんなタマじゃねぇだろ))
((ううん、私は臆病だから))
「でも、いつだって真っ向から向き合っていた」
((そんなのただの強がり))
((分かってんだよ、お前の事は))
((だったら、私を撃って))
「ふざけるな!!」
GNソードとビームサーベルを無我夢中で振るう。
段々とむき出しになってきたコクピットの中に、彼女が居る。
それだけを思い、表装を破壊していく。
四角い形のコクピット。
それを手で掴み、思い切り引き抜いた。
直後、爆発が起こる。
衝撃に襲われ、コクピットを守るように抱え、吹き飛ぶ。
ルットーレは爆発した。
けれども、彼女は無事だ。
今度こそ、この腕の中に居る。
アレルヤは泣き笑いの表情をし、瞳を伏せた。
救えた。
彼女を、救い出す事が出来た。
アリオスのトランザムの時間も、丁度過ぎた頃、辺りが量子空間に包まれた。
((どうしてそんな無茶ばかりするの?))
私なんかの、ために。
そう言って、腕の中に居るのは、彼女。
間違いない、彼女だ。
アレルヤはそう思い愛しい存在を優しく抱き締める。
決まっているじゃないか。
そう言い金色の髪を梳く。
((僕が君を、愛しているから))
そう言うと、胸に顔を埋めていた彼女は顔をゆっくりとあげた。
空色の澄んだ瞳が僅かに細められ、花が綻んだ様なふわりとした笑みを浮かべる。
((・・・馬鹿なんだから))
そう言いぎゅう、と抱きついてくる。
光が舞う空間の中で、僕らしか居ない。
やったんだね、ハレルヤ。今この腕の中には、彼女が居るんだ。
ああ、間違いじゃねぇ。
そう思い、目を開く。
手を動かし、の頬に触れる。
此方を向かせると、は泣き笑いの表情をした。
((・・・諦めないでいてくれて、ありがとう・・・))
((当たり前だ。俺がお前を諦めた事なんかあったか?))
ううん、と首を振ったに満足げに笑む。
何が可笑しいのか、くすくすと笑いながら彼女は空色を此方に向けた。
((・・・時間は、あるんだよね?))
((ああ、))
((もっともっと、私たち、分かり合っていけるんだよね?))
((もちろん、僕たちはずっと一緒なんだから・・・))
アレルヤとハレルヤ。
愛しい二人の想いを受け、は綺麗に微笑んだ――。
「・・・帰ろう、僕たちの居場所へ」
アレルヤはそう言い、アリオスの進路をプトレマイオス2へ向けた。
おかえり。