「オラ、何時までくっついてんだ」


思い切りぐい、と引っ張られる。
突然の事にが「わわ、」と声をあげる。
バランスを崩した彼女を受け止めたのは、ハレルヤだった。

刹那は厳しい視線をハレルヤに向けたが、彼も眉を潜め、刹那を見返した。


「コイツは俺ンだ。何時までもくっついてんじゃねぇよ」

((ハレルヤのものでもないけどね))

「ンだとアレルヤ」

「ちょ、喧嘩しないでね、二人共・・・」


ハレルヤを見上げて言うに彼はどこか気を良くしたのか、口の端を吊り上げる。
「丁度良いぜ」と言い彼女の腕を引く。


「俺かアレルヤか。白黒つけようじゃねぇか」


俺の部屋でな。
そう言いの腕を引いていく彼を全員が見送った。
レーゲンがやれやれ、と溜め息を吐くと、隣に立っていたジュビアが面白そうに笑った。


「アイツいいな」

「お前と似てるからな」

「俺はあそこまで性格悪くねぇぞこっちの性悪女だろ」

「なんだと貴様」

「・・・いや、君ら仲悪いね・・・」


肩を落としたレーゲンへ、刹那と沙慈は複雑な視線を向けた。










部屋へ連れて来られたは壁に背をついていた。
両脇にはハレルヤの腕。
まるで逃がさないとでもいうようにハレルヤは笑んでいる。

どうしてこうなったんだっけ。
はそう思いながら「ハレルヤ・・・?」と彼を呼ぶ。


「で?どっちなんだ?白黒つけたんだろ?」

「え、なにが」

「俺かアレルヤか、どっちを愛してどっちに愛されるのがお好みなんだ?ちゃんはよォ」


量子空間で交わされた会話。





『お前もお前で、ケリをつけろ。甘えてばっかでいるんじゃねぇ』

『ケリをつけて、来いよ』





アレルヤか、ハレルヤか。
選べと彼らは言っている。
同じ体で、違う思考。常人には違いなんてあまり理解出来ないだろうが、は十分すぎるほど知っている。
どちらも優しくて、自分を想ってくれている事を。

そして救出された時、アレルヤが向けてくれた言葉。





((どうしてそんな無茶ばかりするの?))


私なんかの、ために。
そう言うとアレルヤは優しく微笑んで、決まっているじゃないか、と言って髪を梳いてくれる。


((僕が君を、愛しているから))

((・・・馬鹿なんだから))





真っ直ぐに向けられたアレルヤとハレルヤの想い。
勿論も彼らを想っている。
彼ら、を。

少し視線を彷徨わせた後、はおずおずと言った様子で金と銀を見上げる。


「えっと・・・どっちかじゃないと、駄目?」

「あ?」

((・・・どういう、事かな?))


脳量子波を通してか、アレルヤの声も響く。
えっと、と再度言いは彼らを見上げた。


「・・・私、アレルヤが好き・・・。最初だって、アレルヤの優しさに惹かれていって、」





「僕じゃ、だめかな」

「僕が、君を守るよ」





ぎゅう、と強く抱き締めながら言ってくれた言葉。
心から嬉しかった。
海辺で自分の思いを全て吐き出した時も、アレルヤは全てを受け入れてくれた。
大丈夫、僕が守ると言ってくれた彼に、心の底から安堵した。
蝶の髪飾りだって、今でも大切に取ってある大切なものだ。





「僕は・・・僕たちは・・・、」

「え?」

「君が大切で、必要で、ずっと傍に居て欲しくって」

「・・・うん、」

「・・・つまりは、その・・・大好き、なんだ」





そう、5年前からずっと、アレルヤが好きだった。
けれど、想いは揺らいだ。


「でも、私・・・ハレルヤの事も・・・、」


そこで彼の片眉が動いた。





『人革のティエレンに乗ってる女超兵はアレルヤの大事な女神サマ・・・マリーなんだよ!』

『アレルヤのお前に対する気持ちは仮初だ』


ハレルヤの言葉が、胸に突き刺さった。

今までのアレルヤの優しさは、温もりは、本来だったらマリーに向けられるべきもの。
アレルヤは勘違いして、私にマリーを重ねて、


『・・・そんな、』


思わず項垂れる。
ついさっきまでアレルヤと想いが通じ合ったと思っていたのに、一気に突き落とされた気分だった。


『・・・俺は違う。俺はアレルヤとは違う。俺にとって、お前は・・・俺の頭ン中をかき乱す、変な存在だ』

『ハレルヤ・・・』

『お前も俺の傍に居ろ』


そう言い、ハレルヤは抱き締めてくれた。


『俺が、守ってやるから』


アレルヤと同じ体。

アレルヤと同じ香り。

アレルヤとは違う、荒々しい抱擁。





最初はハレルヤとアレルヤを重ねていた部分もあったかもしれない。
けれど、彼自身と話していく内に、彼の魅力に気付いて、また惹かれていった。
自分とマリーを重ねるアレルヤに苛立ち、嫉妬しつつも、心はハレルヤに向かっていった。

それからすれ違いもあったけれど、彼らは戻ってきた。
アレルヤはマリーへの想いへ整理をつけ、真正面から向き合う努力をしてくれた。
ハレルヤも眠りから復活して、変わらず愛を惜しみなく与えてくれる。





「俺の言った通り、アレルヤにはマリーが居ただろ?」


彼の言葉が胸に突き刺さる。
満足そうに笑み、彼は「だからよ、」と言う。


「もうアイツなんか良いだろ?あのガキも、余所見すんなよ」

「ハ、ハレル・・・、」

「俺だけを見てろ」


余所見すんな。
バイザーが開かれ、彼の素顔が間近に迫った。





ハレルヤのキスは毎回優しかった。
重ねられるだけのそれに、酷く安心感を覚えていた。





「・・・確かに、マリーは僕にとって女神のような存在だ。
 彼女と出会えたから、僕は今此処に居れる」


名をくれた彼女。
超人機関に居る間、マリーがアレルヤにとっての光だった。


「けれど、君と出会って、二度目の恋をしたんだ」

「・・・私?」

「始めてガンダムから降りてきた君を見た時、こんな女の子が戦うなんてと嘆いた」

「・・・アレルヤ、」

「でも、君の戦う意味。そして君自身の色々な事に触れて、僕は何時の間にか君を好きになっていたんだ」

「それは・・・マリー・パーファシーと私を重ねていたから・・・!」

「君は、君だ」

「・・・アレルヤ、」

「本当に、身勝手かもしれないけれど・・・」


彼は優しく抱き締めてくれた。


「君が刹那と幸せになるなら、とも考えた。
 でも、嫌で嫌でしょうがない。本当は、ずっと、僕の傍に居て欲しいんだ」


マリーじゃなくて、が。
が好きなんだ。
刹那に渡したくない。
傍に居て欲しい。
マリーじゃなくて、がこんなにも、


「好きなんだ」





は真っ直ぐに彼らを見た。


「・・・ごめん、私、どうしても選べない・・・。
 優しく私を支えてくれて、いつも想ってくれるアレルヤが、ハレルヤが・・・こんなにもダイスキなんだもん・・・!」


だから、ごめん。
再度が謝ろうとした時、影が動いた。
彼女の肩口に、彼が顔を埋めた。
突然の行動には瞳を瞬かせ、「アレルヤ?ハレルヤ?」と名を呼ぶ。

名を呼んで反応したのか、顔をあげたのはアレルヤだった。
彼は微笑んだ後、壁に手をついたまま体を動かした。

そしてそのまま、アレルヤは初めてにキスをした。

突然のそれに空色を大きくし、瞬かせる。
そのままアレルヤは手を動かし、優しくを抱き締める。
キスをしたまま抱き締めてくれるアレルヤに愛しさを感じ、は彼の背に腕を回した。

少ししてから唇が離れる。
間近にあるアレルヤの顔は僅かに紅潮していて、どこか嬉しげに笑んでいた。


「・・・嬉しいよ、。僕たちを愛してくれて」

「・・・でも、私選べなくって・・・」

「いいんだよ。君の想いが伝わってくるから・・・」


脳量子波を通して?
そう言いつつはアレルヤの胸に頭を預けた。
どうだろうね、と彼は言っての髪を撫ぜる。


「傷付けてばかりで、ごめん」

「私も・・・ごめんね」

「本当だぜ・・・もう俺ら以外に余所見するんじゃねぇぞ」

「・・・うん」


ハレルヤとアレルヤが、ダイスキだから。
そう言いぎゅう、と強く抱きついてきたにハレルヤは一瞬固まった。
頭の中でアレルヤの自制だよ自制、という声が響いた気がした。
彼女の体も考え、自制だな、とハレルヤも思いつつ腕の中の彼女を見下ろす。
そこには心から安心したように瞳を伏せる彼女の姿があった。

こんな風に彼女を抱き締めるのに、一体何年かかっただろうか。

馬鹿らしい。
そう思いながらハレルヤは彼女の腰を更に引き寄せた。
ぎゅう、と強く抱き締めると嬉しそうにはにかむ彼女。
それを見る度に、情けなくも頬が僅かに紅潮するのが自分でも分かった。

不意に、彼女が瞳を開いて見上げてきた。
そのまま、嬉しそうにはにかみながら背伸びをして触れるだけの口付けをしてきた。


「・・・もう、離れないからね」


そう言って微笑んだ彼女に、ハレルヤとアレルヤの鼓動は速まった。




やっとちゃんとくっつきました(ドンドンパフー)
すれ違いが重なりました。長らくお待たせいたしました・・・!