「・・・っていうか据え膳って奴だろこれ」

「え?」


ふわりと動く体を利用して一気に寝台まで移動する。
ハレルヤ!と咎める声が頭に響くが気にしないふり。
彼女の体を寝台に沈めると、自身も覆いかぶさった。

相変わらず「?」といった表情を浮かべる彼女にハレルヤは息を吐く。


「・・・危機感ってもんがねぇのか、お前」

「ハレルヤとアレルヤに危機感は持ってないよ?」

「・・・駄目だこいつ」


ハレルヤは再度重たい息を吐いてを見下ろした。
なに?と彼女が問うても脳量子波から伝わってきた感情は呆れのものだった。
「なんでもねぇよ」とハレルヤは言ってそのまま腕の力を抜いた。
の顔の真横に彼の頭がある。
甘えるかのような、此処に居る事を確認するかのような仕種で、ハレルヤはにすり、と身を寄せる。


((ハレルヤ・・・))

「何もしねぇよ。こいつも色々ガタガタだしな」


ハレルヤがそう言うと、アレルヤに切り替わったようで僅かに顔をあげた。
彼はを穏やかな表情で見下ろし、「そうだよね」と言う。


「今だけかもしれないんだ、こんな風に君と一緒に居られるのは」

「・・・ヴェーダを奪還した後があるよ」

「・・・そうだね」


はアレルヤに微笑み、彼に擦り寄った。
落ち着いた様子の彼女にアレルヤも笑みを零し、今この瞬間の幸福を味わった。
その時、ドアのロックが解除される音が響いた。
思わず身を起こした二人が、顔を見合わせる。
誰だろう、と思った直後、ドアがスライドする。
そこに人影はなく、現れたのはイエローハロだった。
「ハロ!」と思わずが言い足を動かす。
転がった後、瞳を点滅させてを見上げるイエローハロ。




「ハロ・・・どうして・・・?」




彼女の名前しか呼ばないAIに、アレルヤは瞳を細めた。
も意図を汲み取ったのか、両手をそっとイエローハロに伸ばす。
胸に抱え、頬を摺り寄せる。


「・・・そうだよね、心配かけたよね・・・」



「・・・あなたには、ほんとに迷惑ばっかりかけちゃってるね」


ごめんね。
そう言いイエローハロをぎゅっと抱きしめる。
耳のような部位をパタパタと開閉させた後、腕が伸びる。
伸びた腕はの背に回り、まるで抱き締めているような動きをした。


、ダイスキネ、、ダイスキネ!』

「わっ、ハロ・・・!私も大好きだよ!」


ぎゅー!といった様子で抱き合うとイエローハロに、アレルヤが複雑そうな表情をする。
すっかり彼女を取られてしまった。やっと想いが通じ合ったばかりだというのに。
イエローハロに小さな嫉妬をしながら、アレルヤは頬杖をついた。


((オイ、引き剥がせ))

無理だよ。あのハロは本当にが好きなんだから

((俺らの方が上だ。引き剥がせ))

君は本当に嫉妬深いね・・・


あまり人の事言えないけれど。
アレルヤはそう思いながら視線を彼女たちに戻す。
「でも、どうしてここに?」とがイエローハロに問う。


『ヨウスミネ、ヨウスミネ!』

「・・・様子見?」


アレルヤが思わず言葉を繰り返す。
それにイエローハロが同意するように床の上を転がる。


『タノマレタノネ、タノマレタノネ!』

「・・・一応、聞くけど・・・誰に?」

『セツナ、ソーマ、セツナ、ソーマ!』

・・・・・・


イエローハロから発せられた言葉にアレルヤが言葉を失う。
ソーマはジュビアとレーゲンに関していがみ合っていたはずなのに、気にしていたようだ。
彼女にとっても、は大切な存在であるからなのは分かっていたが・・・。


「せ、刹那もか・・・」

((あの野郎、諦める気ねぇな))


苛立たしげにハレルヤが言う。
それにが小首を傾げ、「ハレルヤ?」と呼びかける。
表に再度出てきたハレルヤが舌打ちをし「なんでもねぇよ」と言う。


「・・・そう?それなら、いいんだけど・・・」


はそう言いイエローハロを抱えながら彼を見上げた。
まるで吹っ切れた様子な彼女に、アレルヤは安堵の息を吐いた。
それはハレルヤも同じ気持ちで、5年前のように明るく微笑んでいる彼女を見ると心が安らいだ。
ソレスタルビーイングの制服の色合いも、赤に近い橙色のものだが、自分と同系色のもので、小さな喜びもあった。
帰還後、インナーの色合いも変わり、よりおそろいに近いものとなった。
ハレルヤは口の端を吊り上げ、腕を伸ばす。
イエローハロを抱えたごと抱き締める。


「・・・ハレルヤ?」

「別に俺はコイツが居ても気にならねぇけどな」


今はこれで我慢しておいてやるよ。
そう言い一気に距離をつめ、唇を重ねた。










ソーマは苛立っていた。
はアレルヤが連れて行ってしまったし、レーゲンにはジュビアがべったりとくっ付いている。
メディカルルームに一緒に着いてきたソーマは、特にする事もなく壁に寄りかかっていた。
の身体データをチェックしつつ、異常がないかをアニューと確認しているレーゲンの背を、ただ見つめるだけ。
同じくする事が無いのか、ソーマの近くの壁にはジュビアが寄りかかっている。
二人の視線を感じてか、気まずそうにレーゲンが振り返る。


「・・・まだかかるかもしれないからさ、別に無理に此処に居なくても・・・、」

「「此処に居る」」


同時に言葉を発する。
お互いを鋭い目で見つつ、同時に顔を背けた二人にレーゲンは苦笑する事しか出来なかった。


「・・・愛されてるわね」

「ちょっと恥ずかしいぞこれは」

「いいじゃない。本来だったら、貴方も休むべき人なだから」


最初こそ、アニューは自分が引き受けるといったが、の事も気懸かりだったレーゲンはそれに応じなかった。
せめて手伝いをとそうしているのだが、ソーマもジュビアもこの調子では集中が出来ないだろう。


「・・・でも、本当に貴方が無事でよかった・・・」


みんな、心配していましたよ。
アニューにそう言われ、レーゲンは困った様に笑んだ。


「愛されているんでね、そう簡単に死ねないらしい」

「そうね・・・」

「それに、思い出したから。待っている奴も居る」

「「待っている奴?」」


レーゲンが零した言葉に反応したのはソーマとジュビアだった。
また声を揃えた二人に思わず笑みを零しながら、レーゲンは振り返った。


「流れ者を拾うって言ったろ?そいつらだよ」

「・・・レーゲンの事だから、すっかり懐いてるんだろ、そいつら」

「・・・それは、俺にはよく分からないけど・・・?」

「絶対懐いてるって」


あーくそ。
そう言いながらジュビアは腕を伸ばす。
レーゲンの背にべったりとくっ付きながら甘える仕種を見せる彼にソーマが肩眉を吊り上げる。


「・・・おい、離れろ」

「・・・ってか何だよお前、いちいち突っかかってきやがってよ」

「私はソーマ・ピーリスだ!」


また言い合いが始まった。
そう思いながらレーゲンがジュビアの腕を外す。


「名前なんざ聞いてねぇよ!いちいち俺とレーゲンの邪魔しやがってよ!」

「お前こそなんだ!何かとレーゲンレーゲンとべったりして!」

「会えなかった寂しさを埋めてるんだよ。レーゲンも俺が居なくて寂しかっただろうしな!」

「記憶が無かったんだ。お前の事なんか考えていなかっただろう!」

「うるせぇよ!どうせお前もレーゲンの優しさに惹かれた邪魔者の一人だろうが!」

「・・・それの何が悪い!」


ソーマの言葉にレーゲンが思わず振り返る。
彼女は金の瞳を鋭くさせながら、言葉を続ける。


「私を人としてこんなに扱ってくれたのは、大佐とレーゲンだけだ!
 脳量子波で感じられた・・・あんなに・・・!」


以前、繋がれた手。
温かいそれは、ソーマにとって初めての事だった。
そして自分を想ってくれている優しさが伝わってきた。

アニュー・リターナーがプトレマイオス2に戻ってきた時、恋人であるロックオンと一緒に居た。
ブリーフィングルームで彼女の処置について話している時、瞳に涙を溜めつつ、幸せそうに微笑んだ彼女。
そして彼女を支えるように傍らに立っていたロックオン。
そんな二人を見ていると、不思議な感覚に見舞われた。





「・・・信用ないかもしれないが、俺は俺だ。何ならイノベイターをおびき出す餌にもなるし、トレミークルーでいたい気持ちに変わりは無い」





イノベイターと発覚した時、レーゲンはそう言った。
彼の性格上、自分を犠牲にしてでも真実を提供しようとするだろう。
それを予想出来たからこそ、ソーマもあんな言葉を言った。





「・・・万が一、お前がこの女の様に自分の意思とは関係無しに戦う事になっても・・・、
 お前には、私が呼びかけ続ける・・・レーゲンの心にも、届くんだろう?」

「ソーマ・・・」

「今まで通りでいれば良いんだ!変に自分を犠牲にする方法なんか、考えるなよ!」





彼が居なくなるのは嫌だった。
流れのままにソレスタルビーイングに身を寄せ、アンドレイを追い続けた。
そんなソーマの荒んでいた心を癒したのは、とレーゲンだった。
気付けば傍に居た存在は、今ではソーマにとっていなくてはならないものとなっていた。
惹かれないわけが無かった。
心動かされて、何が悪いというのだろうか。


「レーゲンは私にとって・・・!!」


そこまで言って、はた、と気付く。
いつの間にかアニューもジュビアも、レーゲンまでもが自分に注目している。
それに気付いたソーマは頬を真っ赤に染めて背を向けた。


「私にとって?」

「大好きな人なの〜とか言うのか?」

五月蠅い黙れ!!!


アニューとジュビアにからかい混じりにそう言われ、ソーマは真っ赤になりながらそう声を張った。
レーゲンは大きく息を吐きながら、モニターに向き直った。
まったく、と思いつつ、彼もまた頬を仄かに赤く染めていた。










刹那は小さく息を吐いた。
今頃はアレルヤと心を通わせているだろう。
彼女を殺して自由にする考えをもつ自分よりも、それはアレルヤの方が彼女を幸せに出来るだろう。
しかし、遣り切れない想いもある。





「・・・ありがとうね、いっぱい心配してくれて」





自分を案じてくれていたのは、彼女の方だった。
愛しい、と思う。
今はまだ伝える気は無いが、彼女をずっと支えていきたいと思う。
刹那はそう思いながら、腰を浮かせた。

十分な休息をマイスターたちが取っている間、整備班はガンダムへ新装備を取り付けていた。
ダブルオーライザーにはGNソードVが装備された。これ一本でライザーソードが使用可能となる。
セラヴィーは両腰にGNキャノン、そして両肩両腰に粒子コンデンサー追加された。
ケルディム、、カマエル、アリオスにはビームランチャーが装備された。アリオスにはミサイルランチャーも追加され、強化されている。

ブリッジには総クルーが集まっていた。
モニターに表示された映像に、アレルヤが口を開く。


「王留美が指定したポイントに艦隊が集結している・・・」

「間違いないな。あの場所にヴェーダがある」


ティエリアの後に、ロックオンが「イノベイターの本拠地もな」と続ける。


「アロウズ艦隊を突破し、ヴェーダを奪還する」

「今までにない激戦になるな」


刹那にティエリアが返す。
それに頷いた後、刹那は沙慈へ視線を向けた。
沙慈は頷き、口を開く。


「行くよ。僕の戦いをする為に・・・!」


沙慈の決意に、スメラギが「クロスロード君」と彼の名を呼び、瞳を細める。
ミレイナたちも気遣わしげに沙慈を見るが、彼の瞳に迷いは無かった。


「決めたんです。もう迷いません」

「私も参加させてもらう」


次に声を発したのは、壁に寄りかかっていたソーマだった。
アレルヤが「ソーマ・ピーリス、」と彼女を呼ぶ。


「私も、そうするだけの理由がある」

「・・・俺も、出させてもらう。篭ってばっかりじゃ、俺は進めない」


隣に立っていたレーゲンの言葉にソーマは彼を見上げる。
ジュビアは不満げな表情だったが、レーゲンの決めた事に異論を唱える気は無いようだった。


「そうだな・・・目的は違っても、俺たちはあそこに向かう理由がある」

「そして、その思いは未来に繋がっている」


ロックオンと刹那の言葉に、全員がモニターを見る。
俺たちは、未来のために戦うんだ。
そう言う刹那に、スメラギが微笑む。
刹那の言葉に、異論は無く、彼をこの艦の意思決定者として認めたようだった。


「イノベイターの支配から、人類を解放するために」


ティエリアが口を開く。
ヴェーダを奪還し、イノベイターの好きなように世界を動かさない為に。
そうだな、と言いレーゲンが口を開く。


「俺たちの存在意義、理由。それをきちんと理解しないと、世界とも向き合えないし、進めないからな」


絶対にヴェーダは奪還しないとな。
そう言いレーゲンはジュビアを見た。
小さく笑みを浮かべた彼は、勝手でごめん、とでも言っている様子だった。


「僕やソーマ・ピーリスのような存在が、二度と現れない世界にするために」


そして、君も。
アレルヤはそう言い隣に立っているを見つめる。
視線を感じたは笑みを返した。
兵器として体を改造される存在なんて、悲しいものだ。
争いさえなくなれば、それも必要なくなる。その為に、アレルヤは戦う。


「・・・そうだね。戦争根絶・・・その想いは変わっていない」

「連邦政府打倒が俺の任務だ。イノベイターを狙い撃つ。そして・・・」


がソレスタルビーイングの理念を思い出す。
その言葉の後にロックオンがそう続けた。
カタロンに所属している彼は、元々の任務がある。
目的が同じだからこそ、共に戦っているが理由は人それぞれだ。


「俺たちは変わる。変わらなければ未来とは向き合えない」


そう言う刹那を、フェルトが見つめていた。
「刹那・・・」と彼の名を呟く。


「補給が済み次第、トレミーを発進させるわ。いいわね?」

「行こう。月の向こうへ」


スメラギの言葉に頷いた後、刹那がそう言った。
全員が頷き、各々の持ち場へ移動する。

そんな中、移動するレーゲンをソーマが呼び止めた。


「・・・お前、また出るつもりなのか・・・?」

「そりゃ・・・戦力は少しでも多いほうがいいだろ?」

「あいつでもいいじゃないか」

「ジュビアか?・・・でも、俺が自分で蹴りをつけたいんだよ」


あいつも分かってくれてるからさ。
そう言いレーゲンは「な?」と言いジュビアを見る。


「不本意だけどな・・・怪我すんなよ。俺がサポートするからな!」

「ナビ、頼むよ。俺も頑張るから」


そう言い手を合わせた。
ソーマは「機体は・・・」と言う。


「Oガンダムがある。粒子貯蔵タンクがあるから、起動するさ」


GNソルジャーは大破してしまったからな。
レーゲンはそう言い肩を竦めた。
ソーマは「そうか」と言った後に、ブリッジを出ようとするの腕を掴んだ。
不意打ちに思わず「わわっ!」と声をあげる。
真正面に向き直った彼女に、ソーマは金の瞳を細める。


「お前は、もう無茶はするなよ!」

「ソーマ・・・うん、アレルヤもハレルヤも居るから、私は大丈夫!」

「・・・いざとなったらそいつを餌にしてもいいんだぞ」


ソーマの言葉にとアレルヤは苦笑をした。
満足したのか、ソーマはレーゲンの腕を引きながらブリッジを出て行った。
次にロックオンが操舵席に座るアニューにきちんと声を掛けた後、ブリッジから出ようとする。


、あんまり無茶すんなよ?」

「ライルも、頑張って」


笑みを交し合い、はロックオンを見送る。
ティエリアはアレルヤに声をかけた。


「毎回無茶をする君だ。しっかりサポートしろよ」

は僕が守るよ。絶対に」


アレルヤの言葉にティエリアは「そうだな」と言い笑んだ。
は沙慈に近付いた。


「・・・呼び続ければ、絶対返事は戻ってくる」

「・・・、」

「私には届いたんだもん。脳量子波とか関係無い。アレルヤとハレルヤの、真っ直ぐな呼びかけが届いたんだもん」


ルイスも絶対、沙慈に応えてくれる。
はそう言い、沙慈の手を取って大きく上下に振った。
突然の彼女の行動に「わわ!?」と沙慈は慌てた。


「ちょ、ちょっと!」


思わず視線を彷徨わせ、アレルヤと刹那を見る。
沙慈の焦りも露知らず、は顔をあげる。
その瞳は、真剣なものだった。


「ルイスだって、きっと寂しいんだよ・・・」


家族を目の前で失い、大切な沙慈の足を引っ張りたくなくて、離れる手段を選んだ。
再生治療も出来なかった左腕。嵌められなかった指輪。





((ソレスタルビーイングがを傷付けた・・・!4年前だって、は恋人も失って、心も失って!))





家族も、親戚も失い、と沙慈を敵だと思う彼女は孤独だろう。
今の彼女を救えるのは、沙慈しかいないのだから。


「・・・うん。僕は諦めない。ルイスに呼びかけ続けるよ」


沙慈の言葉に、は頷いた。



ソーマとジュビアはライバルみたいだw
意識して無かったんですがなんかジュビアとレーゲンが妖しい関係にも見えるw