以前拍手にあげていたこれの続きみたいなものです。
見つけてしまった。
(何故、このようなところに・・・!)
アロウズの軍服を身に纏う彼女は、4年前とは違い大人びた様子だった。
髪は肩までの長さとなり、瞳の色は酷く濁っているように見えた。
超人機関出身の超兵と共に話をする彼女には、酷い違和感を覚えた。
「・・・は、何故、アロウズに・・・?」
「なぜ?」
空色の瞳が丸くなる。
超兵を見返す際、短くなった金の髪が微かに揺れた。
「・・・なぜかな?」
軽く小首を傾げ、は再度神コップに口をつけた。
「分かんない、私、ずっと此処に居たのかな」
「・・・ずっと?」
「・・・誰かが、私を、助けてくれた。その人、多分アロウズの人。だから、私は此処に居る?」
助けた?
君が私を助けてくれたのではないのか?
そう思いつつ彼女の様子を見ていると、彼女は突然頭をおさえて苦しみ始めた。
「な、なにこれ!頭に!!」
嫌!嫌!と声をあげる彼女に周りの人間が慌てる。
私の中に、入ってこないで!!
そう言う彼女に「少尉!」と言い男が支える。
少しの間見ていると、別の男がに何かの薬を飲ませている様子が見えた。
一体何の薬なのか。
「自分の名前が言えるな」
「・・・・・・・ルーシェ」
「そうだ。お前は・ルーシェだ」
間違いなかった。
彼女は5年前とは随分変わってしまったようだが、あのだ。
自分を助けてくれたが故に上層部の人間に捕らわれたのだろう。
記憶を無くしている様子の彼女に、思わず瞳を細めた。
その後も彼女と共に戦場に出る事はあった。
彼女はGN−XVを駆り、ソレスタルビーイングへ攻撃をした。
それを、彼女の意思ではないだろうに。
明らかに薬を投与され、記憶も改竄され、アロウズの兵器と化した少女。
救いたいとは思うが、今の自分に何が出来る訳でもなかった。
彼女に投与されている薬も分からないままでは、彼女に危険も及ぶ。
出撃前、ぼんやりと空を見つめていたに声をかけた。
「・・・私を許して欲しい」
「・・・なにを?」
彼女は小首を傾げるだけだった。
頬に手を添えると、それを拒むわけでもなく、ただただ無表情のままで此方を見上げるだけだった。
本当に人形のようだ。
そう思いながら、せめて今は自分の出来る事を。
戦場で彼女を守れるように、考えながら自分の機体へ乗り込んだ。
は舌打ちをしながら、GNランスを構えた。
『こいつら・・・邪魔をしてぇ!!!』
カタロンの部隊に攻撃をしかけるは。
荒い息を吐き、彼女は肩を震わせた。
『・・・ガンダム・・・ガンダムが、私を殺す!!』
声を震わせ、モニターに映る彼女は頭を抱える。
『そんなの、嫌あああああああああぁぁぁ!!!』
彼女のGN−XVに、カタロンの部隊はビームライフルを放つ。
アヘッドサキガケでそれらを破壊し、彼女を援護した。
「反政府組織が!私の道を阻むな!」
撤退命令の後は「戻るぞ、」と言いながらGN−XVの手を引いた。
やはり尋常ではない。
このままアロウズで戦い続ければ、彼女は、
そこまで考え、眉を潜めた。
何とか彼女を救えないだろうか。
ガンダムとの戦いを望みながらも、彼女を彼らの下へ返してやりたいという思いもあった。
また彼女が敵になるというのに。
彼女の機体を援護しつつ、青いガンダムと戦う。
恐らく乗っているのは、あの少年。
それに止めを刺されそうになった時、二機の間に彼女のGN−XVが割って入った。
『グラハム!!』
「!? !!」
何故、名前を、何故、私を庇おうとする。
そう思った直後、青いガンダムが煙を吹いて海上へ落下した。
相手の機体が万全でなかったからよかったものの、あのままでは、
ぞっとした。彼女が消えてしまうところだったのだから。
そう思いながらに「戻るぞ」と呼びかけるが予想外の言葉を返された。
『・・・ううん、私は、やるべき事があるから』
モニターに映る彼女の瞳は、5年前と同じ、澄んだ瞳をしていた。
そう言い微笑んだ後、彼女は超兵と橙色のガンダムが消えた方へ去っていった。
思い出したのか、彼らの下へ戻るのか。
彼女が選んだ道ならば、私は何も口出しはしない。
そう思っていたのに、彼女はまた戻ってきた。
再び薬を投与され、記憶を操作された彼女は、またただの兵器へ戻ってしまった。
超兵も連れ戻さず、自分だけまるで死に場所を求めるように戻ってきた。
揺れる船上を爪先立ちで歩いて、とんとん、とリズムを取りながら、海を見詰めて進む彼女。
まるで、初めて出会った時のように。
「・・・君は、変わらないな」
初めて出会った時も、彼女はあのように舞っていた。
彼女を見ていると「彼女の知り合いで?」とバレル大尉に声を掛けられた。
「ああ。私の前に舞い降りた天使だ」
「・・・大切に、思っているのですね」
当たり前だと思う。
こんなにも心惹かれた彼女を、大切に想わないわけがなかった。
「願わくば、ご協力願いたい」
バレル大尉はそう言い、真剣な瞳を向けてきた。
彼女を助けたいと思っているのだろう。
彼はそのまま、口を開く。
「彼女をソレスタルビーイングへ返そうと思います」
「しかし、彼女は記憶が戻ったにも関わらず、またこの場に戻ってきた」
死に場所を求めるようにな。
そう言うと彼は淡々と「そうですね」とだけ答える。
「ですが、我々は彼女に死んで欲しくは無い。幸せになって欲しいと思っています」
「・・・彼女の意思は無視かね?」
「彼女は誰よりも生を望んでいます」
恐怖しながら戦う。
死にたくないと言いながら、MSを動かす。
誰よりも生にしがみ付きながら、彼女は戦っていた。
そんな彼女は、今死を求めているように突き進んでいる。
彼女の求める者が、彼女を救えるのなら。
そう思いながら改めて彼女を見やる。
戦場では彼女をただ見守った。
二個着きのガンダムがルットーレに組み付いた。
『早く来い!!』
若い男の声がオープン通信で響いた。
恐らくは、あのガンダムに乗っている少年のもの。
焦れた彼はガンダムのハッチを開け、ルットーレのコクピットへ生身で入り込んだ。
そのままを救出し、ガンダムは撤退していった。
此方も撤退する中で、バレル大尉とアルスター少尉と通信をする。
『レイ、良かったの?』
『・・・良いんだ。今はあれが最善だった』
を救う為には、アロウズに居続ける事は得策ではない。
心許せる相手が居る場所が、もうソレスタルビーイングしかないのなら、
『・・・ソーマ・ピーリスが居なくなってしまったんだ・・・』
それとも、と言いバレル大尉は此方に視線をやる。
『貴方が彼女の傍に居てくれるのでしたら、別でしたが』
「・・・私は、彼女の隣に相応しくない」
残念だがな。
そう言い自嘲するように笑う。
「そうですか」と言い彼は遥か遠くまで既に撤退をした空母へ向かう。
『・・・報告は俺からする』
『立場が危うくなっちゃうんじゃない?』
彼らの会話を聞きながら自分も進路を空母へ向ける。
バレル大尉の言う通り、今はあれが彼女にとっての最善だった。
このままアロウズに残っても、命を削られるだけだ。
ソレスタルビーイングに居る方が、彼女は生きる事が出来る。
それが幸か不幸かは分からないが。
彼女はソレスタルビーイングへ戻った。
そしてまたガンダムに搭乗した。
赤と白の色合いのそれは、彼女の乗っていた物と同じもの。
生きているのならそれでいい。
いい、と、思っていたのに。
再び彼女はアロウズに戻ってきた。
「何故、こんなところに・・・」
思わずそう零すと彼女は虚ろな瞳で見上げてきた。
表情を変えない彼女に、思わず手を伸ばす。
カプセルに入れられていた彼女を解放する為に装置を操作する。
開いたところで、彼女が体を起こそうとするので手を添えて手伝いをする。
手を差し出すと、彼女が手を重ねてくれる。
それが嬉しいとさえ感じてしまい、自己嫌悪をする。
「・・・本当に私は、自分の事ばかりだな」
そっと頬に手を添える。
彼女は変わらずに虚ろな瞳で此方をぼんやりと見つめてくる。
「私も自身の事に蹴りをつけようと思う。君には、本当に酷い事をした・・・」
「・・・ひどい、こと?」
小首を傾げるに再度震える声で「すまない」と言う。
その時、入り口のドアが開かれた。
「ブシドーさんだっけ。アンタ特命出てなかったっけ」
そう言い腕を組んでドアに寄りかかっていたのは、ジュビアというイノベイター。
彼は真紅の瞳を細め、苛立たしげに舌打ちをした。
「行くなら行けよ。じゃないとそいつ連れていけねぇだろ」
「共に行くのならば、変わらないと思うがね」
「俺らは色々準備があるんだよ」
そう言いジュビアはの前まで歩いてくる。
視点の定まらない彼女を見下ろすと、また苛立たしげに舌打ちをした。
「ったくよ・・・ンで俺がこんな・・・」
ほら、来いよ。
そう言いジュビアはの腕を引く。
「ソレスタルビーイングをぶっ潰すぞ」
明らかな怒りが含まれている瞳に、疑問を抱いた。
このジュビアという男、上からの命令にも渋々といった様子で従っていたのに。
ソレスタルビーイングへの興味も持たず、ただ戦い続けるだけの男だった。
しかし、今はどうだろうか。
真紅の瞳は怒りで燃えているようだった。
「やっと見つけた手掛かりだ・・・俺も本気で潰しに行くぞ」
ジュビアはそう言いを連れて部屋から出ていった。
彼女は恐らくまたあの機体に乗せられる。
止める事も助ける事も出来ない私は、何も出来ない。
そう思いながら、自身の機体に向かった。
「少年、ガンダムを失いたくなければ、私の望みに応えて欲しい」
「何が望みだ」
「真剣なる勝負を!」
「何!?」
「この私・・・、グラハム・エーカーは、君との果し合いを所望する!」
素顔を晒し、自身の感情を全て吐露する。
の境遇も見てみぬふりをしていたのも、全ては決着をつけるため。
『俺は・・・生きる・・・生きてあしたを掴む・・・!』
『生きる為に、戦え』
完敗だった。
少年に敗れ、武士道の極みにも到達できず、
「武士道とは・・・死ぬ事と、見つけたり・・・」
そう言い小刀を取り出す。
刃に映る自身の顔を見て、思わず表情を歪める。
(生きる為に、戦え)
頭に過ぎる少年の声。
そして、
(グラハム、)
金色の少女。
出会った時の華麗なステップも、再会した時の買い物の時も、宇宙で私を救ってくれた時も、
全ての彼女を覚えている。
そうだ、が救ってくれた命だ、私の、命は・・・。
「武士道とは・・・っ!」
ただ、項垂れた。
それから。
独立治安維持部隊は解体され、地球連邦軍の再編に着手された。
再び地球連邦軍へ戻ってきた私は、カタギリと共に5年前のように過ごしていた。
ソレスタルビーイングの活動報告は無い。
しかし、今でも水面下で彼らは活動を続けているような気がしていた。
(・・・、君は今、楽しく過ごせているだろうか)
想うのは、彼女の事。
救いたい気持ちが無かった訳ではない。
しかし、自分の為だけに行動をしてしまった私には、彼女の傍に居る資格なんて無い。
それでも、
(ついつい街中で君を探してしまうよ)
困ったものだな。
また、もし会えた時は、謝らせてくれ。
そう思い、青い空を仰いだ。
グラハム編これでおしまいです。
あまり出ずに彼の心境が書けなかったんですが此処で書くことができました・・・!
拍手ありがとうございました!